《魔法兵にされたので學園にります ~俺は最強の魔兵~》第30話 変貌
サブリナ魔法學園正門前。
學園から避難した生徒や教師たちはやるせなく結界に守られた學園を見つめていた。
「あの中で、レイたちが戦っているのですね……」
「うん……」
シルリアの言葉にセイナは頷いた。世界が滅ぶという瀬戸際に立たされながらもただ待つしかできないもどかしさに苦しんでいた。
「くっそ、すぐにでも加勢してやりたいが……!」
「あの中ではものすごい毒が充満してるんでしょ?」
「うん、前に學園に使われたのの10萬倍。教頭先生や保健室のマグー先生でも治療方法が見つからなかったんだ」
「だ、だけど、さっきレイの兄貴がっていったじゃあないか!」
「あの人は……最初から死ぬつもりなの。中にれば死ぬこと、それは変わらないよ」
「そんな……」
目には見えないが結界の中の空間は『死の』で満ちており、人がればすぐさま死に至る狀態だ。サブリナ魔法學園の優秀な生徒や教員でもどうしようもなかった。
さらにその時、學園部から激しい発音が響いた。地響きがセイナたちのもとにまで屆く。
「レイ……」
セイナはレイの無事を強く祈る。そしてきっと彼だけでなくその場にいる全員が、自分にできることがないか、必死に考えていた。
學園中庭、決戦の戦場。
俺とミシモフ、そしてルインの格闘は続いていた。
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「攻魔法陣! 『シリンダー』!」
俺はルイン目掛け手をかざし、敵の頭上と足元に同時に魔法陣を展開した。
「くらえッ!」
すかさず魔力を解き放ち、上下から円柱狀に魔法をぶつける。敵を捕らえ続けその間絶え間ない攻撃を浴びせる攻撃だ。
だがルインは力ずくで魔法陣を振り切り、俺に突っ込んできた。
「『ダブル』展開。マージブースター」
ルインは真っ黒な瞳に殺意を眠らせ、莫大な魔力を解き放つ。俺へと真っ直ぐに向かってくるその姿が幾重にも重なって分散し、分魔法により8にまで増えたルインが八方から俺に襲い掛かった。
「ミシモフ!」
「はい」
俺はすかさず真上にジャンプし、そこに飛んで待機していたミシモフが俺をキャッチする。突っ込んできていたルインの分たちが勢いのままに俺がいた位置のそばで固まったので、すかさず俺は攻撃に転じた。
「氷結魔法ッ!」
眼下のルイン目掛けて氷の魔法を打ち放ち、8のルインごと氷で覆いつくした。シルリア直伝の氷だ。
「『焼卻』ッ!」
直後、超火力の魔法で氷ごと焼き盡くす。かつてユニコを救う時に使ったこの魔法は局所的に大発を発生させ、対象を消し炭すら殘さずに消し飛ばす威力を持つ。
だが炎の中、ルインは平然と俺へと飛び出してきた。
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「マージブースター。シュート」
「ぐっ!?」
淡々と語りつつルインは拳を繰り出し、俺は慌ててけ止めた。だがルインの常軌を逸したパワー、急場しのぎの防では防ぎきれず、俺は吹き飛ばされた。飛行するミシモフがうまく衝撃をけ流し、俺らは空中で勢を立て直す。
「レイ、大丈夫ですか」
「ああ、ダメージはない。向こうも同じようだがな……!」
俺は憎々しく眼下のルインを見つめる。分を消滅させることには功したが、本たるルインは相変わらずに傷ひとつなくそこに立っていた。
「飛行ユニット……展開」
ルインはまた靜かに呟くと、その背に真っ黒い魔力の翼を生やした。奴も飛行ができるのか、と俺は背後の結界を見る。あの結界が破壊されたらルインが出し続けている『死の』が外へれ、セイナたちに危険が及ぶ。それだけは避けなければならない。
「ミシモフ、降りるぞ! 空中戦は不利だ、手を離してくれ!」
「了解です」
ミシモフに離されて俺は落下する。すかさず俺も魔力の翼を展開し、ルインとは逆に真っ直ぐに急降下して突撃した。
「マージブースターッ!」
「マージブースター」
俺とルインの拳が激突する。素のパワーで勝り落下の加速度をも乗せた俺の拳が勝って、ルインは正反対の方向へと毆り飛ばされ地面に叩きつけられた。その間に俺とミシモフは地面に降りるも、ルインはむくりと起き上がる。やはりダメージは皆無のようだった。
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「くそ、頑丈すぎる。せめてダメージがないのか、0.1%だけでもダメージがあるのかわかればいいんだが」
「判別は難しいですね。封印解放の進行に伴いルインの魔力は上昇を続けていますので、劣化があったとしても上書きされてしまっています」
「なんとか弱點が見つけないと……」
ルインが持つのは莫大な魔力、魔兵ゆえの判斷力、そして頑強な。あるいは一切殺人をためらわない神も武か。そこに隙はまるで見えず、強いていえば腕力でし劣ることぐらいだが、それもダメージが通らないのでは意味がない。
「先程からルインのボディを分析していたのですが……まず、ルインの全は魔力のバリアーが張られています。超高度のバリアーです。しかしそのボディの素材自が特殊な魔法鉱石と圧された有機が緻に合されたもので、そこに魔力を満たしさらに強化してあるようです」
ミシモフが持ち前の機能によりルインを分析する。ルインのは魔力により二重に守られており、それを突破しないといけないらしい。つまりは魔力による単純な防でルインの不死はり立っており、その単純さゆえに突破は難しいようだ。
だがある意味それでいいこともある。わかりやすいからだ。
「じゃあ考えるのはやめだ! とにかく攻め続ける、あいつが防に魔力を回せなくなるほどにな!」
「わかりました。私は引き続き、援護に回ります」
「ああ、そうしてくれ。エネルギーは俺ならルインと張り合えるはずだ、その間に……」
話している途中のその時。
「攻魔法陣、展開」
ルインがいた。どす黒い魔力が立ち上がり、の姿の魔兵の背後に無數の魔法陣が浮かび上がった。大小さまざまな黒い魔法陣はルインの背後を埋め盡くす。前に俺がやられかけた一斉砲撃、今度は範囲攻撃で仕掛けてきたのだ。
「くっ……ミシモフ、俺の後ろに隠れてろ! 防壁魔法陣ッ!」
「はい」
俺は防の魔法陣を次々に展開し、なんとか防の耐をつくった。避けてもいいのだがその場合、あれだけの攻撃が學園を覆う結界に直撃してしまう。その場合結界を維持できるかどうか――ここは防ぐ! 気合をれて壁となる魔法陣を展開していく。
「レディ……ファイア」
ルインがすっと手を突き出すと、黒い魔法陣から一斉に魔砲撃が放たれた。
「ぐっ……ううううううううっ!」
膨大な量の砲撃が、同じく膨大な量の俺の防壁魔法陣に激突する。いくつか撃ちらした魔法陣が背後の結界を直撃し、それを維持するためにも俺は神をすり減らした。
ルインの砲撃と俺の防がせめぎ合い、激しい衝撃波が周囲の校舎を破壊していく。
「ま……魔法陣……攻転移ッ! 斜角修正、魔力収束!」
ルインから與えられる猛烈な圧に耐えながら、俺は魔法陣を作した。質を防から攻撃へ、向きをルインへと転換する。
「いっけえええええええええええええええッ!」
魔力を瞬間的に全開にし、俺はルインの砲撃を全て、反した。
攻撃に集中していたルインが目を見開くのが見える。直後、ルインを中心に大発が起こった。
それと同時に中庭全が崩壊し、俺が立つ場所も崩れて落下を始める。
「う、うわっ!?」
「レイ!」
逃げる暇もなかった俺を、飛行魔法を使ったミシモフが拾い上げた。そのまま崩れる瓦礫をやり過ごした後にゆっくり下に降りる。
中庭の真下にあるのはオニキス寮のある空間だった。だいたい地下10mくらいもの深さのある場所で巖盤も分厚いのだが、封印が無理矢理地上に出た影響もあってか、さっきの俺の攻撃で完全に崩壊し、地下窟までが吹き抜けの空間となった。
ルインが立っていた場所は完全に瓦礫に埋もれていた。
「中庭を覆っていた石畳、及び地下までの巖盤。重量は相當なものと見込まれます」
「ああ、だがルインなら……」
俺らは警戒してきを待つ。そして案の定直後に瓦礫の一部が破壊され、ぬっとルインが現れた。やはり無傷、かと思いきや。
メイド服の上につぎはぎの鎧を纏うルイン。そのスカートの一部と、鎧のひとつが、損傷していた。
「やった! 僅かだがダメージを負わせたぞ! でもなんでだ?」
「レイの論理が的中したようですね。攻撃の最中に想定外の反撃をけたため防への魔力供給が不足したものと思われます。反攻撃が功を奏したのもあるのでしょう」
「なんにせよ前進だ! これで……」
ルインにダメージを與えたことに希を見出しかけたその時。
じた魔力に、俺はぞくりと背筋が粟立つのをじた。
「なっ……!?」
「レイ。ルインの様子が変わりました」
ミシモフの言う通り、ルインに変化が生じていた。
これまで俺が『黒い』と表現してきたその魔力。それが可視化している。ルインののから、どす黒い、巨大なオーラが際限なく立ち上っている。極限まで高められた魔力がそのあまりの強さに顕現している……それは授業で學んだこともある現象だったが、それが見えるのは『落雷』か『噴火』など自然界による超高エネルギー現象くらいと聞いた。ルインの小さなでそれが発生するのはまさに異常。
さらにルインの瞳にも変化が起こる。狂気こそあれど人間と同じ形狀だったそれが纏うオーラにより黒一に染まり、まるで深いだけがぽっかりと開いているだけのようになった。
「……アァ……ア……アア……」
ルインは嘆きとも怒りともとれない聲を細くらしていた。かつて人類を滅ぼした魔兵、その本たる暴走が確実に近づいているようだ。
「いよいよ化けじみてきたな……! 気をつけろよミシモフ、きっと攻撃はより熾烈になってくる」
「はい……私の能での対処が難しくなってきました」
ダメージは與えたもののそれに応じるようにルインは強くなっている。その底はまだ見えない。
その時、ルインは両腕を前に突き出した。
「……敵行パターン解析完了。攻魔法陣、集中展開……レディ」
その両腕をルインはなんと真上に向けた。その前に小さな魔法陣が1,2,3、4……瞬く間に何重にも展開される。範囲を絞る代わりに、その一撃に込められた魔力はこれまでの數倍以上だ。
しまった。俺は慌てて駆け出した。
「まずいあいつ、俺が結界を守ってることに気付いた! まず結界を破壊するつもりだッ!」
「しかし距離が……!」
俺は急いだが、なまじ警戒していたばかりにルインとの距離は遠い。しかも瓦礫で足元が不安定でうまく跳ぶこともできない。そしてルインの攻撃速度は、あまりにも早かった。
「ファイア」
ルインは天を目掛け、魔力砲撃を打ち放った。
「くそっ!」
守れるか? 俺は魔力を結界に集中させる。いや絶対に守らなくちゃならない、あの結界が破れたらセイナが、皆が――世界が!
だが次の瞬間。
ルインの砲撃は急激に方向を曲げ、そのまま180度反転し――逆にルインに直撃した。
「なっ!?」
「これは……」
俺らは足を止め、発生した衝撃に耐える。明らかにルインの攻撃が妨害されて反転したのだが、俺もミシモフも何もしていない。まさか他に人が? 慌てて辺りを見渡すと……そいつはの上から俺らを見下ろして笑っていた。
ショッキングピンクのツインテール、頬にはハートのシールタトゥー。著る制服は出度の高い改造制服――それは兄貴が作った魔科學兵の1、オーリィ。自我はなく、俺の兄イルオの遠隔作によってく人形だ。つまり。
「レイよ、ミシモフよ、待たせたな! これより私も助太刀するぞ、このオーリィのでな!」
オーリィはニヤりと笑って俺らのそばへと著地した。そのいやらしい笑みはまさしく兄貴のもの。あの時と同じように兄貴がオーリィのを作しているのだ。
「兄貴……! でもどうしてオーリィが? オーリィのは全部學園長が処分したはず……」
「フフ、あのは強かだからな、分析のため1は殘しているとふんで學園を見て回ったら案の定だ。私が最初に學園にったのはそのためだ、オーリィを作可能になるように整備し、私の本は學園の外の安全圏にいるから心配はいらんぞ! もっとも作に集中するために本の意識はないがな」
さすがというべき計算高さだった。純粋な魔法兵であるオーリィのならば『死の』の影響もけずに戦える、損傷の激しい兄貴のも関係ない。
「とにかく助かった。でもどうやったんだ? オーリィのはそんなに魔力はないはずじゃ……」
「フン、ルインの魔法は全て分析済みだ、魔力で真っ向から対抗できずとも、魔法陣の一部に干渉したり、計算の上で魔力を『逸らす』ことはできる! 私の頭脳とオーリィに備えておいた魔法分析機能があれば可能なのだ! どうやら攻撃反が有効のようだったからな、ぶつけておいたぞ!」
「完璧だよ兄貴」
オーリィの姿で高笑いする兄貴。その見た目は兄貴の趣味なのか? と聞きたかったがさすがに今は自重した。
「さて、そろそろ奴さんも起き上がってくるぞ! さきほどのような不意打ちがまた通じるとは限らん、私はミシモフと共に徹する! 頼んだぞレイ!」
「ああ、わかってる!」
「マスター、気を付けてくださいね。オーリィのボディは私よりも脆弱です」
「なーに案ずるな! お前は自分とレイのことを考えるんだぞ!」
ともあれ、兄貴がオーリィの姿で加わり、俺らは3人になる。これは大きな戦力強化だ。今度こそ勝利への希が見えてきた。
砲撃の影響で撒き上がった瓦礫を吹き飛ばしながら、ルインが起き上がる。イルオの攻撃によりさらに服が損傷し、全のオーラをより一層昂らせていた。著実にダメージは與えている、このままいけば――
だがその時。
「アァ……ア……アアアアアアアアアアアッ!」
突然、ルインが咆哮し。
その姿がまた、変貌した。
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