《職業魔王にジョブチェンジ~それでも俺は天使です~》に濡れた狂牛
翌日――ダンジョンの中なので、日の出による確認は出來ないので、約七時間後、クレアシオンは扉の前で腕を組んでいた。
彼の背後には九のゴーレムが控え、アレクシスは彼の影に潛み、ソフィアは神に戻っている。全ての準備は整っていた。
積み上げられた魔は全てクレアシオンの糧になり、ほんの僅かだが、彼のステータスを上げていた。
「ソフィア、手足の一二本は致命傷じゃないからな。それぐらいで転移させるなよ」
いい忘れていたことをソフィアに伝えた。場合によっては手足をくれてやってでも隙を作らないといけないかもしれない。なのに、彼がそれを致命傷だと判斷し、転移を使われてしまっては手足を捨てた意味が無くなってしまう。
『なぜ、そこまでして……』
クレアシオンの話では世界を救うために転生させられたはずだ。こんなところで手足を、ましてや命を賭けてまで助けようとするのか、彼がどうしてそこまでするのかわからなかった。
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クレアシオンが九尾化すると二のゴーレムが扉に手をかけた。
「俺がやりたいからだ!」
そう言うと同時に、扉が勢いよく開かれ、ゴーレム達とクレアシオンが行きよいよく飛び出した。相手に勢を整えさせる前に殺す。これが一番確実だった。
部屋の中央には戦斧を擔いだに濡れた様に赤黒いミノタウロスがいた。周りには、殺された冒険者の骨や裝備が散らかっている。全てこのミノタウロスがやったものだろう。
七のゴーレムがミノタウロスを囲み、それぞれの武を突き刺す、が、全て腕で弾かれてしまう。圧倒的な防力。嫌でも、地力の差を見せ付けられてしまう。
戦斧を振り上げ、ミノタウロスは嗤う。また、殺されに來たのか?と。
しかし、戦斧がゴーレム達に當たる前に、ゴーレムが破裂する。部から石の鎖と杭が飛び出したのだ。ゴーレムの土のが弾け、塵が舞う。
ゴーレム達がこのミノタウロスに対して無力なのはもう知っている。ゴーレム達は手練れだ。やり方がどう、とか作戦でどうにかなる様な相手に何もできずにやられる様な彼らではない。
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なら、殺られる前提で攻めるしか無いだろう。これは魔で作られたゴーレムだから出來る戦。いや、本來の使い方だ。魔のゴーレムは、時間稼ぎや代わり、戦闘に置いて相手の力を減らす為に使うのが一般的だ。クレアシオンのやり方の方が珍しい。否、彼にしか出來ない。
杭や鎖できを奪い、土煙で視界を封じた一瞬の隙にクレアシオンがレイピアでミノタウロスを刺突する。九尾の足で加速し、インパクトの瞬間、鬼神化して、鬼神の力を乗せた一撃。普通の武では耐えきれないので、【ゲファレナ・ゼーレ】で作った業を使っている。
彼の一撃の衝撃により、土煙が晴れた。
『なっ!?』
今ので決まったと思っていたソフィアは驚きの聲を上げた。
「……イーヴィル・ブラッドミノタウロス。ほぼ、Sランクじゃねぇか」
土煙が晴れたそこには、クレアシオンの一撃を戦斧で防いだミノタウロスが立っている。土煙の中、きを封じられながらも、防いだのだ。
皮が赤黒い事からクレアシオンはAランク下位のブラッドミノタウロスだと思ったが、近くで見て分かった。そんなに優しい敵じゃない、と。
ミノタウロスの口元が嘲笑うかのように歪む。
「ブモオオオオォォォオオオー!!」
「グッ!?」
戦斧を振るい、クレアシオンを弾き飛ばした。
「ブモッ!?」
戦斧を持つミノタウロスの腕に螺旋狀に二筋のが流れる。クレアシオンの手には雙剣が握られていた。弾き飛ばされる瞬間、相手の力を利用して斬りつけたのだ。
だが、気づかないうちに斬られたことに驚きはしたがあまりダメージはないようだ。皮がく、薄く傷がつく程度に終る。
クレアシオンは空中で九尾化し、著地して勢を整えようとするが、そんな隙を逃す筈もなく、ミノタウロスが突進を仕掛ける。
大きな巨が猛スピードで近づいてくる。一歩一歩が地面を砕き、その巨で押し潰そうとする。
『ご主人様!!』
ソフィアは聲を張り上げび、クレアシオンが顔を上げた。だが、その顔には狀況に不釣り合いな不敵な笑みを浮かべていた。
「さすがにいな……」
彼が呟くと同時に、ミノタウロスの足元が砂に変わる。ミノタウロスが足を捕られ地面に手を著くと地面が発した。
発に発された様に様々な魔がミノタウロスを襲う。ミノタウロスに突撃する時に、足に魔力を通してトラップを仕掛けていたのだ。
今の彼は格的に近接戦より、【魔王】魔素の王と言うだけあり、遠距離攻撃の方が得意であった。
ミノタウロスがトラップに捕らわれているに、より距離を取る。仕掛けたトラップは全て時間稼ぎ用だ。派手な割りに威力は弱く、ダメージは期待できない。
魔素が集まり、空中に足場を作る。空中をミノタウロスを回るように駆ける。無詠唱で牽制用の魔を撃ち込み、時おり大ダメージを負うような魔を撃ち込む。
これの恐ろしい所が見た目でわからないように偽裝している所だ。強大な魔に見せた牽制。牽制に見せた致命的な一撃。
さらに、呪文を口ずさむ。使うのは火屬と聖屬魔。
「――――――我、この地に聖なる原始の火焔を燈さん【聖焔】」
部屋の気溫が一気に上がり、辺りを火焔が包み込む。さらに、充満していた邪気が消し飛んだ。淀んだ空気が軽くなった。
さらに、円を描く様に駆けていたクレアシオンが円の中央に立った。彼が通った軌跡は魔素の足場によって殘されている。
「――【コキュートス】!!」
彼がタンっと魔素で作られた足場を踏み鳴らすと、高い金屬音と共に黒い円は青い魔法陣に変わり、絶対零度の世界へとう。
魔法陣による大規模魔の行使。違う魔の詠唱をしながら、足場で魔法陣を作り上げる。出鱈目だ。
魔神の弟子であり、魔素の王、魔法の王、魔の王であるクレアシオンだから出來ることだ。
魔法の同時行使をすることの出來る者はいる。だが、魔法の上位スキルである魔はそもそも、使える者はなく、恐ろしく複雑なので複數同時に扱う、なんて真似は出來ない。脳の処理が追いつかない。
出來たとしても、普通なら魔力切れで、保有魔力を越えた分、エネルギーまでも失い、存在が消滅してしまうだろう。
だが、【魔素支配】により、スキルレベルの魔は保有魔力が消費されず、スキルレベルより上の魔も詠唱により、保有魔力の消費量を減らし、蓄えたエネルギーを惜し気もなく使うことで、誤魔化している。
「前なら、殘りの魔力なんて考えなかったんだがな……」
長引かせる積りはない。出來るだけ早く倒さないとエネルギーが切れてしまう。余裕はない。
だが、冷気による霧が晴らされた。
「ブモオオォォォオオオー!!」
強化を使ったミノタウロスが能力だけで、クレアシオンに迫っていた。火傷や凍傷を負ってはいるが、きに衰えはない。
「ぐっ!」
咄嗟に避けようとするが、尾を二本捕まれてしまった。尾には勿論神経が通ってる。ミノタウロスの怪力に捕まれたことにより、激痛が走る。
ミノタウロスはさらに力をれ、彼を振り上げた。
「チッ!」
やろうとしている事が嫌でも分かってしまう。落下の勢いを利用して彼を地面に叩きつけようとしているのだろう。
ミノタウロスの力で叩きつけられてしまうと、転移による撤退以前に即死してしまう。
「――ッ!」
彼は刀を取りだし、自分の尾を切り裂くことで、地面に叩きつけられる事を回避し、けで著地をする。
彼の背後からは地面を砕く音が聞こえる。
すぐに勢を整え無ければいけないのは理解しているが、尾の痛みと連続的にスキルレベル以上の魔を使ったため、まともにけくことが出來ない。
彼の尾は手足のようにけるように神経が張り巡らされている。つまり、腕を失ったのと変わらない痛みと喪失が彼を襲う。
「ギャァァァア!!」
「待てっ!!」
主の危機に、アレクシスが彼の影から命令を無視して飛び出した。ミノタウロスより大きな龍に擬態し、向かっていった。
「援護しろ!!」
殘されていた二のゴーレムにアレクシスの援護を任せる。だが、
「ギャッ!?」
「アレク!!」
ミノタウロスの戦斧による一撃でアレクシスはりと共に消えた。核を壊されてしまったのだ。ゴーレム達も直ぐに壊されてしまう。
クレアシオンがぶが、次の瞬間、ミノタウロスがクレアシオンの目の前に現れ、彼の首筋に吸い込まれる様に、戦斧が迫っていた。
ドス黒いオーラがミノタウロスを包んだいる。邪屬の強化系の魔だろう。りと闇は対であり、屬は聖屬と似た質を持つ。ならば、邪屬が有っても何ら不思議では無い。
邪屬はクレアシオンが唯一使えない屬であり、彼が完全に墮ちていない証でもあった。
迫り來る戦斧を、鬼神化し、咄嗟に大剣を取りだし、防力を魔で強化し、左手を刀に添えて防するが、力の差があり過ぎた。一瞬の抵抗を見せずに吹き飛ばされ、壁に激突してしまう。
崩れた壁からクレアシオンが瓦礫と共に倒れる。
「ゲホッ、ガハッ……」
臓にも深刻なダメージがったのだろう。クレアシオンはを吐きながら立ち上がろうとし、再び倒れる。
左腕に力がらない。左腕を見ると曲がってはいけない方向に曲がり、出でドス黒く変していた。
そんな彼を嘲笑うかの様に、にえた狂牛イーヴィル・ブラッドミノタウロスはゆっくりと、だが、確実に迫っていた。
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