《魔法兵にされたので學園にります ~俺は最強の魔兵~》第2話 馴染の提案

セイナ・セントールはその日、久しぶりに馴染のレイの家に向かっていた。

セイナは16歳、この辺りの地主の娘だ。地主といってもド田舎のビリ村、人口100人に対し家畜はその數倍という僻地ぶりなのでたいしたものではないが、それでも村では一番の金持ちである。今日もセイナは小奇麗な布服をにまとい、綺麗にまとめた金髪を揺らしつつ荷を抱えて野原の道を歩いていた。

「おーセイナちゃん、今日は學校お休みかい?」

道なりの畑で農作業をしていた老人が尋ねる。セイナは足を止め、手を振りながら答えた。

「はい、連休になったのでちょっと帰ってきたんです! レイって今日家にいますか?」

「レイかい? あの子なら今日も牧場だろうねー」

「ありがとうございまーす!」

老人に挨拶をかわし、軽快な調子でセイナはまた歩き始めた。

セイナとレイはい頃、レイの両親が顕在だったころから地主と牧場主ということで家ぐるみの付き合いだ。レイの両親の死後、天涯孤獨となってしまったレイのことを何かと気にかけ、たびたび食事や生活用品を屆けたりもしていた。

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だがセイナが今在籍しているサブリナ魔法學園に學したのに対し、牧場を経営しなければならずまた都市部での生活費も他の學園の學費のあてもないレイは村に殘り、2人は離れ離れになってしまった。

幸いにもサブリナ魔法學園はそう遠い場所ではないので、セイナは今日のようにまとまった休みができた場合には帰省しレイに會いに行っている。村から離れられないレイの表にわずかに見えるに、申し訳なさもじながら。

道を歩いていくと牧場特有の臭いが漂い始め、放牧されている牛の姿が目に付くようになる。レイの牧場に近づいたのだ。

やがて見え始める末な木小屋。人一人やっと生活できるようなそれがレイの住居だ。

セイナはお土産に持ってきた包みを片手に持ち替え、小屋の戸を開けた。

「レイ、久しぶ……っと」

馴染ゆえの無遠慮さで小屋にったセイナは慌てて足と口を止める。ない綺麗な室、その面積の約四分の一をしめるベッドの上で、シーツが盛り上がっていたからだ。

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珍しくレイは晝寢をしているらしい、疲れているのかもしれない、起こさない方がいいか――せめて寢顔は見てやろう。セイナはそっとベッドに歩み寄った。

そしてシーツをめくり、久しぶりに會う馴染の顔を覗こうとして、セイナは直した。

「え……ええっ!?」

起こさないようにという気遣いも忘れ、セイナはばっとシーツをはぎ取った。

そこに寢ていたのはレイではなく、見覚えのない銀の髪のだった。それもなぜかメイド服を著て、すうすうと穏やかな寢息を立てている。

レイのベッドで平然と眠る、見たことのないメイド姿の――あまりにも異質な狀況にセイナはとにかく焦った。

「え、えと、起こした方がいい……よね? いやでも何か理由があるのかも……」

メイドが寢るベッドの橫でわたわたと1人慌てるセイナ。するとそのが近くにあった棚に當たってしまいそこの本が一冊どさりと音を立てて落ちた。

「わっ!?」

ただでさえ慌てていたセイナが思わず聲を上げる。その聲に反応して眠っていたはゆっくりと目を開き、起き上がった。

「ん……なんだ……誰かいるのか……?」

「わ、わわ、そ、その……」

メイドは半を起こし、目をこすりこすりセイナを見る。狹い小屋に逃げ場などなくセイナはただただ慌ててと正対した。

「なんだ、セイナか。帰ってきてたんだな」

「え? あ、あなた、私のこと知ってるん……ですか?」

「知ってるも何もないだろ、俺は……あっ」

ははたと口を抑え、自分の手やを確かめるように眺める。そして何かを思い出したように頭を抱え、はあとため息をついた。

「そっか、わかるわけないよな、こんなで……俺だよ、レイだよ。レイ・ヴィーン」

「え? レイ……え?」

「そうだ。こんなナリだが、間違いなく俺だよ、セイナ」

メイド服を著てレイを名乗るに、セイナはただただ目を白黒させていた。

俺は兄が去っていった後、まずは家に戻り、んな意味での疲れていたので軽く飯を食べてから寢た。それは兵に改造されたで食事と睡眠ができるのかという実験も兼ねてのことだったのだがいずれも問題はなかった。『素を人間にすることで管理を容易にする』とはこのことだったらしい。つくづくあの兄の技力の高さには驚くやらあきれるやら。

ともあれ、俺は「レイ・ヴィーンだけが知り得ること」の説明などもえつつ、ことの顛末をセイナに説明した。

「じゃあ、お兄さんがレイをそのに改造した……ってことなんだ?」

「そういうことだ。信じてくれて助かった」

「そりゃあ馴染だもの。でもなんでメイド服なんて著てるの?」

「……あのクソ兄貴の趣味らしい。そういや著替えときゃよかった」

俺はとりあえずヘッドドレスを外し、そこらへんに投げ捨てた。

セイナは俺がレイであると信じてくれたようで何よりだ。共有のがいくつもある馴染だからこその呑み込みの早さだった。

「魔科學兵……しだけ本で読んだことがある。古の時代に研究され、絶大な力を誇ったけど、それがもとに戦爭が起こって魔科學自も戦火で失われた……って」

「本で? すごいな、知ってるとは思わなかった」

「でも本當にそれだけだよ、もうおとぎ話レベルのものだって思ってた。まさかこうして現代の目の前で、しかも馴染がそのものになるなんて想像もつかなかったよ」

「つくわけないわな、そりゃ」

當事者の俺ですら夢だったんじゃないかと思うような出來事だ。もしもが見た目からわかりやすく改造されてなければ本當に夢だと思い込んでいたかもしれない。改めて思うとそれぐらいに異常な事態だ。

「とりあえず食事も睡眠もとれたし、兵にされたといっても見た目以外はそんなに変わってない。幸いにも兄貴がアホだったおかげで神面は何も弄られてないしな、なくとも今はな」

このにはまだ未知が多いので、実は神の方も何かしらされている可能はあるが今のところは俺は平時の俺だ。そこはまあ安心といえるだろう。

「疲れてたんで寢てしまったが、そろそろたちに餌をやらなきゃいけない時間だ。こんなにされても奴らにゃ関係ない、仕事はしなきゃな。セイナ、手伝ってくれ」

「あ、うん、了解」

俺のに何が起ころうと牧場のたちは腹も減らすし病気もする、たとえ魔科學兵のメイド服に改造されよう友だ。牧場経営の辛いところである。

俺はセイナといっしょに小屋を出て、たちの世話に向かった。

だが僅か數分後、俺たちは小屋に戻ってきていた。そして俺はベッドの上に座り凄く落ち込んでいた。

「……どうすりゃ、いいんだ……」

が口から出てくる。セイナがすぐそばでおろおろしているがそれも気に掛ける余裕もなかった。

というのも――たちが、俺を避けるのだ。

餌をやりにいったのにも関わらず、牛も豚も鶏も俺が寄っただけで逃げ、畜舎の中の連中は大聲で騒ぎ立てる。見た目が違うから、というレベルじゃない嫌がり方で、そもそも牧場のたちは人慣れしてるから初対面の人間だろうとちょっとやそっとじゃ騒ぐはずはない。だが俺が近くに行ったときのたちは明らかに激しい嫌悪、あるいは恐怖を示していた。

そういったが、長年奴らと接してきた俺にはあまりにもありありとわかってしまう。餌やりどころか牧場経営そのものができないような嫌がり方だった。

「なんでだ? いくら見た目が全然違ったからって……明らかに俺のこと、まるで外敵みたいに……」

「ひょ、ひょっとして、魔科學兵だから……じゃないかな」

「え?」

セイナはうろたえつつも考えがあるようだ。彼はこう見えてかなりの秀才で、育ちもよく頭脳も冴えている。

「レイのその、見た目じゃわからないけどすごいパワーがあるんでしょ? ってことは高い魔力をめているわけなんだけど……魔科學のエネルギーって現代にない未知のものらしいの。それも邪悪なじのものなんだと思う。たちはきっとそれを本能的にじ取って、レイを避けているのかもしれない」

「……なるほど、な」

俺は自分の手を見下ろした。連日の仕事に日焼けしてごつごつとしていた俺の手とは違い、白で細くしいの腕。だがそのには自分のの何十倍もの相手を投げ飛ばすパワーと、高度な魔法陣をる魔力をめている。魔兵などという得の知れないもの、たしかにたちがけ容れるとは思えなかった。

「……マジでどうしよう。これじゃあ牧場は続けられない、だが俺には他のものは何もないし……」

「そう、だよね……どうしよう」

唯一の親の産がこの牧場、俺はそれだけを頼りにこれまで生きてきた。それ以外には學も能もない。俺はこの牧場がなくては、文字通り生きていけないのだ。俺もセイナも困り果て、考え込んだ。

だが。

「そうだ!」

ふいにセイナが手を打つ。その表には笑みが浮かんでいた。

「レイ、いいアイデアがある! その魔化學兵のパワー、ものすごいんだよね?」

「あ、ああ。それはそうだが……」

「だったら大丈夫! それにこれなら私も……うん、完璧!」

セイナは1人でうんうんと頷き希に満ちた顔で何やら笑っている。そして俺の手を握ると、いきなりこんなことを切り出した。

「レイ! 特待生として、サブリナ魔法學園にればいいんだよ!」

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