《負け組だった俺と制限されたチートスキル》第九話 幸運

俺と魔の死闘は夜通し続いた。

時には死をあと數センチでじるまでの場面もあったが、またそれも一興というやつだ。

そして闇に覆われた森に日が差し込み始める頃、

「はは、まさかここまでやれるとは」

俺は乾いた笑みを浮かべ呟き、倒れた魔を見下していた。

互いに満創痍といったところ。

しかし魔もまだ戦意を保っているようで、走った目でこちらを睨みつけていた。

「そんな目で見られてもな」

の態度に苦笑する。

確かに恨まれるだけのことはしたが、いまそこに倒れている魔に傷はない。それもこれも魔特有の高い治癒能力のせいだ。

いくらを絶とうが、驚くべき速度でそれを防ぐといった特をこいつは持っていた。

そのせいでこんな時間まで戦うはめになったのは言うまでもない。

「しかも……」

俺は左腕のあった場所を見る。

の突進に対応した時すでにボロボロだった左腕は、とっさの隙をつかれ魔に食べられてしまったのだ。その直後に、あの治癒能力が活を活発化させたということは、あの能力は材料となるが必要なのかもしれない。

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そうこう考えているうちに魔が起き上がってくるかもしれない。

ということで俺は、此度の戦いで大いに役立った木の枝を魔から抜き取り、再び魔へとむける。

きっと即死させれば復活は出來ないはずだ。

俺はしっかり狙いを定めて枝を突き出した。

「グルアアアアアアアアアア」

一際大きい聲をあげ暴れる魔

俺が勢い余って腕を突き出したせいもあるが、その魔の暴れ方が見事に俺の腕と同調し、枝のみならず腕までもが魔へと突き刺さった。

生暖かいに思わず顔を顰める。

加えて俺の腕に魔がまとわりつきはじめた。

「もしかして俺ので回復する気か?」

俺は驚きの聲と同時に心する。

口からの摂取じゃなくてもいけるというのだ、なんとも効率的なだろうか。

だが、それをさせるほど俺は優しくない。

すぐさま腕を奧底に突っ込み、目當てのものを捜す。

するとその目當てのものが指にれた。

「じゃあな」

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最期の言葉として魔にそう聲をかけ、それを勢い良く引く抜いた。

「グルア、アア」

しばかりもがいた後に魔は域を引き取った。

それもそうだ、俺が引き抜いたのは心臓なのだから。

「ようやく……終わった、か」

やることをやり俺の気は一気に抜けてその場にへたり込んだ。

はもちろんだが、を酷使し続けたためか、異様な疲労に襲われ、忘れていた痛みも戻ってくる。

さらにいえば空腹もやってきた。

我ながら々足りないな。

しかしの不調は寢れば直ると仮定しても、空腹だけはどうしようもない。

俺はあたりを可能な限り見渡すが、が疲れからかかないことに気づき、ガクッとうな垂れた。そこで目にしたのが、右手に持っていた魔の心臓である。魔といえどには変わりないはず。そう思った俺は目と閉じ勢いのままにそれを喰らった。

味は味ではなかったが、別段不味くも無く、あまり面白い経験をしたとはいえなかった。

それにガッカリした心境で、俺はそのまま寢転がる。すると、相當疲れがたまっていたのか、俺は無防備にもその場で眠りこけてしまった。

【――認、――ル――造――】

夢心地の中、そんな聲が聞こえた気がしたが、俺は別段気にすることもなくまどろみの中へ意識を溶かした。

翌朝、何事も無く俺は目を覚ました。

目の前には無殘に転がる魔の死。それから昨日あったことをぼんやりと思い出していく。魔と対峙したところまではハッキリ覚えているが、その後があまり定かではなかった。

それに一度寢たからか、昨日のような高揚じない。

をしながら俺は上を起こし、大きくびをする。

そこで気が付いた。

やけに左腕が重いことを。

「……確か左腕は」

虛ろながらに左腕を失ったことは覚えている。だがそれなら腕は重いどころか軽いはずだ。

だというのに俺の左腕は重かった。

「は?」

言葉を失うとはこのことだ。

何故なら俺の左腕が何もなかったかのように生えていた。し赤黒い気もするが治っていた。

いや、よくよく見ると、全が綺麗に治っていた。指の骨折はもとい、戦いで負った傷も跡形も無くなくなっている。

「どういう……」

この不可解な現象を目の當たりにした俺の脳には、一人の男が浮かび上がっていた。

言わずもがな俺をこの場所へ放り込んだであろう男のことだ。

だがそれには一つ不可解な點があった。

それは俺を完治させる必要があの男にはないということだ。何せ、完治させてしまえば俺が逃げ出してしまう恐れがある。そこまでのリスクを負って何かをするような男には思えない。ならば……

名前 コウスケ・タカツキ

スキル 真偽 鑑定 隠蔽 同化 技能創造

「やっぱり」

目の前に映し出されたスキルの羅列を見た俺はそう呟いた。

この世界で訶不思議な事が起こるとすれば、それはスキルのせいである可能が高い。

そしてその予想は的中していた。その証拠はいつの間にか増えていた見覚えのないスキル。

同化、一見、俺の傷を治すようなスキルには見えないが、俺には一つ心當たりがった。

の治癒能力。

あれが他者のを自分のの材料にすることによって発する能力ということは戦闘中に発覚したことだ。そこから考えられるのは、この同化というスキルがあの魔の治癒能力の正である可能が高いということだ。

実際、俺は魔に取り込まれようとした。それが技能創造スキルメーカーの必要條件である経験をしたことになったのだろう。

「ただ運が良かったと」

俺はムスッとした面持ちで天を眺める。

俺に運が回ってくることなど今まで無かったのだから、これを仕向けたのは神かそれに連なる者の仕業だと俺は考えることにした。というよりそう考えないと、自分で思うのもなんだが、この奇跡に近い復活劇は起こりえない。

とまあいちゃもんをつけたくはなるが、謝はしていた。何しろ主人公のような験を俺が出來たのだから。

そんなすがすがしい気持ちを一瞬で吹き飛ばす出來事が起こった。

「やあやあコウスケ君、贈りは気にって頂けたかな?」

あの男だった。

あの男が數人の男を引き連れて俺の前に現れたのだ。しかしその中にカインはいない。

「おいおいそんな顔をしないでくれよ」

そんなことを言われても無理なものは無理だ。俺はこいつを殺してやりたいほどに憎んでいる。

「それとも贈りがお気に召さなかったのかな?」

「贈り?」

さっきから贈り、贈りとうるさい男にイラだったまま聲を出す。

男はそんな俺の様子に首を傾げて尋ねた。

「気づいていないのかい?」

その問いに俺は怪訝な表を浮かべる。

「君の左腕は私が開発した義手なんだよ」

男は満足そうな表を浮かべそう告げる。どうやら噓はついていないらしい。

そうか、この左腕は奴が、

「そうだったんですか」

「そうだとも」

俺が急に下手に出たことに満足したのか、満面の笑みを浮かべて頷く男。

せっかくなので今のうちにスキルでも確認しておこう。

名前 カノスガ・ゲイルト

スキル 錬金 調合 治療 支配

治療スキルもあるのか。なら傷もこいつが?

もしかすると同化スキルは傷とは全く関係なかった?

「な、なんだと!?」

「は?」

俺がカノスガのスキルを覗いている時に、彼は大聲を上げた。

まさか、スキルを見ているのがばれたか?

「き、君の左腕はどうなっている?」

焦った面持ちで詰め寄るカノスガ。

どうなっているも何も、當事者はこいつのはずだが、

「貴方がつけたのでは?」

なので俺は丁寧にそう聞き返した。

だが當のカノスガは首をブンブンと振り、興して口を開く。

「そんなことはあり得ない! 私がしたことはカレドメタルで造られた義手をつけただけだ」

何を興しているのか、俺には全く分からなかった。

「君! 一何をした?」

「えっと……」

詰め寄られ怒鳴られても俺には何のことかわからない。

そんな俺の態度にカノスガは俺の左腕を指差しながら怒鳴る。

「この皮のことだ、私の義手には皮なんてものはつけていない!」

……なるほど。大分かった。

こいつは俺の傷を治してはいないし、俺の傷が治っていることも知らない。そして當たり前だが同化スキルも知らない。

俺は今座りながら話を聞いている。

つまりまだこの男は俺が骨折し、ボロボロな狀態だと思い込んでいるというわけだ。

「そんなこといわれても」

表面上はそう言いつつ、心では笑みがらすまいと我慢する。

どうやってこいつを始末しようかと考えていたが、思いのほか簡単そうだったからだ。

今のところカノスガとその取り巻きは俺に危害を加えるつもりはないらしい。というよりは、俺の左腕に戸っていてその余裕がないようだが。

現にカノスガは歩きながらブツブツと呟いて回っていた。

そして、

「分からない、だが、それを解明することこそが科學だ!」

という結論に勝手に至り、俺の方を見據えた。

「いやいや、君の腕が幸運にも失われただけじゃなく、裝著した義手にも不思議な力が宿るという幸運。私は科學の神にされているようだ」

天を仰ぎ言葉を連ねるカノスガ。

呆れながらそれを眺めていた俺とその他の取り巻き。まあ今は好きに言わせておけば良い。

「じゃあ一緒に來てもらおうか、コウスケ君」

笑みを浮かべ俺に手を差し出すカノスガ。それも俺が指を骨折していると思っているからの行なのだろう。

俺が手を握れるはずが無いと高を括って。

ならばと、俺はカノスガの差し出された手に自分の手をばす。

さすがのカノスガも驚いた表だが、まだ余裕は殘していた。

俺はその手を強く握り締め誓う。

さて復讐をしようか。

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