《魔法兵にされたので學園にります ~俺は最強の魔兵~》第26話 薄氷の下、真実の姿

サブリナ魔法學園の地下にある、封印の巨石。中に封じられたものが解放されれば――世界は滅亡に至る。けして解けてはいけない封印。ずっと學園が、そして學園長が、それを守り続けてきた。

その封印が解けかかり、學園中が混しているその時。

俺はミーシャに言われ、危険に瀕しているという兄貴の下へ急いでいた。

「うわあ……すっごい」

下を見たセイナが呟く。俺も同じ想だった。

セイナとミーシャに抱き著かれながら俺は空を真っ直ぐに飛んでいた。眼下では景が猛烈なスピードで流れていき、改造されてなければ前も見れないほどの風圧だ。俺は2人を抱く手に力を込める。

向かう先はミーシャから俺の頭の中に直接伝えられた場所――全ての元兇、兄イルオの居場所。

「皆さんに噓をついていたこと、謝罪します」

抱えられながらミーシャが語る。それは驚きの告白だった。

「私はマスターに捨てられてはいません。あなた達の前でマスターと仲違いしたのは、全て示し合わせた上での演技です」

「ええっ!? そ、そうだったんだ」

イルオはかつてミーシャのことを用済みだのデク人形だのと手ひどく罵った。ミーシャはひどくショックをけていたようだが、噓だったのか。たしかにミーシャは常に無表なので演技をされても傍目にはわからない。

「なんでそんな噓をついたんだ」

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「斥候……スパイの疑いをかけられないためです。マスターとの決別を演出し、同をかうことで目晦ましとしました。私の目的は、サブリナ魔法學園と、レイ、あなたを観察し、マスターにデータを送り続けることでしたから」

「なるほどな、まんまと騙されたよ」

俺らはミーシャに騙され続けていたわけだが、俺はそれで怒る気持ちは湧かなかった。ミーシャに敵意がないことはわかっていたからだ。そしておそらくは兄貴にも何か思があって、全ての行は起こされていたのだろう。

俺を魔科學兵に改造した、変態で、無責任で、バカでクソな兄貴。初めは怒りと呆れしかなかった。

だが今――俺はこうして、兄貴の危機と聞いて必死に急いでいる。それがミーシャにせっつかれたからだけではないことは、俺もわかっていた。

「ちなみにレイ、あなたが改造されて初めて戦った魔神兵ミシモフ。あれ、私です」

「え、そうなのか!? まったく見えないな……」

「あなたに負けた後マスターに改造をけ、この姿を與えられました。の姿はマスターの趣味かと思いましたが、學園に潛させることを當時から考えていたようです」

「ちっ、どこまでもなめくさってんなあいつ! 事はわかった! あとは、兄貴に直接會って聞くさ! そのためにも急がなくっちゃあならないな」

「はい、急いでください。砂漠地帯を越えたらすぐです」

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ミーシャに言われて目をやると、遠くの方に砂地が広がっていくのが見える。大陸の南端にあるガベッジ砂漠、行く価値はなく危険ばかりがあるその場所に訪れる人間はまずいない。

「砂漠に埋もれた跡……かつて魔科學兵によって滅んだ文明の跡がある場所。マスターはそこを改造し、研究所としています。ですがどうやら敵に発見され、戦し……通信が途絶えています。急いで、急いでください」

「わかってる! 落ちるなよ、お前ら!」

「きゃっ」

俺は魔力を最大に滾らせ、兄のもとへと飛んでいった。

砂に埋もれた石柱、風化しかけた建の殘骸。その一部にが開いていた。

その目掛け俺は一直線に降りる。周囲の瓦礫をぶち破りながら急降下し、やがて出た広い空間に著地した。

そこは砂漠の中にあるとは思えないひんやりとした暗い場所だった。壁と天井は黒い石で固められ、薄暗いのもあって終わりが見えないほど広い。あちこちに魔導書や杖、謎の臺やらしきものが散している。

「ここが……」

「レイのお兄さんの、研究所」

俺らがその景に圧倒されていると、ミーシャがいきなり走り出した。俺らも慌ててそれを追う。

やがてミーシャが足を止め、俺らもそのそばで止まる。そこで見えた壁のそばに、人間が1人――いや、1人の人間がもう1人を持ち上げているのが見えた。

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そしてその片方、持ち上げている側の人間を見て、俺らは思わずんでいた。

「學園長!?」

そう、兄貴の研究所にいたのは出張中のはずのラルプリム學園長。學園長は俺らに気付き、橫目で視線を送る。その表は、あらゆるというのものが排されたように凍てついていた。

そして學園長が持ち上げているように見えたのは、実は持ち上げているのではない。その右手で貫いていたのだ。

學園長の腕を力なく抑え、がっくりと項垂れるイルオ・ヴィーンの――心臓を。

兄貴のを學園長が貫き、殺している。その現実に俺は言葉が出なくなった。

「あなたたち……どうして、ここへ」

対し、學園長はごくごく冷靜に言葉を発す。魔力をまとった右手には赤いを滴らせながら……そのギャップに俺は吐き気がした。

そして次の瞬間。

「マスターを、放せェッ!」

地を蹴り一気に學園長に詰め寄ると同時に勢を作り、ミーシャは蹴りを繰り出した。まさしく一瞬の出來事だった。

だが學園長はあっさりと空いている左腕だけでミーシャを弾き飛ばして床に叩きつけた。

「ミーシャ。あなたがこの男に作られた魔科學兵であることはわかっています。ヴィーンさん、あなたのが魔科學兵に改造されていることも!」

學園長は俺らの方に振り返ると同時に、ぶんと右腕を振るった。イルオのが右から抜けて、無造作に床に投げ出される。

すべて悟られている。俺はごくりと唾を飲み込んだ。

「あなた達は……この男を、救いに來たのですか?」

學園長が問いかける。返答次第では容赦なく殺しに來る、そんな目をしていた。

俺は怯えるセイナをそっと後ろに隠し學園長と対峙した。

「まずは聞かせてほしい。なんで、そいつを殺した。殺す必要があったのか」

問いかけると、學園長は意外なほどあっさりと答えた。隠す必要がなかったのかもしれない。

「この男は學園を狙っていました。オーリィとして毒をばらまき、ミーシャを送り込み……私とも直接接しています。放置しては學園にとって必ず害になるとみなし、始末しました」

學園を想うために容易く闇に手を染める。學園長はそういう人であることを俺はまざまざと思い出させられた。

またセイナがぶ。

「だからって、命まで……! それに學園長、今、學園はそれどころじゃないんです! 地下の封印が解けかかっていて、このままだと大変なことに!」

「なんですって? 封印が……」

學園長が封印のことを聞いて驚いたその時だった。

捨てられ、倒れていたはずのイルオがゆっくりとき出し……苦しげに、を起こした。

「ついに……來たのだな、その時が……」

兄貴は俺を見て笑っていた。傷跡は白に隠れて見えないが、致命傷であることに間違いはないはずなのに。

學園長はすぐにイルオを見た。まずい、本能的に俺はそう思った。

「まだ息があったのですか……いえ、あの手応えは、あなたも……」

兄貴に向かって一歩、學園長が歩を進める。その瞬間だった。

學園長が雷のような速度で跳び。

俺がそれ以上の速度で回り込み。

兄貴を殺そうとした學園長の腕を、全力でけ止める衝突音が、同時に響いていた。

「レイ!」

「マス……ター……!」

セイナ、そして起き上がったミーシャの聲。それは俺にはほとんど屆いていなかった。

俺は莫大な腕力と魔力、そして殺意が込められた學園長の腕を、同じく満の力で抑え込んでいた。背後にいるクソ兄を守るために。

「ヴィーンさん……その男を、守るのですか。私の敵になる、と?」

あののない瞳で俺を睨みつけ言い放つ學園長。俺も怯むわけにはいかなかった。

「こんな奴でも俺の兄で……両親のいない俺には、たった1人の家族なんだ! こいつには話してもらわなくちゃならないことがうんざりするほどある、あんたに殺されちゃ困るんだよ!」

「兄……そうでしたか」

俺と學園長。視線と意思が錯する。

その時、俺の背後で気配がした。凌ぎ合いを続けながらも振り返る。するとそこにはなんと、兄貴がいつものにやけ笑いを浮かべて立っていた。

「ハーッハッハッハーッ! ばぁかぁめラルプリム! まんまと私の演技に引っかかったな! 私はこの通りぴんぴんしているぞぉ!」

さっきまで死にかけていた男とは思えない大聲、笑い聲。虛勢とは到底思えない態度だったが、學園長の手がイルオのを貫いていたのも事実。俺は混し、唖然としてそれを見ていた。

とその時、學園長が凌ぎ合いを放棄して後ろに飛びのく。俺もすぐに勢を整え、改めてその前に立ち塞がった。學園長は見るからに不快そうな表を覗かせていた。

「手応えがおかしいと思いましたが……やはりあなたも……」

「フン、ラルプリムよ。それよりいいのか? 封印が解けかかっているのだぞ! お前が守ってきた、あの世界を滅ぼす封印が!」

「そ、そうですよ學園長先生! 早く學園に戻ってください! イルオのお兄さんのことは、その、なんとかしますから……!」

そうだ。鍵を握るのは、あの封印だ。サブリナ魔法學園の地下にある魔法の封印――そもそも學園はそれを守るために作られた。學園長が學園の闇としてオニキス寮を組織してまで守ろうとしていた、絶対に解けてはいけない封印。

兄貴もその封印を知っている。きっと兄貴のこれまでの行の理由もその封印にある。全ての鍵はあの封印にある……そう考え、俺が學園長の向を見守っていた時。

學園長は、笑った。

「そうですか……封印が解けかかっている。ならばもういいでしょう、『優しい學園長』の面を被るのは!」

穏やかな普段の彼とはまるで違う、頬を歪め、目を吊り上げ、に満ちた邪な笑み。俺もセイナも、その変貌に絶句した。

「あなた方ももう用済みです! 念のため、始末しておきましょう……! とっくに空間魔法封印の裝置は壊したのでね!」

學園長の周囲に今までじたことのない魔力が渦巻き始めた。すると、周囲の空間にヒビがり、その奧に真っ黒な謎の空間が見える。空間魔法で辺りの空間を破壊し、俺らをまとめて葬る気なのだ。

いよいよ學園長は『敵』と決まった。俺も魔力を解放する。

「空間魔法、『フィクス』!」

學園長の空間魔法に対し、逆方向つまり固定の魔法を放つ。ひび割れた空間がそこで止まり、逆にだんだんと直っていく。學園長は驚いて俺を見た。

「私の魔法に、真っ向から対抗を? それにこれは空間魔法! ヴィ―ンさん、やはりあなたは……!」

「ハーッハッハッハッハーッ!」

驚く學園長を見て、高笑いを上げたのはイルオだ。

「言っただろう、レイは我が最高傑作だと! 私の技と魂を盡くした作り上げた魔科學兵たるレイは、その気になればあの封印にすら匹敵する力を放つ! 空間魔法など朝飯前だ、お前から報をいただいていたしな!」

「……まあ、いいでしょう」

學園長は思いの外あっさりと魔法をやめた。辺りの空間異常が収まり、空間のヒビも元通りになる。だがその醜悪な笑みはそのままだった。

「無理に口封じなどしなくてもどの道封印を止めるなどありません。私は一足先に學園に戻るとしましょう。どうせ、どこにいようとも、人間は全滅するのですからね……では」

學園長のが異空間に包まれると、そのがくるりと回転し――次の瞬間には消えていた。空間魔法を使って移したのだ。

によりいっそうが散した地下研究所。後には俺とセイナとミーシャ、そして、イルオと共に、沈黙が殘されていた。

「……ぐっ」

「マ、マスター!」

だがいきなりイルオが苦しみにき膝をつく。慌ててミーシャが駆け寄った。やはりあの元気の方が演技だったのだ。俺とセイナもすぐに駆け寄った。

「兄貴、大丈夫か? 急所は外れてたのかもしれないがを貫かれてるんだ、無事なわけないだろ」

「お兄さん、怪我を見せてください。私、醫療魔法が専門なんです。きっと治します」

俺らは兄のそばに屈み込み語り掛ける。虛勢とはいえあれだけ喋れたのだ、セイナが治療すれば助かる見込みもあるだろう。だがミーシャは無言で首を振り、兄貴もまた、セイナの治療を拒んだ。

「いい。私のは醫療魔法では治せん……私を治せるのは私の魔科學だけだ」

「兄貴、意地張ってる場合かよ! いいからおとなしく……」

「どの道私の壽命は長くはない! せいぜい1年だった壽命が、1か月に減っただけだ」

「え? それは、どういう……」

「フフフ……!」

兄貴はまた不気味に笑い、立ち上がる。俺を真っ直ぐに見つめていた。

「レイよ。魔科學の理論でな、『1+1=1』というものがある。意味がわかるか?」

「なんだ、突然……わからないよそんなの」

「フッハハ! 簡単に言うとだな、2つの存在からより優れた1つの存在を生み出すという理論だ! もっとも私の場合1+1で1.5くらいだったがな」

「回りくどい言い方はやめろよ、何が言いたいんだ」

「わからんか? レイよ、お前は私の最高の魔科學兵だ……だがその最高の力を生み出すのには、別の『1』が必要だった」

兄貴はを覆う白に手を掛けた。その笑みが不穏にじ、俺はなんだかがつかえたような不快を覚える。

「なあレイ。ヒトという生命を強化するに相応しい素材は、やはりヒトだと思わんか? フフフ……!」

イルオは不気味に、かつどこか力なく微笑むと、その白の前を開けた。俺、セイナ、ミーシャの前に、そのがさらけ出される。

それは人間のではなかった。まるで子供が壊したおもちゃを必死に直したような、ぐちゃぐちゃで、でたらめな、ガラクタの塊。明の管を謎のが循環し、陶だか金屬だかしらない素材の骨格が、辛うじて形をして繋がっている。本來人間なら心臓があるはずの左は、學園長によって貫かれたがぽっかりと開いていた。

「おっと、たちを前に上著の前を開けるこのポーズはまるで不審者だな。だがそれはそれで興するかも……フフ」

この期に及んで減らず口を叩くイルオ。どこからその余裕が來るのか俺にはまるでわからなかった。

「兄貴、お前……! 自分のを使って、俺を改造したのか!」

「その通りだ。もっとも安心しろ弟よ、ちゃんと丁寧に消毒した後に加工して、必要な材質とエネルギーを出して組み込んであるからな、不潔ではないぞ」

「馬鹿野郎ッ!」

俺は思わず兄貴に摑み掛っていた。壽命が長くない、その意味がわかった。自分のをこんなに滅茶苦茶にしたのではまともに生きられるわけがない。しかも學園長が開けたからは赤いがこぼれ続けている。なぜ今生きているのかすら俺にはわからない、きっと魔科學の技なのだろう。だけど、だけど。

「なんで、そこまで……!」

「レイ、やめて」

「レイ、マスターを放してください。不安定な狀態なのです」

「フッハハ、なーにかわいい妹と顔が近づくのは悪い気分ではないぞ」

「……くそっ」

俺は手を離す。なおも笑っている兄貴が憎いのか、怖いのか、悲しいのか、わからなかった。

「話せ、クソ兄貴! なんで父さんや母さんが死んだ後、俺をほっぽっていなくなった? なんで俺を改造した? あの封印について何を知ってる? 全部だ!」

半ばやけくそになって俺は怒鳴りつける。そうだ、聞かなければならない。このクソ野郎から、全てを。

イルオはふと視線を落とし、くくっとくぐもった笑いを鳴らし――顔を上げた。

「いいだろう。もはや隠す理由もない……全て話そう。私が中に抱え続けた……真実をな」

そういった兄貴は、がらくたので俺を見て、笑っていた。

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