《俺にエンジョイもチートも全否定!~仕方ない、最弱で最強の俺が行ってやろう~》第十三回 藍さんのお仕事
藍とはプライドが高く、いつでも他人に負けないという気持ちを持った負けず嫌い。そしてそれは言葉だけでなく、見事に、過激だと思えるくらいに現実にして見せる。
それが彼という。
そんな彼が住み込みでお金も出さずに他人の城に住まわせてもらうということになっている。
それは藍のプライドが許さない。
ロナワールやフェーラからの意見で藍はメイドの仕事などを手伝うことになった。
最初はロナワールもフェーラも拒否気味でいたが、やはり藍とも付き合いが長くなったからか、自然と折れてくれたのである。
昨日の出來事もあるだろうが。
「ふぅ……」
いつもよりちょっと早く、現実世界ならば普通だという五時に藍は起きて、地面をモップで掃いた。
周りではメイドたちが窓を拭いていたり、壺の花を直していたりと皆大忙しである。
藍の真っ白なワンピースには淡いピンクのエプロンがかけられている。そのさらっとした髪は後ろにまとめられ、歩くたびに計算しているかのようにしく揺れる。
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「はっ!」
藍が手首に力をれ、指を用にかし、腰を低くする。
モップが自然と藍の指から優しく離れていき、棒の部分が浮いたまま、約一キロあるであろう廊下を一気に掃いた。
周りでお手並み拝見とみていたメイドたちは皆口をポカンと開けて固まっている。
ロナワールが絶賛した者だとは知っているが、まさかここまでだとは思わなかっただろう。
いや、正しくはここまで真面目な人だとは思わなかったからだろう。
「す、すごいですね!ランさんッ!」
「そうねアイリアス、貴方もこの中では一番だと誇られているでしょ?」
「え……?覚えてくれていたのですか?」
「えぇもちろん。此処にいる全員覚えているわよ」
そう言った藍にまたも皆ざわりと反応した。
この城のメイドはざっと見ても約二百人。名前とその格、皆から対される態度。
そこまで覚えられるのは神の領域だろう。
元に此処にいるメイドたちも全員お互いの名前を覚えているわけではない。流が必要になるだろう人のみを覚えている。
そのメイドの中から、一人駆けだしてきた。
「ねえねえ、あたしの名前、しってる?」
「ええもちろん、エイアル十二歳、上級メイド。間違ってはないわよね?」
藍がそう言うと、目の前にいるの子エイアルはパッと目を輝かせ、頷いた。
メイドには級があり、下級~上級で三つの段階がある。
一番上に最上級があるが、それは十人ほどしかいない。フェーラはその十人の中の一人なのだが。
上から數えた方が早い段階にいるこの十二歳のは生まれつきの天才である。
「それあたしもやってみたい!」
「えぇ、どうぞ」
ぱたん。
はるか後方で、そんな音がした。
藍の投げたモップがろうかの一番先まで屆き、そして倒れたのだろう。
藍は魔力でそれを引き寄せ、エイアルに渡した。
「んん!!」
エイアルは藍と同じように手首に力をれ、指を回転させ……られなかった。
十二歳のの子にこれほどの重圧は耐えられなかったのだろうか。
モップは斜めに進み、木で作られたドアに激突した。
白い煙が上がり、周りにいたメイドたちは全員せき込んでいる。エイアルと藍は呆然とその景を見つめた。
しばらくして煙が消えると、そこにあった景がもっと皆を驚かした。
「えぇっ!?エイアル貴、何したの?」
「あ、あ……」
ドアが末になって壊されていた。
「全力で魔力を上乗せしました」
「はっ!?」
それを聞いて藍は納得した。
たかがモップを指で回した程度の重圧で上級メイドが耐えられないわけがない。
そこに魔力の圧力を全力で上乗せしたら話は別だ。
普通ならば指が折れるというハプニングもあり得なくないがさすが上級。無傷である。
「とっとにかく、直すか」
「あ、あたしのスキルつかえる!」
エイアルが手を上げて素晴らしい笑顔で藍を見上げるものの、何かやらかしそうで心配である。
しかし仏の顔も三度まで、二回目はまだまだ許してあげよう。
『修復』
藍が返事をしないまま、エイアルはそのスキルを使ってしまった。
しかし何もやらかすことなく、ドアは修復され、何事もなかったかのようになっている。
藍はふぅと一息つき、キッチンへ向かった。
その後ろから料理を任せられている中級メイドたちが集まって付いてくる。
エイアルは藍に懐いたようで、藍のそばを離れようとしない。
「……」
手を洗い、黙々と野菜を切り、鍋に放り込む。
今日作るのはグラタンで、この大魔王城の約八百人分だ。
ロナワールたちの分は一旦置いておき、まずこの八百人分をどうにかする。
「はっ!」
エイアルが超高速で切った野菜を六個の鍋に放り込む。
手を魔力で強化し、火力を高くするとの速さでかき混ぜ、チーズを放り込む。
しばらくすると超特大のグラタンの出來上がり。
エイアルと手分けして小さなにれるとさらにチーズをかけ、レンジにれる。
それを何度か繰り返し、中級メイドがそれをせっせと運んでいく。
そうして料理が出來上がりだ。
ロナワール達の分はゆっくりつくるとしよう。
「わあ!うまいんですね!」
その一部始終を見ていたメイドは邪魔にならない音量でそうんだ。
藍は額についた汗を拭きとりながらも、そちらに向けて微笑んだ。
その微笑みを向けられたメイドの顔はぼんっと赤くなり、周りのメイドにニヤニヤされていた。
正しくは、羨ましがられていた。
そうしてたった一日で藍は全メイドの憧れとなった。
會ったことがないメイドでも噂は広がるものだ。この城での藍の扱いは神のようになってしまった。
「あ!ロナワールの分を忘れていたわ」
ロナワールの分を忘れて、急いで作り出す藍だった。
―――――――――――――――――。
そしてロナワールの事務室(部屋)
「マジかよラン、あいつすごすぎだろう」
「一日ですべてのメイドを手なずけてしまいましたね……」
サタンとロナワールが話している。
ロナワールは事務室の機に座り、サタンはその橫のやや裝飾がない椅子に座っていた。
二人の表は々呆れたようだ。
「全く、サテラはなにを召喚したんだ……?」
「化け?」
バタン。
二人がそう言ったところでドアが開く。フェーラがってくる。
「化け」
フェーラは真顔でそう告げると、ドアを閉め、去っていった。
サタンもロナワールもそれを見つめ、なんとも言えないでいっぱいになった。
「まあとにかく、平和でなにより」
「ですね(笑)」
表を緩め、二人はしばらくの間笑い続けていた。
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