《負け組だった俺と制限されたチートスキル》第二十七話 殺すための剣
黒と金。
漆黒と黃金。
暗と明。
相容れることのない二つ。
それが俺とアルトだ。
俺は勇者になれなかった復讐者。
あいつはなるべくしてなった勇者。
そもそもスタートが違う。
そんな俺たちが道をえるわけがないのだ。
復讐の道と栄の道は決してじらない。
走り出す。
もちろんアルトの実力は痛いほど知っていた。
今の俺では勝てない事も。
それでも走る。
あいつはきっとこの先ずっと俺の邪魔をしてくる、そんな予がしていたから。
ここで決著をつけなければならないという使命によって。
「アルトおおおおお!」
「コウスケええええ!」
そうして二つの剣がぶつかったその瞬間――
「なっ――!」
「えっ――!」
まるで同じ極の磁石の時に起こるような、強い反発が腕を襲ったのだ。
當然その衝撃に耐えられるわけもなく、俺は弾き飛ばされた。
「痛っ……一何だ?」
起き上がってアルトの方を見ると、彼も俺と同様に困した表で勢を戻しているところだった。
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つまりこの現象は彼が引き起こしたものではないということだ。もし自分で引き起こしたのであれば、あんな無様な格好になるわけがない。
そこで俺はもう一つの可能である、あの男の方を見た。
奴は両手を挙げ自分ではないとアピールをする。そんな態度ならまあそうなのだろう。だけど一つだけ言いたい。
……あいつ、何もしない気だろ。
呆れた顔であの男を見る。
この狀況であの男の協力が得られればどれだけ楽に事が運ぶことか。
ないものねだりをしていても何もないのだが、それでもその場にいるのであればしくらい手伝ってしいというのが本音だ。
そんな事を考えているとアルトの方から聲がかかった。
「……どうやら君のその剣は魔剣みたいだね」
魔剣か、確かにそういわれればしっくりくる。
なるほど、俺は良い掘り出しを手にれたようだ。
「ならお前のその剣は聖剣といったところか?」
「もちろんそうさ」
當たり前であるかのようにアルトは肯定した。
そりゃあ勇者が持っている剣といえば聖剣だろうよ。もし別の名稱の可能もあるけどな。
當てずっぽうに言ったのだが、當たって良かった。
「どうする? 魔剣と聖剣じゃ決著はつけられないみたいだけど」
「剣をぶつけなければ良いことだ」
「簡単に言ってくれるね」
アルトは呆れ笑いを浮かべてそう言った。
確かに自分で言っててなんて無謀なんだろうとは思っている。
剣同士の戦いの中で、一度も剣をえないというのはあまりに異様な戦いだ。
全て避けるのであればいい。
だがそんなことが出來るのは、恐らくこの場ではアルトとあの男だ。
生憎と俺にはそんな蕓當は出來ない。
だがそれだからこそこの狀況は好機でもあった。
速度も力もアルトの方が上なのは見れば分かる。
そもそも真っ向勝負では勝てるわけが無かったのだ。
だが真っ向から打ち合う理由が消えた。この剣のおで。
「はあ!」
アルトの方から仕掛けてきた。
やはりその速度は尋常ではなく、気が付けば目と鼻の先にまで接近している。
俺はギリギリで剣を突き出した。
アルトに當たれば儲け、剣に當たればまた反が起こって振り出しに戻る。
「っく!」
しかしそのどちらも起こらない。
アルトが強引に勢を曲げ、俺の剣を避けたのだ。
目の前に迫るアルトの拳。
念には念ということなのか、それとも慈悲か、もしくはそのどちらでもない別の理由なのか。
ともかく俺の顔面にアルトの拳がった。
「がはっ!」
遠く離れた家の壁まで吹き飛ばされる。
そのまま勢を整えることも出來ず、壁に激突した。
「はぁはぁ」
俺はユラユラ揺れる視界をじながら、ゆっくりと立ち上がった。
人一人を吹き飛ばせる程のエネルギーを持った拳を顔面にけたのだ。
痛いに決まっている。
きっと鼻骨も折れただろう。
幸い眼球は潰れていないのだけが救いだ。
「何で……何で君はまだ立つんだ!」
はは、それじゃあ今の一撃で俺が沈むと思っていたかの言い草だ。
俺がこの程度の痛みで、傷で歩みを止めるわけがないのに。
「理由はさっきも言っただろ」
しゃべると口の中が切れているためか、とても痛い。
だが強がりもあって、俺は臆せずそう言い放った。
「それでも……この狀況で」
勝てもしない勝負に挑むのか。
アルトはきっとそう言いたかったんだろう。
勝てない相手に諦めず立ち向かう男。
文面だけ見れば、何だか俺、マンガの主人公みたいだな。
立場で臺無しだけど。
心ではこんなじで空笑いを出せるほどまだ余裕だ。
「俺を止めるなら殺すしかないぞ?」
一杯の笑みを浮かべてアルトを挑発する。
苦々しい顔で俺を見るアルト。
やはりそうか。
お前は俺を殺せない。
それどころか、他人を自分ののままに殺した事すらない。
「コウスケ、どうして君は……」
「言っただろ、俺は復讐のために、殺すために剣を振るうって」
「そんなの……」
理由になっていない、とでも言いたいのか。
確かに、守るだなんて尊い目的のために剣を振るっているお前には分からないだろうな。
他人のための剣と、自分のための剣じゃあ重さが違いすぎる。そう言いたいんだろ?
「お前には永遠に分からないだろうよ」
「……分かりたくもないよ」
まるでこちらが優位に立っているかのような問答だった。
俺は余裕の笑みを、アルトは苦しそうに顔を顰めている。
だが現実は逆なのだが。
しかし痛いな、顔が。
いろんな所から出しているし、顔をろうとも思えないくらい痛い。
きっと今ったらで手が汚れそうだな。
とまあどうでもいいことは今はおいといて、
あれをどうするかだ。
本當はアルトと戦う理由なんてないことは俺でも分かっている。
俺が引けばここは丸く収まる事も。
だがそれでどうなる?
ここでカインを逃せば、奴は小癪な手でも何でも使って逃げるだろう。
もしかするとアルトが匿う可能だってある。
ならばここで復讐を辭めるか?
それはありえない。
俺が今生きているのは復讐のためだけ。
俺にはもう何もないのだ。
帰る場所も、守りたい人も。
「どけよ」
アルトに最後通告を告げる。
これ以上どかないというのなら俺は……
「嫌だ」
やっぱりどかないか。
もう正當な方法でやる意味はないよな。
俺はアルトに向けて走った。
ただ走っただけ。
剣を投げるとかいうようなは何もしていない。
「何の、つもりだっ!」
アルトはそんな俺を迎え撃とうと拳を握り締める。
やっぱり剣は使わないよな。
口の端がつりあがるのをじながら俺は走り続ける。
そして目の前に再びアルトの拳が見えた。
この狀況下で避けられるものなど、この世のどこにもいないだろう。
――だが、それでいい。
「同化」
ゴンッ、と鈍い音が頭蓋骨に響いたと同時にそう一つ呟いた。
「なっ!?」
さっきと同じように毆られた衝撃で弾き飛ばされる俺の耳に、困するアルトの聲がちゃんと聞こえていた。
「は、ははは」
心の奧底からこみ上げてくるどす黒い笑いが溢れ出す。
「何を、一何をした、コウスケ!」
自分の手を押さえながらアルトは俺を睨みつける。
俺は顔を上げた。
「っ! その顔」
アルトは気が付いたようだ。
自分が今毆ったはずの男の顔が、毆る前より綺麗になっていることに。
対して毆った自分の拳のが抉れていることに。
それもこれも魔が持つ、同化スキルの果だ。
困するアルトを置き、「ほお」と呟く聲が聞こえた。
あの魔人族の男だ。
奴にはこの現象が分かっているらしい。
流石は魔・人というべきか。
「どいてくれる気になったか?」
「……嫌だ」
「強だな」
言葉ではもうどうにもならないことはこれで分かった。
ではもう問わない。
俺の全全霊をかけてお前を殺すしか方法はない。
そんな事を考えていたからか。
俺は気が付かなかった。
いつの間にかカインが俺の背後に回っていたことを。
「死ねえええ! コウスケ!」
カインの手には小さなナイフ。
「なっ!」
「待てっ!」
アルトの制止の聲が放たれる。
だがそれはいくら勇者であってもただの言葉だ。
カインの行を止めるには足りない。
そしてカインのナイフが俺の首元に突き刺さった。
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