《老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件》後日談:タロの散歩
新大陸を冒険開始してしばらく立った頃、圧倒的にパワーアップした魔たちにユキムラ達は嬉しい誤算で苦労していた。
「いやーーー、強いね!
まさか、魔たちがここまで組織的にいてくるなんて……
ここフィールドだよね!
いやーーーー、手強い(めっちゃ笑顔)」
「師匠言っていることと表があってませんよ……
現実問題として、あの先に見えている山岳地帯、そして森林地帯、まだまだ未開の部分が多すぎます。
ケラリス側から新大陸に挑んだ冒険者によって造られたエクスペの街の方も開拓は進んでいないそうです」
「あ、なに? ヴェル達も偉そうなこと言って進んでないの? ぷぷ、ざまぁ!」
「ユキムラさん、なんであの人たちのことになると子供みたいになるんですか!
駄目って言ったじゃないですか!」
「ユキムラちゃんもソーカちゃんには勝てないわねぇ……」
「話を戻しますよ。
選択肢としては、平原地帯は比較的互角以上の勝負ができていますから、ここを重點的にじっくりと攻略して、撤退した森林部分にアタックしやすいような新拠點を構築する長期戦。
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もしくは、敵を避けながら採取などで裝備や道などを無理やり良くしながらどんどん探索を広げていく短期戦、もちろんリスクは高めです」
「レンちゃん、そうは言ってもこの大陸の素材、レシピもないから手探りになってるからそこまで開発の速度は上がらないわよー」
「いやー、ほんとに。見たこともないからいろいろ試してるんだけど、なっかなか。
やっとキヒライナ鉱を利用できるようになったのはでかいけど……」
「師匠も研究になるとぶっ通しでやるの止めてください。
その後ぶっ倒れて大変なんですから……
そんなわけで、冒険時間と開発時間の両立で無理が出ています。
そこで提案なんですが、まずは草原地帯中央の高臺に拠點作をして、冒険と開発をきちっと分けましょう」
レンは周囲の巨大な地図を會議室に映し出す。
現在周囲を把握できている地帯にドローンを飛ばして、撃墜されるまでに集められたデータで作られている。
草原部分だけでもゲッタルヘルン領全域程の面積を有しており、なだらかな地形ではあるものの、時折クラックのような地面の割れ目があり、そのそこには非常に強力な魔がいる、予想ではダンジョンなどもありそうと言われている。
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西に巨大な山が見えており、その手前には広大な森林が広がっている。
ユキムラの勘でその山には必ずなにかある! ということで西へと探索を広げているのだが、森林部分にってすぐに魔の群れに襲われて撤退を余儀なくされた。
「この中央の大丘の上部が平坦な棚狀の構造になっています。
ここに上がるためには周囲を螺旋狀に登るしか無いので、ここに拠點を作れば周囲からの來襲にも対処しやすいと思います」
レンがマップ狀を指差す。
新大陸は見たこともない様々な素材、食材、生。
何もかもが新しい、未開の土地だった。
冒険者たちはこぞって新大陸に夢を追い求めて上陸したが、なんとか作り上げた最初の街から周囲の雑魚を相手するだけでも手一杯だった。
ごく限られた超一流冒険者達は、多の探索範囲の拡大に功したが、未だにフィリポネア西のホーピング、ケラリス東のエクスペの二箇所の街を作るのに留まっていた。
「せめて新大陸間で転移できればねぇ……」
「部で転移すると派手に座標がずれますからね……」
「きちんと街という形態を取って、神殿作って神様たちを崇めないと駄目だからね」
転移は街を基準にしているために、何もないポイントを指定はできない。
それでも、危険地帯からホーピングの街へと帰れるだけでも白狼隊は圧倒的に有利だ。
冒険者のうち超一流と言われる人達は、使い捨ての転移裝置を持って冒険している。
いざという時に街へと戻れるようにだ。
拠點から離れて旅をするには必須と言われているが、大変な高額商品だ。
転移に使用するエネルギーを補える魔石は、貴重品だからだ。
サナダ商會はそういった技を匿せずに後悔したが、素材を調達できる商會は皆無だ。
結局素材をサナダ商會に依頼するために、商會として損はなかった。
「そこに拠點を作する話で進めていこう。
ただ、あそこらへんの敵も手強いから……
一週間ほど準備期間としよう。道もかなり消耗したし、キヒライナ鉱を使った裝備も研究したい。
ヴァリィもフェブライフライの繭を素材にしたいって言ってたよね?」
「そうよー、まだほんのししか材料に取り出せていないけど、これ、たぶんすごい素材になるわよ!」
「私も何本か剣を失ったので、殘ったものも調整しないと……」
「決まり、ですかね。
目標はあの巨大臺地への拠點作。
準備期間は一週間」
會議は終了となる。
「あれ? タロお出かけするの?」
タロは會議が終わると何か思いついたように外へと向かう。
「わん!」
「いってらっしゃーい。一週間後に作戦本部ね~」
タロは時々長期休暇のときなどにフラッと出かけることがある。
冒険再開時には當たり前のようにもそばにいるので、誰もその行き先を知らない。
タロはてくてくと歩いている。
教會にたどり著くと、誰が開くでもなく靜かに音もなく扉が開いていく。
タロが歩いていることをまるで無いものの様に周囲の人は祈りを捧げたり、信者の悩みを聞いている。
そんな人々の間をタロは優雅に歩いて行く。
そして、月の神アルテスをかたどった神像の足元に音もなく消えていく。
バタバタと人々が忙しそうに行きっている。
薄っすらと発する壁や床、天井は全て清潔のある白。
人々は激しく議論をしたり、何かの端末に目の下にクマを作りながら力したり、誰一人暇はなさそうに働いている。
そんな人々の間をタロはスルスルと奧へと進んでいく。
そして、し立派な扉の一室の前で靜かに一鳴きする。
同時に扉が靜かに開いていく。
「なんじゃ、アルテスか? まだデータはサルベージできておらん。
こんな骨董品みたいなデータほんとにいるのかのぉ?
あまり年寄りをこき使うんじゃ……ああ、貴方でしたか……」
タロの姿を認めると、その老人は優しそうに微笑む。
ユキムラ達のいる世界の最古參の神、ロームだ。
「今、茶をれさせます。どうぞこちらへ」
ロームは丁寧にタロを迎える。
「ナー」
「おお、先輩もいらしましたか。どうぞどうぞ」
先輩と呼ばれた貓。彼もタロの隣にストンと座る。
二人はまるで遠い昔からソコにいることが當たり前のように靜かに丸くなる。
「……お様で、ここにも活気が戻りました。
懐かしいですねぇ……手探りで日々対応に追われ、あなた達にどやされた日々……
目をつぶると蘇ってきます」
ロームは遙かな昔を思い出すように目をとじる。
まだ新人だったロームは一つの新しい世界を作り出すことを使命としていた。
まだだれもやっていなかったような、沢山の人が同時にこの世界を楽しめる。
そんな革新的な世界を作りたかった。
実際は、苦労の連続だった。
ある一定の人が訪れると停止する世界、ある作をすると致命的な問題が起きてしまう世界、新しいものをれようとすると全てが止まってしまう世界……
問題は山積みだった。
もしも、二人の天才があの場にいなければ、皆、その世界を諦めて、その後に続く40年という偉大な歴史は生まれなかっただろう。
未だに世界の底をコントロールしている理論はその二人の天才が作ったものだ。
あくまでもそれを基幹に裝飾して40年という時を乗り越えたに過ぎない。
世界の父と母。
この世界に攜わる人々にとって、二人は絶対に超えられない巨大な壁、そして、厳しくも溫かい、師であり上司であり、親なのだ。
懐かしそうに、そして、とてもうれしそうにタロと先輩はまどろんでいる。
若い世代も育ってきている。
そして、世界を心の底から楽しんでくれている人々がいる。
それが何よりも楽しかった。
「どうですかな、完全な新しいシステムによって作られた新世界は?
若いものもどんどん育っています。私もそろそろお役免ですかね……」
ロームも穏やかな表でお茶をすすっている。
嬉しそうな、ほんのし寂しそうなそんな表で……
「アン!」
タロが小さく吠える。
ディスプレイの一部が妙なきをしている。
「ん? ……アルテス! オトハ! すぐに來るように!
……まったくアヤツらは……」
「ワン!」
「そうですな、まだまだアヤツらはひよっこ。
もうし老骨に鞭打つことにしますかのぉ~」
タロは嬉しそうに尾を振っている。
そんな二人の様子を先輩は楽しそうに見つめている。
バタバタと焦って走ってくる二人の神の慌てた表を面白そうに、眺めているのでした。
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