《負け組だった俺と制限されたチートスキル》第五十九話 審判
そもそも俺の真偽スキルは俺自には発しない。
「俺はリーンドが大好きだ【偽】」
だがこのような気の悪い冗談にスキルはしっかりと反応をしていた。つまり俺自にも真偽スキルが作用しているのは事実である。
もちろん俺が真偽スキルに何かをして、自分にも作用するようにしたわけではない。そもそもそんなこと出來っこないし、やり方も分からない。
ならどうやったのか。
その答えは俺の後ろにあった。
「大丈夫か?」
「……はい、し目眩がしますが」
「それは大丈夫じゃないっていうんだよ」
苦笑いと共に言葉を発する。
お姫様ともあろう者に目眩を起こさせただなんてリーンドに知られてみろ。また俺は責め立てられるに決まっている。それだけは勘弁したい。
ただまあ今はそれどころではなさそうだが。
「貴様……何が言いたい」
「そろそろ気付いているんだろ? 民衆の様子と俺の混ぜた噓に」
リーンドは押し黙った。
沈黙は肯定を指すとも言う。
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それにリーンドのことだ、恐らくは初めの段階で違和には気付いていたはずだ。だがそのプライドが邪魔をしてその懸念を振り払った。もしくはそれを踏まえた上でも俺に勝てると踏んでいたのだろう。
さて、では答えあわせといこうか。
揺しているのはリーンドだけではなく、この場にいる俺とエルフィーナ以外の人なのだから、そろそろ答えあわせをしてあげないと不満が発しそうだ。
「皆さん、これは魔人の力の一つです」
その混に一石を投じたのは言うまでもなくエルフィーナだった。
騒ぎが一層大きくなる。
あの真実を見る眼を持つとされるお姫様が、魔人という得の知れない力が自分達に働いていると言ったのだから、揺しないわけがない。
「私の眼で見ました、この力は真実を聞き分けることが出來る力です」
エルフィーナの言葉が告げられる度に民衆は混し揺する。
その様子からまだまだほとんどが理解できていないようだった。だがリーンドだけは違っていた。
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あの男は何かを察したかのように表を変え、瞬時に憎悪を顔に張り付け俺を睨みつけていた。
お返しに俺は笑みを向ける。
リーンドは言っていた。
――魔人は人には理解できない力を使えると
リーンド、及びエルフ族は知っている。
――エルフィーナの眼は力の真理を見抜くことが出來ると。
一見、ただ二つの事実があるだけに思える。
だが今回はそれが矛盾という狀態を生んだ。
魔人の得の知れない力とエルフィーナの力を見通す力。
的に言えば、その力でエルフィーナをることが出來るのか否かの証明。
つまり魔人の力とエルフィーナの真眼、このどちらが強いのかが証明できない故の矛盾だった。
多分この矛盾を解決は難しくはない。
何せ、大前提である魔人の不思議な力というものを俺は持っていないのだから、その時點で矛盾という狀態そのものが崩壊する。
しかしそれを証明しようにも誰も俺の言葉を信じてくれないという問題があった。それはエルフィーナの力を借りてもリーンドによって阻まれてしまった。よってその前提條件を覆すことは不可能に近い狀態だ。
この里で一番信用されていると思われるエルフィーナを使っても覆せなかったのだから、俺一人では到底無理だ。
だから俺はその矛盾を解消しようとは思わなかった。
むしろ利用してやろうと考えた。
そもそもこの問題は矛盾の語源である矛と盾ほど複雑な問題ではない。
直接、干渉し合うようなではないからだ。
だから解決策がいくらでもあった。
「分かったようだなリーンド様?」
リーンドに言うように見せかけて、俺はエルフ族皆に答えあわせをする。
エルフィーナのお膳立てもあったおでいいじに皆の注目が集まる。
「俺の力はエルフィーナ様によって証明された。そして俺はそれを否定しない、何故なら俺の力は噓を見抜く力だからだ!」
矛盾した一つの事実がもう一つの強さを証明する。
そもそも矛盾の解決とは直接対決し証明するしかないのだから、俺が思いついたこの方法こそが正攻法であるのかもしれない。何せ語源の矛と盾も、ぶつけて勝った方が強いとなるのだ。直接的に勝負出來ない事象でない限りこの方法が合理的で誰も文句がつけられない。
今回はエルフィーナの真眼スキルで俺の真偽スキルを証明した形である。
これこそが今回の問題の最適解だった。
「そしてエルフィーナ様のもう一つの力である応によって、エルフ族のみんなにも俺の力を使えるようにしてもらった」
付け足すならば、俺の強化スキル付與によって効力が強まった応スキルではあるが、お姫様に対する信仰の厚いエルフ族にそれをあえて説明する必要はじなかったので言わないで置いた。
黙っていても「奇跡の力だ」と納得してくれそうだからな。
「自分の発言を思い出してみてはどうですか、リーンド様」
「……っ!」
まるで言質を取ったかのようにそう言葉を言い放つ。
しかし正確にはリーンドの発言に決定的な証拠はない。何しろ真偽スキルが反応した言葉は、決まって返事の部分だったからだ。殘念ながら自ら罪を告白したような発言はない。恐らく下手なことを言わないようにと、々準備をしていたのだろう。全く面倒な事である。だが見栄を張って言い放ったというわけでもないが。
「どうした、隨分と顔が悪いが?」
「でたらめだ、貴様の言うことは全てでたらめだ!【偽】」
「はははっ、本當はそうは思ってないみたいだな」
この噓は俺だけではなくこの場全ての者にじ取れるようになっている。
つまり有罪のリーンドは発言をするごとに不利になっていく。
「じゃあこの力が偽りかどうか、試してみるか?」
「何を……」
一つ賭けに出て見る。
こういう時は、自分にも不利益を被るような平等な力であることを証明しなければならない。
「俺は人を殺したことなんてない【偽】」
ザワザワとする場。
その発言が噓であると皆は分かったからこその反応だろう。
つまり賭けに勝ったということだろう。
萬が一にでも森人族という種族で殺人が犯罪でなければその発言は全く意味をさないが、この揺を見るに犯罪であることは間違いなさそうだ。
そして俺はその罪を否定し、魔人の得の知れない力によって罪を明かされた。つまり俺は不利益を被ったと言うわけだ。
もちろん言いたくて言った訳ではない。
だが必要だったのだ。その力を持つ魔人が不利になる容でも、しっかりと真偽スキルが正しく反応するかどうかを皆に知らしめるために。
結果はご覧の通りだ。
俺の言葉は噓である。
「どうだ? 次はお前の番だぞ、リーンド様?」
「……っ!」
「どうした? 告白したいことが思いつかないか? なら質問形式にしてやろう」
もうリーンドのターンは來ない。
「お前が俺を嵌めたんだな?」
「……知らん【偽】」
まだ序の口だ。
「お前がエルフィーナをあの小屋に幽閉したんだな?」
「……違う【偽】」
ざわめく場。
もうリーンドは詰んでいる。
唯一の反抗としての無言も愚策だ。
無言を貫けば、印象も悪い上、実質俺の真偽スキルを認めたことになるからだ。
「お前が最近起きた事件を起こした張本人だな?」
「……知らない【偽】」
「そうか……答えは出たようだ」
俺はリーンドへの問いを止め、エルフィーナを見る。
これからは部外者である俺よりも、この里の権力者に任せたほうが良いだろう。
では後はお姫様に任せるとしようか。
「皆さん、宰相リーンドの罪はここに証明されました」
淡々と事実を告げていく。
もうリーンドには反論する力も殘っていないようだった。
何も言わずただ呆然と俺たちの方を見つめるだけ。
「私の獨斷で魔人の力を借り、皆様を揺させたことをここに謝罪いたします」
唐突の謝罪にも民衆は非難を飛ばすものはいなかった。
エルフィーナが頭を下げると、「そんなことない」等と言った聲が飛んでくる。
もしこの信頼がなければ、俺の冤罪も明らかに出來なかったのだから、本當に彼に助けられた。
「それでは皆さん、後日宰相リーンドの処分をお知らせしたいと思います」
それからは今までの答弁が噓であったかのように、サクサクと事が進み、その集會は幕を閉じた。
ん?
嵌めた相手に対して隨分と甘いんじゃないかって?
「うん」
一騒終えてようやくミリルと會話わした。
しかしミリルの方は、いつも過激思想の俺に慣れてしまったようで、今回の敵に対する仕打ちが隨分と甘いことに疑問を持っていたみたいだ。
思わず苦笑いがれる。
確かに否定できない事実ではあるが、他人、それもい見た目のミリルから指摘されると何だか変なじだ。
復讐者としては喜ばしい限りではある。
なら素直に喜ぶべきなのだろうか。
複雑だ。
ただ今回の件に関してはミリルの指摘は大正解である。
「まあちゃんと案はある。噓吐きには採っておきの案が」
ミリルのお決まりの首傾げを橫目に歩みを進める。
今回の罰は今までのような的な苦痛というよりは、神的な苦痛を味わってもらおうかと思っていた。
流石に殺してしまっては俺までも犯罪者になってしまいかねないので出來ないという理由もあるが、実験も兼ねてやりたいことがあったという理由もあった。
そうなると自然と笑みが零れるというものだ。
相も変わらずミリルは首を傾げたまま、俺たちは歩みを進めた。
さて、謁見の時間だ。
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