《魔法兵にされたので學園にります ~俺は最強の魔兵~》第7話 スライム大騒!?

……あの、特待生。

あの力……あの……魔法……間違いない。

魔科學兵

復活させたのは、誰?

あの技を。

じられた力を。

いけない。

早く、早く。

っ……

・ ・ ・ ・ ・

オニキス寮の生徒との邂逅の後。

アクアマリン寮では俺の歓迎會の準備をするからしばらく出て行ってほしいと言われた俺は、ルビー寮の生徒にわれたので、中庭で球技をして遊んでいた。

「それっ、特待生!」

ルビー寮寮長、ボーイッシュなショートカットのマコットがボールを高く上げる。マジボールと呼ばれるこの球技、ルールは奇妙だが単純、「ボールに一切れてはいけない」こと。

バレーボールと同じくらいのサイズのボールは魔力に反発するように作られており、プレイヤーは適宜魔力を放出してボールにれないようにしながらるのだ。今やっているのは6人ほどがになってえんえんとボールをパスし合うだけの遊びである。

「よし……そらっ!」

俺は上から落ちてきたボールに両手を出し、手にれる前に魔力を出して跳ね飛ばす。だが出力が強すぎてボールは校舎よりもさらに高くまで吹っ飛んでいってしまった。

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「おいおい特待生! 強いのは結構だが、マジボールは強すぎてもダメなんだぜ? まだまだだな!」

寮長マコットは高々と上がったボールを見て笑った。

「悪い。初めてだし、大目に見てくれよ」

「でもいいセンしてるぜ! どうだ、本格的にやってみないか? お前ならきっとレギュラーになれる!」

「今は保留にさせてくれ、まだ知らないことが多くて、決めるには早すぎる」

「待ってるぜ!」

マコットは快くってくれたが、実のところ俺は魔科學兵で競技に參加するのはズルのような気がするのでスポーツを本式にやるのは避けるつもりだ。後でバレてドーピングだなんだと騒がれても困る……いや魔科學兵だとバレた時點で大問題なのだが。

「お、ボールが落ちてくるな。見てろよ、あんな高いとこからでもあたしはけ返してやる! 力のルビー寮の実力見せてやるぜ!」

マコットはぐっと力を溜めて上から來るボールを待ちける。俺や他の生徒たちはそれを見守った。

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だがその時。

遠くから激しい発音と共に、生徒の悲鳴が響き渡った。

「な、なんだ!?」

発……? 寮の方からだ! 行くぞみんな! 特待生も!」

「わ、わかった!」

マコットに連れられて、俺たちは寮のある裏庭の方へと走っていった。

裏庭では大勢の生徒が出てきてざわざわと騒いでいる。生徒の群衆の中心はダイヤモンド寮だった。

俺たちが生徒たちをかき分けてダイヤモンド寮に近づいてみると、そこは酷い有様だった。4つの寮の中でも一際豪華に飾られていたはずの寮は三分の一が崩壊し、壁も天井も崩れて吹きさらしになっている。さっきの発音はダイヤモンド寮を破壊した何かのものだったのだろう。

「あ、レイ!」

人ごみの中、セイナが手を振っている。俺は彼のもとに行って狀況を尋ねた。

「セイナ、何があったんだ? ダイヤモンド寮はどうしたんだ」

「私もよくわかんないんだけど、たまたま見てた子によると、いきなりダイヤモンド寮からおっきな何かが飛び出てきて寮を壊したんだって。その大きなものは學園とは逆の森の方に向かったから誰も怪我とかはしてないらしいんだけど……」

「森の方……」

俺は寮が並ぶその奧を見つめた。寮の奧にはサブリナ魔法學園全を覆ううっそうと茂った深緑の森が広がっており、セイナの言った通りダイヤモンド寮の裏には大きな何かが通ったかのように木々がなぎ倒された道が出來ていた。

その時、俺は何かをじ取った。魔科學兵は俺の意識を読み取ってく、森の奧に逃げていったという何かに意識を向けた時、『知りたい』という俺の意識を認識して、兵が機能を発揮したのだ。

「……大きな魔力が1つ。あとそのし奧……これは、追われている……?」

「レイ? どうしたの?」

セイナは怪訝そうに俺を見つめている。辺りを見渡してみたが先生たちもまだ到著していないようだった。

「行かないと!」

「あっ、レイ!?」

俺は兵のパワーを使って思い切り跳躍し、人混みを飛び越えてダイヤモンド寮の屋へ跳び移る。生徒たちの視線を気にする暇などない、俺はダイヤモンド寮の屋からさらに跳び、森の中へとっていった。

『ゴポッ……ゴポポッ……!』

森の中、木々を次々と取り込み吸収しながら進む影。

それは巨大なスライムだった。半明のは通常の手のひらサイズのスライムの數百倍ものを持ち、小をぷかぷかと浮かべながら森を進む。木がその狀のれればとぷんと沈み、直後に溶けてなくなってしまう。巨大スライムは、なんでも溶かすを持っているのだ。

そしてその巨大スライムから一心不に逃げ生徒が1人。

「ひいいいいっ! こ、來ないでくださいましぃぃぃぃぃっ!」

涙を流しながら必死に森を駆けるその生徒は、ユニコ・サマリーだった。魔法を使う余裕もないのか、ただただ全速力で森を走っている。

『ゴポポポポッ……!』

スライムは森の全てを溶かしながら彼を追い続けていた。両者のスピードはほぼ互角だが、障害をよけながら走るサマリーに対しスライムのきは一直線。意外にもスタミナのあるサマリーは健闘していたが、その距離はだんだんとまり、捕まるのは時間の問題だった。

「おおおお、お母様、お父様、ユニコをお助けください! あ、ああっ!?」

僅かに気を逸らした瞬間、木のに足を引っ掛けたサマリーのは走っていた勢いのまま一瞬、宙に浮く。そのまま地面に倒れ込んで一巻の終わり――となる直前に。

辛うじて間に合った俺はサマリーをかっ攫い、彼を抱えて駆け出した。

「おい、大丈夫か!?」

「うーん、ママ、パパ……はっ! わわ、わたくしは? スライムに溶かされるのは嫌ですわ~!」

「しっかりしろ! 俺だよ、レイ・ヴィーンだ」

「はえ? あ、あなたは……! ハッ!」

俺に抱えられながらきょろきょろと周囲を見回し、サマリーはようやく狀況を察したらしかった。勢が辛そうだったので一旦俺は足を止め、彼を背負う形に変える。背中にらかいものが當たる覚がしたがそんなことを気にしている場合ではない、スライムのスピードは魔科學兵の俺よりは遅いが悠長にしている暇はなく、すぐに俺はまた駆け出した。

森の中を走りながらサマリーに尋ねる。

「いったい何があったんだ? あのスライムはなんなんだ」

「あ、あれは學園で貯蔵されてるスライムに、わたくしが改良を加えた『選択式可溶スライム』ですわ! なんでも溶かす質を持ちつつも表面に選択的を持たせ、現実的な『なんでも溶かす』を実現したわたくしの傑作なんですのよ! オーッホッホッホ!」

「耳元で高笑いするな! なんでそんなもん作ったんだ!」

「わたくしの學と技で持って作られたあのスライムを見せればあなたもわたくしの凄さを認識し、ダイヤモンド寮に來て下さるかと。どうです? 凄いでしょう? これぞわたくしの実力なのです、褒めてくださってもよくてよ?」

「そんなこと言っている場合か! どう見ても暴走してんだろ!」

「ちょ、ちょっと大きくし過ぎましたわね! 鶏を用意してたんですがそれでタンパク質が足りなかったらしく、わたくしを吸収しようとしてるのでしょう……たた、助けてくださいましぃ!」

「今頃慌てんな!」

どこか抜けたことがあるお嬢様とは思っていたが、ここまでとは。俺は背後から近づく怪の気配をしかとじながら、サマリーを背負ったまま逃げ続ける。

だがサマリーも、何も考えず逃げっていたわけではないようだった。

「くそっ、せめて先生たちが來てくれれば……なんでこんな學園の真逆に逃げたんだよ!」

「だ、だって、學園の方に逃げたら皆様に迷がかかります! 校舎も無事では済みませんわ! それで咄嗟に學園と真逆に……」

俺はサマリーの言葉を意外に思った。高飛車で傍若無人なお嬢様かと思いきや、案外他のことも考えているようだ。いやそもそもこんなスライムを作った時點で思慮が足りないのは間違いはないのだが――とにかく、逃げ続けていてもらちが明かない。

「おいサマリー! あのスライムに、なにか弱點はないのか!」

「えっと、えっと、えっと……あっ、そ、そうですわ! あ、あのスライムは90%以上が水でできています、ですからあれを一瞬で蒸発させられるくらいの火力があれば……ああでもそんなことができるのは學園長か一部の先生くらいですわー!」

「火か……」

俺は走りながら自分のに問いかける。この魔科學兵の実力は未知數、大抵のことはできるだが、ここでの決斷の誤りは生死を左右する。

――魔科學兵は、俺に答えを教えてくれた。

「……信じるぞ、兄貴!」

俺は走るのをやめ、騒ぎ立てるサマリーを背から下ろした。

「どどど、どうするのです? まさかあなた……」

「離れてろ! 巻き込まれるぞ!」

「危険です! いくら特待生のあなたでも、あのスライムに1人で立ち向かうなんて……!」

「いいから、俺の後ろに隠れているんだ……來たぞ!」

森の木々を溶かしつくしながら、の怪は俺の目の前に現れた。ひっと聲を上げ、サマリーは俺の後ろに隠れる。一直線に彼を狙うスライムはそのまま俺へと突っ込んでくる。

俺は両手を前に突き出し、魔力を解き放った。

「『焼卻』ッ!」

瞬間。

業火と閃が俺の手から放たれ、スライムを飲み込んだ。は周囲の全てを白く染め、火による熱風はを焼かんばかり。おそらくは魔科學兵の俺だけが、その大発の中、スライムが跡形もなく蒸発し、消えていくのを見ていた。

発は本當に一瞬だった。瞬きほどの間の後、スライムはもうそこにはおらず、発によりえぐられた地面と僅かに焼け焦げた木々が殘っているばかりだった。

「……ふうっ」

俺は自分で放った火力に軽くビビりつつもぱんぱんと手を払い、一件落著に安堵したのだった。

――その後ろで、サマリーは俺をじっと見つめていた。

しばらくして、サマリーはレイに連れられて學園に戻ってきた。

「サマリー様!」

「ご無事ですかー!」

「心配してましたよー!」

レイが他の生徒たちに囲まれる中、サマリーは取り巻きの3人組にまず迎えられた。

だがサマリーは彼たちに返事もせずに考え込んでいた。

「サマリー様?」

「どうしました?」

「やっぱりお怪我を?」

取り巻きたちが尋ねるのにも気付かずにサマリーは考え込んでいる。彼を気にする他の生徒たちも目にっていなかった。

「レイ・ヴィーン……」

の脳裏に強く焼き付いたのは、その後姿だった。風に銀髪をなびかせ、危険を顧みず、確かな実力を持って自を守ってくれたその背中。その後、ゆっくりと振り返り、もう大丈夫だと言いながら微笑んだその顔を――サマリーは、忘れられなかった。

「ふ、ふ、ふふふふっ! レイ・ヴィーン! やはりわたくしの目に間違いはありませんでした! 絶っ対に、わたくしのものにしてみせますわー!」

「サマリー様ー!」

「たくましいですー!」

「でも先生方カンカンですよー!」

「わかってます! まずはお叱りをけに行ってきますわ!」

ユニコ・サマリーは改めて謎の特待生のことを理解する。そして意気揚々と先生の下に向かい、こってりと絞られた上に一週間のトイレ掃除を命じられたのだった。

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