《負け組だった俺と制限されたチートスキル》第十五話 選択
まず初めにいたのは、相手側だった。
前回の二の舞にならないためなのだろう。
だがまあこの狹い通路では、人數の優位もあまり意味を持たないはず。
それを分かった上でどう攻めてくるか、見ものである。
俺の手には二つの武。
俺を摑んでいた奴の直剣とミリルを人質に取っていた奴の短剣の二本だ。
俺はその二本の武を構え、出方を伺っていた。
ミリルに短剣を持たせるという考えもあったが、それは愚策であると判斷したため止めた。
今の彼はお世辭にも戦力になるとは言いがたく、可能は無いとは思うが、もしも彼に裏切られるのも考えると、武を渡すのは止めておいたほうがいい。
我ながら臆病になったものだ。
し前まではきっと護用として真っ先に渡していただろうに。
そんな気持ちを余所に目の前の男たちはジリジリとこちらとの距離を詰めて來る。
そうして目の前の男の一人がこちらに掌を向け何かの言葉を発した。
「エン――」
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詳しくは聞き取れなかった。いや聞き取れたとしてもこの事態は予想できなかったはずだ。
なぜなら、突然俺の目の前に火の玉が現れ、襲い掛かってきたのだから。
「っく!」
慌てて左手でその火の玉をける。
いくら義手とはいえ、は俺のもの。
當然、痛みと熱はじる。
「魔法……」
この不可思議な現象に心當たりがあるとするとその言葉しかなかった。
魔法、なくとも現実においての地球にはない概念である。
その魔法をけた左腕を見てみると、はただれ義手の金屬部分が顔を覗かせていた。もしこれが右腕だったと考えるとゾッとする。
ただ痛いことには変わりなく、軽く意識を持っていかれそうだ。
俺がその痛みに顔を顰めていると、奧の方からカノスガの笑い聲が聞こえて來た。
「ふっふっふ、確かあなた方の世界にはないものですよね? これが魔法ですよ、覚えておいても損はないと思いますが……まあここで死ぬのでしたら覚える必要もありませんか」
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皮じりにそういうカノスガの言葉は無視し、思ったよりも狀況が不味いことに改めて気づく俺。
まさか向こうには遠距離で攻撃できる手段があったとは考えていなかった。
そして、こちらには……
チラリとミリルを見る。
そこには怯えた表で燻っている俺の左腕を見ているミリル。
……やはり彼ありきで戦うこちらが不利なのは変わらない。
「どうしました? 威勢がさっきよりなくなってませんか?」
カノスガの煽りは無視だ。
どうする、魔法に対抗出來る手段なんてこちらにはない。
この左腕でけ続けることは可能だろうが、それだと俺の神が持たない。一撃だけでこの痛みなのだ、もう一度けろといわれたら全力で逃げるくらいには痛い。
「……逃げるぞ」
俺はミリルにそう告げた。
このまま原理の分からない魔法相手ではまともにやりあえる自信がなかった。
そう告げた俺に神妙な面持ちで頷くミリル。
後はあいつらの隙を見るだけだが……
「何を相談しているんですか? 私にもお聞かせ願いますか?」
「どうやってお前を殺すかを話し合ってただけだよ」
「おやおや」
ダメだ、カノスガはすっかり優位に立ったつもりでいて、こちらの挑発はまるで通じない。
憎たらしい、今すぐにでも殺してやりたい。
そんな事を思っていても狀況は変わらず、再び男の一人がこちらに掌を向けた。
まずい!
「エンゲキ」
咄嗟にミリルをに抱き勢を低くする。
何かが頭を掠め、その直後に奧の方から焦げた臭いが漂ってくる。
言うまでもなく、彼の放った魔法だ。
「……っち」
狀況は最悪。
だが今度は確かに聞こえた。
魔法を放つ時に言った言葉を。
試す価値はある。
「うん? まさか魔法を使おうとでも言うのですか?」
「……だったら?」
カノスガからの問いに俺は揺を隠して口を開いた。
まさか俺がこれから実行しようとしていたことを見抜かれれるなんて思っても見なかったからだ。
恐らくその決意が顔に出てしまっていたのだろう。
カノスガは笑い出した。
突然のことだ。
「ふふふふ、はははははは」
顔が引き攣る。
理由は分からずとも、とにかく不愉快だった。
「まさか本気であなたが魔法を使えるとでも? 笑わせますねぇ」
カノスガには俺が魔法を使えるわけがないと確信を持っているようだった。
その態度に俺の心も揺らぐ。
一どういうわけだ。
ただ言葉を言うだけで魔法を放てるだなんて思っていないが、きっと何とかすれば俺にも魔法は出せるはず。
なのにあいつは俺が絶対に魔法を使えるわけがないと確信している。
もしかすると、魔法を使うには他にも何か重要なものがあるっていうのか。
俺はうろたえた。
奴の言葉がハッタリであるならいいが、生憎と俺には真偽スキルがあり、奴の言葉が噓でないことは分かってしまっている。
つまり俺が現時點で魔法を使える可能は、奴から見てゼロに近い、ということが分かってしまった。
考えろ、思考は止めるな。
焦るな、考えを巡らせろ。
「どうして俺が魔法を使えないと?」
は試しだ。
カノスガの大きい優越に対する求。
それを刺激すれば奴はきっと答えるはず。
「私が教えるとでも?」
「俺はお前に実験結果を與えた」
カノスガの目を見る。
奴の目には俺の真っ赤な瞳が映っているはずだ。
そう、それが奴の実験結果、魔を初め、ミリルを拘束していたことからも分かる。こいつは赤い瞳もしくは、魔そのものについて研究している研究者であることが。
「ふふふ、面白いことを言いますね」
「至って真面目だ」
出來るだけ奴の気分を損ねないよう、言葉を選んで発する。
そんな自分に腹が立つが今は仕方がないのだと割り切って。
「いいでしょう、君に対しての実験の果は私でも不明な點が多いですが、起こったということは起こる原因があったということ、それだけで発見ですからね」
前置きが長い。
苛立ちが顔に出そうだ。
「魔法が何故使えないか、でしたか……それは簡単な事ですよ、君のステータスには魔法が使えるという記述がない、ただそれだけのことです」
「ステータスだと?」
確かに俺のステータスには魔法に関する記述はない。
だがまて、カノスガのステータスにも魔法についての記述はなかったはず。
なら、
「じゃあお前も使えないのか?」
部下に使えて自分は使えないという事実、カノスガという男が認められるわけがない。
そこで憤れば、その時が逃げるチャンスだ。
「何を言っているんですか君は」
だがカノスガは憤るどころか、こちらに向けて呆れたような表を見せた。
意味が分からない。だってお前には魔法のスキルなんて……
「あぁ、鑑定を持っていても正しい使い方が分からないのですね、なるほどそれはそれはお気の毒に」
「なに?」
鑑定の正しい使い方だと?
そんなもの対象のステータスを調べる以外に何があるというのか。確かに俺は神からそう教えてもらったはずだが……
いやその前に何故お前が俺のスキルを知ってるんだ!? 確か奴には鑑定スキルはなかったはずだし、持っていたとしても俺のスキルは隠蔽で見れないはずなのに。
「私が君のステータスを知っている理由は簡単だよ、部下に鑑定持ちがいた、ただそれだけのことさ」
「それでも……」
俺が鑑定持ちだということを知っている証拠にはならない。
隠蔽を破るがあるというのか。
「あぁ、そうだったね、君には隠蔽なんていう小汚いスキルがあるのか……」
ひどい言われようだ。
だが今は事実だけが知りたい。
「まあ君が鑑定スキルを持っていることなんて、鑑定を使わなくても分かっていたことだよ、何せ私の名前を言い當てたじゃないか」
……確かにそうだ。
あの時は奴の驚く様が見たくて口走った。
「そのおで私はまんまと驚いたんだけどね」
笑顔でそういうカノスガ。
奴の方が一枚上手、のままいた俺の愚かさが招いた事態だ。
「ああそうだった、鑑定の使い方だけど、そうだな……換條件といこうか」
カノスガからの突然の提案。
何と何を換するというんだ。
「鑑定の使い方に関する報と、君のお友達、そのの柄だよ」
「……何だと?」
ミリルがギュッと俺のシャツの裾を握る。
安心しろ、俺は今のところ・・・・・お前を見捨てたりなんてしないさ。
「なに、簡単な事じゃないか、報を得るにはそれなりの対価が必要だってこと、ただそれだけだよ」
「話が違う」
さっきまでペラペラと気持ちよく話していたくせに、今更何を言ってんだこいつは。
「話が違う? あぁ、君の実験結果の件か、ははは、そんなもの今までの私の優しさでおつりがくるじゃないか」
「ふざけるな」
「ふざけてなんていないさ、私だって好きで君に時間を上げているわけじゃないんだ、君がどうしても知りたいっていうから教えてあげている、何なら今殺してもいいんだよ?」
カノスガの目が細められ、その前の男二人が手をこちらに向ける。
「……分かった」
もう方法がない。
何も出來ることがないのだ。
俺はミリルと向き合う。
その赤い瞳が潤み俺を見つめていた。
「……コウスケ」
ボソリと彼が俺の名前を告げる。
彼も分かっているのだ、自分が犠牲になれば狀況がしでも変わるということが。
「……ああ」
俺は彼の手を取る。
そして……
走った。
「なっ……!」
ついでに持っていた剣を奴らに投げて。
馬鹿か、そういう取引はもっと対等なじゃないとり立たないんだよ。
ミリルの柄と鑑定の知識程度なんてそんなものり立つわけがない。
最低でも俺の柄の安全くらいは保証してくれない限り、そんな話は乗るわけがない。
「殺せ!」
背後からそんな怒號が飛んでくる。
俺は全力で廊下を走り、あの檻の部屋へと戻った。
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