《魔法兵にされたので學園にります ~俺は最強の魔兵~》第32話 本

戦いの果て。

ルインが最後に至ったその姿――人を殺すことだけを存在意義とする最悪の魔科學兵の真の姿。

「なに、あれ……」

セイナが呟く。恐怖ゆえに自然とれた聲に聞こえた。俺も全を襲う魔力の奔流と同時に、今にも逃げ出そうとする自分の両足を必死に抑えていた。

黒紫の髪のの姿を持つ、魔兵ルイン。見た目だけならば俺やミシモフと同じ可憐なだった彼は今、そのに宿す邪悪な本を顕しているかのように、壊れていた。

から溢れ出る、極限まで凝され可視化した魔力。ただ溢れ出るだけだったそれは、不定形の漆黒の腕と化し、神話の怪のようにルインのから無數にびて地を天を摑む。

ルインの白い皮の隨所が崩れ落ちている。、腹、そして左目。その中には何も見えない。ただただ真っ黒な闇が、絶的な魔力の波と共に満ちていた。

「レイ……ルインの魔力がマスターの予測限界をゆうに突破しています。魔神兵マキナを取り込んだ影響か……かつてルインが封印された時代の彼よりも、今のルインは遙かに強大と思われます」

ミシモフが分析する。いつも表がなくの起伏が乏しい彼ですら、恐怖の震えを瞳に見せていた。

だがたしかに今のルインは強大かもしれないがそれは魔力の點、半であるマキナを破壊したことで、そのはもう5割が崩壊している。攻撃力は上がっているだろうが防は確実に落ちているはずだ。俺らはまだピンピンしている、勝機は十分にある。俺はそう思っていた。

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その時は、まだ。

『ワタ……シは……』

のルインが口を開いた。その度にの魔力が僅かにれ、その聲にすら魔力が混ざり奇怪な響きとなって空を揺らす。

『……ルイン。ワタシは、ルイン。アア、アア、アアアアアアアアアッ!』

ルインが咆哮したその瞬間。ルインの全から、り輝く槍のようなものが四方八方に飛び散った。避けられる數ではない上に、そこからじる気配はまさか……! 俺は戦慄した。

「みんな、俺の後ろに隠れろ! 空間魔法『ドーム』ッ!」

皆を一か所に集め、空間魔法で作った半球でまとめて覆いつくす。の槍はそのドームで辛うじて防ぎ切った。その手応えで俺は確信した。

「今の……『死の』だ! あの黒い魔力と同様、強すぎて可視化してる! あんなのが外に出たら……!」

學園を覆う結界は今外から先生たちが補強し、この強化された『死の』をけ止めている。だが人間の魔力は有限だ、なくともルインが持つエネルギーには到底及ばない。ルインを止めなければ世界が滅ぶ、改めてそう確信するほどの恐怖をあのの槍は放っていた。

「ダメだセイナ、みんな、逃げろ! ここからは俺とミシモフで……!」

「フン、窮地に陥っていたお前が偉そうに抜かすな!」

だが皆を案じ逃げるよう提案した俺を、ミニッツが一喝した。

「私とメアが全員分の空間魔法と魔法を放ち防に専念し、セイナもまた醫療魔法で毒を相殺する! やはり長時間は不可能だが、今の威力を見る限り耐えられないわけじゃあないッ! それでよかろう!」

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「ミニッツ、奴の能力は未知數だ、それは危険すぎる!」

「フン、お前が1人で無理に戦い負ければどの道全滅だ。ならば多リスクを負おうとも加勢こそが私たちが生きる道でもある!」

「だ、だが……」

「レイ!」

セイナが俺の肩を摑み、ぐっと近づけた。すぐそばでセイナの瞳に俺が映り込む。セイナは強い意志で迷いなく俺を見つめていた。

「安全なまま世界を滅亡から救えるわけない。私たちは覚悟の上で來てる! レイ、いい加減に自分たちだけで背負うのはやめて!」

「セイナ……」

俺は他の皆も姿も見る。シルリアもユニコもミニッツも皆、俺を見て頷いた。ミア、メアなどは明化を解除までして覚悟の視線を俺に向けていた。

「……わかった! お前らの力、借りるぞ! そろそろこのドームも限界だ、これが壊れたらすぐに一斉に攻撃をかける!」

俺の聲に皆が応じる。もはや誰も退く気はなかった。

「レイ、その前に『』を使うべきかと。頃合いです」

「ああ、俺もそう考えていた。行くぞ」

俺は空間魔法により手の平の上に異空間へのを開けた。そしてそこに収納していた『』を取り出す。

それは剣。白銀の刃がる大型の剣で、十字架を模した持ち手には複雑な魔法文字が書き込まれている。俺はそれを手に取り構えた。剣の扱いは素人だが、魔科學兵はこの狀況を想定した兄貴により剣をもインプットされていた。

「レイ、それは?」

「兄貴が作った対ルイン用だ。あまり長くは使えないから溫存していたが時だしな」

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だと言いながら兄貴がこれを見せた時は驚いたものだ、部には々と機能が込められているのだろうが、なぜ剣なのだ、と。問うと兄貴は平然と答えた。『お前は小さい頃勇者に憧れていただろう』、と。

どこまでもできすぎた兄貴だ、を俺が手に取ることを想定して作っていた。勇者への憧れは本當に小さい頃にもう捨てたが――剣を握り戦うというのは悪くない。形だけでも勇気が湧いてくる気がした。

その時。

ドームにヒビがった。

「さあみんな……行くぞッ!」

そしてドームが砕したと同時に俺らはルイン目掛け最後の突撃をかける。セイナ、ミニッツ、メアが殘って皆の命を守り、ミシモフ、シルリア、ユニコ、ミアが俺と共にルインへと駆けた。

だが。

『アアアアアーーーーッ!』

ルインがひときわ強く咆哮し――全からびる魔力の腕が、數を數倍に増やした。

『憎む……ワタシたちハ、憎む! 滅べ! 人間ヨ……世界ヨ!』

ルインが狂気の怒號を上げる。すると魔力の腕はそれこそ狂ったように暴れ始めた。

「くっ……『氷結せよ』ッ!」

シルリアが足を止め、その氷魔法を解き放つ。するとルインの周囲の水分が急激に凍てつき、瞬く間に氷の棺桶がルインを覆っていく。それは二重、三重にも一瞬のに構築され、多様な知識を持つシルリアが造詣した棺は強度を高める作りをも持っている。だが。

『ァアッ!』

黒い腕の一本が橫なぎに一発。それだけで氷は砕かれた。

1本だけでシルリアに完全に勝る威力の腕――それが數十本、あるのだ。

「みんな、正面突破は危険だ! 俺がまず腕を引きつける、隙ができたら奴のきを止めてくれッ!」

俺は単ルインへと突っ込んだ。今の奴に真っ向から対抗できるのは俺だけだ、ならば俺が行くしかない。

突出した俺にルインは狙いを定めたらしい。あの黒い腕が踴り狂いながら俺へと襲い掛かった。そこから発せられる魔力だけでも常人ならば意識が飛びかねないだろう、だが俺は違う、兄貴に貰った力がある。

「行くぞ兄貴! 応えろ剣ッ!」

俺は手にした剣に魔力を送り込んだ。俺が持つ魔兵のパワーに呼応し、その刀り輝く。

「フンッ!」

襲い來るルインの腕を、俺は次々に切り捨てた。この剣は魔兵が持つ特殊な魔力を吸収し増幅、かつそれに対する特攻を持つまさに対魔科學の最終兵だ。だがその分外から魔力をけ続けることになり、そう長くは持たない。

『滅べ……滅べ、我々ノ手デェッ!』

ルインがび、その腕で俺の足元の巖盤をえぐって俺を天に放り投げた。宙に浮き無防備になった俺を、ルインは腕と『死の』による槍で襲撃する。俺はすぐに剣を構えた。

をかき消せッ!」

剣は俺の魔力に応じてを放ち、の槍を掻き消した。この剣の第二の機能、『死の』への対抗策だ。完全に消すわけではないが威力を弱めることができる、兄貴の研究は無駄ではなかった。

そしてルインの攻撃が空中の俺に集中したことでルインに隙ができた。

「今だみんな!」

俺の號令ですぐに皆がルインへと攻撃を仕掛けようとした。

だが、その時だった。

ヨ……人ニ、滅ビヲォッ!』

ルインが咆哮する。その瞬間、その全からの槍が――ルインのどす黒い魔力を纏い、膨大な魔力の塊となって降りかかった。

「ああああああァァァーーーーーーーーっ!?」

ルインを攻撃しようとしていた皆はまともに槍をけ、吹き飛んだ。ルインが持つ魔力を『死の』と混ぜての攻撃、威力は常人が耐えうるものではない。ミニッツやセイナたちが全員を守っていなければそれだけで皆殺しだったかもしれないほどだった。

さらにその死の槍は絶え間なく放たれ、遠くにいるセイナとミニッツ、メアにすら襲い掛かっていた。

「セイナ! みん……うっ!?」

俺も例外ではなかった。地のルインから放ち続けられる槍を、俺は剣で辛うじて切り抜ける。セイナたちはミニッツが防して辛うじて耐えていたようだがルインは攻撃をやめず、さらに外の結界が悲鳴を上げているのもわかった。

『我々ハ憎ム! 死ヲ……全ナル、死ヲォォォォォォッ!』

そんな中、ルインが一際強く猛る。すると彼る無數の腕が、漆黒に白い閃が織りざった混沌の様相を見せ始める。

あの死の槍と同じだ。俺はゾッとした。ルインはその邪悪で巨大な魔力に、『死の』を混ぜている。人の命をたやすく奪う魔力が人を殺すためだけのと融合し――完全なバケモノが生まれつつあるのだ。

俺は覚悟を決めた。やはり俺が行くしかない、たとえ俺自が壊れようとも、皆を守るために。

「行くぞルインッ!」

俺は空中から全開の魔力でブーストをしてルイン目掛けて突撃を敢行した。兄貴が作ったこの剣は魔科學兵を構する魔鉱石というのに特攻があるらしく、いかにルインといえどまともにければただではすまない。だが當然ルインは俺へその腕を振るい近づかせまいとしてくる。

「ぐっ……やらせないッ!」

俺は剣を使わず庇いながら突撃を続けた。威力はあれど脆い剣、必ずルインへと突き立てる。襲い來るルインの腕を魔力で弾きあるいはけ止める。だが同時に放たれる死の槍と共にさばき切れず、何発か俺に當たった。

「ぐあああああああああああっ!?」

その瞬間、俺に殘った僅かな人間の部分が激痛を訴える。の中に槍を突き刺され、そこから無數の刃でえぐり回されるような痛み。それがルインの攻撃をける度に俺の中を駆け巡った。

だがそれで止まるわけにはいかない。歯を食いしばり、魔力を集中させ、ルインの魔力をかき分けながら突き進む。

やがてついに、その程にとらえた。

「いっけえええええええええええええええッ!」

満を持して俺は剣を抜きはらう。ルインを覆っていた黒いオーラを切り裂き――ルインのに、剣を突き立てた。

『ガッ……!?』

ルインが苦悶のきをらす。剣が突き刺さった部分がり輝き、ルインの魔力がれていく。

「うおおおおおッ!」

俺はさらに魔力を解き放ち、全霊の力を剣に注ぎ込んだ。兄貴から聞いたことを思い出す、ルインの力爐は左部、そこを貫いて終わらせる! 俺は剣をしっかりと握りしめ、橫なぎに切り払っ――

『ガアアアアアッ!』

ルインの腕が、俺の両腕を喰らった。俺は何が起こったのかわからず、千切れた腕が剣から離れぽとりと落ちるのを見る。激痛が襲い掛かってきたのはその直後。そしてルインが口から新たな腕を繰り出し、俺の視界を染めたのはさらにその後だった。

ルインの魔力に呑み込まれ、俺の意識は途絶えた。

――幸いにも俺は、地面に叩きつけられた衝撃で意識を取り戻した。気を失ったのはルインの攻撃を直撃したほんの一瞬だけだったらしい。

だが起き上がるのに俺は苦労した、両腕がなかったからだ。俺の両腕は本から失われていた。改造の影響では流れても僅かで、そのケガだけで死ぬことはない。だが遠くに未だ見える、黒い魔力に覆われた絶の化。それに殺されれば同じことだ。

しかしルインが襲い掛かってくる気配はない。どうやら俺の攻撃も無駄ではなかったらしく、ダメージに苦しんでいるようだ。これでし余裕ができた、俺はなんとか立ち上がり辺りを見渡す。そしてそれを見つけ安堵した。

「よし、これだけは守れたな」

俺のそばに転がっていたのはの剣。実はあの瞬間、この剣は失っちゃいけないという一念で、理魔法により必死でったのだ。幸いにも剣は無事でまだ使えそうだった。

「レイ!」

セイナ、ミニッツ、メアの守備組が駆け寄ってきた。彼たちもまだ無事のようで何よりだ。

「レイ、腕が……!」

「大丈夫だ、これで死にはしない。魔法があれば剣は持てるし戦える。ちょっとバランスは悪いけどな……」

「で、でもレイ、いくら改造されたってレイは人間なんだよ? そんな狀態じゃ……」

「……大丈夫だ、セイナ」

俺はセイナたちに向かって微笑んだ。えっ、とセイナが目を丸くする。傍目には俺が絶して開き直ったか無理に

虛勢を張っているように見えただろう、だが俺には実際に勝算があり、セイナたちの未來を確信して笑ったのだ。

ちらりとルインを見たが俺が與えたダメージは思ったより深かったらしく、まだ時間はありそうだ。俺はその幸運に――セイナと話ができることに謝し、改めて彼と向かい合った。

「さっきルインに迎撃された一瞬、俺は『死ぬかもしれない』って思ったんだ。思えば魔兵になってから……いや俺の人生で、本気で死を覚悟したのはあれが初めてだろう。だからかな、フッと浮かんだんだよ……ルインの倒し方がな」

俺がそう伝えてもセイナは喜んだりはしなかった。聡い彼のことだ、俺の雰囲気からじ取っているのだろう。

俺が、死ぬつもりでいることを。

「兄貴は俺を生かしたい一心で俺を改造した……だから俺のは俺の生存にエネルギーの大部分を回している、さっき死にかけた時に生きたいと強く念じた結果、それが偶然わかったんだ。逆に言えばその分のエネルギーを全部使えば相當な魔力にできる。生存を度外視すれば問題なくルインに接近し、この剣に全ての魔力を注ぎ込み……ルインを、倒せるはずだ」

それがルインを倒し世界を救う、唯一にして絶対の方法。俺はそう確信していた。

セイナは震え、何か言いたげに瞳をうるませながらも言葉を出さなかった。同じようにわかっていたのだろう、俺の覚悟が本気だと。俺にとって――セイナや皆を守って死ねば、本だと。

「時間がないんだ、學園を覆う結界も限界だし、ルインがき出せばお前らも危ない。最後にセイナと話せてよかった」

俺は転がっていた剣を魔法で持ち上げる。そして今一度セイナを見て微笑みかけた後、振り向いた。

ルインが俺を見ている。殺意を俺に向けているのがわかる。ならばそれに応えよう――俺は決心し、再びルインに向かって、今度こそ最後の攻撃に出る。

だがその時。

「レイ……待って、ください」

ルインの攻撃をけ、倒れていたミシモフが起き上がった。同時にシルリアやユニコたちも起き上がるが、彼らはすでにボロボロで立っているのもやっとといった様子。だがそれでなお、ミシモフだけは奇妙なほど強い意志を持って俺を見つめ、俺の足を止めた。

「マスターの作ったその剣は……他者により、魔力を注ぎ込めます。元はマスターが使おうとしていた武です、誰が持っても戦えるようにできています。だから、生存に必要な最低限の魔力を殘し、レイの魔力をそこに注ぎ込めばいいのです……」

ミシモフは俺へと歩み寄る。怒りにも似た視線で俺を見ていた。

「レイ、あなたが死んだらマスターが悲しみます。剣を私へ。私でも、玉砕覚悟ならば……ルインを仕留めることができるはずです」

「ダメだミシモフ、お前では……」

「半分が人間であるあなたは『死の』の痛みをけますが私はけません。私こそが最適なのです。ルインがき出してしまいます、さあ、早く!」

「しかし……」

「レイッ!」

ミシモフはいきなり俺の倉を摑んだ。その表には明らかな怒りが現れていた――ミシモフが初めて見せた、強いだった。

「あなたが死んだらどれだけの人間が悲しむと思っているのですか! マスターだけじゃない、セイナやここにいる皆、他の友人たちもそう! あなたは人間です! 戦いの中で滅びるのは、私たち兵だけでいい!」

俺を捻りあげながらミシモフはまくし立てる次第にその表には、怒りと共に悲しさがにじんでいく。そしてミシモフはその心中を吐した。

「私は……あなたに勝てない。能も、心も……マスターからの、も! マスターはずっとあなたのために生きていた、あなたのために命を捨てた! 私も……それくらい、マスターに想われたかった! でもできないのです、私には。これが私にとっては最後のチャンス……あなたに代わり命を捨て、マスターの本願を果たすことで、私は初めてあなたを越えられる! きっと私はそのために今の時代に心を與えられた! これが私の、心なんですッ!」

ミシモフの思わぬ告白に、俺は思わず圧倒される。その隙をつき、ミシモフは俺のそばに浮いていた剣を奪い取った。

「さあ早く! ルインが目覚めます! ここに魔力を注いでください! あなたは、私がマスターに報いる最後の手段まで奪う気なのですか!?」

さあ! ミシモフは俺に詰め寄った。時間がない、俺も決斷しようとする。ミシモフがむのならば、と。

だが。

「馬鹿者! お前らが死んでいいわけなかろう!」

そう高らかに聲を上げつつ、その男はまた、俺らのもとへ現れた。

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