《人喰い転移者の異世界復讐譚 ~無能はスキル『捕食』でり上がる~》7 グルメな腳本家とピエロたち
アニマはこの世界において特別な力だ。
選ばれし人間だけが持つ力で、他の人間は戦う力を持たず、劣化コピーの量産品であるアニムスに頼るしか無い。
だからアイヴィが口にする「全員が素晴らしい能力を持っている」という言葉はきっと噓ではない。
僕という例外はあるものの、全員が本來ならエリートになれるだけの力を持っているはずだった。
けれど、それはあくまでこの世界での話。
僕たちはクラスごと転移されてきた、つまり比較対象は同じクラスの人間。
全員のアニマがどれだけ優れていようと、やはり優劣は生じてしまう。
単純な績や、高校でのカーストとはまた別の形で――つまりアニマでの優劣がついてしまった今、クラスカーストは徐々に形を変えようとしていた。
例えば、赤羽百合の取り巻き達。
男子2人、子3人のグループで、子Aがトップに君臨し、その後は上から順に子B、男子A、子C、男子Bと続いていく。
特に最底辺である男子Bはパシリとして使われており、グループに所屬しながら友人とは思われていないようだった。
時折、意図的に・・・・遊びにわないこともあったんだとか。
それでも男子Bはグループを抜けようとはしなかった。
抜ければ最後、最底辺以下の底辺――僕の姿がその下に見えていたから。
そんな危機からか、男子Bはよく僕を敵視していた。
別に折鶴や磯干と仲良くも無いくせに放課後のリンチに參加したり。
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まあ、他の赤羽グループの連中もたまに參加してたんだけどさ。
そしてボコボコにされる僕を見て、さらに強く思った。
赤羽百合のグループという、クラスカースト上位の集団にさえ所屬していれば、それだけは避けられるのだ――と。
しかし、今やカーストの上下を判斷するのは人間関係ではなく、アニマの強さとなってしまった。
最底辺グループと言われていた3人ほどの男子グループは、全員が強力なアニマを手にれ、カースト上位へと駆け上る。
彼らに骨にを売る子も現れるほどだ。
そんな中、赤羽百合のグループは、赤羽本人を除いていまいちなアニマしか持っていなかった。
散発的に行われる外での実踐訓練、通稱”狩り”の績もいまいち。
彼らは、強い危機を覚えていた。
このままでは自分たちが見下される立場になってしまう、それだけは避けなければならない。
――さて、そんな彼らを、僕はどうやったら地獄に突き落とせるだろう。
◇◇◇
翌々日、つまり帝國の使者が極裏に王都カプトを訪れる日。
訓練が終わったあと、僕はこっそりと赤羽グループの更室のロッカーに手紙を仕込んでおいた。
容は大こんなじだ。
『今日の夜、インヘリア帝國のアニマ使いがカプトに攻め込んでくる。それを倒せばアイヴィさんはみんなを認めてくれるかもしれない』
実際の手紙には、的な時間や集合場所も記していた。
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あえて差出人は書かなかったものの、全員が筆跡を見てこう判斷したはず。
『差出人は赤羽百合だ。彼が私 / 俺たちを守るために教えてくれたんだ』
なぜなら、僕が彼の筆跡を真似て手紙を書いたからだ。
ちなみに、筆跡は昨日こっそり赤羽の部屋に侵して拝借してきたノートを見て練習した。
筆跡を似せるのはなかなか大変で、時間ギリギリまでかかってしまったけど、個人的にはなかなかの自信作だったりする。
おかげさまで、手紙の主が僕であることは誰にも気付かれることなかった。
ロッカーに手紙を仕込む時も赤羽の姿をしていたし、その姿をグループの數人は目撃したようだから、犯人は赤羽だと完全に信じ込んでるはず。
そして手紙に書いておいた約束――『誰にもバラさないように』という文言を、赤羽に従順な彼らは律儀に守り、計畫はシナリオ通りに進んでいく。
いつ彼らがき出すのかとわくわくしながら、サンタを待つ子供の気分で布団にっていると、深夜0時を過ぎた頃、數人が宿舎を出て行く音を聞いた。
気付かれないようにこっそりと宿舎を出ていく5人の年たち。
姿は見えないけれど、赤羽グループの5人に違いない。
それ以降、彼らの姿を見たものは誰もいなかった……なんてね。
「ふふふっ……ふ、はははっ……」
僕は部屋の中で寢そべりながら、自分のジョークに自分で笑っていた。
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客観的に見れば不気味なことこの上ないけど、こんなの笑わずにはいられない。
阿呆どもが、自分から絞首臺に登っている。
帝國のアニマ使いなんて攻めて來ない。
來ているのは、戦爭を止めるためにく平和をする知識者共なのに。
僕はこれから起きる悲劇を嘆きつつ、最高の気分で彼らの後を追った。
◆◆◆
アニマさえ発現させておけば、暗所でも視界を確保する方法がある。
王都カプトの外に集合した赤羽を慕うグループの5人は、そういう話をアイヴィから聞いたことがあった。
「想像以上に見えづらいわね……」
子A――榮倉えいくらがぼやいた。
暗闇の中でアニマの視覚が捉えるものは、世界に満ちる魔力の流れだ。
草木や地面に流れる微弱な魔力を察知して、を見分ける。
視力に頼らないため、慣れさえすれば人間の目よりも正確にを見ることが出來るのだが、慣れるまでが大変だ。
「帝國のアニマの位置は、ボクがスキルで察知するから」
「しっかりしてくれよ、お前の力が頼りなんだからな」
「う、うん」
男子B――中あたりは、男子Aの生明あざみに背中を叩かれ、嬉しそうに頬を緩ませた。
「ほ、本當に、大丈夫なのかな……」
子Cこと淳田あつたが不安そうに呟く。
「作戦どおりに行けばどうにかなるわよ。ま、私は後方支援だし気楽にやらせてもらうわ」
子B、蓼丸たでまるは気だるげに言った。
五者五様の反応を見せる赤羽グループの面々だったが、全員が極度の張狀態にあった。
なにせ、今から人を殺そうというのだから、張もするはず。
集合場所として指定された場所に赤羽の姿は無かったが――5人は、これが彼が自分たちにくれたチャンスなのだと解釈し、特に怪しまなかった。
彼らはそれぞれアニマの能に適した役割を割り當て、王都からし離れた場所で帝國のアニマ使いを待つ。
中あたりのアニマ”ポーセティオ”はスキルで周辺の生命反応を探っていた。
探知範囲は彼らの視覚可能範囲よりも遙かに広い、先手を取るためには彼のスキルが不可欠なのだ。
彼が敵を見つけた瞬間、榮倉のアニマ”ロクァース”、生明あざみのアニマ”アッケンデーレ"、淳田のアニマ”トリスティス”で一気に奇襲を仕掛ける。
蓼丸たでまるのアニマ”イグナウス”は、長距離を抜くことが出來るクロスボウ、ガーンデーヴァを備えていたため、彼らからは離れた場所で待機していた。
吹き付ける夜風がさらなる張を煽る。
臆病な淳田は、揺れる草にが反応し、時折びくっとを震わせた。
中あたりはスキルに集中し、生命反応を探る。
昆蟲ほど小さければ反応は無いが、野生のには反応してしまうので、報の取捨選択が重要だった。
じたことのない強い張。
しかし同時に、自分の能力にみんなが頼っているという充足からくる高揚が溫を高める。
乾いたをしでも潤すため、ごくりと生唾を飲み込む。
を鳴らす瞬間に瞬きをして、そして次に目を開いた瞬間――中あたりは範囲に、新たな生命反応を察知した。
「來たっ、ターゲットは街道を進んでる!」
上ずった聲で彼が言うと、3のアニマが一斉に飛び出す。
相手がアニマを発現させる前に仕留めるつもりで、一気に距離を詰めて攻撃を仕掛けた。
が、一歩遅い。
すでに敵のアニマは発現し、巨大な両手剣を構えて彼らを迎え撃った。
「ノイジィノイズッ!」
キイイィィィィン……ロクァースの口から、指向のある音波が発せられる。
帝國のアニマは平衡覚を失い、膝を付いた。
「ダークボール」
ドドドドドドッ!
そこにトリスティスが生した黒い球が襲いかかる。
剣でガードを試みるも、確実にHPを削られていく。
さらにアッケンデーレの追撃。
「アグニ!」
手のひらから放たれる炎が帝國のアニマを焼き盡くす。
しかし、敵も防戦一辺倒ではない。
炎を切り裂くように両手剣をなぎ払い、アッケンデーレのに渾の一撃を叩き込む。
ガンッ……ガシャアァンッ!
「ぐっうぅ……!」
まともに剣をけた生明あざみはうめき聲をあげ、アッケンデーレは吹き飛ばされた。
とは言え、彼は何も考えずに敵に突っ込んだわけではない。
蓼丸たでまるのイグナウスによる援護撃を期待しての攻撃だったのだが、一向にクロスボウが放たれる様子はなかった。
「くそっ、あいつ……なにやってんだよッ!」
悪態をつく間もない。
大剣の次の一撃がすぐさまアッケンデーレに襲いかかる。
「ノイジィ……きゃあっ!」
ガンッ!
ロクァースが援護を試みるが、帝國のアニマが短刀を投げつけ妨害する。
そして、再び大剣がアッケンデーレに叩きつけられた。
◆◆◆
「だ、だれ……お前、誰なんだ? どうして、なんで僕がぁっ……!」
地を這う中あたりに僕は容赦なくソーサリーサーベルを振るった。
ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ!
切りつけ、踏みつけ、突き刺す。
HPはすでに0になり、あとはトドメを待つだけだった。
「スキル発ブート、捕食プレデーション」
グパァッ、とがグロテスクに開き、捕食口が姿を表す。
中あたりはそれを見て、「ひいいぃぃっ」と々しく怯えた。
もう待ちきれない。
僕は咀嚼を開始する。
「あっがあああぁぁぁぁぁっ! 誰かっ、あぎっ、たすけっ……はぐぅっ……そ、そうだ、蓼丸たでまる、たでまるううぅぅぅぅっ!」
「はぁ、っく……ん、蓼丸たでまるなら、もう死んでるよ」
「そ、その聲……しろ、つめ? お前……白詰、なのっ、ぐ、ぁ、か?」
「せいかーい」
バキッ、ゴリュッ。
クイズに正解したご褒に、牙を食い込ませる。
「は、あ、ぎやあああぁぁぁっ!」
汚いび聲だな。
蓼丸たでまるはもうし上品だったけど。
「な、で……おまえ、おまえ……みだいな、やづ……ぎっ」
「大して立ち位置も変わんないくせにさ、赤羽と仲いいからって見下してくるのが以前から不愉快でたまらなかったよ、中あたりぃ」
「やめ……せっかく、力……手にれ……は、ぶ……ひ……認めら、れ……嫌だぁっ、いやだあああああああぁぁぁっ!」
バキッ、ゴリュッ、ガギッ。
ついぞぐったりとかなくなった中あたりのアニマを腹部捕食口で咀嚼しながら、僕は3人の闘を眺める。
「んっ、あ……はぁっ……やっぱ、使者には護衛がついてたか……」
あっちの3人は、僕1人で仕留めるのは難しい。
蓼丸たでまると中あたりは暗闇での奇襲、加えて2とも近接戦闘に向かないアニマとあって、ソーサリーサーベルだけであっさりと仕留めることができた。
『だ、だれ……なんなの、どうして、なんで私が――!』
2人の斷末魔は今でも、耳にしっかりと殘っている。
味だった。
聲も、味も、力も、全てが。
この世にこんなに味しいものが存在するのかと、思い出すだけで涎が垂れてしまうほどに。
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名稱 ウルティオ
武裝 頭部ソーサリーガン
非実剣:ソーサリーサーベル
実弓:ガーンデーヴァ
スキル 親なる友スウィンドラー
卑劣なる俯瞰者ライフトーチャー
能力 Lv.18
HP 12100
MP 10250
出力 970
機 1140
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能力を見て、僕はさらに上機嫌になる。
「はは、強くなったなぁ。これ、広瀬ぐらいなら勝てるんじゃない?」
さすがに桂はまだ無理だろうけど。
ただでさえ化なのに、さらに熱心に訓練に打ち込んですごいスピードでレベル上がってるからなあ。
けど、桂を追い抜くのも時間の問題だ。
牽制用の頭部ソーサリーガン、遠距離攻撃用のガーンデーヴァに、探知スキル。
たった3喰っただけで、何も無かったウルティオに、これほど充実した武裝が揃いつつあるんだから。
しかも、獲はまだ3人も殘っている。
いや、帝國のアニマも含めたら4人かな。
全員喰ったら……僕って、どれだけ強くなれるんだろう。
「あ、生明あざみが死んだ」
視線の先では、アッケンデーレのが真っ二つに両斷されていた。
HP0のアニマが存在することが発條件だし、死んでも問題なく捕食は出來ると思うんだけど、まさかこのままあの護衛のアニマが3人に勝ったりしないよね?
まあ、帝國の使者がカプトに到著しようがしまいが僕としてはどうでもいいんだけど。
ただ、僕としては彼らには出來るだけ無様な死に方をしてほしいから、帝國の人には殘念だけど死んでもらった方がいいんだよね。
帝國のアニマ使いはおそらく手練。
一方で、榮倉と淳田はド素人。
帝國側が數の暴力をひっくり返すほどの実力を持っている可能もあったけれど、最初の奇襲攻撃と3人の時に削られていたHPが結構多かったらしく、徐々に追い詰められていく。
そしてトリスティスの放った無數のダークボールが襲いかかり――帝國のアニマは、ついにかなくなった。
さらに、帝國のアニマが守っていた馬車に向けて、ロクァースがノイジィノイズを放つ。
アニマなら平衡覚を失うだけで済むけれど、生であの振をけてしまうと――パン、と馬車に乗った死者たちのが破裂していく。
かくして、彼らは正義を執行した。
悪の帝國を撃破し、王國の平和を守ったのだ。
……生き殘った2人の脳では、そんなモノローグが流れているに違いない。
本當は、戦爭を止めるための大事な使者を殺しちゃったのにね。
完全なる勝利を確信した2人は、から力が抜けたのか、アニマを発現させたままその場に座り込んだ。
カシャンッ。
僕は試がてら右腕にガーンデーヴァを展開して、淳田のトリスティス、その頭部に狙いを定める。
「シュート」
無なボイスでそう宣言すると、パシュッと矢が放たれた。
風を切って靜かに進む矢は正確にトリスティスの頭部に向かって飛んでいく。
ガシュッ。
そして、矢は見事命中、脳天を貫通した。
どうやらトリスティスは帝國との戦いで消耗していたらしく、ガーンデーヴァの一撃でHPが0になってしまったみたいだ。
そのまま矢の勢いに押され、橫に倒れていく。
「……淳田?」
僕は、呆然と絶命した友人の名前を呼ぶ榮倉に歩み寄る。
ガシャン、ガシャンと近づいてくる足音に、ロクァースはギギギとブリキ人形めいたきでこちらを向いた。
視線の先に居たのは白詰岬のウルティオ――と彼にわかるはずがない。
すでに3のアニマを捕食して姿が変わっているからだ。
彼は僕を未確認のアニマだと認識し、「ひっ、ひぃっ」と聲をあげながら四つん這いで逃げ始めた。
今の狀態なら捕食できる狀態に持っていくのは容易い。
けれど、僕はあえてそうしなかった。
逃げろ、逃げろ、そっちに待つのはもっと悲慘な地獄だぞ、と僕は彼を笑って見送る。
捕食はロクァースの姿が見えなくなってから開始した。
対象はアッケンデーレとトリスティスの2。
帝國のアニマはあえて殘しておく。
大剣には惹かれるけど、絶対に武裝を吸収できるわけでもないし、殘しておいた方が面白いを見られそうだ。
だって、死がなければ殺人の罪は立しないんだから。
「スキル発ブート、捕食プレデーション」
グパァ……。
腹部捕食口が開く。
「んっ、あ、はあぁ……っ」
全に走る快に、思わず聲がれた。
元男のぎ聲なんて自分で聞いてたって気持ち悪いだけなんだけど、出てしまうものはどうしようもない。
僕は呼吸を荒くしながら2の亡骸に近づき、捕食を開始した。
抵抗も無ければ、ここには捕食を邪魔する者もいない。
以前の3人を喰った時よりも、今回の捕食は食事めいていた。
しっかりと味わう余裕がある一方で、復讐としてはどこか味気ない。
と言っても、至福のひとときであることに変わりはないのだけれど。
ガキッ、バリッ、グチャァッ……。
食事を終えた僕は、ステータスを確認する。
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名稱 ウルティオ
武裝 頭部ソーサリーガン
腕部火炎放:アグニ
非実剣:ソーサリーサーベル
実弓:ガーンデーヴァ
スキル 親なる友スウィンドラー
卑劣なる俯瞰者ライフトーチャー
能力 Lv.22
HP 16800
MP 14910
出力 1360
機 1660
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順調に充実していくステータスを見て満足した僕は、ゆっくりとした足取りで王都へ戻っていった。
【書籍6/1発売&コミカライズ配信中】辺境の貧乏伯爵に嫁ぐことになったので領地改革に勵みます
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