《絶対守護者の學園生活記》頼りになる背中
「今だよ!」
「どっせええええええええい!」
ミーナが風の刃を飛ばし二の魔のうちの一を切斷する。味方がやられ、揺しているもう一にマルクが素早く迫り、大剣を思いっきり振り下ろす。
「うん、いいじだな」
「だなー。魔が弱すぎていまいち足りないが」
クソ王子の一件があったものの、今は野外実習なので深いことは考えないことにした。
「大この辺のは狩りつくしたな」
「そうね、こういう場合は引率の教師に言えばいいのかしら?」
「……出番なかった」
「リリィちゃんの魔法は強力すぎてちょっとね……」
自分の出番がなかったと落ち込むリリィ。今回の野外実習は魔を殺すことへの躊躇いを無くすこと、そして多人數での連攜を取ることを目的としている。そのためには魔を瞬殺するのは極力控えなければいけないが、いかんせんこの辺りの魔が弱すぎる。割と実力者揃いであったうちの班は手加減を上手くできたためあまり気にしていなかったが、リリィだけは手加減がどうにも苦手らしくかなりの威力の魔法を撃ってしまい、殺すことへの躊躇いをじる云々の前に魔が塵と化してしまったため、自重してもらっていたのだ。
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「……私が伝えてくる。皆は休んでて」
「あら、それじゃお言葉に甘えて」
「リリィ……なんて健気で良い子なんだ。お兄ちゃん、泣いちゃいそうだ」
「……俺がロリコンで危険とか云々の前に、こいつのシスコンの方がよっぽど重傷で危なくないか?」
「あはは……」
戦闘で役立てなかった分、他のことで役立とうとするリリィの健気さにしていた俺に余計なことを言うマルク。失禮な、俺のどこが危険なんだ。とりあえずリリィの頭をでる。癒される……。
「……行ってくる」
「おう、気を付けてな」
引率の教師を探しにリリィが行ってしまった。
んじゃ、リリィのお言葉に甘えて休憩させてもらいますか。
※※※
「おい。奇遇だな」
私は引率の教師を探して森の中を歩いていた。やはり昔から通っていただけに、この森はとても落ち著く。
「おい! !」
……落ち著いた心にそぐわない、まったく聞きたくもない聲が聞こえる。
これ以上放っておいてもただうるさいだけなので流石に返事だけはしておこう。
「……なに?」
私はいつも通り傍にお供を付けた王子様に、一応反応を示す。
「なあに、忠告をしておいてやろうと思ってだな。どうやら最近この森にドラゴンが現れたらしくてな。まあ、例え現れてもこの俺様が倒して見せるがな!」
そう言って、いかにも高級そうな剣を掲げる王子。なぜそんなに裝飾が施された剣なんか使うのだろうか。庶民育ちの私からしたら無駄としか思えなかった。
だがそんなことよりも気になることがあった。
この森にドラゴンが?
ドラゴンとは最兇と恐れられている龍であり、強靭な鱗を持った巨に、かなりの兇暴を兼ね備えており口から吐くブレスを浴びれば即死も充分にありえる。騎士が束になってかかっても、かなりの苦戦、あるいは全滅も考えられる魔だ。
だがそんな魔がこの森にいるとは考えられない。なぜなら、そんなことが起きているなら野外実習にこの森が選ばれるはずがないからだ。
野外実習はあくまで魔の戦闘に慣れることを目的としているため、生徒に多大な被害がでないようにあらかじめ調査が行われているはずだ。
私なりに考えてみる。
學園側が知らない報を王子が持っていた。それは噓かもしれないが、もし本當の事だったら王子はそれをわざと隠していたことになる。
それに、學園側にもバレずにドラゴンが森へと來るにはどうしても國の監視の目をくぐらなければならない。ドラゴンの出現は國にとっては見過ごせるはずがない。
ということは本當にドラゴンがいた場合は、何者かがかにこの森に連れてきたことになる。
そんなことが出來るのはかなりの権力を持った者のみ、それこそ王族のような――。
結局は噓であってほしい。そう願わざるをえなかった。
だが、そんな願いもすぐに葉わぬものとなってしまった。
空から大きな咆哮をあげ、何かが降りてくる。
黒に染まった巨に、ギラギラとした深紅の目。
それは紛れもないドラゴンだった。
「ひっ……」
それを見た王子が、恐怖のあまりもちをつき、震えながら後退っていた。倒すといっていたのはなんだったのであろう。
「こんなの聞いてない俺はもっと小さいやつと聞いてたんだ俺は知らない知らない知らない……」
王子がなにやら聞き逃せないことを言っている。
聞いてない。それはつまり王子が何者かと手を組み、ドラゴンの出現を図ったということになる。
だが今はそんなことを気にしている場合ではない。
「……ドラゴンをなんとかしないと」
私はドラゴンと対峙した。
このまま見逃せば、かなりの生徒たちが犠牲となってしまう。そんなことはさせない。
ドラゴンはまだ私に気付いていないのか、辺りを見回していた。が、どうやら私の存在に気付いたようだ。
目が合う。その目は、獲を殺すことへの執著が見て取れた。
それと同時に悟った。
勝てない。
 王子までとはいかないが、恐怖をじ、足がかない。魔法を唱えようにも集中が出來ない。
それを気にしないかのように、ドラゴンがブレスを浴びせようと口を開く。
終わった。そうじた瞬間。
「息子の將來の嫁に、手は出させんぞおおおおおお!!」
私の後ろから現れた男が、ドラゴンにドロップキックをした。ドラゴンは吹き飛んで行く。……ドロップキック!?
   その男より後に、もう一人の男が私の前へと歩み出る。その後ろ姿は、私が昔から見てきたのと同じ、頼り甲斐のある背中で。
   クルッとこちらを振り返って、いつも見せる笑顔でこう言った。
「遅れてすまん。お兄ちゃんが來たから、もう安心だぞ。変なのも付いてるけど」
 レオンお兄ちゃんが、助けに來てくれた。
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