《負け組だった俺と制限されたチートスキル》第三十話 昨晩の件と報収集

目を覚ました。

どのくらい寢たのか、客観的に見てくれる人がいないし、時計もないので分からないのだが、気持ち的には丸一日寢たような気分だ。

それぐらいスッキリしていた。

加えて寢る前は夕日だったのに、今も夕日がし込んでいることから、その覚が間違っていない可能も高い。

それに昨日は疲れすぎてスルーしていたが、明らかにおかしなことが連発していることは確か。

ミリルの豹変はもとより、アルト、あの男の行方もそうだし、アルトが勇者である事も結局は聞けず仕舞い。

謎は増えるばかり。

しかもカインも殺し損ねた。

――ほんと、退屈しねえな。

俺は無意識に笑っていたようだ。

分からないことが多くてもどかしい気持ちはもちろんあるが、それよりもこれから起こるであろう出來事に期待が高まる。

勇者アルトもあの魔人の男も、そしてカインも。

いつかは見つけ出し、この手で決著をつけるのだ。

さて、未來へ期待をするのは終わりだ。

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果報は寢て待てとはいうが、それは全てをやりつくした後の話であって、ただただ寢て待つという意味ではなかったはず。

ならば今俺がすべき事は、寢る事ではなく、行を起こす事である。

「よし」

俺は立ち上がる。

まずはミリルを起こしに行こうか。

昨日のあれを見た後では、常に傍に置いて警戒するに越した事はない。

また魅了されでもしたら厄介だ。

素に戻るというのか、以前の俺に戻るというのか、とにかく腑抜けた自分が戻ってくるようで気分が悪い。

あのままでは復讐どころか、何もせない男になっていた。

それを踏まえるとミリルは俺にとって天敵なのかもしれない。

「ミリル」

一階に下りた俺は、早速アルトの部屋もといミリルの部屋の扉をノックする。

反応はない。

いや流石にまだ寢ているということはないはず。

俺はともかくミリルは昨日もぐっすり寢たはずなのだから。

俺は扉を開いた。

「ミリル」

名を呼ぶ。

ベットの一部が膨らんでいるのが見えた。

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「起きてるか?」

布がモゾモゾとく。

やはり起きている。

なら何で起きてこない。

「ミリル」

強めに名前を呼ぶ。

するとミリルが顔だけ布から出した。正確には鼻から上だけ。

「どうした?」

ミリルが目を逸らす。

昨日といい今日といい、様子が変だ。

だが昨日のあれほど豹変しているわけではないので、ただ単に何か事があるのだろうか。

「昨日……」

ミリルがそうボソリと呟いた。

昨日。

確かにそう言った。

「昨日がどうした?」

昨日と言われても、昨日はあまりにも様々な事が起こりすぎて、どの事を指しているのか分かるわけがない。

単純にミリルが関わったのは一つだけではあるが。

「あの……」

目線をキョロキョロとさせ、落ち著かない様子。

何となく分かってきた。

「……覚えているのか?」

「……うん」

気まずそうに小さく頷くミリル。

なるほど、それは確かに気まずいな。

俺もこうして平然を裝っていられるのは、彼が昨日のあれじゃないからだ。

しかしミリルがあれを覚えているとなると話は別である。

「そうか」

それしか言えなかった。

災難だったな、苦労したな、とは彼に対してではなく俺が言われたい言葉であるし、楽しかったな、とは冗談でも言えない。

言ってしまえばもれなく変態の稱號を授かることだろう。

「とりあえず、出るか」

コクリと頷いてミリルはゆっくりとベットから出た。

俯き気味なのはいつもの事なのだが、やはり昨日の事があったので、気まずさからやっているようにも見える。

「そうだ」

俺は思いついた。

とはいえこれを言ってしまえば、先ほどの話を蒸し返す事になるのだが、まあ仕方ないか。

「昨日の事は覚えているんだよな?」

「ぅ……うん」

ますます俯くミリル。

許してくれ、これは悪戯しているわけじゃないんだ。

「なら俺が目覚めるまでの事、覚えてるか?」

あの時のミリルにも同じような事を尋ねたが、あの時は別人格のミリルだったので、もしかすると噓を吐いていた可能があるからだ。

しだけなら、覚えてる」

小さく頷いてそう言った。

やはりあの時の彼は噓をついていたのか。

何だか今になってイライラし始めてきた。

「頼む」

コクリと頷くミリルはゆっくりと顔を上げ、俺の顔を見つめて口を開いた。

「起きたときはまだ騒がしかった」

ミリルが話し始める。

「降りて外に出たら、いっぱいの大人たちが戦ってて」

うん、今のところ報に差異はない。

「こわかったけど外に出たら、そこにコウスケがいて」

それは悪い事をしたな。

「それでコウスケを見たとき、目の前が真っ赤になって」

目の前が真っ赤?

真っ暗じゃなくて?

「そうしたら、あの人とあの男の人がこっちを見て」

あの男の人は多分魔人の男の事だろう。

ならあの人というのは誰だ?

……アルトか。

まだ嫌いしてたのか。

「急に走っていなくなって、それからは……あんまり覚えてない」

つまりあの魔人族の男とアルトは急に走って逃げていったと。

あの男はともかく、アルトがそんな事をするとは思えないのだが、ミリルが言うのだから実際にあったことなのだろう。記憶が正しければだが。

それにあんまり覚えていない部分は、いわなくても分かる。

別の人格に乗っ取られた後の記憶だということは。

「分かった、ありがとう」

「うん」

ひとまずアルトとあの男はこの里にはいないことははっきりした。

戻ってくる可能もあるが、一晩経っても帰って來ていないのは、まだ警戒しているのか、それとももうこの里を諦めたのか、別の用事が出來たのか。

なくとも俺がここに長居して良いことなどなさそうだ。

しかしカインの報が無いのはしだけ悔しい。

いつかきっと見つけ出してやる。

その時は二重の苦痛を與えなきゃならないな。大変だ。

「じゃあ直ぐにでも里を出よう」

「うん」

いつも通りのミリルに何だか落ち著きをじ、俺は歩みを進めた。

外は昨日慘狀のままだ。

やはり昨日の事は夢ではなかったのだと、それで確信できる。

警戒は怠らないでおこう。

里の外へは、何事もなくすんなりとたどり著けた。

道は一本。地平線へと続いている。

また當てもない旅をしなければならないのか、そう思うと憂鬱である。

せめて何か目標があればいいのだが。

しかしそう簡単に道標が見つかるわけもない。

それに今俺はこの世界の地図すら知らないのだ。ここがどこなのか、どこに何があるのかさえ、何一つ知らない。

そもそもこの世界に地図があるのかさえも分からないのだ。

一応目的地としては決めてあるのだが、地図がなければどこへ進めばいいのかも分からない。

しまった、いくらなんでも俺たちは無知すぎる。

法の話についてもそうだ。

何が違法で何が合法なのか分からない。

それを今改めて考えると、かなり危ないことだ。

ここはあの世界とは異なる、異世界。

何が正しくて、何が正しくないのか。その価値観すら別である可能がある。

この世界で罪に問われようとも失うものは何もないのだが、なくとも行く手を阻まれるくらいには障害になるだろう。それは面倒だ。

ちなみにもう一つ知っておかないといけないものがあるのだが、もう今は考えるのを辭めておこう。

「そうだなぁ」

呟き。

今やることは里を一刻も早く出ることだと思っていたが、し考えてみるとその前にやる事があることに気が付いた。

それは報収集である。

もちろんここにある人は死しかないので、口頭での報収集は無理だ。とはいえ俺たちの容姿ではそもそも面と向かっての報収集は無理なので、この際、人が居ようが居まいが関係ない。

ならどうやって報を仕れるか。

それは家々を回って、そこにある々を押収、もとい譲ってもらう。そしてその中に地図やら本などがあればそれで報を得るという話だ。

施設の時も同じ事をしたので、手際は良くなっているはず。

何だか盜賊を生業としているみたいで、気は進まないが致し方ないのだ。神も許してくれるだろう。

「ミリル、手分けして家を回ろう」

「どうして?」

「施設の時と一緒だ」

「分かった」

嫌がらせついでに品を奪ったあの時とは、し目的は違うがミリルの事だ。余分なものは持ってこないはず。

もし明らかにいらないものなら俺が捨てる。

「じゃあ頼むぞ」

「うん」

そうして手分けして役立つを探す事となった。

初めにった家は、気になっていたあの家だ。

そこは昨日のミリルが一度って、拒否した家である。

何らかの理由があってる事を拒んだのだろうが、その理由が分からなかったのだ。あの時の俺も変だったので特に違和を覚えなかった。

だから今はしっかりと見極める事にしよう。

と意気込みは良かったものの、結果はそう大したものではなかった。

簡単に言うと、その家にはベットが無かったのである。

念のため、昨日回った家を覗いて見る。

どこもベットが無かったか壊れていた。

簡単な事だったのだ。

寢るための場所が無かったから、あのミリルが拒んだという簡単な理由だった。

何とも単純な理由にガッカリとしたじながら、報に役立ちそうなものもちゃんと探す。

タンスの中。

ベットの下。

裏。

壁。

探せるところは素早く、かつ丁寧に調べる。

それを數件。

正直に言えば詰まらなかった。

時々お金のようなものも見つけたので、迷わずくすねておくことは忘れない。

そうして結局俺の方は何も見つらずじまい。

これでミリルの方も何も見つけていなければ、時間の無駄だったとハッキリいえてしまう。

ミリルが現れた。

「……たくさん持ってきたな」

は俺が苦笑いを浮かべてしまうほどにたくさんのを持ってきていた。

小さいで持つギリギリの量で、両手いっぱいにを持っているため、顔が隠れて、良くそれで歩けているな、と心してしまうほどだ。

「そんなに何を持ってきたんだ?」

「全部」

「全部って……目に付いたもの全てってことか?」

「うん」

何だか誇らしげなミリルに俺は何も言わないでおいた。

何も用件を言わなかった、こちらにも責任があるからだ。

「とりあえず一つ一つ見ていこうか」

俺はそう言ってミリルからいくつかのけ取り地面に置く。

いらないものはさりげなく背後へと移していった。

「いいものあった?」

心配そうにそう尋ねてくる。

だが殘念ながら今のところ目ぼしいものはない。

強いて言うならこの木の置くらい。……何に使うかは知らないが。

とそこで、あるものを発見した。

「これは……」

古ぼけた紙の巻だ。

急いでそれを手に取り開く。

「地図だ」

大當たりだ。

「それを探してた?」

「ああ、そうだ」

そう言ってやるとミリルは嬉しそうに微笑んだ。

やはりこっちの方が自然で良い。

……違う。

魅了されかかるな。

「と、とりあえずこれで現在地が分かるな」

キョトンと不思議なものを見る目でこちらを見るミリルに咳払いをして、地図を目の前で広げ顔を隠した。

「……わからん」

そりゃあ現在地がどこかも分からない狀態で、世界地図を見ても分かるわけもなかった。

分かったのはこの世界の形だけ。

ガックリと肩を落とす俺に、ミリルが聲を出した。

「見せて」

「分かるのか?」

期待を込めてそう尋ねる。

しだけなら」

しでも全く分からないよりは幾分か期待が持てる。

俺はミリルの前に地図を広げた。

ミリルは真剣な眼差しでそれを眺める。

そして、ある部分を指差し言った。

「ここがあの森」

ミリルが指した場所は確かに森のように濃く描かれているように見えた。

それさえ分かれば後はこっちのものだ。

そうか、ならここは……

「ここがこの里か」

「たぶん」

なら東に進むとこの國……ロイヒエン王國とやらの首都に著く。

ただそのロイヒエン王國と聞いても俺には何のことやらさっぱりだ。

でも一つだけ確信している事がある。

この國があの勇者召喚を行った國だという事だけは。

ならば目指そう。

俺をここへ呼び出した元兇がいるのだ。

そしてあいつらもいるのだ。

行かないわけがない。

目的地はロイヒエン王國首都、王都グライン。

復讐対象は王家含め、異世界召喚に関わった者全て。

全員この手で地獄へ落としてやる。

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