《二つの異世界で努力無雙 ~いつの間にかハーレム闇魔法使いにり上がってました~》なんて薄い見返りだ
「なんだなんだ!」
発音を聞きつけたリベリオンの構員が、がやがやと騒ぎながらやってくる。
なかにはいまタワーに來た者もいるようで、俺たちはあっという間に五十人ほどの構員に囲まれた。
彼らの視線の先には、古山章三がいるはずのタワー頭頂部。
地面に落ちた衝撃により、跡形もなく崩れており、煙までが立ちこめている。
「これは……おまえたちがやったのか?」
その聲に振り向く。
直後、俺は思わず息を詰まらせた。
「さ、佐久間……!」 
「栄だな。君みたいなリア充が俺の顔を覚えてるとはね。……で、これはおまえの仕業か」
そうか、と俺は思った。
同じ佐久間祐司でも、この世界の彼とは話したことがない。つまり、彼にとって俺はまったく赤の他人だ。
俺はなんとか平常心を保ちながら答えた。
「そうだ。俺の魔法だ」
「ありえない……と言いたいところだが、なるほど。そのレベルならありえるか」
佐久間はひとりでに頷くと、ここにいる皆が気になるであろうことを聞いてきた。
「古山さんはどうした?」
「わからない……だが、この様子じゃ……」
「……そうか」
あくまで冷靜に答える佐久間だが、まわりの者はそうではなかった。
リーダーを失った怒りに駆られてか、全員が俺に罵聲を浴びせてくる。死ね、リア充なんかが俺たちに関わるな。
その悪罵に、彩坂が反論の素振りを見せた、その瞬間。
『落ち著け』
聞き覚えのある聲が、はるか天高くから降り注いだ。俺を含め、この場にいる全員が空を見上げる。
あれは……
俺は無意識のうちにあんぐりと口を開けていた。
ーー古山章三。
彼が、闇のオーラをにまといながら、ゆるやかに落下してくる。
覚えている。
俺が初めて古山と戦い、果てなく飛ばされたとき、落下による衝撃から自を守るために使用した魔法。
なるほど。
たしかにあれを使えば、たとえ高所から落ちても死にはしない。かつての俺がそうだったように。
ふわり、と。
憎たらしいほど華麗に、古山は地面に足をつける。おお……というどよめきが、周囲から発せられる。と同時に、彼を包んでいた漆黒のオーラも消滅する。
俺は改めて戦闘の構えを取りながら言った。
「無事だったか」
「無事なもんか。ちょっとかすったよ」 
見れば、たしかに微量ながら古山のHPが減している。
だが、それもごく量。多大なMPを消費した割には、あまりに安すぎる見返りだ。
古山は壊れた頂上部分を見上げながら、
「あーあ」
と呟いた。
「あれくらいすぐに修復できるけどさ。吉岡。もうおまえだけは許さないよ」
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