《人喰い転移者の異世界復讐譚 ~無能はスキル『捕食』でり上がる~》12 正義の味方なんてこの世に存在しない

僕がソーサリーサーベルで斬りかかると、広瀬は回避を試みた。

しかし、言うことを聞かないでは避けることすらままならない。

ザシュウッ!

サーベルがエクエスのを袈裟斬りする。

んー、まともに當たった割にはあんまり手応えが無いな。

さすがアイヴィも認めるほどはある、耐久力が他のアニマとは段違いだ。

「ぐっ……てめえ、なんのつもりだッ!」

「だから殺すつもりだって言ってるじゃん、心當たりが無いとでも言うつもり?」

「復讐ってわけか? まさか、の調子がおかしいのも……」

「僕は・・なにもしてないよ」

「だったら、どうして!」

こんなに調が悪いのか、って?

そんなの、出撃前に飲んだ”アレ”のせいでしかないんだけど――今はあえて黙っておく。

僕は再びエクエスに斬りかかった。

「く、そがぁっ!」

避けられないと悟ったのか、今度は広瀬自らこちらに踏み込み、頭部めがけて右手で毆り掛かる。

けど、サーベルと拳じゃリーチの差がある、この距離じゃ拳は屆かないはず。

そう考え、構わず斬りつけようとした瞬間、僕は眼前に迫る銀の刃を見た。

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とっさに首を傾けて回避。

直後、エクエスの拳から手甲剣――シーヴァジーが展開され、ウルティオの頬を掠めた。

「もう、一発っ!」

エクエスは左手で再び毆りかかってくる。

赤羽に脳みそまで筋で出來ててると言われるだけはある。

馬鹿のひとつ覚えだっての――!

僕はエクエスの懐に潛り込み、すれ違いざま腹部にサーベルを叩き込んだ。

さらに振り向きざまに背中に一撃。

「ぐうぅぅっ」

痛みは無いが衝撃はある、広瀬は苦悶の聲をらした。

エクエスはし遅れて背後に居る僕に反撃を試みるものの、その時すでに僕はシヴァージーの程範囲外にまで後退していた。

「ガーンデーヴァ、展開」

カシャン……カチャ。

右腕にクロスボウの弓幹が現れ、自的に矢が裝填される。

広瀬が本調子なら、こんな悠長に構える余裕なんてない。

しかし、彼は僕がクロスボウを展開し狙いを定めても、その場をかなかった。

いや……けなかった。

荒い呼吸に加え、の震えと戦うのに必死のようだ。

どうやら広瀬のアレルギー癥狀・・・・・・・は、思通り著々と悪化してるようで。

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「くそ、くそ……んだよ……はぁ、こんな……時にぃ……!」

それでも戦意は失わない広瀬に向けて、僕はガーンデーヴァを出した。

パシュッ、バキィッ!

障壁に阻まれ目に見えるダメージは無いものの、サーベルよりも高い威力を持つ武裝なだけあって、HPは確実に削られているはず。

その後も僕はエクエスにしずつ歩み寄りながら、HPが盡きるまでガーンデーヴァを出し続けた。

一発、二発、三発、四発、五発、六発――

「あ、ぐあぁ……っ」

広瀬がひときわ大きな聲をあげる。

矢は弾かれたけど手応えあった、削りきったか?

試しにガーンデーヴァをエクエスの右大部に打ち込む。

すると――

「ぎ、が、ああああアアアァァァアアアァァッ!」

ガシュッ。

乾いた音と共に矢は裝甲を貫き、広瀬は苦しげなび聲を轟かせた。

「うるさい」

黙らせようと足裏で蹴りつけると、エクエスは抵抗せずそのまま地面に倒れてしまった。

僕は倒れたエクエスに近づき、矢が貫いた右太ももをつま先で踏みつける。

「あっ、あああぁっ、ひ、ぐううぅぅぅ……ッ!」

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「広瀬くん、痛い?」

「ああっ……ふぅ、ふぅ、は、あぁ、ああぁ……っ」

「そっか、痛いのか……っと」

エクエスの右手と左手をガーンデーヴァで抜き、地面に磔はりつけにする。

「あっがあああぁぁぁぁっ!」

広瀬はまた聲をだすものの、リアクションは足を貫いた時よりも薄い。

痛みに慣れてきたのかもしれない。

「ゆるさ、ねえ……てめえ、は……っぐううぅぅぅ……っ!」

「許さない? 何言ってんの、今までさんざん痛めつけてきたのはそっちじゃん。わざわざ放課後呼び出して、よってたかって蹴って毆ってしてくれてさあ! 死ぬほど痛かったよ、全あざだらけだよ、僕はそれをまとめてやり返してるだけだ」

再びソーサリーサーベルを展開すると、上からエクエスの右手首に突き刺し、切斷した。

「は、あ、あああぁぁぁぁぁぁあああああぁっ!」

「いちいちんでうるさいなあッ!」

ザクッ、ザクッ、と何度もサーベルをエクエスの左手に突き刺す。

一刺しするごとに小指から順番に一本ずつ指を切り落とし、親指まで終わったら次は手の甲を、さらにその次は手首を。

その度にいちいち聞こえてくる不快なび聲に苛立ちながら、エクエスの左腕を何度も何度も何度も突き刺して、細切れにした。

「は、は……殺すなら、とっとと……殺せよ、この、ネクラ野郎……が」

「嫌だよ、せっかく広瀬くんを殺せるのに、それを楽しまないなんてもったいない」

だな……そんなんだから、馴染も、守れねえんだよ……!」

「ふ、ふふっ、あっはははははははははははっ!」

「何が、おかしい……!?」

これが笑わずにいられるものか。

今まさに、自分の馴染のせいで死にそうになってるやつが言っていいセリフじゃない。

「いや、ただの思い出し笑いだよ。あはは……はぁ、ああ、広瀬くんってほんと面白いね。ここまで痛めつけても命乞いもしないし、無様に助けてくれーって泣きついてきた折鶴くんとは全然違う」

「折鶴……だと?」

「うん、彼は死ぬ間際に何でもするって命乞いをしてくれたよ。ま、何でもするって言ってきたから死んでもらったけど」

「なら……あいつを、殺したのは……」

「もちろん、僕に決まってるじゃん」

「てめえ……白詰えええぇぇぇぇぇぇぇェェェッ!」

うわ、びっくりした。

まだそんな聲を出す余力が殘ってたなんて――と余裕をかましていられたのもつかの間。

エクエスの部裝甲が開き、中から赤く輝く球が現れる。

「ヴァジュラァッ!」

「っ!?」

広瀬がんだ瞬間、球に溜まっていたエネルギーが帯狀にビームのように放出される。

ギリギリ直撃は避けたものの、ビームはウルティオの右腕をかすめた。

視界に表示される『HP 11320/16800』という數字を見て僕は苦笑いを浮かべた。

今の……かすっただけで5000も持っていかれるなんて。

「外した……くそっ……」

「ふ、くふふ、あはっ、はははははっ!」

「なに、笑って……やがる……!」

「良い武裝だなと思って、これが僕のものになるかもしれないと思うとゾクゾクするよ」

「お前の、ものに?」

「そう、こんな合にさ――スキル発ブート、捕食プレデーション」

の機を切り裂いて、側から深紅の捕食口が現れる。

広瀬は怒りも忘れ、唖然とした様子でウルティオの変化を見ていた。

「さて、いただきます」

口をエクエスに近づけ、覆いかぶさるようにして牙を食い込ませる。

グ、グググ……バリッ。

「あっ、がああああぁぁぁっ! い、ぎ、て、めえ……折鶴も、こうやって……だから、死、が……あああぁぁぁぁっ!」

「そう、折鶴も、蓼丸たでまるも、淳田あつたも、生明あざみも、中あたりも、みーんな僕が喰ったんだ」

「あいつらも……全員……だと!? くそ……離せっ、離せえええぇぇっ! 殺してやる、てめえだけは絶対に殺してやるッ!」

はボロボロなのに意外と元気だね……あ、そうだ」

僕はふと、最後に伝え忘れたことを思い出して、捕食を中斷する。

「広瀬くんは、ドゥーチェっていう貝を知ってる?」

「なに言ってやがる……離しやがれぇッ!」

「カプトから北に進んだ所にある港町、ポルトゥスの名産品でさ、貝のくせにフルーツみたいな甘い味がするんだ。カプトではフルーツジュースの隠し味に使われてたりするんだって」

「貝を……ジュース、に?」

心當たりがあったのか、広瀬は僕の話に耳を傾けはじめる。

「以前、赤羽さんが調を崩した時に飲んでもらったら、隨分気にってくれてさ。彼、広瀬くんのことを元気づけたいって言ってたから、もしかしたら同じをプレゼントしてるかもね」

「百合からもらったあれに……まさか……貝、が?」

「そう、ってたんだよ。広瀬くんってカッコつけたがりだから、赤羽さんに自分の弱みを知られたくはなかった。だから――貝アレルギーだってことも、赤羽さんに伝えようとはしなかった」

魚介がっていることは赤羽だって知っているはず。

それで渡したということは、アレルギーのことも彼は知らなかったのだ。

つまり、彼が広瀬にジュースを渡したのは、心の底からの善意によるもの。

元気になってしいという、大事な馴染に対する一途な想いに他ならない。

だからこそ――

「自分のせいで広瀬くんが死んだとなれば、赤羽さんはすっごくショックをけるだろうね」

心にぽっかりが空いて、別の何かで埋めないと立ち上がれないほどに。

「てめ、え……最近、百合に近づいてたのは……まさか……」

「気づくのが遅いよ広瀬くん。赤羽さんって思ってた以上にちょろくてさ、落ち込んでる所にちょっと優しい言葉をかけてあげるだけで、コロっと態度が変わるんだ。榮倉たちが死んだ時ですらそうだったんだ、大事な大事な馴染が死んだとなれば、それはもう……ねえ?」

「こ、この……下種野郎がッ、離しやがれ、殺してやるッ、白詰ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇッ!」

広瀬がぶ。

至近距離で聞かされたらすっごい迫力だ、きを封じてなかったらビビってる所だった。

今は、そんなの聞かされたって楽しいだけだけど。

「あっははははははははは! それそれ、そういうのが聞きたかったんだ! 今の僕はだから野郎じゃないけどさ、細かい部分は目をつぶってあげるよ。澄ました顔で死なれるより、怒り狂って、けど何も出來なくって! はははっ、無力に苛まれながら悔しくて悔しくて死んでくれた方が、ずっと、ずっといい!」

「死ぬかよ、死んでたまるか、お前、だけには――が、あが、が、ぎいぃぃぃっ!」

咀嚼を再開、僕の口の中でエクエスがひしゃげていく。

無殘に命を散らせていく。

悔しさに歪む広瀬の顔が目に浮かぶようだ。

「わかったかな、何も出來ずに一方的に暴力を振るわれる痛みが」

「あ、あが、百合、ゆり、ゆりぃっ……俺、は、お前……を……」

「好きだったとか? 守りたかったとか? でも殘念でしたー、赤羽さん……ううん、百合は僕がちゃあんと最期まで利用してあげるから、安心して理不盡の中でもがき苦しみながら死にな」

「ゆ……り……」

ガギ、グチュ……。

エクエスを飲み干すと、捕食口が閉じてウルティオは元の狀態に戻る。

ようやく、あの広瀬を。僕に數え切れないほどの傷跡を殘してきた広瀬を消すことが出來た。

その達は凄まじいもので――たぶん生だったら、僕の頬をいくつもの涙の雫が流れていたことだろう。

慨に浸っていると、機の変化が始まった。

部と腕部に何かがうごめく

そしてさらに、ウルティオに武裝とは全く別の新たな力が宿った実がある。

ステータスを開くと――

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名稱 ウルティオ

武裝 頭部ソーサリーガン

腕部火炎放銃:アグニ

非実剣:ソーサリーサーベル

手甲剣:シヴァージー

弓:ガーンデーヴァ

部大型ソーサリーガン:ヴァジュラ

スキル 親なる友スウィンドラー

卑劣なる俯瞰者ライフトーチャー

正義の味方ブレイバー

能力 Lv.36

HP 23400/28000

MP 20800/23400

出力 2320

 2810

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武裝、スキル共に吸収に功している。

シヴァージーにヴァジュラ、この2つさえあれば火力不足で悩むこともなくなるはず。

策を弄さずとも、並のアニマなら真正面から潰してしまえそうだ。

そして新たに追加されたスキル、正義の味方ブレイバー。

「はっ、正義の味方ねえ……」

のきいたネーミングに、思わず鼻で笑ってしまった。

條件を満たすと自で発するタイプのスキルみたいだ。

スキル説明には『HPが減した時に発、HPへのダメージを軽減する。この効果はHPが減するほどに大きくなる』と表記されていた。

なるほど、エクエスがやけにしぶとかったのはこのせいか。

やっぱ戦う前に弱らせといて正解だったな、奇襲かけたって絶対に勝てっこないって。

さて、無事広瀬の始末も終わったことだし、試し撃ちついでに夜間訓練の間にあと何人かは殺しておきたいな。

けど、あんまりやりすぎると魔の仕業ってことにするのも難しくなる。

慎重に、かつ大膽に行こう。

ひとまず、戦闘中は邪魔になりそうだったので解除しておいた卑劣なる俯瞰者ライフトーチャーを発させる。

「んー、みんな遠くまで行ったのかな……やけに反応がないけど」

広瀬の分が減っているのは當然として、それにしても周囲の反応がない。

遠くへ行ったのか、はたまたすでに訓練を終えたのか。

原因を考えながら移を開始――その時だった。

パァンッ!

花火のような発音が鳴り響く。

音の鳴った向き、カプトの方へ振り返ると、その上空でが明滅していた。

「信號弾だ……」

アイヴィが出発前のミーティングで言っていた、即時撤退を意味するサインだったはず。

非常事態が起きたときのみ使うって聞いてたけど……まさか、僕が広瀬を捕食したのに気づかれたってこと?

いやそんなわけはない、見える範囲に他のアニマは居ないんだから。

だとすると、僕とは関係ない場所で何らかの非常事態が発生したってことになる。

「あれ、反応が減ってる?」

見間違えでなければ、アニマの反応を示すマーカーの數が変わっている。

異変はそれだけじゃない。

とあるマーカーが、異様なスピードで移している。

これほどの機を持つのは、桂か赤羽のアニマぐらいのものだ。

そのマーカーは別のマーカーに近づき、そして戯れるように追いかけっこをしながらこちらへ近づいてくる。

僕は念のため、親なる友スウィンドラーでウルティオの姿を以前の狀態に戻した。

2のアニマが視認可能範囲にる。

先に姿を表したのは磯干のアニマだ。

何者からか逃げようと、チラチラと後ろを気にしながら全力疾走している。

そしてその後ろからは、巨大な斧を持った赤黒いアニマが迫っていた。

「ほらほら、もっと必死に走れよ、じゃないと死んじまうぞぉっ!」

聞こえてきたのはの聲だ。

あれだけ禍々しいアニマなのに、使い手はの子なのか。

……って、僕も人のことは言えないか。

「し、白詰ェっ、助け……っ」

ウルティオの姿を見つけた磯干は僕に助けを求めてくる。

彼は折鶴と仲がよく、かつては彼と2人で僕のと心を弄んでくれたものだ。

どの面下げて、助けを求めてるんだろう。

「そぉらよっと!」

ブオォンッ!

赤黒いアニマが巨大な斧を振り下ろす。

磯干のアニマは、右肩でそれをまともにけてしまった。

すでにHPを消耗していたのか、あるいは一撃で全て削られてしまったのか。

右肩は障壁に守られること無く、バキンッ、と言う大きな音とともに切斷される。

「あっ、ああぁ、ああああああぁぁぁあっ! 腕、俺の腕が……しろ、つめええぇぇぇぇ……助けろ、助けろよっ、俺の代わりにあれの相手を――!」

痛みに聲を震わせながらも、なお助けを求めて僕の方へと駆け寄ってくる磯干。

そんな彼を、僕は――

「スキル発ブート、捕食プレデーション」

捕食口を開いて、優しく迎えれた。

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