《負け組だった俺と制限されたチートスキル》第二十話 井の中の蛙

「ああ通って良いぞ」

俺はその言葉が信じられなくて、顔を上げようとした。

まさか本當に分の何も確認されることなく通れるなんて思っても見なかったのだ。

しかしせっかく得た好機を無駄にしてはならない。俺は慌てて顔を下ろした。

ゆっくりと息を吸い、そして吐く。

出來るだけ不審がられないよう一歩、また一歩と歩みを進める。

そうしてその門を通り過ぎた時、肩を摑まれた。

ピクリとが反応してしまう。

なのだからどうしようもない。

何を……? と警戒心を強めていると、俺の肩を摑んだ男から次のような言葉が発せられた。

「良い滯在を」

「は、はい」

それはお決まりの社辭令。

俺は拍子抜けした気持ちを抑えつつ言葉を発し、しだけ早足でそのままその場を後にした。

場所は人気のない路地裏。

そこで俺は壁に寄りかかって疲れた表を浮かべていた。

「はぁ」

心の底から安堵のため息がれる。

本當に張した。

肩をられたときなんて、もう逃げるか殺すしかないと思ったほどだ。

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しかし良かった、あのガバガバ警備のおで俺達はこうして里の中にることが出來たのだから。

とはいっても問題が全て解決したわけではない。

いくら門を潛れたといっても、俺達が赤い瞳を持っていることには変わりないのだ。そしてその瞳にマイナスなを抱いている者がこの里にいる可能も低くない。

すなわち門を潛れたからといって安全だという保障はどこにもないのだ。

「しまったな」

俺は顔に手を當て、そんな事を呟いた。

あの時あの門番に鑑定スキルを使っておけば良かったと思ったからだ。

俺の技能創造スキルメーカーは、何よりも報量が命。一見使えないようなスキルだろうと知っておいて損はないのだ。

そう考えると、もしかするとあの門番は俺達に鑑定を使ったのかもしれない、という憶測も思い浮かんでくる。鑑定を使えば何でも分かるということはないが、なくとも名前は把握出來るのだから。それならあの警備制も納得がいくというものだ。

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……ないな。

しかしその可能はゼロに近いものだという考えに至った。

もしもあの門番が俺達に鑑定を使っていたならば、なくとも隠蔽スキルを持っている俺を何も検査せずに通すとは思えない。

やっぱり鑑定しておけば良かった。そうすればその事実確認も出來るというもの。

そう後悔しても後の祭りである。

「とりあえず休める場所を探そうか」

俺はミリルにそう提案し、彼からの同意を得られたため、しばかり警戒しながら表の大通りに出た。

まだ人が起きてくるような時間ではないため、人通りはない。

しかし人がいることは確かなので、小柄なミリルはともかく、俺はしっかりとフードを目深にかぶり歩く。

日本だと怪しすぎて逆に注目を集めそうなものだが、ここ異世界ではそんなことはないようだった。

実際に俺と同じようにフードを深めにかぶって歩いている者が目の前にいる。

……やっぱり怪しい。

俺は自分に返ってくることを自覚しながらも、目の前にいるフード男に対してそう想を抱いた。

加えてそのフード男はキョロキョロと辺りを見渡しながら歩いていて、ただでさえ怪しいというのに、その行為のせいで怪しさ倍増である。

俺も端から見ればあの男のように見られていると思うと、何だか複雑な気持ちになった。

そんな俺に突然ミリルが口を開いた。

「あの人」

とそれだけ呟く。

あの人というのはもちろんあの怪しさ満載フード男のことである。

「どうした?」

俺は小さな聲でそう確認した。

あのミリルが自分から口を開いたのだ、何か思い當たる節があるのかもしれない。

「コウスケと同じ」

俺は躓きかけた。

まさかそれだけのために言ったのか?

「ああ……そう、だな」

微妙な顔しか作れない。

本當にそれだけのために言ったなら、余計なお世話だ。

俺だって気にしているし、それを言うならお前だって同じ格好だろうが。

そんな俺の気持ちとは裏腹に、ミリルは驚いた顔で俺を見上げた。

「おい、顔を上げるなって」

俺は慌ててミリルに告げる。

どこで誰が見ているか分からないんだぞ。

「……ごめん、なさい、でもビックリしたから」

「ビックリ?」

ミリルの言葉に俺は思いあたる節はまるでない。

俺は何か彼が驚くことを言っただろうか?

「やっぱりすごい」

「んん?」

突然の賛辭に俺はますますワケが分からなくなる。

俺は今さっきの會話で、ミリルを驚かせ、心させたということになる。

……まるで見等がつかない。

「だって……あの人が同じ赤目って気づいたんだよね?」

「なに?」

ミリルの言葉に今度は俺が驚いてしまった。

え、あの人俺達と同類なの? 初めて知ったんだけど。

「え?」

またミリルが驚愕の顔で俺を見上げた。

しかし今度はその行を咎めることが出來ない。それよりもミリルの言葉の方が衝撃だったのだ。

「あの人が俺たちと同類って言ったのか?」

「う、うん」

二人して困している混沌とした狀況。

何となくだが、俺は事態が読めてきた。

全て勘違いによって引き起こされた偶然の會話なのだということを。

ここは素直にそのことを告げるべきだろうか。

それともごまかして、知っていた風を裝うのが良いだろうか。

前者はローリスク、ローリターン、後者はハイリスク、ハイリターンというラインナップ。

もちろんその対象はミリルの俺への評価である。

まあミリルに嫌われようとも好かれようとも、俺には正直そこまで考えることではないのだが。

「すまん、俺は勘違いをしていたようだ」

噓をつくのが面倒くさかった。

ミリルは一瞬ポカンとするが、すぐに合點が言ったように頷いてみせる。

理解が早くて助かるよ。

じゃあ話を戻そうか。

「それにしてもよく気が付いたな」

今もなお俺の前方には挙不審のフード男がいる。

しかしただ怪しい、それだけだ。それ以上の報は視認する限りではってこない。

試しに鑑定をかけてみた。

いつものように出てくるステータス。

名前 オルグ・ファルスト

スキル 察知 怪力 剣 威圧 不明

しかしその行は軽率だった。

「……っ!」

ゾクリと背筋を走る悪寒。

思わず息を呑んだ。

間違いなくあの男から放たれる何かが俺の本能を刺激した。

殺気をじる、なんて漫畫の世界の話だけだと思ってたが、まさかを持って味わうことになるとは。

「ミリル俺の後ろにいろ」

ボソリと小さめの聲でミリルに指示を出す。

あれはとうてい一般市民といえるような男ではない。

ステータスだけで分かるものはスキルが々だが、そのスキルも並みの市民が持っているようなスキルとは言いがたい。

加えて大將と同じ不明という文字。未だそれが何を意味するのか分からないが、只者ではないことは間違いなかった。

そのフードの男が振り返る。

また走る悪寒。

その圧倒的な圧力に乾いた笑みが出てしまう。

「は、はは」

まさかこんな化けと早々に出くわすなんてな。

何も怖いというわけではない、むしろ楽しいというような高揚に近かった。

だが本能は正直だ。

奴は危険だと、これ以上近づいてはならない、関わってはいけないと警鐘を鳴らしていた。

こんな覚は、勇者であるあいつらにさえじたことはない。相當の実力者かただの思い過ごしか。

もちろん思い過ごしであるほうがの安全的には良い。でも思い過ごしだったとしたら、俺の本能センサーがかなり狂っていたという証明になってしまうので、それはそれで困る。

ただどちらにしても、俺の気持ちは二つ。

としての本能は恐れをじ、しかし俺という人格を形する理は期待を抱いている。

そこから分かるように俺のセンサーが狂っているのは、まだ証明し切れていない本能ではなく、こんな狀況に置かれながらも楽しみをじている理の方だった。

自分の異常を改めてじながら俺は笑みを浮かび続けた。

するとあの男が口を開く。

「何故笑う?」

それは低く、そして臓に響くような重い聲音だった。

「笑う理由は一つだけじゃないか?」

質問に質問で返す。

我ながらとんだ失禮な奴である。

あれほど恐ろしくじる奴にそんな態度で挑むなんての程知らずといってもよい。

しかしそれが楽しかった。

「諦め、か?」

男の言葉は予想外の言葉だった。

確かに絶した時、無力に苛まれたとき、乾いた笑みがれることはある。

だが普通、先に思いつくのは笑い=楽しいというではないか。

俺はしばらく無言で考えた。

何故、あの男がそんなことを言ったのか考えるためだ。

「やはりそうか」

すると男がそんな事を言った。

その聲音は詰まらなさそうなそんな聲。先ほどの相手を威圧するような重さはじない。

こいつ、ガッカリしているのか?

「違う」

俺はそう口にする。

もしかすると、あいつは今までこうして自分の目の前で笑みを浮かべる奴を多く見てきたのだろう。そしてその者たちは決まって諦観していた、そう予想できる。

「なに?」

その予想が當てはまるかのように男がし高く上がった聲を発してきた。

先ほどの威圧する聲、失意に満ちた聲音とも違う。

驚き、ただ純粋にそう思った聲だった。

「楽しい、笑うのはそういう時だろ」

「楽しい……か、確かにそうだ」

男は小さくそう呟くと、顔を上げる。

フードで目元までは見えないが、口元には笑みが浮かんでいた。

「可笑しな奴だ」

「それはこっちのセリフだよ」

そもそも不審な行をしていたから鑑定をしたんだ。

おかしいのは明らかにそっちである。

しかし次の瞬間フッと笑みが消えた。

それと同時に消えつつあった威圧が戻ってくる。

「しかし殘念だ」

本當なら軽口を飛ばしているところだが、今は何もいえなかった。

それほどまでにプレッシャーが凄かった。

「私のステータスを覗き見さえしなければ平穏に済んだはずなのだがな」

「察知……」

俺は思いあたるあいつのスキルを口にした。

一時の間、俺が言い當てたことに驚いたのだろうか。

すると再びあいつの口元に笑みが浮かんだ。

「ふ、やはり惜しい」

そう言いつつも、変わらず圧力は放ち続ける男。

これは本格的にヤバイかもしれない。

「やはり笑うのだな」

なんて思っていても俺の口元には笑みが浮かんでいたらしい。

男からそう指摘されるまで気が付かなかった。

「楽しいからか?」

「……どうだろう」

自分の気持ちが分からない。

確かに恐怖心はじているのだ。でもどこかで、この迫を楽しんでいるのかもしれない。

「敬意を表し、一撃で終わらせてやる」

その一言。

死。

本能、理がそうんでいた。

「くっ……!」

俺はミリルを押し、死に狂いで屈む。

パサリと舞い落ちるフード。

わずかに遅れたフードだけが首元から両斷されていた。

あのわずかな時間の差で生と死が分けられていたのだ。

その事実にゾクリとする。

いつの間にか目の前にいる男。

それだけでも十分に得たいの知れない速度だ。

俺はその男を見上げる。

その男は俺の顔を見て、口元に笑みを浮かべながら呟いた。

「ほお、同族だったか」

と、白々しいほどの言葉を。

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