《日本円でダンジョン運営》大ボスの議論

「ソウジよ!一度大ボスだけで力比べをするべきなのじゃ!」

先程までマルと口喧嘩していたサンが、テーブルを手で叩きながら言った。テーブルの上にあったティーカップが揺れ、紅茶がこぼれる。あ、アドゥルがサンを睨んでるな。

ちなみに今更過ぎるような気もするが、ソウジというのは私の名前だ。笹原宗治。それが私の名前である。サンは大ボスには珍しく、私を名前で呼んでくれている。

「力比べって、なんでそんなことをするんだ?」

「今の大ボスの階層の順番はソウジが勝手に決めたものなのじゃ。じゃから、この順番が正しい強さではないとわらわは思うのじゃ」

「というと?」

「つまり!実際に力比べをしなければどっちが強いかなんてわからないのじゃ!」

ダンッ、とテーブルを叩きながら言った。あ、ティーカップが倒れた。中の紅茶がアドゥルの服にかかっている。アドゥルがなにやらプルプルと震えている。

「確かにそれも一理ありますね。我は大ボスの中でも1番弱いとされている。マスター様の認識を改めるのも良いでしょう。……それに、この子は々おつむがなっていないようだ」

「アドゥル様。大丈夫ですか?」

どこからともなく飛んできた冥土がアドゥルの服にかかった紅茶を素早く拭き取った。

「ふふふ、大丈夫。それよりも先に戻って伝えてしい。量産制を整えろ、と」

「アドゥル様の仰せのままに」

冥土が黒い霧となって地面に染み込んでいった。

……アドゥルよ、お前は一何をする気だ。

「はぁ。キミはそうやってなんでもかんでも力に頼ろうとする。主、悪いがボクは降りさせて貰うよ。こんな茶番に付き合ってられない」

肩を竦めながら、マルが呆れた様子で近づいてきた。

「負けるのが怖いのじゃな?」

「……なんだと?」

「いやー、わざわざ託を並べるのはわらわに負けるのが怖いからなのじゃな。ならいいのじゃ、いいのじゃよ。無理に付き合わなくても。貴様は負けるのが怖いのじゃから」

「はん、ボクがキミに負ける?あり得ないね。主、前言撤回だ。ボクも力比べに參加させて貰うよ。何より、こいつの鼻を明かしてやらないと気が済まない」

「無理しなくてもいいのじゃよ?」

「そう言っていられるのも今のうちさ」

この二人は一々喧嘩をしないといけない質なのだろうか。このダンジョンに來る前からお互い知っていたみたいだし、因縁の仲というやつなのだろう。

「力比べをするのはいいけど、的に何をするんだ?」

「お互いの力を全てぶつけ合うのじゃ!」

「シンプルですが、確実に戦力差が判る決め方ですね。いいでしょう。それなら我の力も存分に生かせます」

「……ならば、最強の座を勝ち取った者は我らの王から何かを授かる、というのはどうであろうか?」

「コオオォ」

「それはいいアイデアなのじゃ!」

「となると、何を報酬としますかね」

「それは既に決まっているようなものだとボクは思うよ」

「敗者に言うことを聞かせられる権利じゃ!」

「破壊しか能がないくせに、珍しく気が合うじゃないか」

「それもいいが、もっと後に殘るがよいであろう」

「コアァア」

「それは王でも厳しいだろう」

「フレイよ、我にはオレイが何を言っているのか理解出來ません」

「わらわもわからないのじゃ」

「悔しいけど、ボクもわからない」

「コォォ」

  途中からフレイとオレイも加わり、次々と議論がわされていく。

「ワフゥ」

「そうだな、おやつ食べるか?」

「ワン!」

私とジョセフィーヌは完全に蚊帳の外だ。一応ダンジョンマスターとラスボスなのだが。

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