《負け組だった俺と制限されたチートスキル》第二十八話 困ったときの神頼み

「ぐあっ!」

首から出るおびただしい量の出

しかも、これは……

「く、そ」

かない。

首付近を刺されるだけでも重癥だというのに、この男は加えて毒まで塗ってやがった。

「……カイン!」

呂律が回らない。

に力がらない。

俺は膝から崩れ落ち、その場に倒れこんだ。

「はははははは! 俺に逆らうからそうなるんだ」

耳障りな笑い聲が聞こえてくる。

この、野郎。

「……何をしているんだ?」

遠くでアルトの聲が聞こえた。

顔を上げる力も殘っていないため、表は分からない。だがその聲音は震えていた。それが喜びによってか、恐怖か、怒りによるものかは定かではない。

「勇者様も人が悪いなぁ、無害そうな顔をしておきながら裏では俺たちを監視してたなんてよぉ」

こいつは何を言っている?

自分達が悪事を働いていたから、アルトに目を向けられたんだろ。

なのにこいつはまるでアルトが悪いかのように言っているんだ?

今すぐにこの愚かな男を殺したい。

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しかし今そう思うのは贅沢。

今は命を繋ぐだけで一杯なのだから。

意識が薄れていく。

によるものか毒によるものか、どちらにせよ、明確に死の足音が近づいてきている事は確かだった。

こうも早く死をじるとは、あの施設を出た頃は思っても見なかった。

天狗になってたことは認めよう。

だけど、こんな所で死ぬわけには……いかないんだよ!

「今すぐ彼から離れろ」

アルトの聲が聞こえる。

その聲を向けているのはカインだろうか。

だがカインに向けられた言葉だとしたら、それはありえない提案だ。

「嫌だ、といったら?」

予想通りカインは肯定しなかった。

そればかりかあの勇者を挑発している。気でも狂ったのではなかろうか。

「その時は力ずくでやる」

慘めだった。

敵であるアルトに命を助けられようとしている事実が。

今すぐにでも立ち上がりたい。

立ち上がってあのクソ野郎を殺したい。

だが出來ない。

させてくれない。

このが。

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け。

け。

け。

指先さえもかせない。

その無力がただただ忌まわしい。

「はいはい、勇者様と戦いたくはありませんからね」

カインの聲が聞こえた。

そして足音が遠ざかる音も。

俺は本當にアルトに助けられたというのか。

けない。

俺はこの程度の場所で、足踏みをしなければならないのか。そして他人に手を貸して貰わなければ生きていけないのか。

いや、それは早すぎる。

復讐を誓ってまだ月日が立っていない。

なのにもう他人を頼るのか?

ありえない。

いくらなんでもけなさ過ぎる。

それに俺は自分の手で復讐を遂げると誓った。

俺の意志に関係なく、勝手に他人が俺の復讐相手を貶めても俺は何も嬉しくないのだ。

だからアルトの言うように、法で裁く、という選択肢は俺にはない。

もちろんそれを復讐の手段にする場合は別である。

例えば、冤罪を吹っかけるとかだ。

それで社會的に殺せるのであれば、俺が手を下した事になるのだから。

だから今は何としてでも立ち上がらなければならない。

毒にも、出にも耐え抜いて。

――技能創造。

【容量不足、スキル『耐毒』創造不可】

ダメか。

もしかしたらと思ったんだが。

だが出來ない原因は経験不足ではなく、容量不足。

つまり今の俺には耐毒の経験があるという事だ。

まああれだけ薬品を投與されたのだから、このには結構な耐が出來ているのだろう。

ただカインの毒を妨げるほどではなかったみたいだが。

手が盡きた。

技能創造が最後の手段だったのだ。

もう俺にこの狀況を打開する手はない。

「コウスケ!」

アルトの聲がいつの間にか近くになっていた。

カインが離れた代わりに來たのだろう。

そして相変わらず敵である俺を助けようとしていると。

辭めてくれ。

慘めになるだけなのだから。

そんな中、數人の足音が俺の下に駆け寄ってくるのが聞こえた。

アルトの仲間か? いや見たところそんな人たちはいなかったはず。

なら誰だ?

生憎と目も開けられないため、狀況がわからない。

その代わり、音は聞こえていたため、アルトが口にしたその言葉で狀況が分かった。

「何のつもりだ?」

「へへっ、勇者様はどのみち、俺たちを拘束するんだろ?」

「そうだ」

「ならここで口封じをしなければならねえ」

的な判斷だ。

だが、

「僕に勝てるとでも?」

そうだ、いくら數で勝っていようともアルトには勝てるわけがない。

それこそアルトと互角にやりあったあの男の力を借りない限りは。

それを俗にフラグと呼ぶのだろう。

「オレがいればどうだ?」

あの男がそう聲を発するのが聞こえた。

俺とアルトの戦いの時は、參戦してこなかったというのに、何故今になってってくるのか、甚だ疑問であり、しかもとてつもなく迷だ。

「何のつもりですか?」

「言葉の通りだが?」

その言葉から男が本気である事が分かる。

この後、波が起こる事は間違いない。

だが、

ダメだ……意識が薄れて――

俺のはこれ以上意識さえも保てないほど、ダメージを負っていた。

「その――に」

もう會話すらも聞こえない狀態だった。

だからもう俺には外の世界を知る手段は無くなったわけだ。

死にたくはない。

生命として當然の本能だ。

もう五が機能していない俺。

じるのは異常な寒気だけ、殘る意識は暗闇に取り殘され彷徨う。

冷えていくが、まるで命が段々と零れ落ちていっているようで、怖くじる。

もうこのままかなくなってしまうのではと。

死にたくない。

人生何度目の神への懇願だろうか。

神様がいると分かっても、他力本願に願った事はない。そもそも信仰すらしていないのだから、困ったときにだけ頼るなんてお門違いである。

それから數分もの間。

俺は意識のまどろみを彷徨っていると、途端にが見えた。

――何だ?

そのは溫かく、とても心地が良かった。

段々とそのが、俺の意識を閉じ込めている闇を明るく照らしていく。

そして俺の意識がに戻った。

「っ!」

覚醒した意識の中、反的にを起き上がらせようとする。

しかしまだ痺れはとれておらずけなかった。

だけど、何で意識が戻った?

ゆっくりと目を開き狀況を確認する。

俺の顔のすぐ傍に人がおり、真っ赤な何かが俺の顔を見ていた。

「……ミリル?」

まだに慣れておらず顔の郭がぼやけているが、恐らくはミリルだ。

何でミリルがここに……?

「っ! コウスケ!」

俺が言葉を発すると、ミリルが珍しく目を見開いて聲を上げた。

よく見てみると、ミリルが俺の首元に手を置いている。

そして先ほどじた溫もりはそこからじるものだった。

「……何をしているんだ?」

かないで、治しているから」

治している?

そうか、ミリルには確か治療スキルがあったっけ。

魅了スキルが衝撃過ぎて忘れていた。

「何でここにいるんだ?」

「騒がしかったから」

そうだよな。

あれだけ暴れたんだ、誰だって飛び起きるよな。

とりあえずミリルがここにいる理由は分かった。

なら後一つ、聞きたい事がある。

「今、どんな狀況だ?」

「狀況?」

首を傾げるミリル。

「他に人はいないのか?」

「みんな倒れてる」

倒れている。

つまり戦闘は終わったという事なのか?

でもそれなら何で俺は殺されるわけでもなく、放置されているんだ?

もしアルトが勝っていたら、俺を介抱しそうなものだ。

対してカインが勝っていたら間違いなく殺しているか、それに近いことになっているはず。

あの男については、良く分からないので今は言いとして、今の俺の狀況になる方程式がどこにも見當たらないのは、不気味だった。

「ちょっと待ってくれ、ここはどこだ?」

また目覚めたら研究施設とかだったら笑えない。

「里?」

首を傾げながらそう言うミリル。

そりゃあそうだろうが……まあいいか。

ここがあの里ならば、どこか別の場所に移させられたとかではないからだ。

「分かった、有難うな」

「うん」

々質問するのは、あまり狀況が分かっていなさそうなミリルにしては迷だろう。

だから俺は謝の言葉を告げて、質問をやめた。

それに謝しているのは本當だ。

あのまま治療をされていなければ、きっと俺は死んでいた。

あぁ、自分の力で復讐をやり遂げて、他人に救われる事の無いように、といっておきながら、ミリルに大きな借りが出來てしまった。

命を救ってもらうという大きな借りが。

「よし、ける」

手を握り締めたり、緩めたりして確認する。

大丈夫だ、の痺れは引いた。

俺はミリルに介抱されながらゆっくりと勢を起こした。

そこでようやく、現場の様子を見る事が出來る。

「これは……」

俺が起きた場所は、倒れた場所と変わっていないようだった。

だが、里の様子は変わり果てている。

あれだけ里に建っていた家で、無傷な家が何一つないのもそうだが、土は抉れ、數人の人が倒れている。

誰がどう見ても、何らかの襲撃にあった村の景である。

ならアルトとあの男はどうなったのだろうか。

カインはともかく、あの二人がこんな所で死ぬとは思えない。

だがその二人の影はどこにも見當たらない。それどころかこの里でいて生きている者など俺とミリルだけだった。

謎は殘るままだったが、今はを休める事が優先すべき事。

俺はミリルと共に、形が整っている家へゆっくりと向かった。

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