《魔法兵にされたので學園にります ~俺は最強の魔兵~》第1話 改造された俺は魔兵
俺は両手足を縛られ引き延ばされた狀態で仰向けにされていた。
「くっくっく、レイよ。気分はどうかな?」
傍らにはぐふぐふと嫌らしい笑いを浮かべる男がいる。ぼさぼさの頭にだるだるの白マントを羽織ったその男は、実に信じたくないが俺の実の兄イルオ・ヴィーンである。23歳。
この男はど田舎で1人牧畜をしていた俺、レイ・ヴィーン(16)の家に実に5年ぶりに帰ってきたかと思うと俺を眠らせ(お土産というまずい茶に薬が盛られてたらしい)て、こうして弟を縛り付けて寢かせた、両親の死後すぐ失蹤して5年も弟をほっぽり出したことを抜いても文句なしのクズである。
「最悪だよクソ兄貴。いい気分になると思ったか?」
「くく、我が弟よ。お前は気付いてないようだが……お前が寢ている場所は寢心地を重視して最上級のコットンを使っているんだぞ? 気持ちよかろう」
「そういうこと言ってんじゃねーって、てかほんと寢心地はいいなコレ」
昔から世間とズレたとこがある兄貴だった。逆恨みと嫉妬が激しく、頭のよさと上昇志向だけは尊敬できなくもなかったのだが、ことここに至っては尊敬もクソもない。
「いい加減に説明してくれよ! なんで俺を縛ってるんだ、何をするつもりなんだ、そもそも5年間もどこ行ってたんだよクソ兄貴!」
俺がこのクズを罵ると、不気味なことにこいつはさも楽しそうにニタリと笑った。
「喜べ弟よ! お前は今日から、魔王軍において最強の魔兵となるのだ!」
クズ兄は意気揚々と言ったが、俺としてはクエスチョンマークしか浮かばない。魔王軍? 魔兵? いったいなんのことだ。
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疑問に思ってると兄貴はぺらぺら喋り出した。
「私がこの家を出て5年……その間、私は古代に失われた魔科學を研究し、それを復活させた! すべては絶大なる軍事力を手にれ、この世を躙するために! そして我が魔科學がしたちょうどその折、まるで私に天啓を與えるがごとく、古に封印されていた大魔王が復活したのだ! このど田舎にはまだ報は屆いていないだろうが、すぐに魔王と人類の戦爭が始まる! 私と魔王様の目的は同じ、人類の支配! ゆえに私は魔科學を持って魔王様の下についたのだあ!」
ハイテンションで長々と語り倒したが、要するにこのクズはなんかすごい技をに著けて、復活した魔王に取りったということらしい。魔王が復活したとかいうのにも驚いたが、それ以上に驚いたのはこのクズ兄のアホさ加減だった。
「兄貴、お前な……そんなこと言ってると、魔王に利用されるだけ利用されて殺されるのがオチだぞ? どうせ魔王は勇者に倒されるんだ、バカなこと言ってないでその魔科學とやらで金儲けでもしろよ、せっかく頭いいんだから」
「シャッラぁップッ!」
「へぶっ」
クズ兄はいきなり俺の頬をビンタした。本気でぶっ殺してやろうかと思った。
「お前は今に魔科學のほどを思い知る! いいかお前は選ばれたのだ、私の魔科學による魔兵の素、その第一號にな! 弟のお前に強大な力を與え、魔王様の世界の一端を擔わせてやろうという兄の心遣い、とくとけ取るがいい」
「え、ちょ、おま、いったい俺に何をする気なんだ? 素?」
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だんだんと嫌な予が強まっていく。兄の笑みにじるのも嫌悪よりも恐怖が濃くなっていった。
そして兄は最悪の宣告を俺に下した。
「弟よ! 私の魔科學でお前を改造し、お前は我が魔科學の粋を盡くした最強の魔兵となるのだ!」
改造――そこにいるクズ兄の姿は、完全に恐怖に変わった。
「い、嫌だ! やめろ、離せ! 改造なんてされたく……」
「なーに痛みはない。しばしまた眠れ! そして目が覚めた時にはすばらしい世界が待っているぞ! はーっはっはっは!」
兄の高笑いを遠くに聞きつつ、俺の意識は薄れていった。
――俺はまた仰向けの狀態で目を覚ました。
「おお、起きたかレイ! いや我が魔兵シリーズNo.0よ!」
忌々しい兄の聲が聞こえる。俺はぼんやりとする頭でそれを聞きつつを起こした。両手足はもう縛られていなかったが――中から違和をじる。
まるで、自分のではないような覚だった。
「兄貴……俺のに、何を……」
そう聲を出してハッと気付いた。聲がおかしい。明らかに高くて細く、これではまるで子の聲だ。それも妙にかわいらしい聲が、勝手にから出る。
「ふふ……さあ鏡を用意してやったぞ、まずはその素晴らしいを確認するがいい」
兄はそう言ってどこからか姿見を持ち出し、どんと俺の前に置いた。だが一瞬俺はそれが鏡だとはわからなかった。
「……なっ!?」
數秒沈黙した後、俺はようやく現実を理解し、乗っていた臺を飛び降りて姿見に全を映した。
鏡の中に映った俺の姿。それはさえない男のそれではなく、いわゆるゴスロリのメイド服を著こんだ可憐なの姿だった。大きな水の目、皺ひとつない、げだがしい顔立ち。ヘッドドレスをつけた髪はき通るような銀で肩にれるほど長くさらさらときれいに流れている。全の骨格からして男のそれではない丸さとらかさであり、長も俺より一回り小さい。
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そして俺は思わず、男の頃にはなかった部位――に手をばし、それをんでしまっていた。そこそこの大きさである。
「くくっ、気にったようだな」
クズ兄の聲でハッとなって手を離す。狀況を思い出し、すぐに兄を睨みつけた。
「お前……お、俺に何をしたんだ」
兄はそのにやけ顔をより一層ゆがめていやらしく笑っていた。
「言っただろう、魔兵に改造したのだよ。お前は晴れて我が魔科學の粋を盡くした魔兵となったのだ、栄に思うがいい!」
「こ、このがか!? なんだこののは!」
「ああそれは私の趣味だ。実は常々お前がかわいい妹だったらなーと思っててな」
「このクソ変態兄が!」
俺は自分の掌を見た。牧畜で汚れているはずの俺の手は白く細く綺麗なそれに変わっていた。俺は俺自の験として兄の語る魔科學、その技のほどを理解せざるをえない。
「お……俺のはどうなったんだ。魔兵? この、子のが?」
「いかにも! のルックスはあくまでも私の趣味にすぎん、真価はその莫大なパワーにある!」
兄は両腕を広げ自らの力を誇るように語り出す。もはやそれは虛言などではなく、絶対の現実として俺にのしかかった。
「人間の數倍以上もある能力! 魔鉱のボディは滅多なことでは傷ひとつつかず再生機能もある! 高い魔力を常に蓄え魔法の行使も自由自在! 他にも様々な兵裝をそのに備えた、まさに最強の魔兵なのだ! 人間を素にすることで管理も自律して行え、口頭での指令も可能! 今はまだ1作るのに多大なエネルギーと資材がいるのが難點だが……お前がの力があればすぐにでも集まるだろう! お前は間違いなく魔王軍の大戦力となる、そして人類侵攻の尖兵となるのだぁ!」
俺は絶的な気持ちで兄の言葉を聞いていた。自分が兵にされてしまった、そしてその力を魔王の為に使わせられる――
「くそっ……! そんなことを強制的にやらされるくらいなら、ここで死んでやる!」
改造され盡くしたで人類を殺戮するなんて絶対に嫌だ。俺は強い敵意を込めて兄を睨み吐き捨てた。
だが兄貴はなぜかきょとんとして俺を見返した。
「え? 強制的……? あっ」
クズ兄はあからさまにしまったやらかした、といったじだった。えっと俺も思わず聲に出る。
「いや、改造したんだろ? 強い力を持った兵に……だったら強制的に従わせる機能もつけとかないと意味ないだろ」
「……は、ははは」
兄は乾いた笑いでお茶を濁す。頭がいいのにバカな兄だと思っていたが、まさかここまでバカだと思ってなかった。むしろあんなに恐れて絶してた俺がバカみたいだ。
「いやー、兵裝と見た目ばかり気にしててついうっかり。でもがんばればたぶんなんとかなると思うし……とりあえず弾とか埋め込んでおきたいから、もう一回ここに寢てくれないかな?」
そう言って笑う兄の顔を、俺はためらいなく毆り飛ばした。
外に出てみると、俺がいたのは真っ黒なテントの中だった。場所はどうやら俺の家の近所にある森。めったに人が近づかないので小さい頃は兄たちと基地を作って遊んだものだ……昔は。
辺りには改造に使ったと思われる雑多な資材や道、あと俺に毆り飛ばされて弱っている兄が転がっていた。
「なんだ意外と元気そうだな。魔兵というからには腕力ももうちょいあると思ったが」
「げほっ……あ、兄は結構キてるぞ弟よ。元気ではない……だが私はパワーが制できないような欠陥品は作らん! 基礎パワーは見た目相応で、私が貧弱なだけだ」
「じゃあ本気で毆ろうと思えばぶっ飛ばせるんだな……?」
「構えるな弟よ! 兄は本當に死ぬぞ!? たった1人の家族だろ、いいのか?」
「弟を兵に改造するような人間を家族とは呼ばん」
俺はわりと本気で毆り飛ばしてやろうと構えたが、クソ兄は存外素早く起き上がって俺から距離をとった。そして懐から何やら本を取り出す。
「くっ、従わぬならばまずは従わせるまで! 來い魔神兵ミシモフよ!」
兄がその本を広げてぶと、空間にいきなりり輝く巨大なが出現した。周囲には魔法言語がいくつも散り、そのからゆっくりと大きな鎧――いや、鎧を著た姿をした巨人がせり出し、やがて兄貴の前にズシンと著地した。
鎧の巨人はかなり大きく、家ひとつ分ほどもある。俺もさすがにたじろいだ。やはり兄はバカだが侮れない。
「見よ、これもまた魔科學の結晶! さあやれミシモフ、魔兵No.0を沈黙させるのだあ!」
『ウゴォーッ!』
兄が持つ本から紫のが迸り、それに応じるかのように巨人はき出す。
巨人は両腕を振り上げたがそのきは予想外に早く、俺は完全に対応が遅れてしまった。
『ゴゴォーッ!』
「う、うわっ……」
巨人はためらいなく俺目掛け腕を振り下ろした。ズシンという重い音と共に辺りに砂埃が舞い、振に怯えた小鳥が一斉に飛び立つ音が響く――だが。
気が付いたら俺は、巨人の両腕を咄嗟に出しただけの片腕でけ止めていた。
「え……」
さすがに絶句する。腕だけで今の俺の數倍はあろうかという巨、その質量でもって振り下ろされた剛腕は、改造された俺のか細いの腕で容易く止められていた。
これが魔兵の力なのか。しずつ理解し始めた俺は、その能力を試してみることにする。
「よし……うおおおおおおっ!」
『ゴゴッ!?』
ただ出していただけの腕に力を込める。どうやら咄嗟の行では防衛機能としてなのか無意識に力が出るようだが、やはり兄貴の言った通り本領は意識して放つパワー。俺が力を込め始めると、抑えていただけの敵の巨がき始める。
俺はもう一方の手も添えて敵の腕を摑むと、思い切り背負い投げをかけた。
「おっらああっ!」
『ゴォーッ!?』
まるで紙細工のように巨は浮き、先程よりも遙かに大きな音と振と共に、俺が改造されていたテントを押し潰しながら巨人は投げ飛ばされた。
俺は巨人から手を離し自分のを確認したが、異常どころか疲労すらまるでない。見た目にはただのだというのに末恐ろしいパワーをめただった。
「ミミミ、ミシモフがあっさり……! やはり我が魔科學の最高峰No.0、通常の魔神兵とはまるで違う出力だ! すばらしいがマズイ! マズイがすばらしい!」
兄は揺したり喜んだり焦ったりと1人で盛り上がっている。こんなアホがここまでの力を生み出せるというのは信じられないことだが――どっちにしろ俺にとっては迷でしかない。
「楽しんでるとこ悪いが、俺がぴんぴんしてること忘れてねえか」
俺は再びこのゴミ兄を叩きのめすべく近づく。邪魔な鎧はもういない、心置きなくこいつを叩きのめし、その後に元に戻る方法を聞き出すつもりだった。
「弟よ、背を向けていいのか? 我がミシモフはこれしきでは倒れんぞ!」
「なに?」
背後に気配をじ、俺は振り向く。見ると仰向けに倒れたままに巨兵はその首を180度回転させ、俺と目を合わせた。その口がガションと開いて謎のがふくらんでいく。
「魔神兵ミシモフ最終兵、ミシモフ・イレイザァーッ! いかにお前といえど直撃をければ四肢は吹き飛び機能停止する威力だあ!」
「そんなもん、避けりゃいいだけだろ? お前も慌ててんじゃないか」
兄は喋くりながら回り込み、しれっと巨兵の正面から逃げだしていた。だがクズはどこまでもクズだった。
「ハーッハッハ、ミシモフ・イレイザーの直線狀にあるのはお前の大事な牧場だ! お前がけねば大事なたちは全丸焼きになり今晩のおかずになるぞーっ!」
「なんだと? くそっ」
親から譲りけた大事な牧場、失うわけにはいかない。逃げ出そうとしていた俺は慌てて足を止め、改めて巨兵と向き合った。
巨兵の口に集まったはすでに俺の全を包むほどに大きい。その空っぽの瞳が俺を見ている、そんな気すらした。
避けられない、避けるわけにはいかない。俺は覚悟を決め、思い切り両手を広げてけ止める用意をした。兄が笑う。
「ミシモフ! うてえぇーーーーーーっ!」
『ゴゴゴォォォーッ!』
破壊のがひときわ強く瞬き、俺へと襲い掛かった。
瞬間、俺はほとんど無意識に強く念じていた。守りたい、死にたくない、と。を睨みつけ、お前なんかに俺も俺の大事なものも破壊させない、そう願っていた。
そしてその願いは改造された兵のに満ち、魔兵は応じた。
俺のが、聲が、勝手にく。
「『防壁魔法陣』、展開!」
聲と共に俺の前に新たなが現れた。橙に輝くそれは魔法陣、見たこともないような複雑な図形の描かれた、俺のを中心に、俺の両手よりもずっと大きく――俺だけでなく俺の後ろのものまで守れるように生まれた、防の。
魔法陣とレーザーが正面からぶつかる。破壊のは俺の魔法陣とせめぎ合い、特有の魔法音と風が吹き荒れ、長くなった俺の銀髪がたなびく。
その時、俺の履いていた、いや履かされていたスカートまでもめくりあがった。
「う、うわっ」
俺は思わずスカートを抑えた。だがその瞬間に魔法陣が押し負けかけたので慌てて手を戻す。スカートの不安定さと恥ずかしさは頬を真っ赤にしながらも今は無理矢理忘れた。
俺はもう一歩、前に踏み出した。
「『魔法陣・攻転移』!」
魔兵のが聲を放つ。すると魔法陣の橙は赤に変じ――け止めていたレーザーを、反した。
眩しいが一瞬、辺りを白く塗りつぶす。それが晴れた時に殘っていたのは、のあちこちが破損し、黒く焼け焦げた巨兵の姿だった。
「……はーっ」
俺は大きく息を吐いて両手を下ろした。すると魔法陣も消える。今のは俺がやったのか、自分でも信じられなかった。
だが俺よりもずっと狼狽していたのは兄の方だった。
「ままま、魔法陣展開だと!? 戦闘訓練もなしにいきなりそんな高度機能をるとは……ッ! さすがは我が弟、そしてさすが我が技!」
驚いていたかと思ったらもう勝ち誇っている。俺はわりとイラついた。
「狀況がわかってないようだな……」
改めて俺は兄へと歩み寄る。それでようやく自分の狀況を思い出したのか、カス兄はあからさまに慌て始める。まずは気のすむまで毆る、その後に元に戻してもらわなくちゃならないから殺しはしないが、死の淵が見えるまではして反省させる……一歩一歩怒りを込めて近づき、その度に兄は慌て始める。
だが直後、俺の背後で重い音が響いた。
『ゴ、ゴ、ゴ……!』
振り返るとあの巨人がボロボロになりながらも起き上がり始めている。馬鹿な、まだくのかとそちらに一瞬気をとられできた隙を、あの汚は見逃さなかった。
「まだ生きてたかミシモフよ! それならばFモードに変形だ!」
『ゴゴッ……!』
巨人は不気味に目をらせるとその姿を変容させていく。迂闊にれては危険だと思い、俺は警戒しながらその様子を見張った。
やがて巨人はその背から巨大な翼を生やしたかと思うと、轟音を立て両足から魔法陣を次々に生み出しつつ飛び上がった。そして俺がそれに驚いていると巨人のが開いてロープが発され、俺の後ろにいた兄のを巻き取った。
「はーっはっはっは! さらばだ弟よ! いずれまた會おう、その時は必ずそのを我がにしてみせるぞ!」
『ゴォーッ』
見た目は完全にロープに吊られているだけの兄がなぜか高笑いをした後に巨人は急速に空へと飛びあがり、そのまま空の彼方に消えていった。ロープに吊られた兄はものすごく揺れていたが大丈夫だろうか――などと考えている場合ではない。
後に殘された俺は1人、自分のを見下ろした。何度見てもそこにあるのはの。それも魔科學によって作られた、莫大な力をめたが……
「どうすりゃいいんだ、これ……」
俺は1人頭を抱える。
こうして、俺は魔科學兵になってしまったのだった。
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