《魔法兵にされたので學園にります ~俺は最強の魔兵~》第12話 學園の歴史、オニキスの真意、そして

深夜、俺はアクアマリン寮の自室に戻った。

あまり眠る気にもなれず、かといって深夜の寮で燈をつけるわけにもいかないので、真っ暗闇の中ベッドに座り、先程までのことについて考えを巡らせてみる。

オニキス寮での出來事――信じがたい真実について。

オニキス寮の指導者としての、黒ローブ姿のラルプリム學園長は、寮である地下空の中心にあった謎の鉱の前に俺を連れていった。

他のオニキス寮生たちに囲まれたまま、俺は學園長の橫で鉱を見上げる。足元から天井まで、地下の空間にでんと置かれたその鉱石は真っ黒なに幾重に巻かれた鎖、札、杖などと明らかに異様な見た目をしている。

「この石。ただの石ではないことはお分かりだと思います」

學園長は石を見上げて言った。俺も頷く。

「見た目もそうですが、全の魔力も奇妙というか……異質なじです。他にじたことがないので、比べようがない」

「その通りです。そしてこの石こそがオニキス寮が生まれた切っ掛け……いえ、この學園そのものの幹でもあるのですよ」

學園の幹? 俺が聞き返すと、學園長ははいと頷く。その表は真剣で、俺を騙すために適當を言っているようには見えなかった。

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「サブリナ魔法學園は創立320年。ですがその発祥の歴史を語るならば千五百年前にまで遡らなくてはなりません」

「千五百年前……!?」

「はい。正確な文獻は殘されておらず、曖昧な報でしかないのですがどうかお聞きください」

學園長は鉱石を見つめたまま話す。その聲は努めてを殺しているようで、俺には恐怖すら混ざっているような気もしていた。

「この石は『封印』です。千五百年前、當時は荒野であったこの場所に施された封印……恐るべき、何かを封じ込めています」

「何か、とは」

「それはわかりません。とにかく恐ろしい、封印するべき何かと伝えられています」

「早速曖昧な話ですね、それは」

「ごめんなさい。しかし文獻には封印されたものについてこう記されています。『封印が解かれた時、世界は滅亡の道を辿る』……」

世界が滅亡。うさんくさい話だ。だが學園長はさらにこう続けた。

「別の書籍にはこうとも……『人類は滅び去り、世界に救いがもたらされる』」

人類が滅ぶことで救い? 理解できず俺は學園長に問いかける。學園長は靜かに目を閉じ、悲しげに眉をひそめた。

「千年以上前の書籍です、その記述をどこまで信じればよいか、またいかなる思想を持って書かれたかわかりません。ですが當時戦爭があったことは多くの歴史書が伝えています、そういったことから人間の悪意や愚かしさを指摘しているのかもしれません」

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「まあ、封印しているということはわかりました。しかしそれとサブリナ魔法學園にはなんの関係が?」

「はい」

學園長はまた語る。考え込むことも、俺の表を伺うこともなく、まるで決められていたことをなぞるかのように。

「実は封印は完璧ではなかったのです。當時の魔法技のためか、あるいは封印したものがあまりに強大だったためか……封印を持続させるためには、継続して魔力を與える必要があったのです。そこで當時の者たちは、封印の石を魔力の蓄積しやすい地中に埋め、その上に魔師の修練場を作りました。封印のことを不要に外部にらさず、かつ封印に魔力を與え続けるため……」

俺にも話が読めてきた。封印を守るべく魔力を送り続ける、そのために作られた魔師の修練場。千五百年前のこの地がそうだったとするならば。

「その修練場というのが、サブリナ魔法學園の前……というわけですか」

「その通りです。封印から千と二百年が経ち、封印の存在自が忘れ去られ始めた頃。修練場にはほとんど人も訪れなくなりました。それを危懼した封印を知る數ない人々は新たな魔力供給の場として、當時各地に作られ始めていた魔法學校に目を付けたのです。子供とはいえ魔師の卵、十分な人數が集まれば封印に魔力供給ができますからね」

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封印へ魔力を供給するために、大勢の魔師を集めた魔法學校が作られた。それがサブリナ魔法學園のり立ちということだ。

「ちなみに學校にしたのは當時他に學校がなく、生徒を集めやすいと考えたためです。封印の維持も大事ですが學校経営も大事ですからね」

ラルプリム學園長は俺の方に顔を向け冗談めかして笑みを見せたが、俺はまったく笑えなかった。

「だいたい話はわかりましたが……到底、信じられませんよ。昔々に恐ろしいものを封印して、それを維持するために學校ができて……突飛すぎて」

「それが通常でしょう、なにせ文獻もほとんどない、私とて學園の関係者たちから聞いただけの話ですから。ですがこの封印の巖を前にすれば、多は違うのではないでしょうか?」

學園長はまたあの鉱石を指す。魔科學兵に異質な魔力を伝えるその石の存在はたしかに『なにか恐ろしいもの』が中にあるようにも思える。

しかし俺はそれで丸め込まれるわけにはいかない、と學園長を見つめ返した。その優しい口調、俺をれるような態度、そこにかえって怪しさをじていたからだ。

というより學園の地下で、黒いローブでを隠し、大勢の生徒を先導して、封印の石に魔力を注がせるようなことをしているのを目撃した以上、信用できるわけがなかった。

「それで、まさかオニキス寮はその封印を破ろうとしているのですか? 先ほど言った、人類を滅ぼして世界を救うという目的のために……!」

揺さぶりを兼ねて學園長に問う。だが學園長は穏やかに微笑んだ。

「そうだとすればここであなたに話したりはしませんよ。私たちはその逆です、封印を維持するために、封印により近い場所で日夜魔力を送っているのです。実はこの封印の石の封印は……永い年數を経て、劣化しています。魔力の供給が地上の學園生活だけでは足りなくなりつつあり、そのままでは封印が解けてしまいかねません。そこで私は數年前からこのオニキス寮を組織し、封印を維持するために活しているのです」

これといってじることなく語る學園長だが俺の疑問は盡きない。

「……じゃあなんでこんなやり方を? 正しいことをやっているなら表立ってやればいいじゃあないですか」

「それはいけません、世界を滅ぼすような存在が封印されてることが知られれば余計な混を引き起こします。特に學園に生徒を預ける親に知られれば學園に生徒がいなくなり、封印が解けるという事態になりかねません。學園の資金の大部分を擔うダイヤモンド寮の方々は特に、です。もっとも本當に封印が解かれれば人類全の危機なので、學園にいようがいまいが関係はないですけどね」

學園を思う學園長としての顔と、封印を守るオニキスの面影を同時に覗かせる學園長。俺はその雰囲気に呑まれまいと疑問を投げつけ続ける。

「だからって怪しすぎるでしょう。學園長ともあろうものが、こんなアウトローな寮の中心人だなんて……」

「ふふふ、オニキス寮がアウトローならば、そのローを決めたのは私ですよ。オニキス寮は學園の闇と呼ばれるからこそよいのです。考えてもみてください、世界を滅ぼすものが學園の地下にあるという噂が學園に広まれば問題になりかねませんが……その噂の出どころがオニキス寮ならばどうでしょうか?」

「……なるほど」

『世界を滅ぼす』などという噂が、學園の闇と呼ばれるオニキス寮から出たら? そんなもの、信じられるわけがない。まさにカルト宗教そのものの言い分で、オニキス寮にれるための妄言だと思うだろう。

「學園も、生徒も、封印も、いずれも守らなければならないのです。オニキス寮はそのためのいわば悪役なのです。ここにいる生徒の皆さんには苦労をかけていますけど、その働きはなくてはならないものなのです」

「しかしやり方が強引すぎます。真偽も不確かな封印のために、生徒を脅迫したり拉致したり……俺もおたくのグリズリー姉妹に薬で拉致されそうになったんですよ? 生徒會長は大切な寫真を盜まれて強要されてましたし」

「え?」

俺は強めに問い詰めたが、學園長は予想していた反応と違ってきょとんと目を丸くした。そして後ろに並ぶ生徒たちに視線を移すと、そこにじっていた當のメアとミアの貓姉妹がギクッといったじでを震わせた。

「それは初耳ですね……メアさん、ミアさん、本當ですか?」

「そ、それはその……特待生も生徒會長も莫大な魔力の持ち主だから、無理をしてでもオニキス寮にれるべきだと思って……」

「オニキス寮のことを思ってのことなのニャア! 許してニャ~!」

はあ、と學園長はため息をつく。そういった仕草は平時の學園長そのものだった。

「2人はあとで折檻しておきます。迷をかけたようでごめんなさい、使命のことを思うあまり暴走しがちな生徒もいまして……その點は謝罪します。ですがヴィーンさん、どうかオニキス寮のことを誤解なさらないでくださいね」

學園長は今一度俺の目をじっと見據えた。その真剣な瞳が俺を吸い込まんばかりだ。

「私が今夜話したこと、學園長の名とオニキスに誓って偽りはありません。今急にオニキス寮にれとは言いませんが……メアさんたちが言った通り、あなたほどの魔力の持ち主がオニキス寮に賛同してくれれば私たちもとても心強いのです」

ぜひ考えてみてくださいね。學園長はそう言って笑い、その夜の話はそれで終わった。

自室のベッドに橫になり、俺は考える。

俺の兄イルオが俺を魔科學兵に改造した時に言っていた。

『古に封印されていた大魔王が復活した』、と。そして自はその傘下にり、魔王軍の軍事力とするために俺を魔科學兵にした、とも。その企ては頭がいいわりにバカな兄が俺を洗脳し忘れたおかげで頓挫し、以降は忘れていたつもりだった。

田舎から出てこの學園に來ても魔王の話はまったく聞かない。魔王とは実は兄が適當を言ったのか妄想にとりつかれていたのか、いずれにしても勇者なりなんなりが解決する話で俺には関係ないと思っていた。

だが――封印という話、學園長の話と被るところがある。さらにいえば『古に封印された力』というのは、魔科學兵がそのものだ。

「……とにかく、あいつにもう一度會わなくっちゃあな」

俺はそう決意を固めた。そうだ、兄に再び會わなくてはならない。封印とやらの話もそうだし、俺を元のに戻す方法も聞きたいところだ。

そうと決めた俺は目を閉じ、神を集中させた。それまで何度もやったのと同じように魔科學兵に俺の意思を與えて、その機能を働かせるのだ。兄がどこにいるのかはわからないが、魔科學兵の索敵能力で居場所を突き止める算段だった。

そしてやがて俺の心の中に、聲が響いた。

『はっはっは! レイよ! この兄の居場所を探ろうとしたな!? 悪いがそれはじさせてもらうぞ、お前の力で襲い掛かられては困るのでな! 代わりに私の歌を送ろう! ラ~ら~LA~っ!』

俺は慌てて起き上がり、思わず耳を塞いだ。念じることをやめたら兄の聲はすぐにやんだが、あの耳障りな聲はしばらく俺の脳裏に留まって不快を與え続けた。

なんて悪趣味な罠をしかけやがる、あの兄は。毒づいた後にため息をつく、さすがにあのバカでも対策はしていたか、これで手がかりなし、またなんとかしなくちゃな――兄に呆れながら橫になった。

だが直後、はたと気付く。あの兄は魔科學兵になった俺の洗脳を『し忘れた』と言っていた、だが。

居場所の探知を封じる罠を俺のに仕込んでいたならば、反抗を防ぎ従わせる機能も取り付けられたはずだ。

いくらあの兄でもそんな中途半端な忘れ方をするとは思えない、いやそもそもあのアホそのものな言わされていたが、洗脳をただ忘れただけというのも怪しすぎる。

「まさか、わざと洗脳しなかった? いやそれで奴になんの得が……?」

俺を魔科學兵に改造するだけ改造して、放置した。なぜ? 今はまだわからない。

だが俺は改めて決意した。必ずや兄にもう一度、會わねばならない。

その真意を問うために。

……ただ正直さっきの聲を思い出すと、あまり會いたくはなかったが。

「ま……もういい加減、寢ようかな……」

俺はようやくベッドに橫になり、眠りにつく勢にる。魔科學兵は人間とまったく同じように睡眠がとれるのだ。

今晩はし衝撃的な出來事が多すぎた。そもそもこんな冒険をするつもりはなかったのだ、だがちょっとオニキス寮のことを気にしたら、魔科學兵が勝手にその居場所を調べて見つけてしまい、それが気になって眠れなくなって……

「俺の意思でいてくれるのはいいが……もうし……制しなくちゃ、な……」

々なことを考えつつもそのことに疲れ、俺の意識は睡魔に呑み込まれていった。

その夜、俺は夢の中で聲を聞いた。

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