《負け組だった俺と制限されたチートスキル》第五話 救う神あり
夢を見ていた。
神と話したあの白い空間の。
いや、正確には記憶と言った方がいいかもしれない。
――――
「これから話すことは、ことが終わってからの方がいいと思ってね」
俺は首を傾げるほかなかった。
先ほど急に頭にれられたのも訳が分からない。
それに気のせいか、神の聲に元気がなくなっているようにじる。
「早速重大発表だコウスケ君」
「何でしょうか?」
仕切り直しとばかりにこちらの顔を見據える神。
その様子に俺も思わず張する。
「君には勇者の資格はない」
「……え?」
まさに重大発表だった。
というか意味が分からない。確か俺は勇者召喚として呼び出されるのではなかったのか。
「これについては僕も分からないんだよ。全く、僕が分からないことが一度に二度も起こるなんて……本當君という人間は面白いな」
人の心配もよそに神はケラケラと笑う。
神のお眼鏡にかなったのは良いことなのかもしれないが、問題は解決していない。もし神が軽く俺を勇者にしてくれるというのであれば、話は別なのだが。
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「全く神に向かって何て淺ましい考えを抱いているんだ君は」
心が読めることを忘れていた俺に、神は苦笑しながら告げた。幸いにも怒っているようには見えないので良かったが、いくら気軽に話してくれるとはいえ、相手は神なのだ。うっかり魂ごと消滅させられるとも限らない。
これからはもっと気を付けて心の聲を発しよう。
「こらこら、いくら神でもそんな理不盡な事はしないよ」
なおも苦笑を続けて神様はそう言った。
そして続けてこう言う。
「まあ僕も君に勇者の資格を與えたいのはやまやまなんだけどね。それにはとっても複雑な事があって出來ないんだ」
「それなら、仕方ないです」
今でも十分強いスキルを持っているのだ。勇者のスキルがなくともやっていけるさ。
この時の俺は呑気にもそんなことを考えていた。
後に訪れる事態も知らずに。
それからしばらく神による説明をけた。
「説明は以上だ、質問はけ付けないよ。面倒くさいし」
突然の不親切さに思わず聲を上げようとしたが、止めておいた。
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そういえば質問という質問がなかったからだ。
「よろしい、ではコウスケ君。君はその人ならざる力でどうする?」
「俺は……」
やりたいことなど思い浮かばない。
そんな煮え切らない態度の俺に、神が微笑み告げた。
「異世界で君は君のやりたいようにやればいいんだ」
「やりたいように……」
やりたいこと。今までそんなことを考えたことはほとんどなかった。
特に最近は。
暴力に耐えるのでもやっとだったのだから。
そこで俺はハッとして神を見る。
そこには今まで曖昧だった顔そのものがハッキリと現れていた。
年、、別は分からないが、それくらいの歳の純粋そうな顔。
そんな顔で大きく口角を上げ、一言だけ。
「そういうことさ」
たったそれだけの言葉。
だが俺を志を築くだけの力があった。
つまりこの神は、俺に復讐でも何でもしろと言っているのだ。
復讐。
今まで何度か殺意に似たようなものは抱いたことはある。だが出來っこないと諦めていた。
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でも異世界なら法は無い。それにこれまでの常識の通じない世界だ。
そしてなにより反則的なスキルがある今なら。
自然と口角が上がるのをじた。
込み上げる高揚を抑えきれない。
こんな気持ちは久しぶりだった。
「さあ行きなさい、私のしき子よ」
そう言って笑った神は、我が子に向けるような慈悲に溢れた笑顔にも見えたが、それと同時に悪事を促す悪魔のようにも見えた。
――――
「……これがあの後の」
俺は再び暗い空間で目を覚ました。
神は全て知っていた、そして俺に告げていたのだ。
この悪夢のような事態を。
しかし記憶にはなかったのだが。
とはいえ神が、俺の記憶を作したのも悪意によるものではないことは憶測だが、分かった。
それもこれも最後の激勵を生かすため。俺が出鼻を挫かれないようにするための配慮なのだろうと。
もし全てを覚えていてさっきまでの出來事に遭遇していたら、俺は何をしていただろうか。
暴を起こす? はたまた絶に負けて全てを放り投げる?
考えられる未來はそれくらいだ。
だが後者は結構な確率で起こり得た未來だったはずだ。何せ、記憶が戻る前の俺は、絶に墮ちそのままそうなっていたのだから。
気まぐれか、本當に俺に興味を抱いたのかは分からない。だが確かに頂いた神からの贈り。
無駄にするわけにはいかない。
神は俺にチャンスをくれた。
そのままの意味の生まれ変わるためのチャンスを。
ならば答えよう。それを天啓として。
それが神の意思なのだから。
「……ぁ」
しかし現狀は芳しくなかった。
あの後、けた拷問の數々。
俺の聲帯はもはや発聲としての役割を果たせない。
それだけじゃなかった。
手足の指は殘さず折れ、爪ももちろん剝がされた。
その中でも幸いなことはあった。
いや、幸いといって良いのか分からないほどの、不幸中の幸いとでもいうべきか。
それは五満足であるということである。
骨や爪は自然治癒でどうにかなる、もし腕などを切り落とされていたら修復不可能なのだ。それに関していえば確かに幸いともいえる。
の確認が終わったところで、次にするべきこと。
それはこの國からの走だ。
このままここにいては俺のは確実にもたない。そうなってしまえば復讐なんて夢のまた夢だ。
あいにく現狀の俺の能力とスキルでは奴らを殺すだけの力はないのだから。
本當なら今すぐにでも殺したい。全く同じ方法で苦しめて、その後に殘酷な殺し方で殺してしまいたいほど憎悪が心の中で渦巻いている。
しかしそのどす黒いは、神との會話を思い出したことによって、抑えられる程度にはなっていた。いや、抑えられるというよりは、そのをモチベーションに還元できている狀態という方が正しいだろう。
しかし負のは否定しない、このがたちまち暴走してしまえば、瞬く間に絶に墮ちてしまうことは簡単に理解できる。
本能だけではなく、理も利用して復讐する。
ならば今できることをやるだけだ。
【経験確認、スキル『真偽』創造可能】
未だ慣れない脳アナウンスに肯定の意を示し、次の工程へとる。
【スキル『真偽』を創造完了。殘りスキル枠0】
その言葉と同時に、
名前 コウスケ・タカツキ
スキル 真偽 鑑定 隠蔽 技能創造
鑑定によって確認した。
これで俺のスキル枠は0。もしかすると今までの苦痛を耐えたことでスキル枠が増えるのではないか、と期待していたが、そんなうまい話はないらしい。
さて、今できることとして俺を拷問したガンドのスキル『真偽』を創り出した。思通り、あの問答は俺にとってスキル『真偽』の経験をしたことになったらしい。
まあ現狀でそのスキルが理的にあまり役立つとは思わないが、今俺が創れるスキルはそれしかないので仕方がないとした。
後は獲を待つだけだ。
そう考えて、もうひと眠りをしようというところで聲が響いた。
「おい、起きろ」
前回とは違う看守の聲だった。
俺は込み上がる笑みを抑えて返事しようとするが、
「……ぁ」
自分の聲が枯れきっていることに気が付いた。
しまった、これでは會話もままならない。
「……聲がいかれたか、仕方ない」
看守は一度この場から立ち去り、また直ぐに現れた。
「これを口に含め」
看守の男から渡されたのは小さな固形のだ。
突然のことに俺は看守を見つめる。
「安心しろただの薬だ、毒なんかじゃねえ。それにお前を殺しても俺には何の得もねえしな」
ますます分からなくなった。どうして俺にこんなものをくれるのか。
そんな警戒を崩さない俺に男はため息を吐いて答えた。
「はぁ、簡単な話だ。お前の聲が使えないとなったら、取り調べの意味もなくなる。単純な話だろ。それにそれは俺の獨斷じゃねえから恩なんてじる必要はねえ【偽】」
男はそう言って俺の口の中へとそれをれた。
「どうだ? 聲が出るようになったか」
「……あ、はい」
その薬は見事に俺の聲を取り戻す。これほどまでの薬は地球でもない。異世界特有の薬草でもあるのか、はたまた魔法なのか、今の俺の知識では何も分からない。ただ分かること、それはこの男は噓をついているということだ。
「さあ立て」
男に促されるように俺は立ち上がろうとする。
――激痛。
足の指が折られているので立ち上がれるわけがないのだ。
その様子を見た男は顔を顰め悪態をつく。
「ッチ、運び出すのは誰の役目だと思ってやがる」
そう言いながらも男は俺の方へと近づき、手を差しべた。
「摑まれ……ってまさか手の指もか? はぁこれだから……」
男は俺の指が全て折られていることを確認すると、顔を上げ天を仰いだ。
「ッチ、応援を呼んでくる。そこで待ってろ」
男はそう言い去っていこうとする。だが俺は寸前のところで呼び止めた。
気になることがあったからだ。
「あの、さっきの薬、ありがとうございます」
思い切ってお禮を述べる。
その言葉に男は呆れた顔を見せ言った。
「だから俺の獨斷じゃねえって【偽】」
やはりそうだ。さっきの會話の中でもこの話題の時にスキルが発した。
つまりこの男は自分の判斷で俺に薬を渡したのだ。
まあそれがどうしたっていう話になるが、なくともこの男には取りる隙があるっていうことだ。
「それでもです、聲が出なかったらまた……」
「……ッチ」
拷問の事を匂わせる発言をすると、男が口ごもり舌打ちを打った。
看守ならそんなこと慣れているはずだ。だがこの男はいかにも苛立っているように見える。
「……お前は何で捕まった?」
「え?」
「何でこんな牢獄にれられてんだ」
男がトーンダウンした聲で俺に問いかけた。
質問の意図は分からない、だが好機だ。
「魔王の使いだという容疑で……」
「魔王だ? 最近の魔人共は人間さえも使役するようになったのか?」
「何も知らないんです!」
聲を張り上げて男に訴える。
「そうか、まあその取り調べの為のあの部屋か」
男は渋い顔をつくり俺の顔を見た。
「それにしても何だって魔王の配下だと思われた?」
「それは……自分が勇者召喚の場にいたにもかかわらず、勇者スキルを持っていなかったから……」
「……なに?」
俺の言葉に、男が眉を吊り上げた。
どこか引っかかる點があったのだろうか。
看守ならばそれくらいの事、知らされているはずだが。
「勇者召喚の場といったか?」
「はい、そうですけど」
「……ちょっと待ってろ」
男は一層険しい顔をして、奧の方へと去っていく。
未だ狀況は摑めていないが、何やら事態は変化しそうだ。
そうこうしているに男が帰ってきた。
「事が変わった」
そう前置きし、男が口を開く。
「俺の名前はカイン、王國の偵をしている者だ」
「な、偵!?」
「靜かにしろ」
まさかの告白に聲をあげる。
スパイはこの男の方だったのだから。
「言っておくが魔王軍所屬じゃねえからな」
釘を刺す様に男がそう言った。
確かに一瞬そうなのかも、とは思ったが、さっきの口ぶりからしてそんなことはないということは分かっている。
「まあ簡単に言うと、現王権に反抗する者たちが集まった集団にを置いているんだ」
「それをどうして教えてくれるんですか?」
「勇者召喚の場ってのは、一看守じゃ場所もどこか知らされてねえ。それにお前のその容姿、異世界人なんだろ?」
「は、はい」
「なら話は早い、お前のその処遇、俺たちに任せてみる気はないか?」
男から言い渡された提案は突発的なものだった。
しかしこれは紛れもなく好機。
乗らないわけがなかった。
であれば、答える言葉は一つ。
「お力になれるのであれば」
肯定だ。
そうもしなければここから出ることもままならない。
それにその王権に反抗する集団にれば、拷問の男やいずれ勇者だって、
「まずは名前から聞いておこうか」
「コウスケと言います」
「コウスケか、良い名前だ」
カインは明るい笑顔を俺に向ける。
「よし、じゃあ早速ここから出るぞ」
「策があるんですか?」
「そのための看守役ってわけだ」
男はそういって鍵束を見せつけ、俺の牢のカギを開けた。
「さあ來い、復讐を果たすために」
そういう彼の顔は、復讐を進めた神の顔に遜ないほど輝いて見えた。
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