激しいがルインから放たれ、俺らは思わず目を閉じる。魔力のきには神経をとがらせていたがルインはその場からかない――だがその魔力が、奇妙に変化していた。やがてが晴れた時。

そこにいたのはルインだけではない。ルインとまったく同じ姿をした、ブラウンの髪の……かつての學園長ことルインの雙子の魔神兵マキナ、それによく似た魔兵がルインと並び立ち、穏やかな、しかし蔑むような瞳で俺らを見ていた。ルインも僅かに背がんでいる。

「ルインが……増えた？」

「いえ、あれは……」

「レイ、ミシモフ、構えろッ！」

俺とミシモフが困するさなか、オーリィの姿の兄貴が鋭くんだ。次の瞬間。

「アアァッ！」

黒紫の髪、ルインが突っ込んできた。驚異的な跳躍力を魔力でブーストした、目にも映らない速度の突撃。

辛うじて一瞬早く俺が前に出てそれをけ止めた。ルインの軀は変貌の前よりもし小さくなっていたが、パワーと魔力はいささかも落ちていなかった。

「アァッ、グアアッ、アアアアアアッ！」

「くっ、なんだこいつ……！」

獣のように咆哮しつつ、ルインはでたらめに俺に攻撃を仕掛けてきた。雑に腕を振り回してパワーでごり押し、適當な角度と威力の魔法陣で砲撃。どれも相當な攻撃力とはいえ俺ならけることはできるが、瞳を真っ黒にらせ狂気のまま襲い來るルインを相手するのは楽ではなかった。

そしてルインから分裂したブラウンの魔兵――マキナはふわりと宙に浮きながら、そんな俺を見下ろしていた。

「レイ、さっきぶりですね。私は魔神兵マキナ……ルインの雙子の妹です。かつての名をラルプリム・マ・シャークランド學園長」

暴走するルインとは対照的に落ち著いた聲と表だった。俺はルインと格闘しながらなんとかマキナに問いかける。

「學園長なのか！？　たしかにさっき、ルインに吸収されたはず……！」

「ええ、私は一度完全に吸収し、私たちは１つになりました。ですがルインはダメージをけ、人類への憎悪という本能を燃え上がらせながら進化し……再び２つになるという選択をしたのです。純然たる殺意と憎悪に満ちた魔神兵『ルイン』と、理と智慧を持つ魔神兵『マキナ』に。厳にいえば私もその進化の過程で生まれた新たな存在、『死の』を放っていますし能もかつてとは段違いです」

「くっ、そんなことが可能なのか……っとォ！？」

話す途中にルインから危ない一撃が繰り出され俺は慌てて避ける。次々に攻撃は繰り出されて休む暇がまったくない、先程までルインは暴走しつつも狀況を分析したりと攻撃を休む期間はあったのだが、今のルインは完全にそれがないのだ。

くすり、と宙のマキナが笑う。

「今のルインは僅かに持っていた理すらも私に譲渡した狀態です。ただただ憎悪に突きかされ、人間あるいは己に害するものを殺す存在……もっともその分攻めは単調かつ狙いも魔力反応によるものだけで、知ある戦闘は期待できません。しかも魔力を私に分けたために攻撃力も防力も減しています」

ですが、とマキナは続ける。

「それはあくまでも元から多大な魔力を持つゆえの減。魔神兵ルインたる強さには変わりなく……利點はもうひとつ。もし萬が一ルインが致命的なダメージを負おうとも、無傷の私と再び融合すれば、その分の約５０％損傷は回復します。つまりレイ、相撃ちでもあなたの負け。そのリスクと引き換えの殺意を武にしたルインに、どこまで戦えますか？」

俺を嘲笑うマキナにもう俺は反論する余裕はなかった。

「ガアアアッ！　アアアッ、アッァアァアアッ！」

ルインは本當に絶え間なく攻撃を続ける。防も回避も一切をかなぐり捨てたその戦法、常人ならば『一撃必殺で仕留める』というのが最善の手。だが最悪の魔科學兵たるの不死の耐久力を持つルインにそれは葉わず……変に反撃に出ようとすれば、反撃を喰らいながらでもルインは突撃をやめないのだ。

「効果的な戦法です。ですがレイは１人で戦ってるわけではありません」

「逆に言えばマキナ、お前を仕留めれば、ルインに５０％の損傷を與えられるわけだッ！」

ミシモフとオーリィがマキナを程距離に収め、彼へと躍りかかった。だがマキナはひらりとを翻し、さらに上へと飛び上がって２人を翻弄する。

「私は大切なルインのバック・アップ。ルインが攻撃に集中するならば私は防と回避だけに集中します。ルインの５割の力を持つ私が生存だけを目的にくのですからね、倒せませんよ。そして攻撃は最大の防、とも言います」

マキナが言うと、空中のミシモフとオーリィの頭上に魔法陣が浮かび上がった。そして次の瞬間、魔法陣から放たれた火炎魔法が２人に襲い掛かる。

「マスター、お手を！」

「うむ！」

飛行できるミシモフが素早くオーリィを回収しつつ避ける。だが火勢のためにそれ以上マキナに接近できずに一度引いた。マキナはまたくすりと笑う。

「火炎は著火すれば攻撃が持続するから効率がいいんです。回避しながらでもこれくらいの魔法は打てますよ。致命傷にはならずとも、回避か防が必要なレベルの攻撃を打ち続ける……私の知識と頭脳があれば容易いことなのです」

天から俺らを見下ろして笑うマキナは、完全に俺らを舐めきっている。學園長の姿と聲なのに、だ。

「オラアアアアアッ！」

俺は渾の力でルインを毆り飛ばした。回避しないルインは真正面からそれを喰らって吹き飛び、俺は僅かに余裕ができる。そしてマキナに向かってんだ。

「マキナ、いや學園長！　あんた、ルインに吸収される直前は違っただろ！　もう忘れちゃったのかよ！　あんたはルインの怨念に呑まれただけで、本當は……」

「ガアアアアッ！」

「うわっ！？」

すぐさま起き上がってきたルインと俺はまた攻防を始める。

マキナは俺の言葉をけてなお、笑っていた。

「言ったでしょう、私はマキナ。ラルプリム、あるいは學園長と呼ばれていた魔兵はもうルインの中で死にました。私の中にあるのはルインと同様の憎悪のみ！　ラルプリムのは、あなたたちへの言葉とこの結界が最後。それ以上は期待しないでください」

「くそっ……ぐっ！？」

マキナの言葉に気をとられたのもあったのか、俺はルインから一撃もらってしまった。連続する攻撃はその一撃一撃が重量級、俺は勢を崩す。

「アアアアアアアアアアッ！」

ルインはその隙に大量の攻魔法陣を展開させて、俺目掛け打ち放った。

「レイ！　くっ、逸れろ！」

すぐに兄貴が魔法に干渉し、辛うじて砲撃は俺から外れて著弾した。その隙に俺もなんとか勢を整える。

「ガアアアッ！」

だがルインはすぐさま次の攻撃を繰り出し、俺はまた防しなければならない。完全に劣勢、この狀態が続けば不利になる一方だ。

しかもマキナはさらなる切り札を俺らに対しぶつけてきた。

「フフフ……レイ・ヴィーン。あなたはなんのために戦うのですか？」

ルインとの格闘の中、マキナの聲は不気味な鮮烈さを持って俺の耳に屆いた。すぐに魔科學兵のがその聲を分析して理解する。それはルインの憎悪から生まれた神干渉魔法――マキナは聲により、俺の神をも狙っているのだ。

「あなたは強力な魔兵。しかし使われた素材はせいぜい人間２人分。対しルインは數千人以上の人間を殺して生まれた魔兵……どこに勝ち目があるのです」

「くそ、やめろ！　聴覚遮斷！」

俺はすぐに聴覚をシャットアウトした。世界が靜寂に包まれ、マキナの聲も消える。だがそれでなおマキナの聲は俺の脳に直接響いてきた。

『そもそもルインがなぜ生まれたか。人のが起こす、でを洗う醜い戦爭……その中でさらに己がのため、１人の男が無數の人間を殺して作った魔兵がルイン。いわば人間という生自ら、その愚かさの為にルインという滅びを生んだのです。そんな人間に、本當に守る価値があるのですか？　あなたがそこまで苦しんで？　戦わなければ、あなたは生きられるというのに』

「ぐっ……や、やめっ……ううううっ！」

単なる言葉でなく、呪いに似た質の魔力を持った神攻撃。なまじ聴覚を切ったばかりに、靜寂の世界でその音だけが強烈に響く。平時ならば捻じ伏せることもできたかもしれない、だがマキナの言葉に耐えながらなお、俺は襲い來るルインの猛攻をしのぎ続ければならないのだ。片方に意識を向ければ簡単にもう片方に持っていかれる。極限の綱渡りの狀態のまま、俺は戦わなければならなかった。

だがその時、俺の頭に新しい聲が響いた。

『レイ！　神魔法に負けるな！　この兄の聲を聞け！　お前は私に希をくれた、愚かな人間である私を救ってくれた！　それだけじゃない、外にいる皆をお前は守っているのだ！　戦いの先にセイナも待っているのだぞ！　諦めるな、レイ！』

兄貴の聲だ。オーリィの機能なのかマキナ同様俺の脳に直接聲が響いてくる。それは魔力も何もないただの聲だったが、神魔法にやられそうだった俺にはとても強い支えとなった。そうだ、俺は負けるわけにはいかないんだ。人類の為というよりは、俺の大事な人たち……セイナや、仲間たちのために！

だが。

『その人たちならもう死にましたよ。だってあなた、私の神攻撃にかまけるに、結界を消してしまったんですもの』

マキナの聲が殘酷に響いた。俺は全からの気が引くのをじる。そうだ、ルインの攻撃とマキナの神攻撃だけじゃない、俺は『死の』を外に出さないための結界を維持しなくてはならなかったのだ。いや、結界は俺の魔力が続く限り維持できるようになっている――いや、まさか、まさか。

俺は思わず天を見上げた。その瞬間。

「アァァッ！」

「ぐっ……！？」

ルインの一撃が俺にクリーンヒットし、俺は吹き飛んで壁に叩きつけられる。その拍子に聴力遮斷が解除され、消えた世界の音が蘇った。一瞬見えた空、マキナが俺を見下ろすその後ろに、結界はたしかにあった。俺はその時ようやくマキナの神攻撃に呑まれつつあることに気付いた。

だがそんな俺に、ルインは真っ直ぐに突っ込んでくる。マキナの神攻撃のために俺は正常な判斷ができない。ルインの一撃による損傷もありけない。このままでは２発目をけてさらに混し、終わりの見えない攻撃の地獄に叩きこまれる。迫るルインに俺が恐怖したその時。

「レイィィィィィッ！」

オーリィの聲が響き、俺の前、突進するルインの前にオーリィが立ち塞がった。そして。

ルインの一撃をけ、オーリィはバラバラに砕け散った。

「兄貴……う、おおおッ！」

強烈な一撃により四散したオーリィの。その衝撃で、かえって俺は冷靜さを取り戻した。一瞬きの止まったルインへ逆に突っ込み、がら空きのに拳を叩きこむ。

「これで……どォだあああああああああッ！」

満の魔力と腕力を込めて、俺は拳を斜め上に振りぬいた。軽いルインのが凄まじい速度で吹き飛んでいく。

その先にいたのは、マキナだ。

「ルイン！」

だがマキナは慌てず、自ら後ろに下がって衝撃を殺しながらルインをけ止めた。ルインごとマキナを攻撃しようとしたのだが殘念ながら失敗したようだ。

最悪の事態は回避したがこれでオーリィがいなくなり俺とミシモフ、ルインとマキナの２対２。オーリィはただの遠隔作なので兄貴本は無事だろうがそもそも兄貴は限界だ、助けはめそうにない。

狀況は悪くなる一方だった。さらに。

『いつまで苦しむのです。見たでしょう、オーリィのがバラバラになるのを。このままではあなたもいずれそうなりますよ。いえ、あなたは死なずとも、隣にいるミシモフはきっと、同じようにあなたを庇い同じ道を辿るでしょう。あなたが今、ミシモフを抱えて逃げれば彼だけは助けられます。なぜそうしないのですか？』

「ぐっ……や……め……ろ……！」

「レイ、また神攻撃ですか。私はマスターのように鼓舞できません……レイ、気をしっかり持ってください」

『無垢な彼。純粋な彼。あなたの兄もきっと彼の幸福を願っています。私もミシモフとは同類です、できれば殺したくない。全人類を救うなどという実現不可能なことをみ、彼すら道連れにするのですか。あなた自の過剰な自信とくだらないヒロイズムのために？』

「あっ……ぐ、くうっ！」

マキナの神攻撃がまた続いた。學園長の記憶を持つマキナは的確に言葉を選び俺の神をえぐってくる。続く呪詛にがんじがらめになり俺はけない。さらにマキナが放したルインが地に降り立ち、再び俺を狙ってくる。

「くっ……ならば、私が！」

ミシモフが俺の前に立ちルインからの盾になろうとする。俺の脳裏にオーリィの慘狀がフラッシュバックする。このままではミシモフが……俺の戦意が折れかけているのを心のどこかでじ、それではいけないとも理解する。だが俺の心もも俺の言うことを聞いてくれない。ルインによるへのダメージ、そしてマキナによる心へのダメージが確実に俺を蝕んでいた。

萬事休すか。俺の中に絶が広がっていく。だが俺が絶に染まりかけた、その時。

「レーーーーーーイっ！」

聞き慣れたその聲が響く。よく通る、き通った、快活な聲。俺が家族以上に耳にした日常の聲。それは、俺がもっとも信じ慕う馴染の――セイナの聲だった。さらに多くの足音と、魔力の気配が次々に俺に屆く。

救いなどないはずの『死の』で満たされた決戦の場。だが、しかし。

「ニャーッ！」

「させんッ！」

俺のすぐそばから響く聲と共に、俺とミシモフのが引かれ、真っ直ぐに突撃していたルインの狙いが逸れる。姿は見えないが、明化の魔法を使ってそこにいる。明化と魔法の使い手、メアとミアの貓姉妹。

「重力魔法ッ！」

「ガッ！？」

さらにルインのが急激な重力に押し潰されてきが止まった。それはオニキス寮筆頭のミニッツ・ペーパーの魔法だ。さらに。

「オーホッホッホッホーッ！　いきなさいあなた達、どろどろに絡みついちゃいなさいましッ！」

覚えのある高笑いと共に空から降ってきたのはなぜかスライム。不明で青に濁ったそれがルインのにまとわりつくとその下の地面を溶かし、重力魔法によりルインのはどんどん沈んでいった。

そして俺らがいる中庭に空いた大の中に、２人の生徒が飛び込んでくる。片方は全を魔法のバリアらしきもので覆ったミニッツ、そしてもう片方はなんと全をスライムで包み込んだユニコ・サマリーだった。さらに気配からミアとメアの姉妹も明化しつつすぐそばにいるのがわかる。

「さすが滅びの封印、とてつもない抵抗だが數十秒ならフルパワーでなんとかなる！」

「わたくしが改良に改良を加えた特スライムも絶好調！　地の果てまできを封じますわ！」

「ニャニャ、間に合ってよかったのニャ！」

「だらしがないぞ特待生。まったく世話が焼ける、にゃあ～」

彼らの言葉に俺はハッと我を取り戻した。そして慌てる。

「お、お前ら、どうして中に！　助けてくれたのは嬉しいが、この中にいたら『死の』で……！」

そうだ、目には見えないし俺らにはじないが、魔神兵ルインが暴れまわる學園部は今、による致死の魔法毒『死の』で満たされている。生の人間が踏みれば確実に死に至るはずなのだ。

だが彼たちは（なくとも見えている２人は）笑っていた。

「わかってる。だが忘れているだろう特待生、この私、ミニッツ・ペーパーは學園長先生の片腕だ。空間魔法の手解きはけている、元より重力魔法は空間に干渉する魔法でもあるのだぞ」

「オーッホッホッホ！　『死の』とやらは魔法毒の一種とレイのお兄様からお聞きました！　わたくしのこのスライムちゃんはあらゆる魔法を吸収し、かつどんな魔法毒でも分解してしまうのですわ！　レイに救われてからずっと研究を重ねた、わたくしの最高傑作ですのよ！」

さらにミア、メアも明なままに喋る。

「ミアの明化は正確にはミアに屆くを全部殘さず曲げちゃう魔法なのニャ！　だから死だろーとなんだろーとは一切ミアには當たらないのニャ！　そのせいでずっと明でなきゃいけないけどニャ」

「プラス、私の魔法とミニッツの空間魔法により全員へ補助をしてある。長時間は無理だが短時間ならば十分に活可能だ、でなければ我々は既に死んでいる、にゃ」

彼たちが持ちうる魔法。それを最大限に活用し、助けに來てくれたのだ。俺は激して泣きたいくらいだった。

だがその時、彼らの出現に驚いていたマキナが聲を張り上げる。

「見なさいレイ！　あなたのせいで、彼たちまでもがこの戦いに巻き込まれた！　ルインを止めたのも所詮は一時しのぎ、すぐにルインのパワーによって皆、殘酷な死を迎えるでしょう！　あなたは……」

神魔法を続けようとしているが明らかにマキナ自揺している。人間に近い高度な神を持つばかりに揺もあるのだろう、その聲はあまり俺へのダメージはない。

さらに、その時。

「黙りなさい、魔神兵マキナッ！」

上の方から聲が響く。見ればいつの間にか――セイナが俺らの背後に當たる部分の中庭の外に立ち、空中のマキナを見上げていた。ミニッツが俺に、セイナたちも空間魔法のバリアーで覆っているから短時間なら大丈夫、と耳打ちする。

「レイは私たちのために戦ってくれてる！　そして私たちもレイのために戦うの！　あなたが何を言おうと関係ない！　神魔法なんて卑劣な攻撃、私たちの絆で吹き飛ばしてやるんだから！」

セイナはマキナに対し堂々と聲を張り上げていた。マキナは苦々しくセイナを睨み、かつ驚いている。

「何を馬鹿な、たかだか學生が數人集まったところで……いえ待ってください、なぜ神魔法について……いえそもそもどうしてあなたに私の名前が……？」

マキナが揺していたその時。

「あなたの相手は私です」

いつの間にかマキナの背後にある校舎に回り込んでいた、シルリアが飛び降りた。ハッとマキナが振り向いた時にはすでに、シルリアの氷の魔法が彼を凍てつかせる。

「ハアアアアッ！」

シルリアは凍り付いたマキナを氷塊と化し、そのまま吹雪の魔法で地面に叩きつけた。そして自は校舎を氷で何回か摑みつつ安全に著地する。

「今ですレイ！　マキナを倒せばルインにも大ダメージなのでしょう？　さあ！」

「わ、わかった！」

シルリアに言われた通りだ、俺はすぐに跳び、氷塊の真上へとやってくる。そして今度こそ全力の魔力を両腕に込めた。

「『マージブースター』、両腕部全開！　はああああ……ッ！」

とその時、氷塊が崩壊して中から火炎が吹き出した。火炎魔法でマキナが氷を溶かしたのだ。

だが俺は気にせずにその業火の中へと突っ込んだ。猛烈な痛みと熱さを越えた先、マキナが俺を見て目を見開く。それはまさにマキナの防が崩れている瞬間を意味していた。

「シュゥゥゥゥゥゥゥゥトォォォォォォォォッ！」

魔力防が解かれたマキナへ、俺は拳を浴びせかけた。一度ガードが崩れればその隙の一撃でさらに防の余裕などなくなり、次の一撃、さらに次とがら空きのボディへ拳が響く。俺はそのままマキナを組み伏せ、俺とマキナ、どちらかが力盡きるまで毆り続けた。

「……ハアッ」

やがて俺は拳を止める。その下にいるルインはすでに原型を留めていなかった。先程砕け散ったオーリィと同じかそれくらいに破壊され、完全に停止していた。

やった。ひとまずマキナは倒したのだ。

「レーイ！」

セイナの聲が聞こえる。一瞬放心狀態だった俺はそれで我に返って立ち上がり、駆け寄ってくるセイナと皆を迎えた。

「レイ、大丈夫！？　今治療するね」

「ごめんなさい、遅くなったわ。２人とも無事で何より」

セイナが醫療魔法を俺にかけ、俺のへのダメージが消えていく。そしてセイナは俺の心をも癒してくれていた。

「やったわね。これでルインも相當弱化するでしょう」

「ああ……だけどお前ら、どうしてそれを」

「実はね、レイのお兄さんがずっと中の狀況を私たちに教えてくれていたの。オーリィのは２つあったらしくて、念のために外に１つ殘して、そのついでに報を私たちにね。でもそれがいきなり途絶えて、レイがピンチなんじゃないかって思ったんだ」

「なるほどな……ありがとう、本當に助かった。お前たちが來なければどうなっていたことか……ありがとうお前ら」

「とーっぜんですわ！　わたくしは一度レイに救われた、その恩返しをするのは當然でしてよ！」

「私も……友達、だものね」

「オニキス寮の皆まで……本當に、ありがとう」

俺が改めて禮を言うと、ミニッツは罰が悪そうに目を逸らした。

「學園を守るがオニキス寮の本義、當然だ……と言いたいがな。実は私たちは助けにる気などなかったんだ、あまりにも危険すぎる。だが、そこのセイナ・セントールに熱心に説得されてな……」

「負けだニャ。結局総出で協力だニャ～」

「謝ならば馴染にしろ。兄が口をらせていたぞ、お前は元は弟、つまり男だったと。まったく見せつけてくれるにゃ～」

「セイナが……」

俺は驚いてセイナを見る。セイナはし恥ずかしそうに頬を染めていた。

「この狀況で私ができることって何か、考えてて。魔法でも知識でも、私じゃレイの助けにはならないけど、レイの力になりたくて……必死で皆に訴えたんだ。そしたらミニッツちゃんが協力してくれたから、私もここに來れたんだよ。それに先生たちや他の生徒の皆が魔力をミニッツちゃんに注いでくれたおかげで、『死の』に耐えられるくらいになったんだよ」

「そうか……ありがとうセイナ」

「ううん、結局は皆のおかげだから」

セイナはいつものように優しく微笑んだ。

だがその時。

「マ……キ……ナアアアアアアアアアアアアアアッ！」

地の底から唸る獣のようなび聲。それと同時に大きく揺れる地面に俺らの話は中斷される。

「ぐっ……お、抑えきれん！　強化された魔法をもってしても……！　く、來るぞ！」

ミニッツが警告する。その直後、深い地面の底からルインが飛び出してきた。

ただしその場所は彼が埋まっていったではなく、俺らのすぐそば――マキナの殘骸がある場所だった。

「下がれ、みんなっ！」

俺らはすぐにルインから飛び退き距離をとる。だがルインはすぐに俺らに襲い掛かってくることはしない。

「オ……オ……オ……！」

ルインは膝をつき、マキナの殘骸へと手をばす。そして。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ！」

また、咆哮。その全を包む真っ黒なオーラがマキナの殘骸をも覆いつくして黒く染め、ルインたちの姿は漆黒の魔力に覆われて見えなくなった。

「きゃあああっ！？」

「こ、これは？」

「ぐうっ……」

さらにそこから凄まじい風圧が俺らへと襲い掛かる。莫大な魔力が膨れ上がり、その威圧もまた俺らのを突き刺した。

俺の魔科學兵のが告げる。俺自もまた覚としてわかる。ルインの完全覚醒が、ついにろうとしている。

「いよいよ……最後の、戦いだ」

もうすぐそこまで來ているのだ。人類が滅ぶか否か、その未來が決定する瞬間が。それは俺の手で――いや、俺たちの手で、摑み取る未來。勝利という名の希の未來。

もはや迷いも何もない。どんな神攻撃だろうと屈しない。俺には戦う理由がある、守るべきものがある。俺は決意と覚悟を持って、皆と共に、打倒すべきその絶を見つめていた。

――そしてルインは、その姿を見せた。