《負け組だった俺と制限されたチートスキル》第二十一話 の青年
あの様子は絶対に俺の元を知っていた。
知った上であのような試す行に出たのだ。
その証拠に、さっきまであの男の手には剣が握られていたというのに、もう腰に納まっている。
それは初めから追撃する気が無かったということになる。
過剰な無茶振り。
普通なら腹立たしさが渦巻いただろう。しかし今はそんなよりも安心が優位だった。
本當に殺されなくて良かったと、そう素直にホッとしたのだ。
後はそう、同族という言葉。
確かにこの男は俺に対してそう言った。
つまりそれは俺とこの男には何らかの繋がりがあるということになる。
やはりミリルの言っていたことは間違っていなかったのだ。
男はフードがフードに手をかけ、顔をわにした。
「赤い……瞳」
ミリルと同じような真紅の瞳。
間違いなく、それは魔のあの目だ。
まさしく同族といえるだろう。
「人生とは分からぬものだ、だが生憎と今は時間がない」
男が一つそう口にした。
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しかしその言葉には今までとは違って分かりやすくが乗せられていた。
楽しい、という。それと惜しい、というだ。
「近いうちにまたまみえよう、同胞よ」
そう言って男は瞬間的に消えた。
比喩でもなんでもない、目の前から突如消えたのだ。
――一なんだったんだ……
しばらくその現実をけ止められず放心する俺。
するとミリルに裾を引っ張られた。
「早く……」
そうミリルは口にする。
「……! そうだな」
俺は気が付いた。
自分の顔を覆っていたフードを切り落とされていたことに。今、俺は顔を世間に曬したままなのだ。
慌ててミリルを連れ路地にる。
「助かった」
俺は素直にミリルに謝言葉を述べ、それに答えるかのように頷くミリル。
困ったな、フードが無ければ表を歩けない。
表が歩けなければ當然買いも出來ないし、泊まる場所も探せない。
參った、次から次へと問題が舞い降りてきて対応しきれない。
まあ何もないよりはマシなんだけど、こうも一遍に來るのは疲れる。それにここでイベントが起きすぎて、後々、平穏な毎日が來るのもそれはそれで詰まらないし。
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「どうしようか」
打つ手がない。
この里にコネがあるのなら話は別だが、俺はまずありえないし、ミリルもこの様子じゃなさそうだ。
全てはこの瞳と、フードを切ったあの男のせいだ。
愚癡を言いたい気持ちが高まっている頃、俺達の背後から聲が飛んできた。
「ん? どうしたの?」
振り返ると、そこにいたのは輝くような金髪にそれに負けないような黃金の瞳を持つ好青年だった。
そんな青年がこんな路地にいるのが何だか不自然に思えるほど、彼は輝いて見えた。まるでオーラが見えるように。
「……何とも思わないのか?」
恐る恐る聞く。
この距離なら俺の髪も瞳も見えているはず。
それを分かった上で俺は聞いた。
「え?」
青年は首を傾げて聞き返す。
その顔は何かを隠しているようには見えない。
本當に何とも思っていないというのか。
「いや、なんでもない」
「そう? ならいいんだけど」
俺の言葉にも青年は嫌な顔一つしない。
善説なんていわれるものを信じるのであれば、この青年は真っ先にそれに當てはまるんだろうな。
そう思うほど彼は善人に見えた。しかしそれと同時に、どこかで彼を遠ざけたいと思う自分がいることに気づく。
もしかして、俺は自分のしてきたことに対して後ろめたさをじているというのだろうか。
もしそうだとするなら、俺は何てけないのだろう。
自分でこの道を選んでおきながら、未だに明るい未來をんでいるということになるだから。
俺は首を振ってその考えを脳の奧底に追いやった。
今はでいている場合ではない。
合理的にく事が大事なのだ。
そこでふと気づいた。ミリルの俺の裾を摑む力を強めてきたことに。
それは明らかにおかしな態度、俺は小さな聲で尋ねる。
「どうした?」
ミリルは首を振るばかりで何も言わない。
「知り合いか?」
そう聞いてもミリルは首を振る。
良く分からないが、彼も俺と似たようなを抱いてしまったのだろうか。
暗い復讐の道にってしまったが故に、明るい栄の道が眩しすぎる。そうじてもおかしくない。しかしそれではミリルもどこかで手を汚していたことになるのだが……まあそれは後々聞けばいいか。
俺はとりあえずそんなミリルの頭に手を置き、落ち著かせた。
そして顔は目の前の青年と會話をするために上げる。
「し困っていてな」
「やっぱりそうなんだ、良かったら力になるよ」
人當たりの良い笑顔でそう告げてくる青年。
やはり眩しいとじてしまう。
「あ、ああ助かる」
きっと俺の顔は引き攣っていることだろう。こうも真正面から好意を向けられるのは慣れていない。今も昔も。
「それで何に困っているのかな?」
その質問に俺は口ごもった。
この青年の態度を見ていると、もしかすると思いのほかこの瞳が差別されていないのではないか、それかなくともこの里ではそんな差別はないのかもしれない。そう思ってしまったからだ。
もしそうならこうしてコソコソと青年にお願いなんてせずに、堂々と表を歩けるのだから。
俺は思案した末にこう口にした。
「……この瞳についてどう思う?」
これならもし差別なんかが無くたって、珍しい瞳を見せびらかした、と思われるだけで済むと考えたからである。
「瞳? あ……なるほど」
青年の反応は予想外のものだった。
俺の瞳を見るなり、急に表を暗くしたのだ。
まるで今初めて、俺が赤い瞳であることを知ったかのように。
しかしこれで分かった。
この世界には確かに赤い瞳に対して差別があることが。
「ごめんね、自分で言い出させるような真似をしちゃって」
「え、あ、あぁ」
またしても予想から離れた答え。
まさかここで謝られるなんて思っていなかった。
調子が狂う。
「お詫びになるか分からないけど、これ」
突然差し出された手には、一つの輝く石だった。
「これは?」
綺麗な石であることは間違いないが、もし何の価値もないのであれば、不要なのも間違いない。
「僕の力を封じた石なんだ、君の助けになると思う」
力、そう聞いた俺はもはや習慣のように青年に鑑定をかける。が、ここでも予想外のことが起こった。
名前 アルト・リュースト
スキル 不明
スキルが何一つ読み取れない。
今まで一部が不明になることはあったが、全てが見えないことなんてなかった。
その事実に猜疑心が芽生えだす。
この青年は本當に善意だけで俺をったのか。
この笑顔の裏に何か別のがあるのでは、と勘ぐってしまう。
そんな事を考えてしまったせいか、青年、もといアルトから聲がかかった。
思考が顔に出てしまっていたのかもしれない。
「どうしたの?」
ただ純粋に心配している顔。そこからは裏は見えない。
なら、
「い、いや、この石が何の役に立つのかと思って」
出來るだけ不自然にならないように會話を続ける。
それこそが対象の正を推し量る唯一の手段なのだ。
「そうだなぁ……魔に襲われた時とか」
「魔?」
えらく的な例えだ。
俺としてはお守りのような象的な効果を言ってくるとばかり思っていた。
「そう、あの……」
すると急に口ごもるアルト。
何事かと思ったが、次の言葉でそれが分かった。
「君たち、と同じ赤い瞳の……」
この青年はそれを気にしていたのだ。
魔とは忌み嫌われる存在であり、それと同じ瞳を持つ俺に対して気遣った、そういうことだ。
「もう慣れている、気にしなくて良い」
実際そう言われるだけなら気にも留めないし、申し訳なさそうにしている時點で、俺には不快になる要素はない。
「ありがとう」
「気にしなくていいって」
やはりこういった會話には慣れていない。
謝される時は、決まって相手方に悪意が満ちていた場合だけだったのだから。
本來は好意を伝えるこっちの使い方が正しいんだけどな。
「それで、魔に襲われた時っていうのはどういうことだ?」
このまま居心地の悪い會話を切り、話を戻す。
「うん、それは僕の力の一つなんだ、詳しいことは言えないけど、君に害を與えるようなものじゃないから、安心してもらってしい」
「そうか」
噓はついていなかった。
なら有難くもらっておこう。
「他に何か困っていることはない?」
青年から聲が飛ぶ。
その申し出は有難いのだが、やはり裏があるのではないかと不安になる。
なので思い切って聞いてみた。
「どうしてそんなに親切にしてくれるんだ?」
ポカンとするアルト。
彼にとってみれば當たり前のことだったのかもしれない。
「僕は人を救うために戦っているんだ」
「戦い?」
突然話が跳躍したので、思わず聞き返す。
親切から救うための戦いとは、どう繋がったらそうなる。
するとアルトはハッとした顔で口を開いた。
「あ、ごめん、変な事言ったね」
「何かの例えか?」
戦い=戦闘とは限らない。
俺達に対しての慈善活だって、それを嫌う世間と戦っているといえる。
「あー……そんなところかな」
ハハハと苦笑いを浮かべるアルト。
明らかにごまかしているような気がするが、俺の真偽スキルが働かないので噓ではないのかもしれない。分からない。
とりあえずそれを掘り下げても何もないことだけは分かった。
そういえばまだ何に困っているか言っていなかった。
「頼みがあるんだけど」
俺がそういうと、アルトが戻った笑みで答える。
「何かな?」
「俺達でも泊まれる場所とか知らないか?」
「そうだなぁ……」
即答で無理、と言われることも覚悟していたが、思いのほか心當たりでもあるのかアルトは考え込んでいた。
そして顔を上げて言う。
「なら僕の泊まっている場所に來ると良いよ」
彼からの提案は有難い。
確かに見ず知らずの場所よりは、彼のお墨付きで、かつ彼のいる場所となると安心が倍以上だ。
「大丈夫なのか?」
「え? ああ大丈夫、何しろ僕しか泊まっていないからね」
言っている意味が分からなかった。
もしかして彼は大金持ちで宿を丸々貸切なんてことをしているのだろうか。
何はともあれ、彼の提案に乗る以外俺達には選択肢がないわけで、
「分かった、頼む」
けるしかなかった。
「ああ、よろしく」
俺は彼と握手をわし、その宿へと向うことになった。
その善意を信じることしか道はないのだから。
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