《負け組だった俺と制限されたチートスキル》第十四話 油斷大敵

ミリルが消えた場所は、もちろんこの部屋にる扉の前だ。

もしただの気まぐれで彼が移したのであれば、もう無視して進もう。これ以上彼がいることで俺の決意を揺らめかすわけにはいかない。

それに彼の魅了スキルは危険だ。

いつ発しているのか、それは分からないが、そのスキルがもしその名の通り兇悪な力を有しているのであれば、まずかかってはいけない。

もしかかってしまえば、俺のこの復讐という決意も揺らぎ、きっと目の前の極楽へ溺れてしまうことは目に見えている。

いくら絶し狂ったとしても、目の前のには溺れたくなる、それが人という生きなのだから。

俺は再び隠し扉前に到著した。

やはり彼の姿はどこにも無い。

「どこだ……?」

施設を回った記憶を呼び起こす。

が興味を抱きそうなものや、人が隠れていそうな場所。

だがそれが分からない。

分からないからこそ、この隠し扉の中にったのだ。

分からない。

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どこへ行ったというのか。

――ならもう置いていっていいのでは?

なんて考えもよぎる。

そんな俺の元へ、ある聲が屆いた。

「コウスケ……!」

小さいながらも確かにその聲は俺の名を呼んでいた。

聲からして分かる。

それがミリルのものであることは。

「どこだ!」

だが肝心の場所までは分からない。

俺は聲を上げて確認するが、それに続く聲は無かった。

しかし、これで彼が遊びでかくれんぼのようなことをしているという可能は無くなった。

まあそもそもそんな事をするとは思ってなかったけど。

とはいえ、狀況は最悪な方であることは間違いない。

が俺の呼びかけに答えない。

かつ俺の名前を呼ぶほどの事態であること。

この二つを照らし合わせた答えは、彼はここにいた何者かによって拘束されているという可能が高まった。

まだ早計かもしれないが、初めからそう思って行しておくことには何も問題はない。

となると、今は一刻も早くミリルの元へ行かなくてはならない。

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だが肝心の場所が……

俺はその場で立ち盡くした。

やるべき事が分からない。

ひとまず落ち著こう。

そう思い俺は、一つ息を吐く。

その瞬間誰かの足音が背後で聞こえたような気がした。

そこで俺は急いで振り返る。

しかし誰もいない。

次は右から。

だがそこは壁であり、誰かがいるわけも無い。

今度は上から。

人が天井に張り付いているわけが無い。

そうした音が様々な方向から聞こえてき、俺はますます揺することとなってしまった。

落ち著いて考えれば、ただ音が反響しているだけであるのだが。そのことに気が付いたのは、俺が何者かに羽い絞めにされた時だった。

「……っ! 誰だ」

突然両腕を封じられ俺は聲を上げる。

背後から拘束されているため、顔は見えない。

「ふふふ、私ですよ、忘れてしまいましたか? コウスケ君」

「な……お前は」

その聲には間違いなく聞き覚えが合った。

いやありえない。

お前は死んだはず。

あの森で、魔に食われて。

「カノスガ……!」

「はいはい正解です、流石初めて私を追い詰めた実験のことはあります」

「どうして……」

「ん? そんなの簡単じゃないですか、この地帯にいる生は全て私の管理下にあるとだけ言えばお分かりでしょうか?」

「魔も支配して……」

「またまた正解です!」

聞いているだけで苛立ちが募る聲。

生憎と奴の言っていることは噓ではなさそうで、それならあの森であの狀況から助かったのも頷ける。

「っち」

正直すぐにでも暴れてしまいたかった。

だが今は我慢の時である。

ミリルの安全を確認しない限りは、下手にけない。

「ほらほらそんな態度ではお友達も怖がってしまいますよ?」

カノスガがご機嫌な聲でそう言うと、目の前には真っ白な、ミリルが現れた。

しかし頭には布が巻きつけられ目隠しされ、手も拘束されている。

それを見る限りすぐにで逃げ出せる狀況ではなさそうなのは目に見えて分かった。

「ですがコウスケ君、あなたは本當に予想がつかないことばかり起こしてくれますねぇ」

楽しそうに耳元で聲を発するカノスガ。

それがとても気持ちが悪くて背筋に悪寒が走る。

「その腕の件はもちろんですが、質変異、人格豹変に加え、彼出させてしまうとは、予想以上の働きですよ」

、それは間違いなくミリルのことを言っているのだろう。

だがお前に褒められたって何も嬉しくない。

そして話しているに気が付いたが、俺を拘束しているのはカノスガ本人ではないようだ。大方護衛の誰かにやらせているのだろう。

それもそうだ、今、奴の両腕は満足にかせる狀態ではないはずなのだから。

「まあ生憎とあなたも魅了されちゃった結果なんでしょうけどね」

されてない。

そう反論しようとしたのだが、そう言ったところで事態が変わるわけでもない。

俺は何も言わずにカノスガの言葉を聞いた。

「おやおやだんまりですか、私に反抗したときはかなり威勢が良かったのですが」

うるさい、黙れ。

「それも空元気だったんですか? いやいやあれは明らかに別人格でしたよね? それともただの演技だったのですか?」

質問ばかりしてくるカノスガ。

流石に我慢の限界だった。

俺は口を開いた。

「そろそろ黙れ」

「おぉ! それです、いくら過酷な経験をさせたからといって、そこまで人格が豹変するようなこと今まで・・・ありませんでしたからね、非常に気になりますよ、科學者としてね」

科學者、どうやらこいつはもう科學者になったつもりでいるらしい。

笑わせる。

お前が研究していることなんて、俺らの國じゃ、小學生だって知ってることだよ。

だが気になった部分はそこだけじゃない。

「今までと言ったか?」

「ん? それがどうかしました?」

なんて事のない調子で聞き返すカノスガ。

分かった、こいつは々な人を俺みたいに実験材料として使ってきたということを。

こんな屑は殺さなければならない。

人として、復讐者として。

俺は腕に力を込め、その拘束から逃れようと試みる。

やはり組まれているためか、力技では抜け出せそうに無い。

「おや、逃げ出そうだなんて考えないことです、目の前のお友達がどうなっても知りませんよ?」

カノスガの言葉に反応するようにミリルを拘束していた職員が首下に刃を押し付けて、下種な笑みを浮かべ、こちらを見る。

どいつもこいつも俺以下のクソ共らしい。

「そうか、なら大人しくするよ」

「ほう、やけに分りが良いですね」

とはいいつつも、心穏やかなものではないし、きっとカノスガもそれを読んでいる。

だがその程度の警戒で良いのか?

俺は思いきって相手の足をかかとで踏みつけ、それと同時に拘束している相手の指を捻る。

「っく」

痛そうな拘束者。

だが遠慮などしない。

その時拘束がしだけ緩んだ。

俺は左腕を思い切り振りぬく。

生憎とこちらはそちらが用意した義手、間接を固められたって痛覚はない。

俺は左腕を引き抜き、その反のまま拘束者の顔面に左腕を打ち込んだ。

間違いなく鼻は折れたであろう。

次に懐にっていた鍵を、ミリルに刃を突きつけていた男、目掛けて投げる。

おっと、狙いが良すぎて眼球に突き刺さっちまった。

その隙にその男に駆け寄り、に蹴りを放って弾き飛ばす。

ついでに鍵も引き抜いて、顔面に左腕を叩き込んでおいた。

「大丈夫か」

そしてミリルの目隠し、手錠も外す。

「……うん」

すっかり怯えた様子のミリルだったが、狀況が狀況だけに彼に構っている余裕は無い。

後は……二人か。

カノスガをれると三人ではあるが、あいつは戦力にはならないだろう。

「う、くな!」

くとどうなる?」

さっきの余裕の態度から一転、明らかに揺しているカノスガ。

本當こいつは懲りないようだ。

カノスガの傍にいた男二人が剣をこちらに構える。

何か既視のある景だが、まあ今回ばかりは警戒されているので前回のようにはいかないだろう。

さてどうするか。

俺はとりあえず倒した男の腰から剣を抜き取った。

「その剣を下ろせば許してやらんことも無い」

「お前に許してもらうと何かメリットはあるのか?」

あえて質問し煽る。

冷靜さを失わせることが狙いではあったが、ただ単にイラついていることによるストレス発散の意味合いが強い。

「さあ何か言ってくれよ、話すのは得意だろ?」

「……調子に乗るな」

まだ彼らの方が優位なはずなのに、不利な言いのカノスガ。

なんだ、思いのほか歯ごたえの無い奴だ。

「じゃあ教えてくれよ」

そんな俺の問いにあいつは答えなかった。

話すのが好きとはいえ、時と場合はわきまえているといったところか、いやそれともプライドが許さないのか。

何とも面倒な奴だ。

しかし困った。

一向に隙といえるような隙を見せてくれない。

生憎とここは廊下なので、そこまでスペースもなく、不意打ちもやりにくい。

そこで今度はカノスガから聲がかかった。

その態度は幾分か落ち著いているように見える。

「どうしました?」

「こっちが聞きたいな」

しかしコロコロ態度を変える奴だな。

「ふふふ、実は焦っているのでしょう?」

「そっちこそ」

な言い合い。

だがそれでも相手に鬱憤を募らせることだけは出來ているはずだ。

「……いいでしょう、この前は油斷して殺されましたからね、今回はきっちり処分してあげましょう」

「俺もこの前はうっかり殺し損ねたからな、今回はちゃんと殺してやるよ」

そう言い合い、二つの勢力は剣を構えた。

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