《俺にエンジョイもチートも全否定!~仕方ない、最弱で最強の俺が行ってやろう~》第十五回 町の見學

さすがは藍である。

今日の仕事はすべて終わってしまい、時間が余りすぎてしまっている。

エイアルが夜の仕事がやりたいと言い出し、藍の仕事がなくなってしまった。

何をするかと自分の部屋で探っていた時、ロナワールが訪問してきた。

彼の提案によると、このあたりは大魔王信者系の人たちが住んでいるらしいので町の見學をしてみないか、ということだ。

それは此処の辺りを知らない藍にとって魅力的な提案で、即オッケーをした。

さっとの回りを片付け、今彼はロナワールの事務室に腰かけている。

「全く、早すぎだろう、笑いたいくらいだ」

「笑っても構わないわよ。町の見學は楽しみにするものでしょう?」

否定もできないため、ロナワールは言葉に詰まった。

藍はそれを無視して言葉を続ける。

「それで、大魔王様がのこのこと外に出てもいいのかしら?」

「ん?あぁ、それは魔王に頼んである」

「なにを!?」

余りにも説明が足りなさ過ぎて藍は思わず取りしてしまった。

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それにいきなり今まで出てこなかった「魔王」と言われてもなんなのか全く分からない。

ロナワールは自分の説明が足りないことに気付き、けなく笑った。

「あー、魔王サマは引きこもりでよ、會えるもんはオレくらいなんだよ。で、変裝用の道を持ってくることを頼んだんだよ」

「へぇ、その子ってどんな名前なの?」

「えっと……サラン・ユーカだ」

「なんで忘れそうになっているのかしら!?」

大魔王の威厳などもうどこかに吹っ飛んでいる。

普通に部下の名前を忘れるなど常識の範囲外である。

當にその予想の斜め上を行くロナワールの言に慣れていた藍だったが、ツッコミは続けている。

「失禮します。サランです」

ドアを三度叩く音がして、ロナワールが反応する前にドアが開けられた。

効果音を付けるならば「ドカーン」が適するだろうか。

それほどの強さでドアを開けているのに、サランの顔は真顔で、なんともないようだった。

「道をお持ちしました、失禮します」

サランはさまざまな道らしきものを地面に置いていくと、この場が煩わしいかのように去っていった。

それを藍は呆然と見つめていた。

引きこもりとはこうも話したがらないものだったのだろうか。

(ってことは準人もあんなじなのかしら?)

準人、もといリーゼルトも噂に聞くと引きこもり。

元にいた世界の超有名ヤンキーの報くらいいくらでもつかめる。

最初見たときはそんなじだとは思わなかったのだが、人は裏があるものだ。

「うーん」

ロナワールがぱちんと指を鳴らすと、金髪の……リーゼルトに近いヤンキーのような姿に変わった。

マントは外し、サランが持ってきた日本で言うとカラーコンタクトのようなものを目に付ける。

やりすぎなくらいに劇的な変化である。

これで「変裝」という方がおかしい。絶対にバレはしないであろう。

世間に藍の存在は出ていないため藍はそのまま外に出る。

「良し行くか」

「時間がかかりすぎだわよ、早くいきましょう」

せっかちな藍がロナワールの手を引いてさっさと階段を降りていく。

フェーラが後ろではニヤニヤしていた。

今回は個人的プライベートなイベント(?)のため、フェーラは付いて行かない。ちなみに護衛も付いて行かない。

街に向かって歩いてから時間で約五分は経っただろうか。

周りの聲がどんどん混雑していき、歩くことも困難になってくる。

地球で言うと、今は晝間くらいか。そんな晝間くらいの時でも、街は休むことなく町の人に対して便利な施設を與えている。

それはきっと、ロナワールが頑張った結果でもあるのだろう。

「……これ、可いわ」

「あん?それ好きなのか?」

しばらく歩いて、藍が目を付けたのはひとつのネックレス。

翡翠がきれいに磨かれて、幻想的なを放っている。そんな翡翠のビーズが二十だろうか、ネックレスが作られている。

藍はそれをじっと見つめて離れようとしない。

「んじゃあ買うよ、って高けえな、払えなくはねえがな」

「まあいいわよ、時間が空いたらひとりで買いに來るわ」

「いや良いよ。最近財布が減らなくて困ってるしな」

藍がそこから離れようとした瞬間、ロナワールが藍を追い越し、財布を取り出した。

藍が急いで振り返ると、すでに會計は支払われ、ネックレスは綺麗な箱の中に包裝されていた。

「ちょっちょちょ、何してるのよ?」

「買いたいんだろ?だから買った」

真顔でロナワールはそう言う。

藍は何も言えなくなってしまった。日本円で約四萬円はするようなネックレスを「買いたいんだろ?」のノリで買ってしまったロナワールに呆れているのだ。

藍がロナワールからネックレスのっている箱をけ取り、持ってきていたカバンの中にれる。

「と、とにかくありがとう……でも、勝手に買うのは……やめて頂戴」

おどおどしつつも藍はそう言った。

その時の藍の心臓はいつになく脈打っていて、ロナワールと顔を合わせられなかった。

ロナワールは気にしていないようだ。鈍であるから(重要)。

「おいおい嬢ちゃん、こんなところで「カップル」アピールか?ムカつくなぁ?」

「……」

隅っこ辺りでネックレスを鑑賞していると、金屬バットを持った不良が向かってきた。

ロナワールも藍もまったく気にしていない。

むしろ目に映す価値ナシというくらいである。

「耳障りだから、どっか行ってくれる?」

藍の心の中で、なにかもやもやしたが生まれた。

「邪魔をされて、嫌だ」という嫉妬だということは、脳ではわかっている。

しかし、心や表で、それを認めるようなことはなかった。

一方不良は完全に煽られていると思っている。すでに額からは管が浮いて見えている。

ロナワールは藍が彼らを煽っていることに別に気にしてはいない。

「おらぁ!?なめんなよ!?」

不良はバットを藍めがけて振り下ろした。

これが彼らの人生を終わらせてしまうことを知らずに。

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