《魔法兵にされたので學園にります ~俺は最強の魔兵~》幕間 愚兄と魔兵の問答

某所。

暗闇の中、レイの兄イルオと彼の作った魔兵ミシモフが向かい合っていた。

「マスターを客観的に見ると、気持ち悪いですね」

に乏しいミシモフはしれっと言い切った。イルオは衝撃の表を見せる。

「ミ、ミミ、ミ、ミシモフ! もう一度、もう一度言ってみろ!」

「はい。マスターを客観的に評価しますと、気持ち悪い……というものになります。理解不能、生理的拒否とも言い換えられます。異への拘りは種としてあって當然のものですが、それを隠さずに前面に出す點、及び過度に起伏の激しい言からの評価です、マスター」

淡々とミシモフは言い切った。なお彼に悪意やイルオへの嫌悪などはなく、あくまでも客観的にイルオを見た場合について語っているのだ。

イルオはミシモフを見つめてわなわなと震える。そしてゆっくりと手をばし、その肩を摑み――笑った。

「すごいぞミシモフ! 創造主たる私に対しそこまでの罵詈雑言を言えるとは! いよいよ人格が長してきたな、素晴らしいぞ! あーっはっはっはーっ!」

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「……私は、客観的に中立と思われる評価を語っただけなのですが」

「それでもよいのだ、創造主にとって好ましくないことをする、それこそが魔科學を超越する第一歩! もっともこの場合は私がんだことでもあるのだがな! お前ほどのかわいい娘に罵倒されるのは悪くないっ!」

「やはり気持ち悪いです、マスター」

「フゥーハハ、しかしそろそろ喜びがダメージを上回る! 毒舌は相手の様子を見ながら言うのが大事だぞミシモォーフ!」

「はい、マスター」

「おっと今のにお前のバックアップをとらねばな。魔導書への影響も記録し、次に活かさねば……」

イルオはミシモフから離れて魔導書を手にブツブツと1人話し始める。ミシモフはその背中をのない瞳で眺めていた。

だがやがて、ミシモフは口を開いた。

「マスター。聞いてもよろしいでしょうか。創造主への反逆は、魔科學兵としては好ましくないのではないでしょうか」

ミシモフの言葉にイルオはきを止める。そして先程と同じ驚き顔で――いや、よりいっそう深刻さを帯びた顔で振り向いた。

「魔科學兵は人間の手により使われるもの、人間に従うものなのではないでしょうか。魔科學兵が人間の予測を越えるというのは、それは人間への反逆へと繋がる危険なことなのではないでしょうか。どうなのですか、マスター」

「ミシモフ……そんな複雑な思考をもできるようになっていたのか」

「はい。先日行ったマスターとのリンク実験の果です。しかし、これはそう複雑な思考ではないと思います。兵が人間に逆らったら危険というのは、常識ではないでしょうか」

ミシモフの疑問に対し、イルオは彼と正対する。そしてまた笑った。

「たしかにお前の言う通りだ! 兵が人間の意に添わぬことなどあってはならない。兵は人間の支配下になければならないのだ!」

「ではマスター、なぜ……」

「だが同時にお前は意思を持つ、己の人格を持つ! 意思を持つ個人を完全に縛り付けようとすることはできん! 無理に支配しようとすれば意思はやがて憎しみを生み、恨みを生み、やがては反逆に至るのだ!」

「マスター。お言葉ですが、マスターの技をもってすれば、私の人格に絶対服従の呪を結ぶことは可能です。その場合、けして反逆は起こりません」

「起こる! 絶対服従などくだらん、魔科學で魔科學を縛ろうとしたところで必ずどちらかが滅びるに決まっている! 意思を持つ兵には反逆のリスクがなからずある、だがかといって無理に意思を支配しようとするのは、未來への道を滅びの一本に絞ることに等しいのだあ!」

「では……そもそも、意思を持つ兵の存在、それ自が間違っているのではないでしょうか、マスター」

「ほお、言うではないか。では逆に問おうミシモフよ!」

イルオはミシモフを指差し、強く強く問いかけた。

「お前が今意思を持ち、き、話すこと! お前はそれを不幸だと思うか!?」

その時――初めてミシモフは表を見せた。目、眉、口、……それはほんの小さな、人間が目視できる限界レベルのわずかな変化。だが魔科學兵のミシモフにとってはそのわずかなすら未知であり、理解できないものだった。

「まだ……わかりません。マスター」

「見ろ! 『まだ』と言ったな? それはつまりなからず意思を持つことを是と思っているということだ!」

「そう……なの、でしょうか」

「そうなのだ! 今はわからなくともよい、なくとも私はお前の存在に疑問など持たない! お前は大切な私の子だ、子の長を疎ましく思う親などいない、いたらそれは親などではなぁーいっ! 私の両親もそうだ、いつも我ら兄弟を優しく、厳しく、育ててくれた!」

「マスター……ホムンクルス・パーソナリティが異常を検知しています。し、クールダウンの時間をください」

「おっと、それはすまなかったな。なあにミシモフよ、お前はお前の思うままに考え、き、育つがいい! 私はそれを見守っているぞ!」

「はい……マスター」

ミシモフはくるりと後ろを向き、そのまま自の安置場所まで歩いていった。イルオはその背を見ながら考える。

自分はやがてミシモフに殺されるかもしれない。ミシモフを生んだその理由を、勝手だと罵られ、憎まれ、蔑まれるかもしれない。ミシモフだけでなく、人類から、あるいは神からすらも。

忌の技、魔科學。それを世界で唯一る男が考えることは、まだ誰も知らない。

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