《魔法兵にされたので學園にります ~俺は最強の魔兵~》第14話 激突、ガーベラ・ローズマリー

レイへの悪質な嫌がらせを行ったダイヤモンド寮のガーベラ・ローズマリー。

友人を侮辱され怒りのシルリアと従者2人を引き連れたガーベラ。有力な両生徒が今、ダイヤモンド寮のガーベラ自室で激突する。

「はああああああ……ッ!」

シルリアの全に魔力が滾る。彼の足元が一瞬にして凍り付く。氷が走るかのように次々に床が凍り付いていき、ガーベラへと迫った。

だがガーベラは慌てることなくニヤリと笑う。

「マーサ!」

「はいっ」

シルリアとガーベラの間に従者の1人マーサがると、彼は白手袋で覆われた両手で氷にれた。するとれたそばから氷が水となって溶けていく。

「マーサの手袋は我がローズマリー社製の魔法道! れた水分を一瞬にして沸騰させてしまうのよ、氷だって例外じゃないわ! これであんたにれればの水分が沸騰して一瞬でぐちゃぐちゃ、かつ大火傷で苦しみ続けるのよ!」

ガーベラの家は魔法道の制作で知られる大富豪なのだ。魔法陣が刻まれたマーサの手袋でれられた、先程まで氷だった水は湯気すら立てていた。

それを見てシルリアが一瞬怯んだのをガーベラは見逃さなかった。

「メラニア!」

「はっ!」

すかさずもう1人の従者メラニアが両手をシルリアに向けた。

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「來ますか、ならばそちらから……!」

迎撃のためにシルリアが魔力をメラニアに向けようとしたその時。

「きゃっ!?」

シルリアはいきなり両手を大の字に広げられ、見えない手で拘束されてしまった。ガーベラたちは勝ち誇って笑う。

「メラニアもお父様の魔法道を持っているのよ、効果は理魔法の遠隔化プラス分散! どう、いかにあんたでも手も足も出ないでしょう!」

「……手足など、かずとも……っ!」

シルリアはガーベラを強く睨みつける。冷たい魔力が渦巻き、シルリアの氷魔法がガーベラを襲いにかかる。

だがその時、ついにガーベラ自いた。

「私は私自の魔法であんたを仕留めてやる! 『魔流支配』の法……ッ!」

ガーベラは両手をシルリアに向ける。すると得の知れない紫の魔力が彼から放たれ、シルリアがっていたはずの氷魔法の魔力がかき消されてしまった。両手足を拘束されたまま、シルリアが驚愕に目を見開き、対照的にガーベラはいっそういやらしく笑った。

「ねえ生徒會長サマ、授業でお習いになりましたわよねぇ? ほぼすべての魔法は仕組みとして者からの魔力がいわば命令のように放たれ、それが対象に屆き始めて効果を示すと! 『魔流支配』はその命令の役目を持つ魔力を直接封じる高等魔! 學園の真の支配者たる私にふさわしい能力でしょう? 」

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「く……ならば、魔力を曲げて!」

命令の魔力は通常一直線だが曲げることもできる、『魔流支配』などに対抗するための技だ。だが。

「授業で學んだことご丁寧におさらいしてんじゃあねェよ『優等生』ッ! 無駄だよォッ!」

ガーベラはを捻り腕を振るい、その邪悪なの魔力を歪曲させて繰り出した。紫の魔法は線となって顕現し、シルリアの周囲で狂ったように踴りまわる。そしてそれによりシルリアがまとっていた冷気は、完全に消えてしまった。

「フン、所詮あんたはトパーズ寮……知恵の名の下に無能を隠す頭でっかち! テストでいい點とって先生にびて生徒會長になったあんたには妥當だけどね。だけど真に學園の長たるのはダイヤモンド寮……いえ、このガーベラ・ローズマリーただ1人! あっはははははっ!」

「う、くっ……!」

きすることも魔法を使うこともできず、シルリアは悔しさにを噛む。シルリアは高い魔力と富な知識を持つ、しかしそれはあくまでも學生としての優秀さであり萬能ではない――ガーベラの魔法に対抗するを彼は知らなかった。

両手足を大の字に引き延ばされたままのシルリアに近づくと、ガーベラはその頬をなでて笑った。

「さあてどうしてやろうかしら……服を剝いでトイレにくくりつけておこうか? それとも反省って意味で丸坊主にでもするか……いや、もっといいことがあるわ。マーサ!」

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「はい」

ガーベラの呼びかけに応じ、魔法道の手袋――れたものを沸騰させる手袋をつけたマーサがシルリアに近づく。ガーベラの意図を察しシルリアからの気が引いた。

するシルリアを見てガーベラはまた、笑う。

「あんたのその顔を沸騰させてやるわ! 眼球がドロドロに煮えたぎって湯気を吐いて、顔全はもうぐちゃぐちゃ。口の中のツバが熱湯になって臓まで焼ける苦痛! そしてあんたの顔は二目と見られないゾンビみたいになる! 最高ね」

ガーベラがシルリアから離れ、代わりにマーサが手を掲げて近づいてくる。ガーベラの命令に従うだけのマーサは何のためらいもなくシルリアの顔にその魔の手をばした。恐怖し、絶したシルリアは震えながら目を閉じた。

――俺が到著したのはその時だった。

俺はダイヤモンド寮の階段を駆け上がり、ガーベラの部屋に飛び込んだ。俺を見て驚くガーベラ一味、その隙にすかさず俺はシルリアの前に回り込む。

「このっ!」

「あっ!?」

シルリアを襲おうとしていた手下の1人を魔兵のパワーの半分ほどで突き飛ばす。狙う先はシルリアに魔法を送り続けているもう1人の手下だ。

「ぐえっ!?」

手下2人はぶつかり合いもんどりうって倒れた。するとそれまで魔法で拘束されていたらしいシルリアが解放され倒れかけたので俺は慌てて支えた。

「ううっ……」

「シルリア、大丈夫か!?」

シルリアは恐る恐るといった様子で目を開ける。そして俺の顔を見て驚いた様子だった。

「レイさん……どうしてここが」

「話は聞いた。あのガーベラたちが一連の嫌がらせの犯人らしいな。シルリア、お前が解決してくれようとしたのか」

「……ええ。でもごめんなさい、油斷したわ」

シルリアもすぐに立ち上がり、俺たちは並んでガーベラを睨みつけた。わなわなと震え、ガーベラは怒號を響かせる。俺がってきた時にドアを開けっぱなしにしていたことにも気付かずに――すでにこいつは敗けているのだ。

「く、クソっ、特待生! あんたまで來るとはね! 形勢逆転のつもり? ふざけてんじゃあないわッ! いいわ、何人いようと同じこと! 私の、この私の力でぶちのめしてやるッ! マーサ、メラニア、いつまでも寢てんじゃあないわッ!」

ガーベラの聲に応じ従者たちは辛うじて起き上がり俺たちに襲い掛かる構えを見せた。

「シルリア、ここは俺に任せてくれ」

「レイさん、しかしいくらあなたでも1人では……」

俺のを案じるシルリア。しかし俺も退く気はなかった。

俺へのあんな嫌がらせをしただけじゃあなく、シルリアにまで手を掛けた。その下劣な本を間近にして、俺は俺を抑えられるわけがなかったのだ。

「やらせてくれ。でなきゃ、俺も怒りが収まらない……!」

シルリアをそっと後ろに下がらせて俺はガーベラに一歩、近づく。その瞬間、3人が一斉に襲い掛かってきた。

「たーっ!」

「フンッ!」

「沈めェッ!」

摑みにくるマーサ。全に魔力を浴びせかけてくるメラニア。そして、俺の魔力そのものを圧殺しにかかるガーベラ。

――殺したらまずいな、程度の理が殘っていたのは互いにとって幸運だったといえよう。

「うるせええええええええーーーーーーーっ!」

俺は全から魔力を解き放った。

魔科學兵による魔力発。それはとてつもない威力の衝撃波となり、俺の前面にあるものすべてを吹き飛ばした。広いな部屋にある全ての家は壁に叩きつけられ、窓は一瞬にして砕。壁の脆い部分が消し飛び、天井も一部崩壊する。

そして俺に襲い掛かろうとしていた3人も、まとめて壁に打ち付けられ、衝撃波にも耐え切れずに口から泡を吹いて意識を失った。

「……すごい。これがレイさんの本気」

「手加減はしたよ、こんな奴らでも殺すわけにはいかないもんな。とにかくこれで一件落著……」

怒りも一応晴らしこれでひと安心かと思ったその時。

「ク……ソ……ッ!」

なんと気絶していたはずのガーベラが、重なっていたマーサを押しのけて立ち上がった。どうやら俺からもっとも離れていたのと、俺を摑もうとしていたマーサが一部衝撃波を防いだらしい。

「悪運の強い奴だな。まだやる気か?」

俺と、今度はシルリアも前に出てガーベラを牽制する。しかしガーベラは何を思ったのか、ボロボロのまま目を充させて狂気じみた笑いを見せた。

「フ、フ、フ……パパに……パパに言ってやるんだから。私のパパは大富豪ローズマリーなのよ、あ、あん、あんたらなんか、一瞬で……魚のエサにしてやるわ」

「結局、親の権力頼みか。哀れなもんだなガーベラ」

俺の言葉に対し、ガーベラはなぜかより一層深く笑う。そしてあまりにも狡猾なことを言い出した。

「わかってないようねェ? 私のパパはね、このサブリナ魔法學園の出資者の1人でもあるのよ。その出資額は學園の全収の25%! 言っとくけどあんたらクズ生徒數百人分の學費を合わせても、私1人分の価値にならないのよ。私がパパに一言いえば、生徒數百人分の収がパタリと終了! それだけじゃあないわ、學園の出資者にはパパの取引先だってたくさんいる! パパに言ってそいつらにも出資をやめさせてもらうわ、つまり一瞬で學園の収なくとも80%が消えるのよ! 殘り20%で學園を維持できるわけがないッ! この學園は消える、消してやるわ! シルリア、生徒會長のあんたならわかるでしょう? この學園が消えたらどれだけの生徒が困るのか!」

シルリアは明らかに揺している様子だった。全寮制のこの學校、きっと他に行くあてのない生徒がたくさんいるのだろう、俺だってその1人だ。それにもしこの學園がなくなれば、オニキス寮が守っている『封印』も危うくなる。サブリナ魔法學園がなくなることは、この世の終わりにも等しいかもしれないのだ。

「馬鹿な真似はやめろガーベラ! そこまで腐ってたのか」

「なんとでも言いなさい、最後に笑うのはこの私! 私に逆らった大罪、泣いて悔いるがいいわ! フフ、アハハ、アーッハッハッハーッ!」

完全に発狂してしまったガーベラの高笑いを、俺らは見ているしかなかった。金の問題、裏の人間社會の問題はいくら魔科學兵を使っても解決できない。どうすればいい? 俺が必死に考えていた、その時。

「オーホッホッホッホッホッホッホッホーッ!」

ガーベラの笑い聲をよりばかでかい、そして聞き覚えのある高笑いがかき消した。驚いて後ろを見ると、そこにはあのユニコ・サマリーが立っていた。取り巻きも一緒だ。

サマリーはひとしきり笑い終わると、呆けた顔で彼を見ていたガーベラに視線を移した。

「話はよおくわかりましたわ。安心なさいませレイ様、このの思い通りにはさせません。目には目を、お金にはお金を! ですわ。ローズマリー家が出資をやめるのならば、その分をわたくしのサマリー家が負擔いたしましょう」

「はっ……」

サマリーの言葉にガーベラが狼狽する。そしてほとんど虛勢のように笑い飛ばそうとした。

「何をバカな! ローズマリー家は出資の25%をしめるのよ、協力者と合わせれば80%! それをあんたの家ひとつで……」

「サマリー家の出資は全収の33%でしてよ」

「はっ……き、聞こえなかったのかしら、ローズマリー家だけでは25%でも協力者を合わせれば……」

「おバカ丸出しですわね。わたくしの父サマリーは魔法評議會議會長を務めておりますの。出資者の皆さんも、たかだが魔法道生産會社の社長の願いよりは、わたくしの父の方を優先してくれると思いますけれど?」

「うっ……うっ……」

ガーベラは言葉に詰まり、でも、だって、しかしと聲にならない嗚咽をらし続ける。だがやがて顔面蒼白となり……

「うぅ……」

き聲を上げながら気を失い、倒れ込んだ。

「ふっ……このユニコ・サマリーに権力と財力で立ち向かうなど、おてんば娘が一角獣にれ合うようなものですわ」

「サマリー様ー!」

「かっこいいですー!」

「でもたとえよくわかりませんー!」

勝利宣言とばかりに髪をかき上げ笑うサマリーといつの間にか出てきてそれを稱える取り巻きたち。俺とシルリアはぽかんとそれを見ていた。

「さてレイ様。わたくしに、何か言うべきことがあるのではないでしょうか?」

呆けていたらふいにサマリーは俺に詰め寄ってきた。なにかわくわくにやにやとしたり顔で下から覗きこんでくる。一瞬俺は何が何やらわからなかったが、サマリーが言わんとすることはわかった。

「ああ……改めてありがとう、サマリー。お前がいなきゃどうなっていたことか」

俺が禮を言うと、サマリーは清々しいばかりのドヤ顔で笑った。

「とーっぜん、ですわ! わたくしがあなたにガーベラ様が怪しいことやシルリア様がここに來たことを伝えてダイヤモンド寮に手引きしたのです! 謝して當然ですわーっ! やりましたわ、レイ様に褒められましたわーっ!」

「サマリー様ー!」

「よかったですねー!」

「わくわくしてましたよねー!」

よくわからないことを言いながらまた取り巻きたちと盛り上がるサマリーたち。俺は苦笑しながらそれを見ていた。彼の言う通り、俺はサマリーに導かれてここまでやって來たのだ。なんでも彼もガーベラを怪しいと見積もり、俺への悪意を持っているかどうかカマをかけてみたところ、俺への悪評が広がっていることに嬉しそうな仕草を見せたので確信したという。思ったよりも強かなだった。

「そうだ、シルリア。お前には俺から禮を言わなくっちゃあな。シルリアがこうしていてくれたからサマリーも俺を呼んだんだ、ありがとう」

「い、いや……私も結局、レイさんに助けられてしまったし……」

「ちょおっと! 待ってくださいまし! わたくしの話はまだ終わってなくてよ!」

俺とシルリアの間に急にサマリーが割り込んできた。そして俺にまた顔を近づけてぐいぐいと迫る。

「レイ様! わたくし、謝の言葉だけでは見返りが足りませんわ! あなたには、わたくしの願いを聞く義務がありましてよ!」

「え? まあ、たしかにそれだけのことはしてくれたしな……俺にできる範囲で頼むよ」

俺をここまで連れてきたこともそうだが、何よりガーベラが金と権力を持ち出してきた時、それより多くの金と強い権力を持つサマリーがいなければどうしようもなかった。彼には言葉以外にも報いて然るべきではあるだろう。

ただ金持ちのお嬢様が何をむのだろう……そうだ、そういえばサマリーは俺をダイヤモンド寮にれたがっていた。きっとそれだ。まあセイナと離れるのは辛いがそれぐらいならば仕方がないな……俺はそんな風に考えていたのだが。

「え、えっと、その、ですね……」

なぜかサマリーは急に押しの強い態度を引っ込め、もじもじと赤面などして言葉をためらった。取り巻きたちが「がんばってください」「練習しましたでしょ」などと勵ましている始末。いつもいつでもマイペースで強引な彼らしくない仕草に俺は首を傾げた。

やがてサマリーは真っ赤な頬で、かつ消えりそうな聲で言った。

「その……わたくしのことを、サマリーではなく……な、名前で呼んでいただきたいのですわ」

「名前?」

俺は拍子抜けした。寮を換えるどころかそれよりも遙かに簡単な願いだ、何をそんなにためらっていたのだろう。彼の名前も憶えていたので、俺はすぐに快諾した。

「いいよそれぐらい。ユニコ、だったよね?」

俺が彼の名前を口にすると、恥じらっていた彼の顔は急速に明るくなり、またもとのドヤ顔に戻った。

「フフッフッフッフ! そうですわ、それでいいのですわ! 一歩前進ですわーっ! レイ様、あなたは必ずやわたくしのものにしてみせますからね! 今回は幸福が満タンなのでこれで失禮いたしますわーっ!」

「サマリー様ー!」

「よかったですねー!」

「部屋で喜びの會しましょー!」

また謎の笑い聲を上げながら、サマリーあらためユニコは取り巻きと共に嵐のように去っていった。俺とシルリアはただただ唖然として彼たちを見送った。

「……と、こうしちゃいられないわ。早く先生方を呼んで、ことの次第を説明しないとね」

「あ、そうだったそうだった。この部屋の慘狀だけだと誤解されかねないしな」

「生徒會長の私が適任でしょ。任せて」

「ああ、本當になにもかも……ありがとう」

「いいのよ。その、と、友達……だものね」

シルリアもなぜか頬を赤くしながら先生を呼びに出て行った。どうも俺の友人には獨特な子が多いようだった。

その後、事後処理ですったもんだしたものの、結局真実が明るみに出て、一連の事件ガーベラの退學という形で決著した。ガーベラの家のきはサマリーもといユニコが抑えてくれたらしく學園も安泰。學園長も一安心だろう。

かくして、一時はどうなることかと思ったが、俺への嫌がらせ事件は犯人確保によって無事に解決。また話が學園に広まって、俺には事件からの同と、どこかられたのかガーベラ一味を秒殺したという話により、さらに學園の有名人になってしまったりもしたのだった。

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