《魔法兵にされたので學園にります ~俺は最強の魔兵~》第20話 オーリィの爪痕

「……奇妙な魔力をじます」

「え?」

「魔力?」

「はい。學園の上の方から……これは、まるで……」

ミーシャがぽつりとつぶやいた、その時。

耳を貫くようなすさまじい破壊音と共に、廊下の窓ガラスが砕け散った。

「きゃあっ!?」

「な、なんだ!?」

「う、うわわ!?」

俺らは慌てて窓と逆の方に集まった。俺らがいた場所でなく、見渡す限り全ての廊下の窓ガラスが割れたのだ。それだけでなく遠くに見える他の校舎の窓もひとつ殘らず砕け散っていた。異常事態、その一言に盡きる狀況だった。

そのさなか、ミーシャだけは窓から逃げる暇がなかったのかそのままの場所に突っ立っていた。

「ミ、ミーシャ! 大丈夫か、破片で怪我してないか?」

「はい、大丈夫です。窓ガラスは外側に向かって割れたので」

ミーシャはこんな狀況でもクールなままだった。ひとまず怪我などはなさそうで俺は安心した。

「それよりも皆さん気を付けてください。學園の上で奇妙な魔力がいています」

「上……?」

ミーシャに言われ俺も魔力を探る。たしかに學園の生徒にじたことのない、奇妙な形の気配が上からした。

だがその時。

「はっはははっはーっ! 皆さんお揃いかなあ?」

いつの間にか俺たちの目の前にいたのはあの編生オーリィだった。この學園の異変にもじないばかりか笑っている。そして俺らが彼に対し疑問を投げつけるより前に。

「びっくりした? ねえびっくりしちゃったァ!?」

今度は『後ろ』から聲がした。慌てて振り返ると、なんとそこにもオーリィが立っていた。てっきり高速移でもしたのかと思い前を見直すとやはりそこにもオーリィが笑っている。

オーリィが2人。前と後ろ、たしかにいた。

俺らが混していると、両方のオーリィはゆっくりと歩み寄ってきた。

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「ミーシャ、悪いけどあなたの役目は終わってるんだよねー」

「ここからは私の実験のお時間だ! 役者は私と……レイがいれば十分っ!」

悪戯っぽく笑いながら近づいてくるオーリィ。なぜ2人いるのか目的はなんなのか、まったくわからないものの、ミーシャを見るオーリィの目からは敵意が見え隠れしている。俺とセイナ、リルリーン、シルフィは両側から挾むようにしてミーシャをかばった。

だがその時。

「やっほほーうっ!」

3人目のオーリィが割れた窓から飛び込み、一気にミーシャへと接近した。俺らは虛を突かれてしまいけず、ミーシャも怯えていたのか抵抗しない。

「そォらプレゼントふぉーゆーっ!」

「ぐっ……」

オーリィの拳が一発、ミーシャの懐にった。ミーシャの表が苦痛に歪み膝をつく。

「このっ!」

「おっとっと」

俺はすぐにオーリィを捕えようと思ったが彼はするりと俺の手から逃れてしまった。前後の2人のオーリィもその隙に遠ざかってしまっており、3人目がそこに合流する。3人とも同じ顔、同じ姿だが、サブリナ魔法學園の制服ではなくシンプルな黒い布服を著ていた。

「お前、なんのつもりだ。分魔法か? それとも……」

俺が問いかけようとしたがオーリィは笑うばかりで答えない。そしてさらに、セイナたちの方に異変が起きた。

「う、うぅっ……」

「ああ……」

「なんだ、これ……」

セイナ、シルフィ、リルリーンが次々に力なく倒れていく。彼らはオーリィにれられてすらいないはずなのに、だ。皆視線がうつろになり頬が紅し、まるで病気にかかったかのようだった。

「なっ……ど、どうしたんだみんな」

「なんか、合悪くて……」

「吐き気がして、目がぐるぐるする……ううっ……」

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3人ともまともにけそうにない様子だ。ミーシャも同様に倒れ伏している。立っているのは俺と、3人のオーリィだけだった。

「レイ、キミだけ無事な理由わかるぅ?」

「わかるよねえ?」

「今、學園中で無事なのはキミだけなんだよぉ~?」

オーリィたちが意味深に問いかけてくる。俺だけ無事な理由、學園中で俺だけ特別な點を俺は考えるが――その答えはひとつしかない。俺が魔科學兵だからだ。

そして、それを知っているこいつらは。

「お前ら、まさかクソ兄の……!」

「あっはっはっはっは!」

「行ってみたら?」

「『本』が上で待ってるよォ!」

オーリィは散々俺を嘲笑うと、背を向けて一目散に去っていく。俺は追おうかと思ったが、のたうつセイナたちを殘せず、また上からじる妙な魔力のために足を止める。

「くっ……悪いセイナ、原因も解決法もわからない。俺はひとまず上に行ってくる! なんとかするから、待っててくれ!」

「わ……かった。気を、付けてね。私もなんとか、してみる……!」

セイナが辛うじてらす聲は苦しげだ。その様子に後ろ髪を引かれる思いながらも、それが事態を解決する最善と信じ、俺は窓から外へ飛び出した。

サブリナ魔法學園はさながら地獄のような景だった。

全ての窓ガラスが割れ、廃墟にも似た狀態の建。そのあちらこちらで見える、苦しみに倒れ悶える學生や教師たち。さらにはその學園中を走り回る無數のオーリィ――異様の一言だ。

學園の屋上。外縁ギリギリに立ち、下を眺めていたオーリィは、俺がその後ろに降り立ったのに反応して後ろを向いた。その頬にはいやらしい笑みが浮かんでいた。

奇妙に靜まり返った學園、上空には黒い雲。俺とオーリィは風をけ対峙した。

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「よく來たなぁ、レイ? どうしたの? そんなにコワーイ目して!」

オーリィは嘲笑混じりで俺に問いかけてきた。

「……お前も、魔科學兵なのか」

俺が逆に問うとオーリィは思いの外あっさりと答えた。

「うんそおだよ。私も魔科學兵、キミとはちょおっと違うケド!」

「お前は……イルオ・ヴィーンによって作られたのか」

「それもそおーだよ! このはイルオの魔科學で作られた! すごいでしょ? 他のみんなもそのコピーなのー☆」

イルオ・ヴィーン――俺の兄、俺の唯一の親にして全ての元兇。俺を魔兵に改造してから不気味な沈黙を続けてきたが、ついにいたということか。俺は警戒を強める。

「イルオはいるのか? それとも遠くから見てるのか? どっちにしろ、俺はお前の主に聞かなきゃならないことがごまんとあるんだ……!」

に魔力を高め戦闘態勢にる。魔科學兵同士の戦いは初めて改造された日にミシモフという巨人と戦って以來だ。オーリィからはたいした魔力はじないが、その能力は底が見えない。

「イルオが見てるのかって? ふ、ふ、ふ……!」

オーリィは不気味に笑う。しかしそういった仕草、どこかで見覚えがあるような気も――と、俺が思ったその時。俺の後ろの階段から音がした後、そのドアがバンと開かれた。

「レイ! 大丈夫!?」

なんとセイナが駆け込んできた。さらにミーシャがそこに続く。リルとシルフィの姿は見えないが、セイナとミーシャはもう狀態は回復しているようだった。

「セイナ! お前こそ大丈夫なのか」

「うん、大丈夫。今パマディーテ先生もあちこちで學生の治療にあたってるよ、なんとかなると思う」

「治療?」

「そうなの、今生徒たちが倒れてるのはね、毒によるものだったんだ」

セイナと話していると、へえ、とオーリィが聲をらした。その聲で俺たちはオーリィへと視線を戻す。セイナたちが現れてなおオーリィは余裕の笑みを浮かべていた。

「そこまでもうわかったんだ? その通り、私と私の分は學園中に毒をばらまいたんだよ! 流石だねえ、醫療魔法を専門に學んでるセイナ・セントールちゃん?」

オーリィはしれっとセイナの細かい報を言ってのけ、俺は背筋がぞわりとした。こいつ本當に何者なんだ。

だが當のセイナは俺と違って気丈に言い返す。

「當然! この程度の魔法毒、100倍になったって治せるんだから!」

「へえ? 100倍、ねえ……ふむふむ、100倍! へーえ」

「何がおかしいの?」

「いや、ね……」

オーリィは何か思案する仕草を見せる。その瞳の奧に不気味な気配が見え隠れしていた。

「でも、まだ治療できるのは自分自と……癥狀が軽かったミーシャだけなんでしょ? リルリーン・リーリエもシルフィ・ケイオスもいないもんね」

図星を突かれたのかセイナは言葉に詰まった。ここでオーリィを調子づかせてはまずいと思い俺が前に出ようとしたが、それを遮ってミーシャがずいと前に出た。

「オーリィ……いえ、あなたはオーリィじゃありません。私の友達のオーリィは、どこですか」

その聲はいつもの彼の淡々としたものだったが、今はむしろ深刻に、追い詰められた表にも見える。そしてオーリィはそれを見て笑っていた。

「違うよミーシャ。オーリィなんて存在しない。だって、私があんたの記憶にてきとーに植え付けた偽の記憶だもん、オーリィと友達だなんて! そっちの方がスムーズに學園に溶け込めると思ったからね! まっ、計畫の始が早まってその必要もなくなっちゃったけど」

「どういうことだ?」

「ふ、ふ、ふ!」

オーリィはその頬を邪に吊り上げて笑う。そして。

「そろそろいいでしょ! 役者も揃ったし、教えてあげるよ。私の正!」

ついにオーリィが正を明かす。俺も、セイナも、ミーシャも、息を呑んでオーリィを見張った。

オーリィの視線は、俺へ向いていた。

「レイ。合はどうかな? 問題ない?」

合……? そうだな、お前は毒をばらまいたらしいが、それは魔兵には効かなかった。お前自魔兵だから……」

「あー違う違う、そうじゃない。改造されてからの合を聞いてるの。本當は定期的にメンテナンスするのが理想なんだけどそうもいかないからねえ……」

「なんだ? 何を言っているんだ?」

俺が混していると、オーリィは極めつけの笑みを見せた。楽しそうに、嬉しそうに、かつ邪悪に。それは俺がかつて見た、あの憎い相手によく似ていた。

「まァだわからないのか? レイよ、我が弟よ! 私だよォ!」

その口調、仕草が変わった。オーリィ・ガルゾニスの仮面が剝がれ、見えた正。俺もさすがに理解した。

こいつは兄の遣いじゃない。兄イルオ・ヴィーン、そのものだったのだ。正を現したオーリィは、兄そっくりの表で笑っていた。

「このオーリィは我が魔兵シリーズの一種! だが自律意思は持たず、私が直接作しているのだ! 私自はここより遙か遠方におり、オーリィと視覚・聴覚を共有している! ちなみに學園中のオーリィ全て私の意思で作しているぞ! なかなかすごいだろう」

あの無數のオーリィを1人で作しているのならばたしかにすごい――などと言っている場合ではない。このリズムをされるじ、たしかにあのクソ兄そのものだ。

「てめえかクソ兄貴! お前と直接話せるなら話は早い、お前には聞きたいことがいくらでもあるんだよ! 答えてもらうぞ!」

「あなたが、レイのお兄さん……イルオ」

「んん? そういえば、セイナちゃんと會うのは5年ぶりだったか? 久しいな、あれからレイとの仲は進展したのか?」

「えっ! いや、それは、その……」

「言ってる場合か!」

このゴミとまともに話していては埒が明かない。単刀直、聞きたいことをぶつけるのが吉だ。

「答えろ兄貴! なんで俺を洗脳しなかった、やろうと思えばできたはずだ。それにこの學園の地下にある封印! あれも、お前が関係しているんじゃあないのか!」

「ほお、そこまで知っていたか……そうかそうか。どうだレイ、學園生活は楽しかったか? ま、オーリィとしてし見ていたが、かなり充実しているようで兄は嬉しいぞ!」

「はぐらかすな!」

オーリィの、の姿で語るイルオにどうも調子が狂う。というかこれまでのオーリィの言、全てクズ兄が演技をしていたのか。そう思うとし気持ち悪い……などと考えていると。

「オーリィ……どういう、ことなのですか」

ミーシャが口を開く。その聲は、震えていた。

そうだ、オーリィがイルオが作った魔兵ならば、その友人だというミーシャは何者なのだろう。問いただそうと思ったが、意外にもイルオの方から口を開いた。

「ふっはっははは! 言っただろう、オーリィなどはお前の記憶に植え付けた偽の記憶だと! なんといってもミーシャ、お前は私の作った魔兵なのだからな!」

「私が……魔兵?」

衝撃の事実にミーシャが目を見開く。俺らも驚いてイルオの言葉に集中した。

「教えてやろう、ミーシャは私がこの學園に忍び込むために作った魔兵だ。1人でろうとしては怪しまれるかもしれんからな……友人というれ込みで口裏を合わせれば學はたやすかったよ。だがその後はどうでもいいいわば捨て駒! 記憶も適當に植え付けたにすぎん! ミーシャ、お前はただの空っぽのデク人形! 私が學園に潛できた以上、もはや不要な存在なのだよ」

ミーシャは魔科學兵、それも兄貴が學園にるためだけに利用された――捨て駒。嬉々としてイルオは語りつくす。ミーシャは絶句し、ただただ震えていた。

俺は兄の悪辣さに改めて憤慨する。

実はそれが、兄とミーシャが仕掛けた茶番だとは知らずに。

「てめえッ!」

俺は耐え切れずに、オーリィののイルオに対し毆りかかった。すると。

「ぐえっ」

思いの外あっさりとオーリィの顔に拳がヒットした。オーリィのは仰向けに倒れ、顔を抑えてのたうつ。俺はし拍子抜けしてそれを見ていた。

「おい……? どうした、それだけか? お前のそれも魔科學兵なんだろう?」

「お、おぉ……馬鹿を言え、お前のそのは私の最高傑作だ。量産型の魔科學兵、それも作型の兵に対抗できるわけないだろ……ぐぐぐ」

俺は改めて思った。やはりこいつ、バカだ。

「こ、このオーリィの目的はあくまで學園に毒をバラまくこと……戦闘能力は皆無に近い。校舎の窓ガラスを全部割ったが、それが全ての個が協力しての限界だよ。異常事態の雰囲気出たろ?」

「バカ。毒が目的? だったら學なんてしなくても普通に襲撃すりゃよかっただろ」

「何を言う、それではお前を生で見れないだろう?」

「はあ?」

「気が付かなかっただろうが、私はずっとお前を見ていたのだぞ。お前の學園生活を、で観察していたのだ」

イルオは立ち上がり、再び俺と対峙する。そしてまた笑った。

「どうだレイ、改めて聞かせてくれ。學園生活は楽しかったか? セイナとの生活は、どうだった」

何をバカなこと言ってんだ、俺はそう言い返そうかと思った。だが俺をじっと見るオーリィの目は――奇妙な迫力がある。ふざけて聞いているようにはふしぎと思えなかった。

「……ああ、楽しいよ。當然だろ」

魔科學兵に改造され、仕方なくといった合にったサブリナ魔法學園。そこでの生活が苦痛だったか? とんでもない。セイナと、何人もの友人に囲まれ、厄介事もあったがなんだかんだ楽しい學園生活だったと言えるだろう。そのことにもはや疑いはなかった。

「だが兄貴、別にそれでお前を許したわけじゃないぞ。なんでそんなことを聞いた? 兄貴は本當は、なんのために俺に改造を……」

「レイよ! お前のその言葉を聞いて安心したぞ!」

兄貴は俺の言葉を遮った。

「いくつか、教えてやろう! まずお前に語った魔王云々だが、あれは噓だ。そして地下にある封印だが、あれについては深りするな! お前が考えることじゃあない」

「ふざけんな! 考えるなと言われて納得できるか!」

「フッ……たくましいな、弟よ。だがひとまずは平穏を謳歌するがいい! いずれまた會おう!」

「待て、まだ質問は……」

俺はイルオに摑み掛ろうとした、だがその時、急にオーリィはぱたりと倒れてしまった。まるで魂が抜けたように全力させ、人形のように転がっていた。

「……逃げられたか」

オーリィを摑みあげて揺さぶってみたが、もはやそれはただの抜け殻だった。兄貴が作を切ったのだ。おそらく學園中のオーリィが今頃きを止めているのだろう。

「結局、ほとんどわからずじまい、か……」

「レイ……」

虛しさに囚われた俺とセイナを風がなぜる。後に殘されたのは抜け殻のオーリィと、學園に蔓延した毒、それに苦しむ生徒たち。そして――打ちひしがれる、ミーシャだった。

俺らは絶の表で立ち盡くすミーシャへと歩み寄った。

「ミーシャ……お前も俺も、あのイルオの被害者だな。お互い、魔科學兵同士だ」

俺が聲をかけてもミーシャの表は変わらない。いきなり自分が作られた存在だと知らされその上に創造主に見捨てられたのだ、無理もないだろう。

「ミーシャ。お前は言っていたな、これからの學園生活で変わっていきたいと。それでいいじゃあないか、お前は兵だが意思がある、心がある。あんな奴のことは忘れて、改めて俺らと生きていこう」

「私たちも一杯サポートするよ。ねっ、ミーちゃん」

「……レイ。セイナさん」

ミーシャはなんとか口を開き、うつむきがちだった顔を上げた。

「ありがとうございます。全て、思い出しました……私は魔兵シリーズNo.1。マスターのために作られた、人形……もはやその存在意義はなくなってしまいました。ですが」

ミーシャは俺と視線を合わせる。その瞳にはたしかな力があった。

「これからは、レイと、皆さんと……探していきたいと思います。魔科學兵として、お役に立てると思います。どうかよろしくお願いいたします」

「ああ、よろしくな。兄貴ともまだ々あるだろうし、その時もいっしょに戦おう」

「ミーちゃん、私たちは友達だから。がんばっていこうね!」

「はい」

改めて、俺らはミーシャを友人としてれた。俺もセイナもそのことに一切の迷いはなかった。

――マスター。

全てマスターのシナリオ通りにいきました。

私の芝居もうまくできたようで何よりです。

これで私は疑いなく、レイ・ヴィーンと生活を共にできます。

私自の學習も……これでつつがなく進むことでしょう。

しかしマスター。

本當は私も尋ねたいのです。

あなたが何を考えているのか。

あなたの本當の目的はなんなのか。

あなたの心の中に何があるのか。

あなたの目の中に、私は……

…………

一方で、何もない異空間。ただただ白い空間に、2人の人間だけがいた。

「……しぶといですね」

吐き捨てるようにラルプリム學園長が言う。その前には四肢を拘束されたオーリィが笑っていた。

「キッツイなあ~……やっぱ普段にこにこしてる人ほどコワイもんだね。一周回って逆に優しいんじゃあないかと思ったけど、見た目通りか~ツマランなぁ~」

「黙ってください」

學園長がオーリィに手を向ける。するとオーリィの四肢がギリギリと引き延ばされ、オーリィが悲鳴を上げた。

「ぐ、が、があああああああ……!?」

「私の二面は共に噓ではありません。優先順位というものがあるのです。私の大義を果たすためならば、私はいくらでも非に徹します」

學園長が両手をかざすと、オーリィの右目がパンと弾けた。

「ぎゃあああああああっ!?」

「話しなさい。あなたがどこまで知っているか、なんのために來たか。魔科學をる人間はどこの誰なのか……全て!」

怒気をはらむ學園長は、その魔法でオーリィの下半を魔法の立方で覆った。オーリィは苦痛にもがき、まともに聲も発せない様子だった。

「次の質問に答えなければ……下半を消滅させます。空間魔法で固定するので死にはしません。ただし苦痛は地獄、さらに切斷面から順に私の魔法をかけていきますよ。両手も引き千切ります」

學園長の言葉は脅しではなかった。やると言ったからにはやる、その覚悟が彼の目のにありありと映っている。さしものオーリィもその冷たい瞳に恐怖を見せた。

かに思われた。

「なーんちゃってね」

唐突に、ケロリとした笑顔をオーリィは見せた。學園長は虛を突かれる。弾き飛ばされた右目はこそ流れないもののぐちゃぐちゃになっているというのに、軽薄な笑顔で笑っていた。

「私が知っていることを教えてあげる。それはね、ラルプリム・マ・シャークランド學園長が空間魔法をるってコ・ト! この意味、わかるぅ?」

さすがに學園長は聡明だった。すぐにオーリィの意図を把握しハッと目を見開く。

「まさか……わざと私に接近し……異空間での拷問をさせた?」

へへ、とオーリィはまた笑った。

「センセーが言ったよね、ここでは誰にも聲も魔力も屆かないって。それは逆に言えば外で何があってもアナタが気付かないということ。私には痛覚も覚もないんだよ、演技うまかったでしょ~?」

そう、実はオーリィのは視覚と聴覚こそリンクすれど、痛覚などのダメージはフィードバックしないようにできていたのだ。レイに毆られて痛がっていたのも全て演技である。

「そして!」

オーリィを拘束していた立方が弾け飛んだ。自由になったオーリィは両手をぶらぶらと揺らし、學園長を嘲笑った。

「空間魔法の解析も完了。これで私の魔科學はさらなる発展を遂げる……! ふ、ふ、ふ!」

「そうか……わかりました。あなたは自立する魔科學兵ではなく、人間が作しているんですね」

「やっとわかったようだな。だがもう遅い、『外』ではもうすべてが終わっているぞ。拷問に時間をかけすぎたな」

完全にオーリィに――イルオにしてやられた學園長はくっと悔し気に表を変える。対照的にオーリィは笑っていた。

「今頃學園は私の撒いた毒に侵され地獄絵図となっているだろう。また私の分が地下の封印を解析し終えている……ちなみにミーシャについてはレイに聞くといいぞ」

「レイ……またあの生徒ですか……?」

「ふふ。興味を持ったかな? だが警告しておこう、いかに貴だろうとレイには敵わん! あれは私の最高傑作……私が人生をかけて完させた最強の魔科學兵だからな」

「何が目的なのですか? あなたは……」

「そっくりそのまま同じ質問を返してやるぞ、學園長。あの封印のこと、私が何も知らぬと思うなよ」

「……邪魔をするおつもりですか?」

「無論だ」

「そうですか」

問答の後、しばし両者はにらみ合う。だがやがてオーリィが笑った。

「いずれまた會おう! レイを預けるぞ、學園長センセ? はははっ!」

それだけ言い殘し、オーリィから作が途切れ、後に抜け殻だけが殘る。

「……戻らなくては」

ラルプリム學園長もすぐに異空間をし、消えていった。

こうして、その日の事件は幕を閉じた。

イルオがばらまいた毒は生徒たちを苦しめたが、セイナなど治療魔法に長けた生徒やその専門家であるパマディーテ教頭により順次治療され、幸いまったく後の被害を殘さずに消え去った。

オーリィの抜け殻は再起の恐れがあったために學園長がまとめて焼き払った。なおその正について、生徒には魔法人形の類だと説明され、犯人は究明中とされた。

ミーシャについてはレイから學園長を介し、オーリィに洗脳されていた被害者だと生徒には伝えられた。そういった同もあり、問題なく學園にはれられそうだった。

イルオが起こしたこの襲撃。割れた窓ガラス以外にこれといった被害も殘さずに終わったが、學園が謎の存在により襲撃されたという事実は生徒たちのに殘った。

それからもサブリナ魔法學園の日常は続いていく、しかし學園の上空に居座る暗雲は――かに嵐の時を待っていた。

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