《魔法兵にされたので學園にります ~俺は最強の魔兵~》第8話 お風呂回

不可抗力である。

とにかく、不可抗力である。

だからいいのだ。仕方がないのだ。

魔法學園の浴場に、男の俺が混ざっているのも。

「レイ、らないと風邪引くよ?」

セイナの聲で現実逃避していた俺は現実に引き戻される。目を開けた先にあるのは天國。

大理石で作られた広い広い大浴場、そこでは大勢の生徒たちが談笑しながら浴していた。

そう、俺は寮の浴場にやってきていたのだ。ある意味當然だがサブリナ魔法學園に男湯などない。髪を濡らさないようにまとめた俺はタオル1枚だけをにまとい、そのだけの空間で呆然と立ち盡くしていた。

「わ、わかった。わかってるって」

葛藤の後に場で服をいで浴場に踏み込んだ今でさえ俺はためらいがあった。もちろん俺も男だ、湯という夢の空間に踏みることに幸福をじないでもない。だが実際に直面してみると申し訳ないやらバレた時が怖いやらで直視できないでいた。

しかしながら今日はドラゴン退治にスライム騒と暴れまわりが汚れており、魔科學兵には自洗浄機能もあったが、あれだけ暴れて浴しないのでは他の生徒から怪しまれるだろうとセイナも言っていた。今後も続く學園生活のことを考えると、これは避けては通れない試練なのだ。

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「不可抗力……不可抗力……」

セイナに付き添われ、ぶつぶつ言いながら俺は浴槽へと向かっていく。極力下を見るようにしたが、それでも自分のが目にるので、結局半目で歩くという謎の行に出てしまった。

だがその時。

「すきありっ!」

見知らぬ聲が聞こえたかと思うと、俺はいきなり、背後からを鷲づかみにされた。

「ひゃあっ!?」

あまりにも突然のことで、俺はまるで子のような聲を出してしまった。思わず口を抑えた俺は、今出した聲とまれているという事実を混しつつ認識し、恥ずかしさでけなくなる。

そんな俺の様子など気にも留めず、背後の子は俺のみしだいていた。

「んーっ、ナイスコンタクト……B……いや、Cあるな……」

「あっ、や、やめ……んんっ」

「へえ、Cあるんだぁ」

セイナも止めてくれず、まれる俺のことを橫からじっと見つめていた。なぜか彼まで楽しそうだった。

「っと、ファーストコンタクトでやり過ぎてもアレだよね」

謎めいた言葉をはきつつ謎のみ魔は俺から離れる。俺は自分のを抑え顔を真っ赤にしながら振り返った。そこには手を明らかになにかむ形に構えた、黃の髪の子が満足げな笑みで立っていた。

「新りさん、グッドコンタクト! あたしはビルカ・ハラミー! 気軽にビルカちゃんって呼んでね! これからもいいコンタクト期待してるよっ!」

セクハラビルカはそのままうきうきと去っていった。だが直後、折檻役と思しき別の生徒に頭をはたかれ、浴槽に叩きこまれていたが。

「セ、セイナ! な、なんなんだ、あれは」

「ビルカちゃんはの子のお山が大好きなんだって。あたしも何度やられたことか……」

「なんで止めてくれなかったんだ! 俺はもう死ぬかと思った……」

「だってレイ、かわいかったから……」

セイナはなぜかビルカ以上に満足げな顔でほくほくと笑っていた。こういう奴だっただろうか? 俺は首を傾げた。

しかしこの出來事で俺の張もうやむやになり、結果的にはビルカの助けがあって、俺は浴場にっていけたのだった。

「へーっ、じゃあセイナとレイはずっと昔からの馴染なんだ!」

「うん、昔からお風呂もいっしょにってたんだ」

「あらあ、仲がいいのねえ」

「ま、まあ、な」

浴槽に肩までつかり、セイナと共に隣に並んだ寮生たちと會話する。話しているのは今日廊下ですれ違ったセイナの友人だったが、まさかで再會するとは思わなかった。

「レイは今日すごかったよな! ヘルガフ先生のドラゴンをばーってやってドーンってやっていぇーいって!」

「おみそれするわあ。でもなんでそんなに強いのに、セイナちゃんといっしょにここにらなかったのかしら」

「あ、それは、その……」

「レイの家はお金がなくて、學校にはいけないと思ってたの。特待生のシステムを知ったのはこっちに來てからだったからね」

「なるほどねえ」

張でしどろもどろになりがちな俺をセイナは見事にフォローしてくれる。さっきはまれる俺を靜観していたというのに現金な奴である。

その後、2人は先にを洗うと言って離れていき、俺はやっと息をつけた。

「はあ。絶対にバレないとはわかってるんだが、やっぱり張するな……」

「シルフィちゃんに至っては何も隠してないからねえ」

「セイナはいいのか、俺みたいなのに友達をさらして」

「事が事だし。大丈夫、いざって時は私もレイと一緒に罰をけるよ。たぶん一部の過激な子以外は許してくれるだろうし、過激な子も半殺しでなんとか……あるいは手足の一本……」

騒すぎる」

俺らは冗談じりで話していたが、その時ふと、セイナは表に影を落とした。そして他の生徒に聞こえないよう俺にを近づける。セイナのが俺のれ合い、こいつこんなに長していたんだなといつの間にかした馴染に俺は戸いつつも嬉しく思い――などという思考は、セイナの問いかけたことに一瞬で吹き飛んでしまった。

「ねえレイ。思ったんだけどさ、レイって元のに戻れるのかな?」

「え?」

「もしもみんなにバレるとしたら、って考えてみたんだよ。たぶん今のはバレることはないと思うから、みんなにバレるならレイが元のに戻って、男だってバレた時のはず。だけどふと思ったの。本當に元に戻れるのかな、って」

「それは……」

俺は言葉に詰まった。それは心のどこかで気にしていたが深く考えていなかったこと、いや考えようとせず逃げていたことだった。

浴槽の水面に移る魔科學兵の姿。俺の本當の顔とは似ても似つかないの顔、細い手足、、そして――。どこにも俺の面影のないには、さらに魔科學兵の未知の能力がこれでもかと詰められている。いったい人間のをどう改造すればこれが出來上がるのか俺には想像もできない。そしてその逆――このをどうすれば、元の俺に戻れるのかも。

俺は永遠に戻れないんじゃあないか。

その疑問に、俺は改めて直面した。

「ま、考えても仕方ないさ。いざとなったらあの兄貴をとっ捕まえて、ぶん毆ってでも戻させてやる」

「そうだね! 私も本で調べたりしてみるから、絶対に戻ろうねっ!」

唐突にセイナは立ち上がり、大きな聲で言ったので浴場の視線が彼に集まる。慌ててセイナはごまかして恥ずかしそうに浴槽に沈んでいった。いつになく熱意のある聲だったので俺もし面食らった。セイナの奴、そんなに俺を戻したいのだろうか? まあ協力してくれるのはありがたいことだが……

ともあれ、元に戻ることを考えるより先にこの學園に慣れなくてはと俺は思っていた。遠い未來のことより次の一日、俺はそれをクリアしていかなきゃならない。まずは未だに俺のことをじっと見つめて狙っている、セクハラビルカのことをなんとかしなければならないようだった。

セイナは思っていた。一生ずっとレイがの子のままなんて嫌だ、と。

今のレイはたしかにかわいい。レイだと思えばの子でもいけなくはないセイナである。だがやっぱりの先の結婚やら何やらを考えると、魔科學兵のままではあんまりだ。だからレイは絶対にもとに戻さなくちゃならない。

……そうでもなければ、ど田舎育ったために異の友人といえば老人ばかりで、出會いのない學園で青春を送るセイナには、百合の未來しか待っていないのだ。

當事者のレイとは別の意味で切実な事態のセイナ・セントールは、浴槽の中、やたらときれいな馴染のに決意を固めるのだった。

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