《婚約破棄された崖っぷち令嬢は、帝國の皇弟殿下と結ばれる【書籍化&コミカライズ】》4.心の繋がり、もうひとつ

翌日も忙しかった。最後の戦いに、萬全の準備を整えずに漕ぎ出すのは得策ではない。メイザー公爵と醫療スタッフたちの安全を確保するために、できる限りのことをしなければならない。

ディアラム領での調査も、とても上手く進んでいた。ジミーの配下の者たちが領民から集めた報を組み合わせて、召喚聖が眠っていた場所を予想外に早く発見したのだ。

あくまでも目立たないようにやる必要があったが、発見現場は元から人が近寄らない地下窟だった。そこは自然エネルギーの圧力が強すぎて、特殊能力のない人間はどんなに頑張ってもり口を突破できない。

何十年かに一度、変わり者の老人や勘の鋭い子ども──なくとも何らかの特殊能力の持ち主──が窟に迷い込むことがあったが、ほとんどがそのまま戻ってこなかったし、運よく戻ってこれてもすぐに死んでしまったそうだ。そのため地元民は、窟からは有害な質がれ出していると信じている。

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ミーアの一件でロバートが謹慎していた時期にも、やはりそういうことがあったらしい。そのとき迷い込んだ老人が持ち出した何かが、ロバートの手に渡ったという。

あまりにも得が知れなかったし、そういったものを発見して領主一族に報告しないのは罪に當たるからだ。

ルーファスが集めた捜査員たちには相當高い特殊能力がある。彼らは地下窟の部に潛し、自然エネルギーによって生み出された特殊な鉛に埋もれた『古代の祭壇』を確認した。そして無傷で戻ってきた。

「ルーファス様の推測が正しかったことが裏付けられたんです。聖召喚に関係するものを発見して、皇帝陛下に報告しないことは明確な罪ですから。これだけでもロバートを牢獄に繋いでおけますわ」

ミネルバはメイザー公爵のベッドの脇の椅子に腰かけ、彼の気持ちを浮き立たせるための報告をした。ルーファスのところにマーカスが尋ねてきて、執務についての指示をあれこれと仰いでいるから、自分は手が空いている。

「調査員たちが持ち出した鉛は、すぐに本格的な調査をしました。やはり特殊な力を遮斷する能力を持つとのことです。ルーファス様は、その鉛を利用することをお決めになりました。この部屋の壁や扉に安全裝置として設定する準備を進めています」

「お世話になっている皆様の安心と安全が得られることは、とても嬉しく、ありがたいことです」

ベッドから起き上ったメイザー公爵が微笑む。力が回復してきた彼は、超大國グレイリングの公爵としてのプライドと威厳に満ちていた。

「メイザー公爵邸に使用人として潛しているカサンドラさんと、私の兄のジャスティンも、すでにいくつもの報を摑んでいますわ。ロバートとニューマンにはやはり繋がりがあったのです。様々な國の寶石や鉱の博覧會にニューマンはほとんど、ロバートは何度か足を運んでいました。複數のと楽しみにふけったり賭け事をしたりという、悪い趣味が似ていることで顔見知りになったようですね。ニューマンが偽名を使って、ディアラム領に人を囲っていることもわかりました」

カサンドラとジャスティンは、電石火の早業でメイザー公爵邸に潛り込んでいた。

素顔に瓶底眼鏡をかけたカサンドラは、見習い侍として侍頭と行を共にしているらしい。

一方、庭師の助手になったジャスティンは素顔のままだ。

ミネルバの持參金を運ぶパレードのとき、ニューマン一家はまだグレイリングにいなかったから、彼らはジャスティンの存在は知っていても顔を知らないのだ。一応それらしく見えるよう、顔を泥で汚したりしているようだが。

ハンサムすぎる若い男を前にして、リリベスとサリーアンが庭に出ては愚かしいふるまいをするので、邸の調査がはかどる──カサンドラからの手紙にはそう書いてあった。ちなみにその部分だけ、彼らしからぬれた筆致だった。

「うちの娘が、ジャスティン様にご迷をおかけしていなければいいのですが。あれはプライドが高い上に、頑固なところがあるでしょう。小さなころは豬突猛進というか、相當なおてんば娘だったんですよ」

「長兄は私のせいで、そういうタイプのに慣れていますから大丈夫かと。私とカサンドラさんは共通點が多いと、いろんな人に言われるのです」

そう口にしてから、ミネルバははっとした。いくらカサンドラと友人同士になったとはいえ、そもそもの出自が違う。

「あの、私たちを同列に語るのはご不快ですよね……」

「とんでもありません。素敵な友達に恵まれて、カサンドラは幸せ者です」

公爵が首を橫に振った。

「ミネルバ様は過去を水に流して、カサンドラを救ってくださった。寛大で高潔で勇敢で、ルーファス殿下の妃となるにふさわしいです。聡明で気骨があり、特別な才能にも恵まれていらっしゃる。あなた様には、誰も及びません」

「メイザー公爵……」

「ミネルバ様のおかげで私自、こうして正気を取り戻すことができたんです。召喚聖の力を取り除こうと盡力してくださるお姿を、ぼんやりしつつもずっと見ていました。殿下とあなた様は、生涯の伴となるべく運命づけられた最高の組み合わせ。魂の友というのは、まさにお二人のことだと思いました」

公爵が「私は愚かでした」とため息をつく。

「皇弟たるルーファス殿下の結婚は、熱だけでり立つものではない……ミネルバ様との出會いは悲劇に違いないと勝手に思い込み、あなた様のことをきちんと知る前から拒絶してしまった」

「それは、ある意味では當たり前のことです。私は二度も男に裏切られ、ひどい噂もいろいろと飛びっていましたから。皇族に次ぐ地位にあるのが公爵ですもの、國の未來のためにならないとお考えになったのでしょう」

「そんな格好のいいものではありません。私はただひたすら愚かな父親だったんです。自分で言うのもなんですが、カサンドラは出來が良かった。ただひとり殘った家族、私のまばゆい……あの子に華々しい未來を與えたかった。あの子自は皇弟妃になることなどんでいなかったのに、ロバートが集めてくる噂を利用しようとした」

公爵のが歪んで、苦い笑いが浮かんだ。

「ガイアル陣営のクレンツ王國と通じていたロバートは、召喚聖を手にれて、すべての罪を私になすりつけることにした。カサンドラが有利になるものはなんだって利用するつもりが、逆に利用されたわけです。これほど愚かな人間が他にいるでしょうか」

「私の立場で、どうお答えするのが正解なのかはわかりませんが……メイザー公爵の父親としてのは純粋なものだったと思います。だからどうか、ご自分を責めすぎないでください。せっかく取り戻した力を落としてしまいます」

「……ありがとうございます。ミネルバ様は本當に心が広くてお優しいですね。もし……もしすべてが上手くいって、私がまた公爵として社會に復帰できても……人々から白い目を向けられることは明らかだから、挽回するためには時間が必要でしょう。最初のうちはお役に立てることはないに違いないが、それでも誠心誠意、ミネルバ様に忠誠を盡くすことをお約束します」

公爵は深々と頭を下げた。

「改めて、心から謝罪します。本當に申し訳ありませんでした」

「それでは私も改めて、あなたの謝罪をれます。どうか顔を上げてください。私たちは、グレイリングの未來のために盡力する同志になりましょう」

もう気にしないで、という気持ちを込めてミネルバは微笑んだ。

顔を上げたメイザー公爵が、ほっとしたように明るい表になる。壁際に立っているエヴァンが、どこか誇らしそうな表でミネルバのことを見ていた。

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