遅くなってすみませんでした。一人暮らし始めて、家事に追われてました。

ソフィアが落下したクレアシオンの後を追い、崩れた床から降りると、彼はいた。

天井から差すを浴び、きらきらとなびく新緑のような緑の髪と、エメラルドのようにき通った翠の瞳が特徴的な。

――綺麗……。

ソフィアは息を飲んで、その一つの完された絵のような景に見惚れていた。

ただ、異常な點を上げるとするならば、そのが大樹に腰掛けている――――否、上半が生えている、と言う一點だろう。邪気に犯されているのか、所々痣のようになっている。

「ソフィア！下がれ！」

クレアシオンの聲にソフィアは狀況を思いだし、咄嗟に下がった。ここはダンジョン最下層だ。なら、當然居るのはダンジョンボスしかいない。

◆◇◆◇◆

――使うしか、ないか……。持ってくれよ……。

ピキッと何が割れるような音が微かに響いた。クレアシオンの眼が紅く染まり、髪が白く・・染まり、狐――――。

「――っ！？待って！！戦うつもりはないわ！！」

ドリアードは何かを察し、慌てて止めた。

「あ、そう？なら助かる」

ドリアードの制止を聞きれ、クレアシオンの髪と瞳は蒼銀に戻り、背を向けてミノタウロスの方に向かっていった。

『え！？ご主人様？何に背を向けているのですか！？』

當然、ダンジョンボスとおぼしき存在の言葉をあっさり信じて背を向けたクレアシオンにソフィアは戸いの聲を上げる。

「敵意や殺意がじられなかったし、何より、アイツは不意を突かなくても俺を殺そうと思えば、簡単に殺せるからな」

クレアシオンはそう言いながら、グルマンディーズを取りだし、ミノタウロスを解していく。死んだことで、魔力の流れが無くなり、先程よりらかくなっているとはいえ、強靭な皮を持つミノタウロスがみるみるに皮や骨、可食部位にばらされれていく。

「よくい言うわね。私を殺す気だった癖に……」

「悪いな、し気が立ってた」

雷で見事に火れされているが、抜きをしていなかった為にしの質が落ちていた。クレアシオンは解したミノタウロスを並べ、【暴食のアギト】を発する。

顔のない黒い龍は骨や皮、角にかぶり付き、は丸のみにしてしまう。

「何してるのかしら？ミノタウロスのそれも、ブラッドミノタウロスの素材はとても高価なのよ」

ドリアードは【暴食のアギト】に驚きはしたが、それよりも、高価な素材を食べさせていることに驚いている。

「だからだよ。エネルギーがもう枯渇しかけてる。……ああ、久し振りにまともなを食べた」

クレアシオンの暴食のアギトは普段、神域の魔や強力な魔族や邪神を食べていた。暴食のアギトの味覚は食べるが強ければ強いほど旨くじるように出來ている。つまり、舌がえているのだ。そんな彼の暴食のアギトの味覚では、そこらの魔は味気無かった。オークなど段ボールに等しいので、暴食のアギトで食べずに料理して食べていたのだ。

口をモゴモゴとしていた暴食のアギトがミノタウロスのを吐き出す。と言えどもSランクの魔になるとエネルギーを回復することが出來る。抜きを兼ねて、暴食のアギトで料理に使わないだけを取り除いたのだ。

「やっと、【暴食】が落ち著いた……」

【雷神武裝】で【愚かな強】で持ってきたエネルギーが底を盡きかけ、気を失いそうになっていたのを無理矢理【傲慢】で意識を保っていた為、エネルギーを得ようとする【暴食】のせいで飢狀態に陥っていたのだ。

これで、もうしばらくは気を失うことはないし、寢たら二度と目を覚まさないような事はないだろう。

◆◇◆◇◆

「ここに來たと言うことは、誰かが魔力過剰癥になってるってことかしら？」

ドリアードはクレアシオンの作業が一段落著いたと見ると、話を切り出すた。いや、ダンジョンボスの階層で、しかも、ダンジョンボスの前で背を向けて解を始める様な図々――――肝の據わった者などこれまでいなかったため、呆気に取られていたのだ。

「ああ、薬草を取りに來た。姉？が病気だからな」

じゅーっとバターが焦げる音が心地いい。溶けたバターの油分で揚げられたガーリックの匂いが鼻腔をくすぐる。ミノタウロスのは黒い靄に覆われていた。闇屬の腐敗系の魔法を弱めて使い、させているのだ。

クレアシオンは【創造】で巖塩を創造し、塩をに馴染ませ、ガーリックの香りが移ったバターに絡めて焼いていく。

「何にやってるの？」

「エネルギーが必要になりそうだからな」

やはり、最初はシンプルに焼いた方がいいだろう。ミノタウロスのステーキを焼き上げていく。クレアシオンは空間を割り、そこから琥珀ののった瓶を取り出した。

瓶を開けると芳醇な萄の香りが漂う。程よく焼けたにブランデーをかけ、一気にアルコールを飛ばす。燃え上がる火炎と共に芳醇な香りがほとばしる。

――アニスからくすね――――貰ったブランデー……呑みたい。

チラッと、ソフィアの方を見ると彼がブランデーを呑まないように目をらせていた。勿無いがアルコールを飛ばさないと口にすることも出來ないため、渋々料理に使ったのだ。

焼けたを皿にのせ、クレアシオンが切り分けると薄くピンクにずくがその姿を表す。滴るがダンジョンの仄かな明かりを反して煌めいている。彼は一切れを口に運び……。

「ああ、旨い。やっぱり、魔との戦いはいいよな。食うか食われるかだけで、後は何も考えなくていい。人間や神、悪魔みたいにゴチャゴチャしてなくて……シンプルでいい」

無駄に知能があるために泥沼のように泥々としたものが多く、後味の悪い戦いが多くクレアシオンは嫌っていた。だが、魔や魔屬は単純に力がをいう。否、ゴチャゴチャしたことを嫌い、先程のミノタウロスのように単純に戦いだけを追い求める者が多い。

ステーキを食べているクレアシオンの目の前で風が起こり、一塊のミノタウロスのと巖塩が巻き上げられた。クレアシオンはステーキを方張りながら、空間を割り、玉ねぎを取り出し、それを放り投げる。

玉ねぎは不可視の風の刃に切り裂かれ、皮が綺麗に剝かれる。を巻き上げた風はその場で渦巻き始め、竜巻の中にあると玉ねぎは風の刃に細切れにされる。

「そろそろか」

クレアシオンが卵とパンを竜巻に投げ、鍋に並々と油を注ぐ。卵は空中で割られ、風にかき混ぜられる。溶いた卵に強の腕によってねられたと玉ねぎの塊を潛らせ、細切れにされたパンを著けて、熱した油で揚げる。これは、

「メンチカツの完」

「ほんとに、何をやってるの(ですか)！？」

二人の突っ込みは當然だった。風屬の魔法を小さな範囲で、それも、威力を落としたのではなく周りに広がらないよう小さく収束させて使うには高度な技が必要だ。玉ねぎの皮や卵の殻を分けたり、土が巻き上げられないようにするには気の遠くなるほどの繊細なコントロールが要求され、誰でも出來るような事ではない。

それを片手まで、しかも、メンチカツを作る為だけに使う。無駄の無い、無駄な技とはよく言ったものだ。魔の粋を集めたメンチカツが今、ここに誕生した。調味料や香辛料なんて手にらない。味付けは巖塩のみ。

「お前達も食うか？」

クレアシオンは無屬魔法で浮かびあげて二人に渡した。二人は戸いながら顔を見合わせ、

「いただきます」

「……いただくわ」

メンチカツにかぶりついた。サクサクとしたに閉じ込められたと旨味が溢れだす。味付けは塩のみだが、本當に味しいものは無駄なを一切必要としない、とでも言うように野味溢れる力強くもしでも狂えば不味くなってしまうような繊細な味わいだった。

「味しいです」

ソフィアは味しそうに平らげた。いつものように淡々としているように見えるが心なしか、聲のトーンがあがっていた。

「……味しいわ」

だが、ドリアードの表は言葉と裏腹に優れない。

「今日はいい日ね。二十年ぶりに人と話せたし、自我がなくなる前に……最後にこんなに味しいが食べれて、私の育てた薬草での子を助けれるのだから……」

そう言って、悲しそうな笑みを浮かべる。

彼の心は今なお、邪気に犯され続けている。彼が今まで墮ちなかったのは神力の強さ故。だが、二十年以上、狂いそうになる神の中、獨りで迫り來る魔屬と自分が自分じゃなくなっていく恐怖と戦ってきた。それがどれ程の苦痛を伴った事か、彼は今もその苦痛と戦っている。

だが、限界が來た。今も邪気がに回っているのか、の痣が広がっている。

「これが、その薬草よ」

ドリアードが託すように手渡した薬草をクレアシオンはけ取った。

「何か禮をしたいんだが……」

「お禮なんていいわよ」

クレアシオンは突然鬼神化すると、呪文を唱える。

「――――――――【セイクリッド・レイン】」

「きゃーーー！？」

ドリアードの頭上に黒い魔法陣が浮かび上がり、聖なる慈悲の雨が降り注ぐ。彼から黒い煙が上がる。彼のを蝕んでいた邪気が剝がされていっているのだ。だが、邪気は魂をも蝕む。これでは、完全に邪気を取り除くことが出來ず、ただ、苦しめるだけだ。

「な、なんで……！？」

「――悪いな、俺にはこれしか出來ない……」

本來なら、クレアシオンに敵意が有ればドリアードは気付き、返り討ちにして殺すことは出來た。だが、クレアシオンには全く殺意や敵意がなかった。だから、反応が遅れてしまった。

「【破邪滅卻】！！」

クレアシオンの手に黒い風――魔素――が集束し、一振りの穢れ無き白銀の刀が現れ、ドリアードに振り下ろされた。

「……俺の目の前で――――手の屆く範囲でそんな顔するな。……飯が不味くなる」

ありがとうございました。

【創造】で金屬と巖塩しか創っていない……。完全に鉱山扱い。