《悪魔の証明 R2》第145話 086 アカギ・エフ・セイレイ(2)

「クレアス。では、セネタルの発言が例えシャノンさんのことを指していたとしてもいいわ。だとすると、セネタルは元々シャノンさんを切るつもりだったのかもしれない。そう考えると、今この場でシャノンさんが死んでいるのも解せるというものだわ」

「しかし……それは……」

ところどころ、クレアスの言葉は途切れる。

エリシナの推察は一定の理がありそうだが、未だ合點がいっていないようだ。

「クレアス、私も信じたくないのだけれど――侵者はセネタルのような型をしていたわ。著ている服もほぼ同じのように思えた」

聲のトーンを抑えながら、エリシナは新しい証言を加えた。

これを聞いた僕は、

「なるほど」

口から納得の聲をらした。

エリシナとアルフレッドが知り合いではないことを考えると、彼の説明はその始まりからして真実味がある。

まず、そのふたりの目撃証言が一致したのだから、昨晩侵したというテロリストは確実に存在する。

そして、エリシナはセネタルを知っており、目撃した人はその姿形だけではなく服裝も似ていたという。

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これらを鑑みると、エリシナの推定した通り、セネタルがテロリストであると斷定しても良いのではないだろうか。

つまり、エリシナさんの推理はすべて正しい――

僕がそう総括しようとした矢先のことだった。

「大噓よ」

クロミサの聲が、聞こえてきた。

はっと、後ろを振り返る。

心臓が止まりそうになるから、急に現れるのはやめてくれ。

背後に立っていたクロミサを睨みつけてから、でそうんだ。

「私が四六時中見張っていたけれど、通路はこの場にいる人間しか通らなかった。さらにいえば、外には誰もいない。つまり、エリシナの言う侵者――テロリストは通路を通らなかったということ。それは、寢臺車にテロリストはってこなかったということを意味しているわ。要は、六號車にも寢臺車にも外にも侵者など存在しなかったということ。とどのつまり、そう――このは噓をついているってことよ」

エリシナを人差し指で示して、クロミサは言う。

無論普通の人間にクロミサの存在は認識できないから、彼の聲は僕にしか聞こえていない。

よって、クロミサを無視して、エリシナの話は先へと進んでいった。

「そう、敵は最高でもふたり。これで人數の把握はできたわ。三人ないし四人以上であれば厳しいところだったけれど、この人數であれば何とかなるはず。クレアス、外に出て殲滅しましょう」

と、提案する。

「あ、ああ」

クレアスは一度頷いたが、言葉を詰まらせた。

この様子から察するに、未だ何かが納得いかないようだ。

「頷いたら駄目。これも噓よ。外に人なんかいない」

クロミサは、エリシナの証言を否定する。

外には誰もいない――そして、通路にはこの場にいる人間以外の姿は確認できなかった。

クロミサのこのふたつの証言が事実だとすると、室の謎は無理なく説明できる。

先程僕が思った通り侵者は部屋にっていないのだから、ふたりはドアの鍵をかけたまま自殺したというだけの話だ。

だが、クロミサの目撃証言など信じていいのだろうか。

いや、信じない方がいい。

幽霊が目撃者なんて、冗談にも程がある。

そう幽霊が……あれ、幽霊もどきだったけ?

――それとも殘存思念

いや、そんなことは今どちらでもいいだろう、アカギ。

そう自戒しながら、僕は首を橫に振った。

「エリシナさん、ひとつだけ。スピキオさんまでもが、テロリストというのはちょっと論理が飛躍し過ぎているかと思うのですが……」

と、すぐに自分の見解を述べる。

「馬鹿ね、あなた」と、クロミサが口を挾んでくる。「彼は殺されたわ。ほら、あそこにいるあの馬鹿みたいな顔したやつの手によってね」

クロミサの指し示した先にいたのは、アルフレッドだった。

ということは、スピキオさんを殺したのはこのアルフレッドなのだろうか。

急に僕に見つめられたせいか、そのアルフレッドはきょとんとした顔をしている。

まさか、と僕は彼を視界にれたまま瞼を大きく見開いた。

そのタイミングで、

「そうね、アカギ君」

と、エリシナが聲をかけてきた。

「まだ彼がテロリストと決まったわけではないわ。それどころか私は、外にいるテロリストがセネタルひとりだと思っているくらいなの」

と、続けて僕の意見に賛同するような臺詞を述べる。

だが、僕は逆に訝しげな目をエリシナに向けた。

何かが引っかかった。

そもそもテロリストが誰かわかったくらいで、人數を斷定していいのだろうか。

それに、自分に言われたくらいであっさりと前言を撤回するとは、エリシナさん――この変様はいくら何でもおかしいですよ。

そうで言葉を吐いた。

このような無理やりな推定をするとは、エリシナは何かに焦っているようにも思える。

「では、私とクレアスは、敵を殲滅。アルフレッドさんは、アカギ君を連れて六號車で待機していて」

僕の警戒した視線を無視ながら、當の彼はテキパキと指示を送った。

まずい――クロミサの話が本當だと仮定して、アルフレッドがスピキオを殺したテロリストだとすると、このエリシナの指示は非常にまずい。

今、アルフレッドとふたりきりにされたら、自分が殺されてしまう。

「クレアスさん、ちょっと待ってください」

僕はクレアスの背中に向けそう呼びかけて、エリシナの指示に従い部屋を立ち去ろうとする彼の服を引っ張った。

「アカギ君、どうした?」

クレアスが不思議そうな顔をして、こちらへと振り返る。

眉を上げた彼に向け、僕は深刻な面持ちで頷いた。

今、この中でもっとも信頼できるのはこの人だけだ。

どうにか彼を引き止めて、アルフレッドとふたりきりになることを避けなければならない。

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