《俺にエンジョイもチートも全否定!~仕方ない、最弱で最強の俺が行ってやろう~》第八話 人間を辭めた

扉を開けると、一番先に出た想は、鼻を劈く腐敗臭との匂い。思わず吐き気がしてくるようなくらい、その空間は気持ちが悪い。

國王ともなる者が。冒険者の付嬢ともなるものが。こんな居心地の悪い空間に閉じ込められている。

想像するだけで怖気が全を支配するくらいには、この空間は影響力が高かった。

彩のナビであるアーナーの中に収納してもらっているユリウスから、最大級の警告が出された。組織にる時と同じくらいにはアーナーも警戒している。

「へぇ、ただの組織(笑)ではなさそうだな。やっぱし舐めてかかったら死ぬじゃねえか。……サテラ、レスナ、前は任せた」

「任されました」

「おうっ!」

リーゼルトは前世でしっかり指揮だけは學んできたつもりである。彩もリーゼルトのその努力を知っているからこそ、反論はしない。

最も、知らなかったとしても彼が反論する事だけはできなかっただろう。

「藍さん、エアン、サラン。後ろは任せた」

「分かったわ。エアン、サラン、最大の警戒をするわ。前に誰一人として通さないで」

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藍も、きっとリーゼルトの指揮の才能を察知したのだろう。瞬時にその反応能力とわかりの良さを生かして追加で指示していく。

藍、エアン、サランは素早く後ろに回り込み、リーゼルトたちに背中を預けた。

つまり、リーゼルトと彩は五人の背中を守る事だけに集中することになる。

『ギャハハハハハハハハハハッ!』

突如奧から響いた聲に、ビクッと全員は肩を揺らす。しかし何も近づいてこないのを見て肩の力を抜く。続いてしたのは付嬢サテラの悲鳴。

そして國王の心配の言葉をかける聲と、それを黙らせるためなのか何かを叩きつける音がした。

どんどん彼らが閉じ込められている場所に近づいていると全員はづく。

「開けますよ」

「分かった」

短く會話を済ませて賢者サテラはもうひとつの扉を開ける。

―――恐らくこの向こうに。

「ギャハハ……ん? ようやく來たようだな雑魚め。如何やらギルドマスターが遙か後方に隠れているようだが?」

その顔もも人間の原形をとどめていないのに、人間の言葉を話す『』がそこには存在していた。全員が最大の警戒をする。

の言葉通りに後方に隠れているルカはす、とこの世界には存在するはずのないライフルをどこからともなく取り出す。

付嬢サテラは國王をかばう形で國王の前に座っている。

一方の國王は付嬢サテラをかばいたいのか抵抗しているが、けない。

どうやら賢者サテラの解析の結果、二人を縛っている縄にはきを封じる魔法陣と魔使用不可の魔法陣が展開されているようだ。

「リーゼルトさん、此処は危険です。國王様を助けてこの場から去って下さい! 私の事には構わなくてもいいので!」

「漫畫みたいなこと言ってんじゃねえっつーの! 何のためにこんな大人數で來たのか分かってんのかっ……!」

リーゼルトの膽力はだてではない。どんな強者にも挑んできた。どんな無謀な手も使って功させて見せた。

―――その経験が、今ココで諦める理由にはならない。

漫畫みたいに綺麗ごとを言うつもりはない。

ただ、オブラートに包まないで言うと自分のプライドが許さないからだ。

自分のちっぽけなプライドを救うために、やっている、ただそれだけ。

リーゼルトは腰からナイフを抜き、レスナとサテラに前衛を任せ、エアンとサランに後衛を任せ、藍と彩とリーゼルトを中距離に。

本當は藍を前衛にしたかったが、中距離にも強者は必要だ。

「―――俺ぁ、人間を辭めた。悪魔の魂を取り込んだんだぜぇ?」

「悪魔の魂ですって!? 貴方は何をしているのか分かっているのですか!?」

「お前、気にらねえな。悪魔の魂を取りれてまですることがあったのか? それは國王様と付嬢をとらえることか?」

「……知らない知らない知らない知らない! 誰かに否定される権利はねえ貴様に俺を否定する権利はねえ俺はこの國を支配したいこの國を壊したい……あれ? 貴様もしかして、材料になれる『魂』を持ってんじゃねえェかぁあああ!?」

―――こいつ、呼吸してんのか?

あまりにも一息でしゃべり続けて狂う男(?)を見てリーゼルトは呆ける。見苦しいくらいにレスナに絡んでいる。

國を壊したい、と宣言した彼を國王は悔しそうに見つめている。

リーゼルトは察していた、國王はしお人好しでどんなものにも味方してしまう傾向があるということを。全てを國民としてれることを。

そしてその國民候補でもある男に、國を壊したいと言われてしまったのだ。

「この國に……どんな不満があるのか聞いても良いか……?」

「みんな腐ってる! どうして分の差別がある! どうして俺ばっかり! どうしてみんな才能で決めつける! 平和な國など肩書だ! 俺はぁぁあああっ!」

「落ち著いてくれ。帰ったら政治をもう一度見直す。だから落ち著いてくれないか?」

「黙れダマレ黙れダマレぇええ!! 今更直したところで俺の昔の苦しみはどうなるんだ見殺しにされるのかないことにされるのか!? 人生直せと言われても忘れられないんだよあの苦しみの人生があの暗黒の冷たい目がああああっ!」

―――本當に苦しんできたのだろう。

これから幸福になるかもしれないのに、それを捨ててでもこの國を壊そうとする。彩は息をのんだ。この男の恨みは本だ。

幸福を捨ててでも、昔の不幸を糧に全てを恨み復讐を生きがいとする……。

國王は辛辣に言葉をぶつけられながらも男を説得しようと試みている。

(恐らくムリだ。戦うこと以外こいつはんでいない……ふふっ、暗黒が目覚める、我は覚醒する、覚醒した今、救世主となり降臨するッ!)

前の世界で作った自分のキャッチフレーズとなっていた文章を、彩は読み直す。何度もこれを読んでいると、元気づけられる。

「だから俺と戦えッ」

(正直理不盡だなこいつ!?)

剣を構えて無理矢理戦わせようとする男にリーゼルトは心嘲笑していた。

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