《負け組だった俺と制限されたチートスキル》第七話 第三勢力
「やはりそうか……カイン」
そんな怒聲を発したのは、肩を刺されて倒れていたシンギルだ。
やはり、ということから彼はなんとなく知っていたという意味合いがじ取れる。
「その言い草、いつから気づいてやがったんだ? シンギル」
「お前の相棒のアインが、第二皇子派って知ってからだよ」
話は俺を置いて進んでいく。
アイン、その名前は先ほどの會話の中にも出てきていた。
なるほど、それでシンギルさんは噓をついたのだ。
「……アインはやられたか、道理で連絡がないわけだ」
これでようやくシンギルが噓をついた理由が分かった。
アインという仲間はカインと同じく裏切り者で、それを捉えたのがシンギルということだったのか。
俺はとんだ勘違いをしていたようだ。
「まあシンギル、お前はどのみちここで死ぬ」
「っは、俺がお前にやられるとでも?」
肩を怪我し、傍にはけない俺。
明らかに不利なこの狀況でもシンギルは強気な態度を崩さない。
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しかしそんな態度のシンギルに、カインは肩を震わせ、笑い始めた。
「くっくっく、お前はもう負けてんだよ、俺の一撃を食らった時點でな」
「……なに?」
「俺の特技を忘れたか?」
「特技だと……まさか!」
ここで言う特技とはスキルに當たるのだろう。
カインのスキルを思い出せ。
確か、隠と聞耳、あとは……
「調剤……」
「おお! お前も気が付いたかコウスケ」
何故か嬉しそうな表をするカイン。
だがそんな彼とは対照的に、シンギルと俺の表は絶のに染まっていた。
調剤ということは、恐らく薬を作るスキル。
そして薬は何も治療を施すためだけのものじゃない。つまりシンギルを刺したあの短剣には……
「毒か……」
シンギルのその呟きが答えだ。
「正解、まあ即死するようなもんじゃねえがな、だが今のお前の半は麻痺してるんじゃねえのか?」
「……クソが」
カインの問いにシンギルは悪態で返した。それは肯定の意味であることは聞くまでもなかった。
つまりシンギルさんはもう戦える狀態ではない。
「……どうしてこんなことを?」
震える聲でカインへ尋ねる。
頭を働かせろ、はかなくても頭だけは。
「そんなことは簡単だろ? 俺は現國王には反対している勢力で間違いはないが、そこに倒れているシンギルの反軍とは別の勢力なんだよ」
「でも」
それなら一緒に戦えば……
困する俺にカインは口角を吊り上げて答える。
「何だ? お前は敵の敵は味方が當たり前だとでも?」
何も言い返せない。俺にも似たような経験があったからだ。
敵の敵は味方なんてものはごく一部だけなのだということを嫌というほど知っている。所詮赤の他人は敵の敵だろうと、赤の他人なのだ。
むしろ俺の場合は、敵の敵だろうと敵であることには代わりなかったのだから、もっとその気持ちが分かってしまう。
「そうだ、俺らは互いに憎み合っている、いくら利害が一致してようと手を組むことがないくらいにはな」
そういうと、カインが歩みを進め、シンギルの目の前に立った。
「同僚だったけだ、毒に苦しんで死ぬより先に殺してやるよ」
「貴様……」
カインが手に持っている剣を頭上に掲げた。
「命乞いは……しねえよな」
カインは詰まらなさそうにシンギルを見下ろしそう呟いた。
その言葉通り、シンギルは口を結んでカインの目を睨みつけていた。その態度から降伏のは見えない。
「はっ、つまらねえなぁ」
カインは吐き捨てるようにそういうと、突如こちらに目を向ける。
そして寒気のするような笑みを浮かべていった。
「コウスケ、お前が決めていいぞ」
「え……?」
言っている意味が分からなかった。
俺に何を決めれと言うのか。
「こいつの処遇だよ、今ここでお前がトドメを刺すのか、ジワジワと衰弱死させるか決めてみろ」
「そんなこと……」
出來るわけがなかった。
この手で他人を、ましてや恨みも何も持っていない人間を殺せるわけがない。
いくら復讐心を持っていたって、それが向けられるのはあいつらだけなのだ。
「おススメは今殺すことだ、お前だって苦しませたくないだろ?」
カインが急かすようにそう言ってくる。だが決められない。
俺はシンギルさんを見た。
シンギルさんは、もはや口を開くこともままならないのか、彼は何も言わずただただこちらを見ていた。
何が言いたいのか分からない。
いや分かりたくなかった。
「シンギルさん……」
「早く決めろぉ、その分だけ苦しませることになるぞ?」
カインが俺に向けて剣を差し出してくる。
もし俺が骨折なんてしていなかったら……なんて起こりえないもしもを考え歯軋りする。
そんなもしもはありえない。
今起きているこの現狀が、現実なのだ。
俺は弱弱しく剣をけ取った。
分かっていた。
シンギルさんはこういっているのだ。
俺を殺さなくてもいいと。
それが彼の優しさであることも。
だがそれだと彼が苦しみながら死んでしまう。
それも嫌だった。
でも殺すのも嫌だった。
「おいおい、いい加減決めろよ、コウスケ君」
段々イラついてきたような態度に変わるカイン。
「分かっ、た」
「それで? どっちだ?」
カインが目を輝かせて俺にそう聞いてくる。
俺の選択肢は一つだ。
俺はカインの腕をその剣で斬った。
だが指に力がらないため、剣はそのまま何処かへ飛んでいく。
「クソが! ふざけんなよ!」
カインは俺を蹴り飛ばして怒號をあげる。
そして飛んでいった剣を取りシンギルへ近づいた。
「さっさと死ね、シンギル」
そのカインの言葉を最後にシンギルの頭とが切り離された。カインの剣によって。
「あ、あああ! う、げほっ」
初めて見る死。
それは生ぬるい社會に生きてきた俺たちにとっては非現実的で、とてもじゃないが信じられない景だった。
だがそれを現実だと認識した途端に吐き気が込み上げてくる。
「何だよ、死を見るのは初めてか、異世界ってのは平和ボケした世界なんだな」
冷めた目つきで、えずいている俺を見下すカイン。
「っち、生憎殺すのは止されてるんでな」
カインはそう言いながら、俺に斬られた傷に何かを塗った。
恐らく解毒剤。
俺の行もシンギルさんの死も無駄になってしまった。
「だがな、これからはここで死んでいたほうが良かったって思えるような楽しい日々が待ってると思うぞ?」
カインさんは嫌な笑みを浮かべてそう言い、俺に近づき、強引に持ち上げた。
當然抵抗する。
しかしそんな俺に、カインは舌打ちして聲を張り上げる。
「暴れんじゃねえ! ぶっ殺されてえのか?」
その剣幕に俺は何も出來なくなった。
俺は臆病だ、何も変わっていない。
「それで良い、じゃあしばかり気ぃ失ってもらうか」
その言葉を聞いた瞬間、俺の意識は暗闇の中に墮ちていった。
――――
「……どうしようかな」
どこからか聲が聞こえる。
その姿を確認するため、目を開けたが真っ暗で何も見えない。
暗すぎて目を開けているのかも分からないくらいだ。
「そうだ、あれを付與しよう」
謎の存在は勝手に話を進めていく。
「ん? この空間で意識を保っていられるのかい? へえ凄いね」
その聲が俺に気が付いたかのようにそんな言葉を発した。
しかし、相変わらず真っ暗、いや真っ黒で何も見えない。
「ま、そんなことどうでもいいけど」
再び自分語りを始める聲。
「君には期待しているんだよ? だから頑張ってほしいんだ」
一何を?
そんな疑問を口にしようにも聲が出ない。
その直後――
【――罪――――ルを獲――】
ノイズじりの聲が脳に響いた。しかし何を指しているのか殆ど聞き取れていないため、まるで分からない。
「でもね、直接介することが出來るのは今回限り、あとは自分で何とかしてね」
その聲を最後に俺の意識はまどろみの中に消え去った。
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