《絶対守護者の學園生活記》IFストーリー 私を連れ去って
「疲れた……帰ってさっさと寢よう」
疲労からか足取りは重く、疲れた表でぼやく年。
前世で桐谷守として命を落とし、異世界にレオンとして転生したこの年は王都にて冒険者という職に就いている。
出地となる村で何事もなく過ごしてきたレオンは、同じ村出の有名な冒険者でもあるガルムに稽古をつけてもらった剣の技を生かすために、十五歳になると王都へとやってきた。
決して裕福とは言えないが、それなりに今の生活に充足はあった。
今日の依頼も終わり、宿の借りている部屋へと著いたレオンは鍵を開けて中へとった。
「……なぜ姫様がここに?」
「抜け出してきちゃいました」
なぜかベッドの上でくつろいでいるがいることに気付き、レオンは問いかける。
レオンが姫様と呼ぶ――この國の第一王でもあるシャルロット=フィル=ガルーダは微笑んでいた。
「また視察に付き合ってください。それと私のことはシャルと呼んでください」
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「流石に無理です。あなたは第一王様で、俺は平民ですから。視察は護衛の方と行ってください」
「別に分は気にしなくてもいいですよ? それじゃこれは命令ってことにします」
「……分かりました。それでは行きましょうか、シャル」
「はい!」
シャルは嬉しそうに笑うと、レオンの手を取って街へと繰り出した。
レオンが言っていた通り、圧倒的な分差がある二人がこのように逢瀬――とまではいかないがなぜ會っているのか。
それはレオンが王都へ來た日のこと。レオンは地理を把握するために街をぶらついていると、辺りが急に騒がしくなった。
なんだ?と思っていると自分の方に人影が迫ってきたので、半ば反的に捕まえてしまった。
それがなんと騒ぎの原因であるひったくりの犯人であった。
そしてそのひったくりの被害にあったのが城をこっそりと抜け出して街へと遊びに來ていたシャルであり、何かお禮をしたいと言われた。
第一王であるシャルを助けるのは國民にとっては當然のことであり、お禮をしたいと言われたところで斷るべきだ。
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だがレオンは今まで寂れた村で過ごし、王都に來たばかりのためシャルの顔を知っておらず、ならと言葉に甘えてと王都の案を頼んだ。
それがシャルにとっては意外であった。いくら自分が禮をしたいと言ったところで恐れ多いと斷られるのが目に見えていたからだ。
そして街を案している間も遠慮なく、あれはなんだ?それじゃあれは? と聞いてくるレオンと過ごす時間はとても新鮮なもので、王としてではなく一人のの子として接してくれることに安らぎをじていた。
後日、自分が案を頼んだが第一王だったことを知って顔を青ざめたレオンであった。
それ以來、シャルは視察という名目で城を抜け出し、レオンを連れて街へと出るようになった。
レオンといる時間が、いつしか大切なものへと変化していた。そしてそんな相手に心を抱くのは時間の問題であった。
だがそこで邪魔をするのが分の違いであった。
王族と平民――決して相容れない存在。
「レオン君、『駆け落ち王族語』って知ってますか?」
「知ってますよ。初めて聞いた時はなんだそのタイトルって思いました」
街中を二人で歩いているとシャルがふと思い出したかのように尋ねる。
『駆け落ち王族語』とは王都にて人気を博した劇である。
平民である年と王であるが斷のに落ちる。王が家によって決まられた相手と、結婚式を挙げた時に年がし王を連れ去っていくという話。はこのような話に弱いようで、特に人気が高かった。
「の子としては、やはり憧れますよねぇ。私も駆け落ちしてみたいです」
「そんなもんですか。ていうか本の王様なんだから冗談でもやめてください」
「……冗談ではないですけどね」
「ん? なんですか?」
「いえ、なんでもありませんよ!」
シャルは軽く駆け出し、止まるとレオンの方へ振り返った。
「ごめんなさい、用事を思い出しちゃいました。また今度付き合ってくださいね」
「そうですか、出來れば事前に連絡してくれると助かります」
「気が向いたらしますね。………さよなら、レオン君」
シャルは別れの言葉を告げ、去っていった。
レオンは特にこの後用事はないので、帰るだけである。が、なぜかその場からく気配はなかった。
なぜなら
「………シャル、泣いていた?」
さよなら。そう言った彼の瞳に輝くなにかが、レオンの心をぎゅっと締め付けていた。
それから數ヶ月が経ったが、レオンの元にシャルが訪ねてくることは無かった。
王様だし忙しいんだなと、そんなことを思っていたレオンに、王城から一つの知らせが屆いた。
それは、この國の第一王からの結婚報告だった。
※※※
「すまん、シャル……」
王城にある國王の私室にて、父であり國王でもあるダフィズが娘に頭を下げていた。
「大丈夫ですよ、お父様。むしろ今まで待たせていた私が悪いのですから」
「シャル……」
第一王であるシャルは、國の繁栄のために自分は有力貴族などとの政略結婚をするのが當たり前だと思っていた。が、父であるダフィズは娘の真の幸せを願っており、結婚を勧めてきた。
當然、王族との繋がりを持ちたい貴族たちからは反発された。しかしダフィズは貴族たちを抑え続けた。例え何と言われようとも、娘が笑って過ごせる未來を見たかったから。
そしてダフィズはシャルにお見合いの場を用意した。しかしどの相手も心の底にあるが隠しきれておらず、良い相手というものは見つからなかった。
そんな日々は退屈なものであり、辛くもあった。
だからこそそんな気分を晴らすために城を抜け出していたのだ。
そしてついに貴族達から言われてしまった。
いい加減にしろ、と。
結婚をさせたいというから我慢してたのに、一向に相手を見つけず、さらには城を抜け出して遊んでいる。何がしたいんだと。
それでもダフィズは貴族たちを抑え続けたが、ある日シャルがこう言ってきた。
「さよならは済ませてきました。だからもういいんです」
シャル自から政略結婚を選ぶと言われ、ダフィズは言い返すことが出來なかった。
こうして、シャルの結婚が決まることとなった。
「式は來週だ。準備はしておいてくれ」
「分かりました」
そうしてシャルは部屋から出て行った。
それを確認すると、ダフィズは傍に控えさせていた侍を呼ぶ。
「……あいつへの知らせを出しておけ」
「かしこまりました」
ダフィズの命令に了承の意を示し、禮をして侍は退室していく。
あいつ――それは城を抜け出したシャルに尾行を付けた際に、知った一人の年。
「王としては失格なんだろうな。でもこれでいいんだよな、お前?」
天井を見上げ、まるで誰かに語り掛けるかのように、そう呟いた。
そして、ここにもベッドに寢転がりながらも天井を見つめている一人の年がいた。
「結婚、か……」
とあるの顔を思い浮かべる。
自分にとっては雲の上の存在であるの笑う顔、怒る顔、拗ねる顔。様々な彼を見てきた。
その中で最も印象的だったのが、最後に會った時に見た、涙を浮かべた顔。
まるで何かを必死に堪えるかのようであった、その表がどうしても頭から離れない。
「そういえば……」
年は思い出した。彼が憧れだといった、語の容を。
王族と平民が主役のその語は、なんの皮か彼と自分と重なるところがある。
しかし重なるのは立場だけ。
関係になったわけではない。
そもそもあれはあくまでも語であり、現実ではほぼ起こりえないことだ。
彼の政略結婚というのは至って當たり前の事。
「俺は……」
勝手に部屋に上がり込んできたリ、街へと連れ出されたり、振り回されてきたといっても過言ではない。
それでも、いつしか彼と過ごす時間が楽しくじていた。
そして気付いた、自分の心に。
決して許されることのない気持ち。
だから自分からは何も求めなかった。
そして最後に待っていたのは、彼が他の男と結婚をすることになったという事実。
しょうがない。これでいいんだ。
必死に自分に言い聞かせた。
なのに
「離れたくない……シャルと……!」
気付くと年は駆け出していた。
例えどんな結末を迎えようとも、この想いだけは伝えたい。
ただその一心で、走り続けた。
※※※
シャルの結婚式當日。
式場には分問わず多くの人が集まり、盛大に行われた。
式は滯りなく進み、夫婦でを誓う。
そして誓いの口づけがわされそうになった、その時であった
「その結婚、ちょっと待ったああああああああ!!!!」
バン!と式場のり口の扉が開かれ、一人の年が突然してきた。
り口には警備をしていた騎士がいたはずだが、なぜか第二王に連れられいなかったため、すんなりできたのだ。
花嫁であるはその年の姿を捉え、驚きのあまり目を見開く。
當然騎士たちは者を捕えるためにき出そうとした。だが
「お前らくな! じっとしていろ!」
王であるダフィズが大聲を上げ命令をした。そして止まる騎士たち。
そんな中を年は花嫁であるの元へ歩いていく。
そしての前に著くと、膝を著いて頭を下げ、手を差し出す。
「お迎えに上がりました、お姫様」
ただただ驚きをわにしていたは年の言葉の意味を理解すると、涙も浮かべ満面の笑みをし、差し出された手を取った。
「私を連れ去って。どこまでも!」
年はその言葉に頷くと、手を摑んだまま外へと向かった。
來賓も騎士たちを、それをただ見ていることしかできなかった
年はを外へ連れ出すと待機させた馬に二人で乗り、その場を後にした。
「どうか娘を幸せにしてやってくれ。頼んだぞ……」
娘を想う父の呟きは、本人たちに屆くことは無く、空へと消えていった。
「これで俺は王様を拉致した犯罪人か。捕まったら死刑不可避だな」
「その時は私も一緒に死んであげますよ」
王都から遠く離れた草原にて、馬に乗ってゆっくりと進みながら、會話を楽しんでいる二人組の姿があった。
「その……付いてきた私が聞くのもアレなんですが、なんでこんなことを?」
一國のお姫様を結婚式から連れ去ったのだ。そこにはそれ相応の理由があるはず。
既に検討はほとんどついているが、期待を込めては問いかける。
年は恥ずかしそうに頬をポリポリと掻くと、口を開いた。
「あなたのことが、好きだから」
「っ!」
葉うことのないであろう夢が葉った。一度は諦めてしまった夢が、現実となった。
嬉しさのあまり、とめどなく流れてくる涙。
「わ、私も! あなたが! あなたが好きです!」
二人の想いが、今通じ合った。
自然と顔が近づき、重なり合う。
「々と辛い道になるかもしれないが、俺に付いてきてくれ、シャル」
「はい! 私はレオン君とずっと一緒です!」
二人を祝福するように、草原には優しい風が吹いていた。
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