《俺にエンジョイもチートも全否定!~仕方ない、最弱で最強の俺が行ってやろう~》第七回 拉致

「サテラが……いない?」

翌朝、それなりの報を摂取してきたリーゼルトと彩が戻ると、賢者のサテラに、付嬢のサテラが消えてしまったことを告げられた。

どうしてかは、分からないと賢者サテラは苦しそうに顔を俯かせる。

リーゼルト一行たちがいる冒険者ギルドの門の前は相変わらず人でにぎやかで、中もたまに喧嘩が起きるくらいで日常だ。

しかし、リーゼルト達だけは剣呑な雰囲気が漂っていた。

彩もレスナも俯いて考え込む。

サランとエアン、藍はそれほど考え込んではいないようだ。この三人は純粋に組織のためにここまで來ているからな。

そう言えばリーゼルトも彩も変わらないが、思いの重さが違うのだ。

好きな人を思う心は、時に――――――――――――

「サテラさんは、やっと見つけた同じ名前でした。分かり合える人でした」

「すごくわかりがいい人だったのは覚えているわね」

「オイお前ら付嬢サテラが死んだみたいに言ってんじゃねえよ!?」

賢者サテラが藍と意気投合しているが、リーゼルトからしてみれば全く笑えない。

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人が死んでいるように語っているではないか。

びでツッコミをれたリーゼルトに、レスナが笑したのは余談である。

「ってか、待てよ。あの日、付嬢サテラは國王の所に行っていたはずだ。前に嬉しそうに予定を話していたよ」

「つまり國王もあぶねえってことで、國王が拉致されたとなると、機報だ。外でいくら探っても裏ルートじゃねえと無理っつーことか」

彩の言葉にリーゼルトは冷汗を流し、今自分らが調べていることの重大さを知る。

下手したら國の問題にかかわる。

「話している場合じゃないわよ……國王の所、王城に行くわよ?」

「今から行くのに何時間かかるか知ってんのかよ!? 組織の時は別だけどさぁ……今から行って間に合うとは―――」

藍とリーゼルトの言葉を遮るように、二人の間に手紙が落ちた。

彩が二人の代わりにそれを拾って開封し、しばらくすると彼の表が青ざめた。

わざわざ此処に手紙を送ってきたのだ、何かあるとは思うが―――。

「國王とサテラが捕らえられた。しかもそれが私たちのせいだと來た、早く助けんと首が飛ぶぞ! 時間がどうだと言っている暇はない!」

「拉致なのなら、私らが行くまで殺されることは無いと思うが―――」

エアンが彩から手紙を奪い、その容を目に通し始めた。

『國王と付嬢を拉致した。助けたければ冒険者ギルドの隠れ家まで來い―――待っているぞ リンドウより』

「誰なんだ? このリンドウってのは」

リンドウと名のる者に恨みを買った覚えもない。

冒険者ギルドには行ったが隠れ家など行ったことは無いし、存在も知らない。

彩はエアンから再度手紙を奪い、リーゼルトの手を引いた。

「ギルドマスターの所へ行くぞ、これは大問題だ」

いつにもなく頼れる彩に、昔の彩しか知らなかったリーゼルトは戸った。昔の彩は此処まで考えられる人ではなかったからだ。

リーゼルトの手を引いて歩いていく彩に、皆も付いて行く。

ちなみにユリウスだが、彼は今一度アーナーに同化している。

険しい顔をするリーゼルト一行に、冒険者達も驚きの顔を見せている。

「ありゃあどういうことなんだ?」

「分かるわけねえだろー? というか、竜舞姫居なかったか!?」

そして一人のびと共に、ギルドは竜舞姫の話題で持ちきりになった―――。

「それは本當なのか?!」

ギルドマスター室では、ルカがいつものふんわりした優男な雰囲気を崩し、青い顔をしてテーブルを強く叩いた。

いつものようにサテラは此処に居なく、ルカを落ち著かせる役目はいない。

しかしギルドマスターはだてではなく、ルカは自分で落ち著き始めた。

「―――あのサテラが、ねえ……ちなみにリンドウという者はぼくも分からない。ギルドの隠れ家を知っているとはね……」

「どうすればいい? ルカ」

「國王様、ランス様がそこに居るのなら、早急に行った方がいい、ぼくが案する」

國王―――ランスが國民から舐められているのは一応事実だ。ルカは険しい顔で人差し指を何もない空間に向けると、ブラックホールを開いた。

ランスが國民から舐められているのは、彼が一人では何もできないタイプだからだ。

ブラックホールが大きくなると、その場にいた全員が包み込まれた――――――。

「此処はぼくの作った特殊空間。これを隠れ家って呼ぶのは一部の人間に限るけど―――リンドウって人はいないよ」

「そうか。やはりどう取っても怪しいな」

「魂……不潔……この世界には……たくさん……いるから……」

サランとエアンのマイペースな二人はかろうじてこの空間で聲を出すことができるが、この張した雰囲気の中で聲を出すのは難しい。

藍も彩もリーゼルトも、一秒でも時間が惜しいように走っている。

ルカはの回りに膨大なデータのったパネルをいくつも出現させ、それをたびたび素早くタッチしながら走っている。

そして何やら詠唱をすると、その瞳に青い火が燈される。

「それは……」

「とある『師匠』に教えてもらったんだよ。これならもっと早く行ける。みんな絶対にぼくから離れるなよ! ……目を閉じろっ!」

リーゼルトが聲を出すと、ルカはし微笑んで答える。しかしその表もすぐ険しいものに変わり、ぶと、皆が目を閉じる。

目を開けると、そこには明るい部屋があった。奧にはドアがある。

「相変わらず凄い『加護』だ……さすがだ、ぼくじゃ絶対に追いつけないよ」

「それって加護なのか?」

「うん。そう。それじゃあ扉をくぐったら恐らく―――奴らがいる」

ルカはそう言って扉に手をかけた。この場に居る全員がつばを飲み込み、張を張り巡らした。この先には何があるのか―――。

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