《人喰い転移者の異世界復讐譚 ~無能はスキル『捕食』でり上がる~》21 霧中躙
「ちくしょうっ、さ、さっきまで見えてたのに!」
「急に霧が出てきたりして不気味だよぉ……」
「落ち著いていきましょう、待ち伏せされている可能もありますから」
僕らを追ってきた3人は、男子2人と子1人で構されていた。
先頭を歩く男子、大蜘蛛おおくものアニマは確か”アラーネア”。
名前通り、糸による足止めを得意とするアニマだったはず。
粘著質な格がそのまま反映されてるんだと思う。
最後尾を歩く男子、三洗みたらいのアニマは”サブティリタス”。
特徴のある武裝は持っていないが、な攻撃を得意としている。
武裝が貧相でも能力の高さで補うタイプだ。
そして大蜘蛛を盾のようにして、隠れながら歩く白鳥しらとりのアニマは”ピークス”。
いかにもの子らしいきとは裏腹に、右腕には兇悪なガトリングガンが備わっている火力の高いアニマだ。
彼は典型的な”男けは良いがけの悪い子”で、武裝は彼本來の攻撃的な格を表しているのかもしれない。
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本來なら大蜘蛛や三洗のような男子は嫌いして行を共にしないはずなのだが、2人のアニマのステータスが他より高めと知った途端にり寄っていった。
人格よりも権力に惚れるってことだ、ろくなやつじゃない。
死ぬべきだ。
「じゃあ百合、手はず通りにお願い」
「わかった。気をつけてね、岬」
周囲に散布されている霧は、僕が霧に消える悪意ソーサリーチャフによって生したものだった。
百合に見送られながら、霧の中に突っ込んでいく。
目的はもちろん奇襲。
いくらウルティオの方が能力が優れているとは言え、真正面から3のアニマと戦って無傷と言うわけにはいかない。
長い旅になるのだから、消耗は出來るだけ避けておきたい。
というわけで、まずは単純に厄介そうなアラーネアから仕留める。
相手の視界にらないギリギリの距離までゆっくりと近づくと――そこから一気に駆け出し、目標に薄する。
「な、なんだこいつっ!?」
突如、霧の中から現れた見覚えのないアニマに、大蜘蛛は大いに戸った。
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リアクションが大きい、反応が遅すぎる。
それじゃあ防は間に合わない。
彼のに、僕は左拳を叩き込んだ。
「シヴァージーッ!」
ズドンッ!
出された手甲剣がアラーネアの障壁を消耗させながら、後方へと吹き飛ばす。
さらに頭部ソーサリーガンを放ちながら再び懐に踏み込み、左拳を放とうとする。
その時、アラーネアの背後で何かがいた。
「あ、甘いんだよ、スパイダーレグス!」
現れたのは六本の隠し腕だ。
元からある腕と合わせて計八本、アラーネアはまさに蜘蛛らしい外見へと変わった。
腕はそれぞれがウルティオの肩、腕、足を強く握っている。
を捩っても外れそうには無い。
訓練の時は見たことが無かったし、今の今まで味方にすら隠してきたってことかな。
けど――捕まえたから、何だってんだか。
「誰だか知らないけど、トドメをさして――」
「ヴァジュラ」
「は?」
部から放たれるが、アラーネアの上半を塗りつぶした。
いくら彼のステータスが高いとは言え、この距離でのヴァジュラに耐えられるはずもなく。
極太のビームが消える頃には隠し腕は力をなくし、僕のは解放されていた。
ズゥン、と周囲の木々を巻き込みながら地面に倒れるアラーネア。
まともにヴァジュラをけた上半は、消し飛んでは居なかったものの、焼けただれ、表面が溶けてしまっていた。
これ、アニマが消えたらどういう狀態なんだろうね。
捕食しちゃうから、見られないのが殘念だ。
「よ、よくも大蜘蛛くんをぉっ……!」
白鳥がく。
右腕のガトリングガンを僕に向け放とうとしているようだ。
ドドドドドドドドッ!
銃から放たれる無數の弾丸。
僕は地面に倒れたアラーネアの頭部を握り、を持ち上げると、それを盾にして銃弾を防いだ。
「あっ、ああっ……」と微かに大蜘蛛の聲が聞こえた。
どうやら、まだ完全に死んでいたわけじゃないらしい。
まあ、さっきのでトドメ刺しちゃったみたいだけど。
「ひどいね白鳥さん、大蜘蛛くんまだ生きてたのに」
「ち、ちが、そんなつもりじゃ……! それにその聲、白詰……?」
「白詰だって? まさか、アニマの姿が全然違うじゃないか!」
「あんた、こんなことして許されると思ってるんでしょうね!」
僕が白詰岬だということを認識した途端、白鳥さんはドスの利いた低い聲で言い放つ。
目下の相手にはとことん強く出るタイプなんだよね、僕が一番嫌いなやつだ。
「白詰のくせにぃ……殺してやるっ!」
「トドメを刺したのは自分の癖によく言えるよね」
「黙れえええぇぇぇっ!」
再びガトリングガンを構え、僕に向けた。
ギュイイィィ、と銃が回転を始める。
しかし銃口から弾丸が放たれることはない。
ピークスのは、背後から何者かに羽い締めにされてしまったから。
「なっ……誰!?」
ピークスを拘束していたのは、百合のアニマ”イリテュム”。
彼は、白鳥の問いに一切答えなかった。
僕はきの取れなくなったピークスに近づくと、おもむろにシヴァージーを振り上げる。
ザクッ、ザクッ、ザシュッ!
幾度となく斬りつけ、突き刺し、削っていく。
「っぐ……いや、やだっ、どんどんHPが減って……!」
「うおおぉぉぉっ! 白鳥さんは、僕が助けてみせるっ!」
年マンガのような臺詞を吐いて、三洗がイリテュムにソーサリーサーベルで斬りかかった。
振り下ろすと背中に傷がる。
しかしイリテュムはじない、百合は聲も出さない。
再び斬りつける。
背中に大きな抉るような傷がるも、やはりイリテュムはかない。
痛みに苦しむ聲すらあげない。
そうこうしている間に、ピークスのHPはシヴァージーによりみるみるうちに削られていく。
「し、死にたくないっ、死にたくないよぉっ! 三洗、早く助けなさいよおおっ!」
白鳥の焦りようからして、もはや瀕死と言ってもいいほどの狀態なんだろう。
それを察した三洗は――
「うぉおおおおぉぉおおおっ!」
意を決してサーベルの先端をイリテュムの背中に突き立てた。
今までそうしなかったのは、人の命を奪うという行為に抵抗があったからか。
しかし、彼は惚れたを救うために勇気を振り絞って、葛藤を乗り越えた。
賞賛に値する、勇敢な行だ。
イリテュムはぐったりと力を無くし、ピークスのが解放される。
もっとも――それが正しい選択だったかどうかは、また別の話だけど。
「ヴァニタス」
し離れた場所に居た本の・・・イリテュムから、冷たい聲が発せられた。
直後――
ドオォオオオオンッ!
けたたましい発音が鳴り響き、イリテュムの分がぜた。
「ぐ、うわああぁぁっ!」
「ギャアアアアァァァァッ!」
サブティリタスとピークスは吹き飛ばされる。
特にピークスの方は発によってHPが盡き、無防備な背中に至近距離で発を食らってしまった。
白鳥の悲痛なびが響きわたる。
それは斷末魔のびだ。
吹き飛ばされ、片腕を失った狀態で地面にうつ伏せで倒れるピークスは、背中がえぐれ、焼けただれている。
あの傷を単純に人間に換算すれば、間違いなく致命傷だ。
彼がくことは二度と無かった。
「白鳥さんっ……白鳥さああぁぁぁんっ!」
三洗がぶ。
ほんとマンガの主人公みたいな臺詞ばっか吐いてさ、自分に酔ってるんだろうな。
その割には、腰が抜けて立てないみたいだけど。
ウルティオとイリテュムは、地面に座り込むサブティリタスにゆっくりと歩み寄る。
「な、何をするつもりだ……」
「何って、見たらわかるでしょ。2人を殺した、だから三洗くんも殺すよ」
「や、やめろ、やめてくれ、僕は……僕は、死にたくなんてない!」
ほら、結局そっちが本音なんじゃないか。
けどもう手遅れだ。
死にたくないんなら、変にカッコつけて、真っ先にカプトを飛び出したりするべきじゃなかった。
「従う義理がない」
「ごめんね三洗くん、私は岬のためなら誰だって殺すって決めたんだ」
ドスッ。
僕はシヴァージーでサブティリタスに突き刺した。
「あうっ、いぎっ……」
ザシュッ。
百合は短刀――ミセリコルデを三洗に突き立てる。
「いやだっ、あぐっ、いやだああぁぁっ!」
僕たちは互に手甲剣と短刀を突き立て、三洗の命を弄んだ。
這いつくばって逃げようとするサブティリタスの背中を踏みつけ、さらに斬りつける。
そしてついにサブティリタスのHPが盡き、彼が痛みによるびをあげはじめた頃。
イリテュムがミセリコルデを彼の手のひらに突き刺したのを最後に、僕らは攻撃をやめた。
「そろそろ捕食するの?」
「いや、三洗はこのまま放っておこう。捕食するのは大蜘蛛と白鳥だけでいい」
「あれ……そうなんだ。じゃあ、殺さないってこと?」
「うん、やっぱり殺さないことにした。そっちの方が楽しそうだから」
宣言通り、僕はアラーネアとピークスを喰らうと、腰を抜かしたままけないサブティリタスを放置して、その場を去った。
「大蜘蛛……白鳥さん……くそっ、くそおおおおおおぉぉっ!」
背後から、三洗の悔しげなび聲が聞こえてくる。
命拾いしたことで、ヒーローモードに戻る余裕が出てきたのか。
僕はそんな彼の聲を聞いて、ウルティオの中でにやりと笑っていた。
水木を狙撃したおかげか、すぐさま3人以外の追っ手が來る様子はない。
割と余裕を持って森の出口へ向かって歩く途中、百合が不満げに口を開いた。
「で、なんで三洗を殺さなかったの?」
「よく考えてみれば、僕が彼らを憎む理由はあっても、彼らが僕を憎む理由はほとんど無いんだと思ってさ」
「まあ、みんな楠さんを殺したってことしか知らないだろうからね」
折鶴や榮倉、広瀬たちの死が僕の仕業だということを、みんなは知らない。
それに、僕が彩花を殺したということにはなっているけれど、その不自然さにも気づいているはずだ。
「だから、みんなが僕を恨むように仕向けたんだ。あっちから近づいてきてくれる方が復讐もやりやすいから」
「だからわざと痛めつけて放置したんだ」
「そういうこと。三洗ならきっと、悲劇のヒーローを演じていい合に道化になってくれると思うよ」
アイヴィはおそらく、アニマ使いたちの単獨行を良しとはしない。
つまり、三洗が復讐のためにけば、必ず他の誰かもついてくる。
あいつは餌なんだ、クラスメイトたちを釣り上げるための。
話しながら歩いていると、森の出口が見えてきた。
やたら歩きにくいこの場所ともようやくお別れだ。
「空とか飛べたら、もっと楽に移できるんだろうけどなー」
「飛べるアニマもいるかもね」
「じゃあ、岬がそいつを食べたら、空を飛べるようになるかもしれないってこと?」
「かもね、見つけたら考えてみるよ」
「その時は私も一緒に連れてってしいな……って、何してるの? 森は抜けたんだし、早く行こうよ」
急かす百合をよそに、僕は森の方に振り返り、木々にウルティオの手をかざした。
「アグニ」
腕部火炎放銃アグニ――手のひらから高溫の炎が吹き出し、木を燃え上がらせた。
火は次々と隣の木へと伝搬し、延焼し、規模を広げていく。
「うわ……焼いちゃうんだ」
「さっきみたいに適度な量ならともかく、あんまりわらわらと追っ手に來られても厄介だし、足止めのためにね。それにこれだけの広さの森林が燃えれば、王國への嫌がらせにもなるから」
「確か、森の東の方には村もあるって話だよ」
「ならちょうどいい、全員死ねばいい」
その言葉を捨て臺詞に、僕は今度こそ煙の立ち上る森に別れを告げ、平原を歩き始めた。
プラナスからけ取った地図を頼りに、次の町へと。
――この時発生した森林火災は、鎮火までに2ヶ月近くの時間を要した。
火はシルヴァ森林近くの村にまで及び、死者は數百人にも達すると言われているが、僕がそれを知るのはずっと後のことである。
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