《魔法兵にされたので學園にります ~俺は最強の魔兵~》第29話 魔神兵ルイン

激しい魔力が風となって俺を襲う。たなびく銀の髪が目にかからないようそっとずらし、スカートも自然に抑える。

俺の目の前で、封印の石は完全に崩壊し――中から出てきたのは、封印の石と同程度の大きさの、白くり輝く魔力の塊だった。

「あれがルインなのか?」

「いや、あれが封印の本だ、巖石は外殻にすぎん。だがもはや封印は解けており、今は千五百年ぶりの目覚めのために夢うつつといったところだ」

「なるほどな……」

話す間にも魔力の風がえんえんと俺たちを打ち付けている。封印が解けているのは間違いなさそうだった。

「兄貴、お前ぼろぼろだろ、今のに避難しとけよ。どうせ死ぬとはいえ犬死は笑えねえ」

「マスター、私からもお願いします。しでも生き延びれば何かが起こるかもしれません、命を捨てることはしないでください」

「フン、百も承知だ! 私はちと學園に用事がありそのついでに立ち寄っただけだよ。すぐにその意味を理解するだろう!」

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「いいからとっとと逃げろ! 魔力が膨らんできたぞ」

俺の魔科學兵の機能が警告を発している。危険な魔力の塊だった封印がさらに力を増し、吹き荒れる風も強くなっていく。進みはゆっくりだったが、封印の完全開放が近づいていた。

兄貴もそれを悟ったのか茶番はやめ、最後に俺と目を合わせた。

「レイ。本當に悔いはないのだな。ここで逃げればお前とミシモフは生き延びることができるのだぞ」

その問いに、俺はすぐに答える。

「ない! セイナたちを見捨てて生きたところで死ぬまで後悔するだけだよ。ここで戦うのが『俺の幸せ』だ」

「そうか……ではもはや何も言うまい。私もできる限りのことはした、後はお前に任せるぞ。我がする弟にして、最強の魔兵よ!」

ああ、と俺は頷く。兄貴はミシモフにも顔を向けた。

「ミシモフ、お前もまたここで戦う義務はない。本當にこれでよいのだな」

「ええ、マスター。私は自分の意思でマスターの想いに従います。魔神兵ルインの妥當とレイ・ヴィーンの幸福……それがマスターのみならば、私はここで戦います。それが私の意思です」

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「うむ……」

兄貴は頷くと、にっと笑った。

「お前らは無敵だ、負けることはない! 武運を祈るぞ、私の家族よ!」

弟に、子にそう言い殘し――兄は去っていった。家族、その言葉に込められた思いは、俺たちのにたしかに殘った。

「さあ、いよいよだミシモフ。お前は無理をするなよ、俺のサポートに徹してくれ」

「はい、戦略的にもそれが妥當です。よろしくお願いします、レイ」

そして俺らの目の前で封印はますます魔力を高めていく。それは俺が持つ魔力を遙かに上回るものだったが――俺もまだ、このの限界を試したことはないのだ。

俺が魔科學兵に改造されたのは。兄貴がそのために命を捨てたのも。サブリナ魔法學園に來たのも。そこで皆と出會ったのも――全ては今、この時のため。

強靭に作られたが力を與えてくれる。

兄の笑顔と涙が信念を與えてくれる。

學園での日々が知識を與えてくれる。

そして、出會った皆の存在が、勇気を與えてくれる。

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魔科學兵である俺。その存在意義が、ここにあるのだ。

「……レイ。封印が、完全に解けます!」

「ああ」

ついにその時はやってくる。封印は一際強いと魔力を放ち、辺り一面を白く染めながら――解き放たれる。

魔神兵ルインは、俺の前に復活した。

その姿は。俺や、ミシモフと同じ、しいの姿の魔兵

目を閉じ、穏やかに口を結ぶ。

黒紫の髪は一部が長く、別の一部は焼き切れたように短い。それが今、収束しつつある魔力の奔流で天に立ち上っている。

メイド服の上の部分部分に雑につけられた黒い鎧。

わずかに宙に浮きながら現世のと風をけるその姿は、痛ましいほどに、穏やかだった。

俺たちへと吹き荒れていた魔力の風は方向を変え、だんだんと渦を巻き滅びの兵へと集まる。それが収まるごとに魔神兵ルインのが地へと近づく。

やがて完全に風が収まった時、ルインは地に降り立ち――そっと、その瞳を開いた。

底が見えない漆黒の瞳。堀の深い整った顔立ちはラルプリム學園長に、雙子の魔兵マキナに瓜二つだった。

「……レイ・ヴィーン。魔神兵ミシモフ」

ルインは俺の名を呼んだので俺は驚いた。俺たちのことを知っているどころか言葉を話すことすら予想外だった。

ルインは俺らの揺をよそに淡々と言葉を続ける。

「マキナのデータから、あなたたちがわかる。マキナの意思が私に理を與えている。あなたたちは人間ではない。今のに逃げなさい。人の命令をけているのでないのなら。私はまだ封印解除より第一段階、ゆえに理が殘っている。だんだんと理は消える。そしたらもう止まらない。全て殺す。だから、早く」

のない言葉。ミシモフの語り方によく似ていたが、ルインのそれは僅かながらが伺えたミシモフとは違い、本當にというものが存在しないように思えた。

だが俺はあえてルインに問うた。

「もしも……俺らが人間だったら、どうしたんだ?」

ルインは即答した。

殺す、と。

その瞬間、ルインに満ちていた魔力が一気に膨れ上がった。一瞬、ルインから放たれた暗黒の闇が襲い掛かってきたかのように錯覚する。それほどにどす黒く、圧倒的で、絶的な魔力。に突き刺さるプレッシャーで、ルインの全から『死の』が放たれているのがわかった。もしもここにただの人間が立っていればそれだけで命を落としていたに違いない。ルインはまさに、滅びだった。

俺は理解した、ルインはがないわけじゃあない。その逆だ。たくさんの絵を混ぜるとやがて行く著く黒のように――數多の命を喰らい、その怨念を吸収し続け、際限ないが溶け合い、あたかもがないように見えるのだ。それは経験のなさから空っぽなを持つミシモフとはまるで逆の魔兵の姿だった。

「じゃあ、話してる暇はない! 俺は魔科學兵だが、同時にイルオ・ヴィーンの弟、レイ・ヴィーン……人間だからなッ!」

まだ完全に覚醒していないならば今が好機。俺は恐怖を振り切って一気に地を蹴った。

魔兵のパワーを全開にした跳躍は地をえぐり、俺は音すら置き去りにせんばかりの勢いでルインにタックルをぶち當てた。

「うっ……」

ルインは思いの外あっさりと俺のタックルに吹き飛んだ。思った通り元が人形、どんなに魔力を持とうとも質量攻撃に弱いのだ。

「フンッ!」

すかさず俺はルインを地面に叩きつけ、組み敷いてマウントをとった。ルインは無表のまま俺を見つめて抵抗しない。

「『マージブースター』……ッ!」

魔力による強化、それをフルパワーで使用する。両腕に魔力が満ち溢れ、簡単に人間を殺せるために使ってこなかったパワーが今、解放された。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

びながら、ルインの顔目掛けて拳を浴びせかけた。瞬きの間に數十撃、一発一発が人を貫通する威力で叩きこむ。ルインの顔の下の床がみるみるに壊れてなくなり、首だけで支えられるルインの頭をなおも全力で毆り続けた。

だがルインには傷ひとつついていなかった。

「『マージブースター』」

一言ルインが呟く。その瞬間、ルインはあっさりと俺の両手を拳で摑んで止めた。

「ぐっ……うおおおおおおおおっ!」

「『マージブースター』両腕部集中。50……70……80……90%」

俺は腕に満の力を込めてルインを押し返す。ルインも負けじと腕に魔力を集中させてきた。

だがやがてじわじわと、俺の方が押し始めた。どうやら単純なパワーならば俺のの方が優秀らしい。俺は笑みをこぼす、兄貴が言っていた通りだった。

ここに來るまでに兄貴は俺に助言していたのだ。『ルインは大量殺戮を想定した兵だ、タイマンの弾戦などは範囲外。逆にお前はそこを突くために強化してある、接近戦なら分がある』と。

「オオオオオオオオオッ!」

俺は急激に右拳を後ろに引いた。パワー負けしていたルインは抑えきれずに俺の手を逃がし、さらに勢いあまって突き出された腕により片側ががら空きになる。俺はその隙に渾の一撃を叩きこもうとしたが。

「レイ、上です!」

ミシモフの聲に我に返る。慌てて上を見上げると――そこには魔法陣が広がっていた。真っ黒な魔法文字で作られた魔法陣。その大きさはさほどじゃない、俺1人をなんとか包める程度。

だがその數が異常だった。

「攻魔法陣展開。無差別撃準備。レディ……」

ルインが淡々と呟く。その度に魔法陣が増えていく。

ルインを抑え込む俺の周囲を半球狀に魔法陣が覆っている。逃げ場なく、360°すべてを真っ黒な文字が埋め盡くす。それも二重、三重に、ありえないほどの數の魔法陣が魔力に満ちて俺を狙っている。そのひとつひとつの魔力が、ゆうに命を滅ぼす威力を持っていた。

「ファイア」

ルインの一言で――全ての魔法陣から魔力の砲撃が打ち放たれ、ルインを中心に、逃げ場のない大発が中庭に響き渡った。

発により砂埃で覆われた中庭。ミシモフが呆然と立ち盡くしている。

「……っぷは!」

俺はその橫の空間を裂いてなんとか戻ってきた。幸い逃げるのが間に合い無事だった。

「レイ! よかった、無事でしたか」

「ああ、間一髪空間魔法で出した。だが本當にギリギリだった……! まさか自分ごと焼き盡くしにくるとはな」

ルインは莫大な魔力をに宿し、かつ全てのが殺意に塗り固められているため、攻撃に一切の予兆がないのだ。たしかに弾戦では俺に分があるようだが、そんな優位を軽く捻りつぶすほどの魔力と能力をルインは持っていた。

「しかし、ルインは間違いなくあの撃を全てけていました。ダメージは大きいはずです」

「だといいが……」

俺は砂埃に包まれた中庭を見る。次の瞬間、突風が埃を消し飛ばし、その中が見えた。

ルインは平然と立っていた。その足元の床はあれほどの発があったというのにほとんど壊されていない、つまりそれは衝撃の全てをルインがけたということだ。にも関わらずルインは魔力でコートされているのか服の一かけらすらも損傷せずに、俺らを見ていた。

「あなたを敵ありと判斷……排除判定。殺す。殺す。殺す。殺す」

その全からまたあのどす黒い魔力が立ち上った。その理がだんだんと失われているのがわかる。いよいよ世界を滅ぼす最悪の魔兵、魔神兵ルインの本が見えつつあった。

「くそっ、あれだけやってダメージなしか。だが何か弱點はあるはずだ」

「レイ。私も攻撃に參加します。ルインが完全に暴走する前に、弱點を突き止めましょう」

「ああ、それがいいな」

俺らも魔力を解放し臨戦の構えをとる。もはや逃げるわけにはいかないのだ。

ルインが最悪の魔科學兵ならば、俺は最強だ。最強でなければならない、兄貴のためにも、皆のためにも!

「行くぞ!」

俺は再びルインへと飛び込む。

決戦が始まった。

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