《魔法兵にされたので學園にります ~俺は最強の魔兵~》第23話 毒の正を暴け!
サブリナ魔法學園、醫務室。
セイナとパマディーテ教頭、それと養護教諭である丸メガネで子供みたいな見た目のマグー・ニューリーブス先生は、顔を近づけて機の上のレポートに目を通していた。
「つ、つ、つ、つまりそのですね、學園にばりゃまかりぇた毒は、空気染とはちぎっ、ちが、違いまして……」
「落ち著いてニューリーブス先生」
「マグー先生、慌てすぎですって」
「うう……」
マグー先生はあわあわと袖の余った白で額の汗をぬぐった。
3人が話しているのは先日、オーリィ・ガルゾニスによって起こされた毒事件。その時の毒のサンプルをマグー先生の魔法によって手し、養護教諭のマグー、醫療魔法のスペシャリストであるパマディーテ、そして生徒の中でもっとも醫療魔法に秀で、また読書家で知識富なセイナで研究していたのだ。
「あの毒は、未知の毒です! 癥狀は私も験しましたが頭痛、めまい、全の倦怠。ですがほとんど後癥は殘らず、それらの癥狀もおよそ1日で消滅します。毒としてはかなりよやっ、弱いですね」
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「ふうむ……たしかにあそこまでの効力を発揮しながら、1日で消え去る毒など聞いたことがありません。セントール、あなたはどうですか」
「私も覚えがないです。マグー先生、さっき空気染とは違うと言ってましたけど」
「あ、そ、そうでしたそうでした!」
マグー先生はレポートをめくり、大急ぎで該當のページを引っ張り出す。
「研究の結果、あの毒は『染』と思われます! に乗り、と共ににります! 目、口に限らず、をければのどこからでも、です!」
「!? それでは、防ぎようがないじゃあないですか」
「はい! 今のところ、この毒が発生した場合防ぎようがありません!」
「染……魔法の類、ですよね」
「そ、その通りですセントナールさん」
「混ざってますよ先生」
により染する毒、魔法以外に考えられない。セイナは思い切って言ってみた。
「先生。これ、魔科學によるものじゃないですか?」
「魔科學?」
「まままま、魔科學!? ってなんですか?」
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「本で読んだことがあるんです、うんと昔の時代にあった、魔法技の発展形だって……オーリィのこともそうですけど、この魔法毒が魔科學によるものだとすれば納得いく點もあるんです」
「魔科學……學園長もそんなことを言っていましたね。セントール、魔科學について記された文獻を集めることはできますか?」
「はい」
セイナはレイのためにこの學園の図書室にある魔科學に関する本は全て読んでいる、たやすいことだった。
さすがに知ってること全てを告白するわけにはいかないので、セイナはあくまでも『本で読んで知っている』で押し通す。幸いパマディーテ教頭もマグー先生も生徒をあまり疑わないタイプの人なのでうまくいった。良心につけこむようでし気が引けるが。
「そ、そ、それとそれと! この毒なんですがね、ちょっと興味深い點がありまして……!」
「なんですニューリーブス先生」
興気味にマグー先生がまたレポートをめくる。袖をまくることすら忘れてわたわたやるのでセイナたちはし待たされてしまった。
やがて辿り著いたページを見せながら、マグー先生は言った。
「この毒、どうも意図的に薄められた可能があるんです。濃したところ簡単に高濃度のものが作れましたからね。サンプルがないので微妙ですが最低でも10倍……下手をすれば100、あるいは1000倍以上に薄められていたかもしれません」
「1000倍!?」
「そんな……」
つまり學園中を苦しめたあの毒の、1000倍以上の強さの毒が存在するということだ。
セイナは屋上で會ったオーリィを思い出す。セイナが『こんな毒100倍でも治療できる』と啖呵を切った時、オーリィは不気味に笑っていた。
「で、でも、それじゃあ犯人はわざと毒を薄めて使った、と?」
「か、可能ですけどそれもありうるかと。もし純粋毒であった場合、死者が出ていたかもしれません……ぶるぶる」
「しかしなんのために? 犯人は學園を困らせたいだけの愉快犯? それにしては手が込みすぎてますし……」
困する先生の隣で、セイナは1人考えていた。
毒をばらまいた犯人はレイの兄イルオ、レイを魔科學兵に改造した張本人。彼はなんのために學園に來たのか……いやレイが言っていた、もしかしたらイルオは計算してレイをサブリナ魔法學園に導したのかもしれない、と。その思は? 疑問は募るばかりだった。
と、その時。
「やーやー皆さんお困りですかな?」
『にゃー』
いきなり背後から聲がして、セイナたちは慌てて振り返った。その拍子にマグー先生が椅子から落ちた。
音もなく、いつの間にか保健室にもぐりこんでいたのは、言わずと知れたみセクハラ大魔神――ビルカ・ハラミーだった。なぜか貓を抱きかかえている。その出現にパマディーテ教頭は骨に嫌な顔をした。
「ハラミー……なんの用ですか? 校舎に貓など連れ込んで! しかもここは清潔が第一の保健室なのですよ!」
「一応滅菌しておいたからだいじょぶだいじょぶ。後で掃除するよ。ねー?」
『にゃー』
ビルカは抱きかかえた三貓と仲良く聲をかわす。貓も貓で完全にビルカの腕の中でリラックスしていた。みにんで鍛えたビルカの指は異様に高いマッサージの技を持ち、貓はそれが好きなのである。
「でさ。3人は、あの時の毒の話をしてたんだよね? 私もあれは參ったなー、せっかくコンタクトし放題のチャンスだったのに」
「毒でけない生徒をみしだくのは倫理的にどうなのビルカちゃん……」
「ま、それはそれとして。私ね、あの毒について、たぶん私しか知らない報を持ってるんだー」
「なんですって?」
「ほ、ほんとでしゅかっ!?」
パマディーテ教頭とマグー先生が目のを変えた。謎の毒についてしでも報を集めたかったので、まさに渡りに船。
だが相手は學園隨一のエロ魔。案の定、食いついた先生方を見てあくどい笑みを浮かべる。セイナには悪い予しかしなかった。
「知りたい? 知りたいよねえ、この報。知りたいなら……わかってるね?」
ビルカは片腕を持ち上げもみもみとかした。妙に蕓的に指がしなる。要は『ませろ』というわけである。
當然、風紀に厳しいパマディーテ教頭が黙っているわけはなかった。
「なな何を破廉恥なことを! ハラミー、あなたは前々から……」
「まあまあ教頭、背に腹は代えられぬ、って言うでしょ? 背中におっぱいはないからねー」
「おぱっ……ハラミーッ!」
「パ、パマディーテせんせ、おち、落ち著いて」
興するパマディーテ教頭をマグー先生が抑える。セイナはビルカの狙いは自分かと思いをすくめていたが――マグー先生が前に出る。
「わ、わた、私でよければいくらでもんでいいです! ほぼ板ですけど……研究のためならば!」
「うーん嬉しい提案! 小さくてもいいんだよ、貴賤はないからね。でも私、今日はね……パマディーテ先生にお願いしたいなー」
「え……」
「ええっ!?」
セイナは思わずパマディーテ教頭本人よりも大きな聲で驚いてしまい、慌てて謝罪した。まさかビルカが教頭先生を狙っているとは思っていなかったのだ。
悪口を言うつもりはないが、パマディーテ教頭はもういい歳の。とっくに小皺が増え、木の皮のようなの質のおよそ50歳。あまりその、的な対象にはし難い年齢だ。教頭もそう思っていたらしく、珍しく揺していた。
「いいでしょ、パマディーテ先生? 私のお願い、聞いてほしいなー……1回でいいからさ!」
「じょ! 報を、聞いてからです。その報が、そ、その、見合うものとは限りませんから!」
「ありゃ、ずいぶん勝手なこと言うね先生。でもいーよ、教えてあげる。パマディーテ教頭先生は、まさか生徒との約束を破ったりしないもんね?」
『にゃー』
ビルカは悪賢い瞳でパマディーテ教頭の瞳を覗き込んだ。あのカタい教頭もしどろもどろである。
「教頭先生。私の報がイイものだったら、私のお願い……聞いてくれますよね?」
「わ……わかりました! いいから、教えなさい!」
「グッド!」
パマディーテ教頭も覚悟を決め、ビルカの要求に応じる。もはやほぼ悪黨とのやり取りだが、ビルカは満足げに笑うと、抱えていた貓を突き出した。
「あの毒がばらまかれた時ね、私は寮の裏でこの子に餌をあげてたの。寮はペット止だからね。でも、すぐに毒にやられて、けなくなっちゃったんだ。寮の裏なんて誰も來ないし、このまま死ぬのかもーなんて思ってたんだけど……なんとこの子が助けを呼んできてくれたんだよ!」
『にゃあ!』
三貓は元気よく鳴く。いい話だが、これのどこが報なのか。苦言を呈そうとすると、ビルカはニヤりと笑って続けた。
「あの時學園はほぼ全員、毒にやられてたのに……私のそばにいていっしょに毒をけたはずのこの子は元気だった。つまりね、あの毒。『人間にしか効かない』んだと思うよ」
3人はハッと目を見開いた。人間にしか効かない毒、そんなものが実在するのか。もし実在するとすれば毒の正について重大なヒントになる。あるいは人間が魔科學により作ったものと確定するかもしれない。
「ね、いい報だったでしょ?」
「え、ええ……たしかに。どうですかニューリブス先生」
「は、はい! 実験はしてませんでした、し、至急実験用ラットを取り寄せてやってみます!」
ビルカの報により毒の正究明が一歩前進する。だがそれだけに、対価を払う必要が生じてしまった。パマディーテ教頭の顔が引きつる。
「うんうん。で、パマディーテ先生? 『お願い』……聞いてくれるよね?」
ビルカはもはや悪黨そのものの笑い方で教頭に迫った。
「わ……わかりました! す、好きになさい」
教頭も覚悟を決めて目をつぶる。セイナはなんとなくその景から目を逸らせず、なぜかどきどきしながら眺めていた。
だがビルカは教頭に近づくことはなく、こんなことを言い出した。
「私のお願いはね、この子を寮で飼うことを許可してもらうことっ!」
『にゃー』
ビルカは三貓に頬ずりして笑った。へっ、とセイナも教頭も肩かしをける。
「この子に助けてもらっちゃったからね、そろそろこの子も雨ざらしじゃかわいそうだし、正式に飼うことにしたんだー。でも寮はペット止だったからね、どうしようかと思ってたんだけど……ありがとねパマディーテ先生!」
「し、しかし、あ、あなた、お願いって……」
「え? 私は『お願いを聞いてほしい』って言っただけで、『おっぱいをませてほしい』なんて一言も言ってないけど~? まさか、今さら約束破らないよねえ?」
やられた。セイナは苦笑する、たしかにビルカの言う通りだ。ビルカはセクハラ魔という己のイメージを逆に利用して、見事に要求を通してしまったのだ。これには風紀に厳しいパマディーテ教頭も何も言い返せず、ただただ顔を赤くして震えるばかりだった。
「よかったねー、これでミルクも喜んでくれるよ。これからはいっしょだよ、ねー」
『にゃー』
ビルカは用事が済んで満足したのかそそくさと去っていく。セイナは震える教頭からただただ目を逸らすのだった。
なにはともあれ、これであの毒の研究は進むだろう。それがイルオの手かがりに、ひいてはレイが魔科學兵にされた理由に繋がるといいのだが……セイナはレイのため、また新たに決意を固める。
『その時』は近づきつつあった。
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