《負け組だった俺と制限されたチートスキル》第二十二話 努力は裏切らない
「ここだよ」
彼に案されたのはやはり大きな宿屋だ。
それにり口付近には警備のためか、二人の男が立っている。
それを見て、思わず聞いてしまった。
「一何者なんだ?」
「あー、それは……」
ポリポリと頬を掻いて、苦笑いを浮かべるアルト。
どうやらあまり言いたくないことらしい。
今のところ予想としては、商人の家柄とか、どこかの貴族だとか、そんなじの予想をしている。もしかすると王族なんてこともあるかもしれないが、それは可能としては低いだろうな。
すると俺のその予想を促進させるかのような発言を、見張りの男達が口にした。
「お帰りなさいアルト様」
ただここまでは宿側が客に対して行う接客と思えばまだ分かる。
「ああご苦労様、連れがいるんだけど良いかな?」
「心のままに」
そのやり取りを見て唖然とするしかない。
俺とそんなに変わらない歳に見える青年が、大の大人からああも敬われた態度をされているのだ。これは貴族や王族である線が強まったぞ。
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「相変わらず堅苦しいなぁ」
不満げにそう言いながらアルトがこちらに歩いてきた。
何だかあれを見てしまったら今までの不躾な態度を取ってきたことに対してけなくなる。
「あ、敬語はやめてよ」
俺の背筋がしだけびたのを確認したのか、笑いながらアルトが言ってくる。
危ない、敬語で話そうとしていた。
「本當にお偉いさんなんだな」
「あれは大げさなだけなんだけどね」
苦笑しながら警備の男達を見る。
それが謙遜なのか事実なのかは分からないが、俺はとんでもない人と知り合えたという事実は変わらなさそうだ。
「じゃあ行こうか」
アルトがそう言って宿へと向かおうとすると、再びこちらをアルトが向いていった。
「そうだ名前教えてなかったよね、僕はアルト、よろしく」
握手を求めてくるアルト。
名乗られてしまったのなら、こちらも名乗らないわけにもいかない。
「俺はコウスケで、こっちはミリルだ」
不機嫌なミリルを前に出して紹介する。
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道中からずっとこんな調子で俯いたままだ。
「よろしくコウスケ君、ミリルちゃん」
アルトの爽やかな笑みをけながら俺達は宿へとった。
広い、真っ先にじたことはそれだ。
間違いなく日本での俺の家より広い。
加えて吹き抜けとなっているため、開放が増していた。
「部屋は二階にあるから」
アルトの言葉をけて、二階を見ると數多くの部屋が並んでいるのが見える。
あの中からどれでも選んでいいというのか。
この辺りの領主様の家系なのかもしれない。
そう思えるほどにこの建は凄かった。
「どの部屋も好きに使っていいよ」
「マジか」
太っ腹とはまさにこのことである。
俺とミリルは早速二階へ上がり、部屋を選ぶ。
俺は一番階段に近い部屋の前に立つ。自由に選べと言われても返って選びにくくじ、一番近い部屋を選んだという至極簡単な理由ではあるが。
「……おい」
「……?」
ミリルが俺の後ろにいた。
まさか同じ部屋にするだなんて言わないだろうな。そう思い聲をかけるも、キョトンと首を傾げて俺を見るばかり。都合の良い格だな、全く。
「部屋はどこにするんだ?」
俺がそう尋ねようものなら、ミリルは俺の目の前にある扉を指差した。もちろんそこは俺が泊まろうと思っていた部屋である。
「なら俺はこっちだな」
俺はすぐにその部屋の前から移して、その隣の部屋の前に立つ。
ミリルがついてきた。
「……どこの部屋にするんだ?」
もう一度尋ねた。
案の定俺の目の前の扉を指差す。
「同じ部屋がいいのか?」
呆れた口調でそう聞くと、ミリルは強く頷く。
いや、嬉しくなくはないんだが……し窮屈にじるというか、何と言うか。
俺がミリルの態度に苦戦していると、橫から笑い聲が飛んできた。
「ははは、君達兄妹は仲が良いんだね」
「きょう、だい?」
「あれ? 違った?」
確かに赤い瞳という共通の特徴は持っているが、顔つきも髪も結構違う。
これを兄妹と言い張るのは々無理があるくらいには。
「い、いや、兄妹だ、良く分かったな」
しかし兄妹じゃないならないで、何で一緒に行しているのか、と問われてしまうのも面倒だ。
そのため俺は彼に対してはそういう認識をしてもらうことにする。
「あー確かにし似てないかも」
ドキリとさせられる発言。
「でも仲が良いのは見てて分かるし、それなら兄妹かなって思ったんだ」
「なるほどな」
適當に相槌を打ち、やり過ごす。
アルトは何だか微笑ましいものを見ているような表だ。
もしかしなくても、俺達の様子を見ての反応だろう。
「でも何だか、ミリルちゃんには嫌われちゃったみたいだけど……」
苦笑いを浮かべて頭を掻くアルト。
やっぱり気が付いていたようだ。
「まあ人見知りなんだ、許してやってくれ」
これまた適當な言い訳を告げる。
間違っていないはずなので、これで良い筈だ。
と思っていたのだが、ミリルに背中を叩かれた。
「なんだ?」
そりゃあもちろん振り返る。
しかしミリルはそっぽを向いた。
これは本當に様子がおかしいぞ。
「ありゃ、コウスケ君も嫌われちゃったね」
アルトからそう指摘をけ、俺は苦笑いを返した。
もちろん向こうが冗談で言っているのは分かっていたので、そう重くはけ止めていない。
だけどあのミリルがこんな反応をしているのには、正直気になっていた。
「じゃあ、後は兄妹水らずに楽しんでね」
勝手にそんなことを言ってアルトは去っていった。
その言いでは、俺とミリルが同じ部屋に泊まることを了承しているみたいな言い方ではないか。
直後、ぐいっとミリルに引っ張られ、仕方なくその部屋へとった。
「で? どうした?」
部屋にるなり、俺はベットに座り込んでミリルに尋ねた。
流石に様子がおかしいのだ。
しかしミリルは首を振って呟く。
「わからない」
本人に分からないなら、俺が分かるわけもない。
まあ俺もアルトに対して、しだけ引け目をじてしまっているが、表に出てしまうほどではない。それにミリルが彼に対して引け目をじる要素はあるのかどうかも微妙な話だ。
じゃあ理由は何だ? 生理的に無理という奴なのか?
考えれば考えるほど、というのは分からない。
「まあ良いか、じゃあ俺の部屋に來たがったのもそれが理由なんだな」
「……うん」
若干の間が気になったが、ミリルがそういうことだし気にしないでおこう。
確かに信頼ならない男の家に一人でいるのはし怖いかもしれない。ならしは信頼があるであろう俺の部屋に來るという選択を取ることは分からないでもないしな。
ただまあ、俺に有無を言わせないその姿勢は不満に思うところだが。
俺がそんな事を考えているうちに、見るの首がコクンコクンと上下しているのが見えた。
人がせっかく気を使っていたというのに、彼は眠気と戦っていた。全く呑気なものだ。
「眠たいなら寢ておけ」
「……うん」
幸いベットは二つあったので、ミリルは俺が座っていないベットへを沈ませた。
相當眠かったらしい、まあゆっくり休む機會なんて無かったのだから、しょうがないか。
俺はあまり眠気がなかったので、今日あった出來事で一つ気になった事を考える事にした。
それは、やはり今日を振り返るとならば、挙げないわけにもいかないのが、あの謎の男の事だ。
忽然と姿を消した事もそうだが、剣筋が全く見えなかったこと、そしてあの威圧、どれをとっても底が知れない。
不気味とじないわけが無かった。
ではあの威圧の正はなんだったのか。
恐らくは奴のスキルにあった威圧というスキルによるものだろう。一見するとただスキルの効果を使って俺を威圧している、そう思うだろうが、実際この世界で地獄を見たから言える。それは違うと。
スキルとは何か、この世界に來て初めのころはそれこそ、その人に宿っている特異能力だと思っていた。
しかしよくよく考えるとおかしい點が多くあるのだ。
確かに中には特異能力としか言えないスキルもある。
それは俺の技能創造を初めとして、勇者スキルもそれに當たるだろう。
だが、調剤、聞耳、隠、調合というスキルはどうだろうか。
確かに特異能力に見えるかもしれない、だがこういったスキル、もとい技を持っていた人は地球にもいたではないか。
俺が技能創造なんていうチートなスキルを持っていたが故に、そんな思い込みをしていたのだ。
突然全く知らない技、技能が使えるようになる、それが俺の力だ。そしてそれこそ特異能力でこれは神のスキルと言っていた。
これが勘違いの原因だ。神のスキルを人間のスキルと同一視していたのだ。
しかしあるとき思い出した。
この世界の誰も俺のスキル、技能創造スキルメーカーを持っていないということを。
ならどうやってこの世界の人々はスキルを獲得するのか。
そう疑問に思わないわけがなかった。
だがそれに答えてくれる者など、どこにもいなかったため、俺はある推測をたてた。
一つは才能。
生まれた時から、もしくは育つにつれて開花した才能がステータスのスキルに現れるのではないかという確信めいた予測。
これについては勇者、山中大將のスキルを見て確信していた。
そもそも俺はこの世界に來たとき初めから持っていたスキルなど一つもなかった、というのにあいつはもう既にいくつか持っていたのだ。
詳しくは覚えていないが、確か勇者スキルを合わせると三つ以上あった気がする。
この世界に來てそれらのスキルが開花したか、はたまたあの世界にいるときから持っていたのか。
それはもう永遠に分からないことだが、しかしこれらのことを照らし合わせると可能が低くないことが分かる。
では次に、二つ目の推測。
それは努力。
これについては想像に難くないだろう。
努力をして技をにつけるというのは、ステータスがなかった地球でも行われていたことだ。
それがこの世界ではステータスにスキルという形で現れるのでは、という推測だ。
どちらも俺の予想では的を外していないのではないか、そう思っていた。
後もう一つの仮説とも言えるものもあるが、それは俺や勇者達のような例外にしか適用されないもの。つまりこればかりは推測のしようがない。
しかしこれだけは確かだ。
そんな他人の才能、又は努力の賜であるスキルを俺は簡単に摘み取れるというこという事実だけは揺るがない。
流石は神のスキル、最高の力である。
きっと善人ぶった奴なら、こんなスキルを使う事すら止めてくるだろう。
人の努力を何だと思っているんだ、と。
だがそれのどこが悪いというのだ。
才能のある天才たちは、生まれながらにその能力を宿しているというのに、何も持っていない俺のような凡人は何かを得てはいけないというのか。
何はともあれあの男のスキル威圧は、才能か努力、どちらかによってについたもの。
今まで戦闘に生かせるようなスキルを持っていた者とは出會っていなかったから、俺はそのスキルというものの、本來の恐ろしさを分かっていなかったのかもしれない。
スキルという名で表わされた、その人本人の実力であると、改めて気づかされたのだ。
これからは努力も視野にれておこう、なんて言葉だけの事を思ってみる。
努力だけでは天才には勝てないということを痛いほど知っているのだから。
「あ、まだ起きてたんだ」
考えが一區切りした頃、アルトが現れた。
確かに考えに耽りすぎて時間を忘れてしまっていたかもしれない。
「まあ、し考え事をな」
「そっか」
アルトは俺の橫、ミリルの方をチラリと見てから、再び俺に顔を移し微笑んだ。
「それで? 何か用か?」
「ううん、特には。強いて言うなら見回りかな」
「なるほど、勤勉な事で」
俺には到底出來ない真似だ。
「あはは、それほどでもないよ」
そう笑顔で告げるアルト。
太のように暖かいその笑みは俺には眩しすぎる。
「じゃあおやすみ」
「ああ」
笑顔のまま去っていくアルト。
――その純粋な笑顔がアルトから俺に向けられる最後の笑顔だとは今はまだ思いもしなかった。
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