《職業魔王にジョブチェンジ~それでも俺は天使です~》捨て子とスライムと神様

その日。アニスは、村の男たちと狩りをしていた。約、三週間前に子供が生まれ、その生活費を稼ぐため、あと単純に頑張って元気な赤ん坊を産んでくれた嫁さんに味しいを食べて貰おうと、自分達の住む森から原を挾んで反対側にある森まで狩りをしに行っていた。

もともとは、冒険者をしていたので、狩りは上手く、昔を思い出して、獲を追っているうちについつい遠くまで行ってしまい。日は傾き始めていた。

――これは、サラに怒られるな……。

と、考えて、そろそろ、雪原が見えてくるか、と言う処まで差し掛かった時、先頭を行っていた男が聲をあげた。

「赤ん坊がいるぞ!!」

そんなバカなと思い聲をあげた男の元に行くと雪の上に木でつくられた籠の中にった赤ん坊がいた。男の子は白い上等な布にくるまれており、寒さのためか、顔が悪く弱りきっていた。

一瞬死んでいるのか?と、思った男たちだったが、の部分が上下しているのが見え、辛うじて生きているのがわかった。

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――なぜ、こんなところに赤ん坊が?

男たちは居るはずのない存在に戸いをじていたが、アニスは今までじたことのない怒りをじていた。

つい先日父親になったばかりだが、自分の子供と同じくらいの赤ん坊が、この寒いなか雪原に捨てられている。そのことに酷く怒りをじるとともに、悲しくなった。

赤ん坊の親が何を考えて捨てたのかは、わからないが、赤ん坊を自分の子供と一緒に育てようと決め、赤ん坊の籠に近づこうとした。

――突如、籠の影が大きくなり、そこから、黒い手が現れた。アニスたちは、自分たちの武に手を掛け、何が出てきても対処出來るように、き出す。

狩に出掛けると、たまに大きな魔が現れる時がある。連攜を組んで魔を討伐、撃退してきた。息のあったきで持ち場に著き、突然現れた魔に対処する。

――気づかなかった……!

相手の強さは未知數、なくとも気配を消してずっとそこにいた。男たちの警戒が上がる。

手が引っ込み、そこから、ゆっくりと本が這い出てきた。そして、現れた正は――――小さなスライムだった。

だか、油斷するものはいない。スライムにしてはおかしな所が多すぎる。スライムのが突然、うごめき出した。

そして、が大きくなり、形を変えていく。男たちはその異常な景を黙って見ているしかできなかった。そして――

「ド、ドラゴンだ!?」

スライムはドラゴンに姿をかえた。ドラゴンの口からは蒸気のような息のが上がり、紅い雷をに纏っていた。そのドラゴンはまるで赤ん坊を守るように立ちはだかっている。

アニスはそのことに気づいた。そして、納得した。彼は赤ん坊が魔がいる雪原で無事だったのが不思議だった。

だか、目の前のドラゴンが原因なら、ドラゴンが魔から守っていたのなら、魔に襲われずに済んだ理由がわかった気がした。なぜ、ドラゴンが守っているのかはわからないが……。

「……おい、アニス、どうする?」

仲間の一人が聞いてくるが、アニスはゆっくりとドラゴンに近づく、

「おい!?危ないぞ!!」

「バカ!!なにやってる!?死にたいのか!?」

そう仲間たちが止めてくるが、

「大丈夫だ。見ていてくれ」

そう言い、仲間の制止を無視してドラゴンに近づく。目と鼻の距離になった。ここで彼は確信する。このドラゴンは理が有る、と語に登場するようなドラゴンのように。

「グルルー」

ドラゴンが低くうなる。ドラゴンは黒い鱗に覆われているが、所々溶けているし、不自然な揺らめきがある。恐らく、初めのスライムが本來の姿なのだろう。だが、その威圧は並の魔ではない。

「な、なあ、お前がその子を守っていたのか?」

「……」

男たちは固唾を飲んで見守る。何かあったら、直ぐにアニスを連れて逃げれるように……。

スライムは何も答えないが真っ直ぐに、彼を見據えていた。

「ここは寒い。こうしている間にも、その子は弱っていく」

スライムは、赤ん坊を振り返り、顔を舐める。たしかに、はもう冷たくなっていた。魔力枯渇も合わさり危ない狀態だ。

「俺には、その子と同じぐらいの娘がいる。だから、その子を放っておけないんだ。それに、この場を乗り切れたとして、お前にその子を人らしく育てられるのか?」

たしかに、スライムにはこの場を乗り切る手段はいくつかある。だが、スライムは生まれたばかりだった。言われて初めて、自分の主が危ない狀態だと気がついた。

主の命令を忠実に守ることしか考えていなかった。それに、人の生活というものを知らない。主も人と育った方がいいだろう、とスライムはかんがえていた。

「俺はその子を、我が子のように育てると約束する。お前も……スライムの姿なら、一緒でいい」

アニスがそう言うと、スライムは元の姿に戻り、赤ん坊の影にっていく。アニスはそれを確認すると、

「ジェニス!!急いで帰るぞ!!」

「ああ、わかった。けどよ、その子もスライムもサラを説得するのは大変だな」

ジェフは赤ん坊を自分のコートの中にれ、暖めようとしているアニスに向かってそう言った。アニスはその場を想像して、赤ん坊は兎に角、スライムは難しいと思い、弱々しく、

「……赤ん坊は同じぐらいだから。一人も二人も変わらない……だろう?スライムは……、あれだ」

「どれだ?」

ジェフが嫌味な笑みを浮かべる。アニスは毆り飛ばしたくなったが、

「……理もあるし、話しも通じるみたいだし、……お前よりは賢いから大丈夫だろう」

なんとか耐えた。なんだかんだ言っても、家事をしてくれるのはサラだ。彼の負擔が増えるだろう。そう思うと忍びない。

だが、命がかかっている。なんとか説得して、スライムを家で飼えないかきこう。そう、ジェフの文句を聞き流しながら決意した。

◆◇◆◇◆

「なあ、アニス?結局このスライムは何だったんだ?」

歩きながら、ジェフが聞いてくる。速足なのでし息が切れているが。

「わからない。だか、害はなさそうだ。この子の親が捨てる時に守るように命じたんじゃないか?」

「こんな強い従魔を?あれは多分変異種だろ?それも、Aランク、下手をすればSランクに屆きかねないをか?あれが襲ってきたら、俺たちは全滅してたぞ。そんなを捨て子に渡すか?」

「わからない」

を従わせて従魔にする者もいる。だが、強い魔や理のある魔ほど、従わせるのが難しい。

強力な魔を、それも変異種を捨てる赤ん坊にあげるかと言われれば、首をひねらざるを得ない。

スライムの変異種は多いが、あれほどの威圧を放ち、魔法までるスライムなど聞いたことがない。それに――

――フロリアル教の神の紋章……。

赤ん坊を包んでいる布には、この世界の教會の主神の紋章が刻印されていた。アニスには、この刻印といい、スライムといい、この赤ん坊には何かあると考えた。

だが、早く家に帰り、この子を暖めるのが先だと、アニスたちは足を早めた。

ありがとうございました。

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