《人喰い転移者の異世界復讐譚 ~無能はスキル『捕食』でり上がる~》28 兎狩り
ウルティオの放ったガーンデーヴァの矢が兎のアニマに命中する。
「ぐっ、このクニクルスに傷を付けるとは……ふざけたことしてくれるなァ!」
障壁があるから傷はつかないはずなのに、HPが減っただけでそこまで怒らなくても。
山賊のくせ・・・・・に、ずいぶんとデリケートなやつ。
「償って死ね! ジャッカロープ!」
クニクルスの2箇所の頭部アンテナにエネルギーが収束し、緑にる球が作り出される。
バチバチと音を鳴らしながら球はみるみるうちに大きくなっていく。
けどエネルギーが収束しているのは後頭部側、つまり僕から見て逆方向だ。
あそこからそのまま放たれるのだとしたら、ジャッカロープとはつまり、追尾のある非実弾ということになる。
僕は左手にソーサリーサーベルを構え、クニクルスへ向かって走り出した。
ヴゥン――微かな音と共にアンテナからジャッカロープが放たれる。
速度はあまり早くない、しかしゆっくりと、確実にこちらに向かって球は近づいてくる。
なるほど、即時相手を傷つけるためではなく、行を阻害しながらじわじわと追い詰めるための武裝か。
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エネルギー弾を放ったクニクルスは、両腕に爪のような形狀の非実剣を展開すると、こちらに向かって走ってきた。
サーベルって見た目でもないな、さしずめソーサリークローとでも言ったところか。
近づいてくるクニクルスに何発かガーンデーヴァを放つものの、素早い橫のきで回避されてしまう。
「シィッ!」
接近したクニクルスが腕を振り上げる。
バヂィッ!
僕はそれをサーベルでけ止めた。
剣と爪がヂヂヂと火花を散らしながらぶつかり合う。
鍔迫り合いをしているうちに、クニクルスの背後からエネルギー弾がゆっくりと迫ってきた。
このまま止まっていたんじゃ真正面から當たってしまう。
僕は腕の力をゆるめ、一時後退する。
しかし相手のきの方が微かに早い。
振り下ろされたもう一方のソーサリークローがウルティオの部を掠った。
「っちぃ!」
思わず舌打ちしてしまう。
殘りHPは――37700/39200。
なんだ、まだまだ気にするまでも無かったな。
後退した僕は落ち著いて接近するジャッカロープのエネルギー弾をサーベルで切り払う。
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バチッ、とそこそこの抵抗はあったものの、一つ目の球を消すことに功した。
だがまだあと一つ殘っているし、相手のアニマ――クニクルスも無傷だ。
敵は頑強な足で地面を蹴り、一気に近づいてくる。
すれ違う瞬間に放たれるクローを回避、著地した相手はそのままもう一度地面を蹴り、僕の背後に迫る。
僕は迫るクニクルスに、振り向きざまの”蹴り”で対応した。
「フリームスルスッ!」
武裝を発、すると足が青白い魔力を纏う。
ガギィッ!
ウルティオの腳部とクニクルスの腕部が衝突する。
ソーサリークローによってHPは削られてしまったものの、蹴りも命中した。
ダメージは2000ぐらいか? 代償としてはないぐらいだ。
さっきのはただの蹴りじゃない。
フリームスルスの魔力を帯びた蹴りは、命中した相手の腕をみるみるうちに凍らせていく。
結果、クニクルスの腕部は関節あたりまで固まってしまった。
腳部凍結機構:フリームスルス。
腳に氷の魔力をまとわせ、蹴りが命中した部位を凍らせる武裝だ。
帝國のアニマ使い、キシニアとの戦後に捕食したクラスメイトのアニマから吸収した武裝で、実戦で使うのは初めてだったけど――
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「ちくしょう、腕が……かないっ!?」
――効果はてきめんだったみたいだ。
きのぎこちないクニクルスとの距離を一気に詰めると、防しようとするもう一方の腕に、僕は再び蹴りを放つ。
もちろんフリームスルスを発させた上で。
ガシャァンッ!
重い金屬同士が衝突する音が鳴り響く。
クニクルスは左腕で蹴りをガードしたものの、やはりそちらも凍りつき、きが取れなくなってしまう。
両腕が封じられたアニマにもはや打つ手はあるまい。
ならばヴァジュラでトドメを――と武裝を発させた瞬間だった。
「スキル発ブート、羨せよ我が高みナルキッソス!」
クニクルスの腳部に魔力が集中する。
危険を察知した僕はあわてて距離を取ったが、相手の意図は攻撃することではなかった。
軽くクレーターが出來るほどの力で地面を踏みしめ、相手の姿が見えなくなるほど高くまで飛び跳ねる。
「スキル持ち! やけにごつい腳部はこのためだったのか」
兎のように見えた外見は、決して見掛け倒しではなかったらしい。
しかし何のためにそこまで高く飛んでいったのか。
離か? あるいは攻撃するために?
空を見上げる僕と同様に、3機のアルジェントもその場で天を仰いでいた。
邪魔するアニマはいないんだから、今のうちに略奪でも破壊でもしてしまえばいいのに。
それをやらないってことは、やっぱりクニクルスの使い手とグルだったってことか。
アニマ使いで、しかも比較的新しいアルジェントなんて代を3機も持ってるなら、もっとうまく稼ぐ方法だってあるだろうに、みみっちい奴らだ。
いっそアルジェントを先に叩くかと思い始めた時――僕は上空から落下してくる強い殺気をじた。
ドオォォオオンッ!
上空高くから落下してきたクニクルスの飛び蹴りを、僕はバックステップで回避した。
自由落下のエネルギーを利用するために、わざわざあんな高くまで飛んだのか。
いちいち無駄が多いな。
僕は著地したクニクルスに向かってガーンデーヴァを構える。
「スキル発ブート、羨せよ我が高みナルキッソスッ!」
しかし、相手はすぐさまスキルを再発し、再び上空へと飛び立った。
……思ったより早いな。
連続発に何の制約もない上に、あの様子だとスキルで消耗するMPもさほど多くは無さそうだ。
厄介と言えば厄介。
けど――
「もう一回、フリームスルスッ!」
ウルティオは右足を高く掲げた姿勢で、落ちてくるクニクルスを待ちける。
腳部は青白い冷気を纏い、今か今かと奴が落ちてくるのを待っていた。
蹴りには蹴りを。
すでに10以上のアニマを食らったウルティオに、能力で勝るアニマはほとんど存在しない。
つまり、小細工なんて力で押しつぶしてしまえばいいだけなんだ。
そして猛スピードでクニクルスが落下してくる。
僕はそれを右足でけ止め――きれるはずもなく、後方へと吹き飛ばされた。
地面をえぐり、砂埃を巻き上げながらもんどりを打つウルティオ。
「いっつつ……」
実際のところ痛いわけじゃないんだけど、つい反的に言ってしまった。
HPは――30100/39200か、さすがに真正面からけると結構痛いな。
「馬鹿な、こんな強引な方法でぇ……!」
でも、これで敵のスキル羨せよ我が高みナルキッソスは封じた。
なぜならクニクルスの足は、さっきの衝突の瞬間、フリームスルスの効果で凍りついてしまったからだ。
僕は悠々と起き上がり、思うようにかない両手と右足に苦戦するアニマへと近づいていく。
近づきながら、手甲剣シヴァージーを両腕に展開。
ジャキンッ、という音と共に手の甲に銀の刃がせり出してくる。
「お、おい、お前らっ、見てないで早く助けろっ!」
クニクルスの使い手は山賊3人に助けを求め始めた。
なりふり構ってられなくなったらしい。
けど、アルジェントはその場からかない。
「何やってんだよ、早く!」
「無理だ……あんたでも勝てない相手に、俺らが勝てるわけねぇだろ……!」
まったくもってその通り。
アルジェントの乗り手が3人とも天才パイロットだったらどうにかなったかもしれないけど、なくとも山賊風には無理だ。
彼らは利口だった。
そしてこいつは阿呆だった。
ただそれだけのことだ。
「待て、待てってくれぇ、みはなんだ? 金ならあるぞ、いくらでも払う、だから命だけは助けてくれよぉ!」
「そういうのいいよ、僕がしいのはあんたの力だけだから」
「オレの……力?」
疑問に答える必要はない。
僕はシヴァージーを繰り返し振り下ろし、相手のHPを作業的に削っていく。
「あぐっ、いやだっ」と悲痛な聲が聞こえるが、顔見知りですらない男のそんな聲を聞かされても気持ち悪いだけだ。
不快な聲を早く止めてしまいたい、その一心でクニクルスを切り刻み、そして――ザクッ、と刃先が相手の首を刺し貫いた。
同時に相手の聲が止まる。
からだらんと力が抜け、首元に刺さったシヴァージーだけがの支えとなった。
僕はフォークでを喰らう要領でクニクルスを自分のに近づけ、スキルを発させた。
「スキル発ブート、捕食プレデーション」
グパァッ、とグロテスクな捕食口が開く。
牙がクニクルスに食い込み、口が細する度にその機が歪み、飲み込まれていく様を、アルジェントに乗った山賊たちは唖然と眺めていた。
いや、眺めていたのは彼らだけじゃない。
戦爭でもない限り拝む機會のないアニマ同士の戦いを、町の人間たちも外にでて眺めていた。
「ふぅ……ごちそうさまでした」
捕食を終えた僕は、ひとまずマイペースにステータスを表示させる。
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名稱 ウルティオ
武裝 頭部ソーサリーガン
腕部火炎放銃:アグニ
腳部凍結機構:フリームスルス
非実剣:ソーサリーサーベル
実手甲剣:シヴァージー
実弓:ガーンデーヴァ
可変ソーサリーガン:殲滅形態モードブリューナク
可変ソーサリーガン:狙撃形態モードアンサラー
部大型ソーサリーガン:ヴァジュラ
スキル 親なる友スウィンドラー
卑劣なる俯瞰者ライフトーチャー
正義の味方ブレイバー
霧に消える悪意ソーサリーチャフ
魔弾の手イリーガルスナイパー
羨せよ我が高みナルキッソス
能力 Lv.41
HP  32380/41480
MP  33400/36900
出力 3930
機 4360
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運良くスキルを吸収できたみたいだ。
ウルティオの機自も、足の部分がしゴツくなったようにじる。
けれど能力の上がり、というかレベルの上がり方は以前よりゆるやかになっている。
ゲームのように、レベルが上がれば上がるほど上がりにくくなっていく仕組みなんだろう。
最初のころほど劇的な変化は無いにしても、確実に長しているのは確かだし、この調子で行けばアイヴィやキシニアと真っ向から戦えるようになる日もそう遠くない……と思いたい。
さてと、捕食も一段落したところで、問題はディンデの町をどうするか、だけど。
アニマは町の敷地に立ちれない。
とは言え、外側から遠距離武裝を使えば町を破壊することはそう難しくないはず。
けど遠距離武でちまちま壊してくのも味気ないなあ、もっと派手ぶっ壊す方法があればそっちの方がいい。
「ねえ、そこの山賊さん」
「ひいぃぃっ、く、喰わないでくれ、あんな死に方はしたくないっ!」
「殺さないであげるからさ、僕のお願い聞いてくれるかな?」
「お、お願いだと?」
お願いと言うにはいかんせん過激ではあるけれど、怯える彼らに僕はできるだけ溫和な口調で言った。
「ディンデの人たちを、皆殺しにしてしいんだ」
「は……?」
「お願いはそれだけ、町の人たちをみんな殺しさえすれば、殘ったは全部好きにしていい」
「何言ってんだ、あんた。町を守るために戦ってたんじゃないのか!?」
「そんなこと一度も言った覚えは無いけど。さあ、やるの、やらないの? やらなければ山賊さんたちが死ぬだけだけど」
言いながら、僕は右腕のクロスボウ――ガーンデーヴァを彼らに向ける。
「わ、わかった、やる! やるから殺さないでくれ!」
「町の連中を殺せばいいんだな? それさえできれば命は助けてくれるんだよな!?」
「もちろん、今日のところはそれで見逃してあげるよ」
返答は無かったけれど、アルジェントの視線がウルティオから町の方に映る、つまり承諾と思って良さそうだ。
彼らとしては、ぐらいは殘しておきたかったんだろうけど、命を失ってしまえば元も子もない。
それに人間以外の町の全てを彼らが手にれることが出來るのだ、お互いにデメリットは何も無い換條件と言えるだろう。
町の人たちが、僕と山賊のやり取りを聞いて何やら喚いているけれど、興味のない僕には聞こえなかった。
かくして、躙が始まる。
町長を含め、町の住人を守ることが出來る男たちは宿屋でくたばっているし、おそらく町に格納されているプルムブムを縦出來る男もそこに混じっていたんだろう。
抵抗は一切なかった。
あまりに一方的な殺だった。
山賊たちは最初こそ躊躇いがちに無抵抗な住人たちを殺していたけれど、次第に楽しくなってきたのか、ちらほらと笑い聲が聞こえてくる。
圧倒的な力をもって弱者を制する。
きっとそれは楽しいことだろう、だからこそクラスメイトは僕をげ続けたのだろうから。
住人たちの悲鳴と山賊たちの笑い聲を背にけながら、僕はディンデの町の南へと去っていった。
先に逃げていたラビーの馬車と合流し、アニマを解除して荷車に乗り込む。
「おかえり、岬」
百合が微笑みながら迎えてくれた。
エルレアとラビーは無言だったけれど、彼はその表から、そして彼は青ざめたから、何を考えているのかは察することが出來た。
「また、人を殺したのですか」
エルレアが聲を震わせ、怒りをあらわにしながら言った。
「うん、殺したよ」
「あの町には、病に伏せるもいたのですよ!?」
「じゃあ聞くけどさ、じわじわと親から毒で殺されるのと、悪黨にあっさり殺されるの、どっちが良いと思う?」
「そ、それはっ」
「僕は後者の方がマシだと思うな。子供に悪黨は憎めても、親は憎みきれない。複雑なで揺れながらあの世に逝くよりよっぽど幸せだよ。エルレアもそうは思わない?」
「生きていくのが、一番幸せなはずです!」
「生きられるならね」
それが無理だってことぐらい、甘ったれたエルレアの脳みそにだって理解できるはずだ。
だからこそうまく言い返せなくて、そんなに悔しがってるんでしょ?
「ディンデに居たアニマ使いは、知り合いの山賊と結託して町から報酬をぼったくり、毎日のようにも抱いていた。町の男集は”町を守るためには仕方ないことだ”と言って旅人まで連れ去り、アニマ使いに捧げていた。あんなクズ連中に生きる価値なんてあると思う?」
「クズだろうと、償う方法は死以外にもあるはずです!」
「クズは認めるんだ」
「そ、それは……認めますが」
「ふぅん」
僕はにやりと笑った。
そっか、認めるんだ。
しずつでいい、急ぐ必要はない、彼の故郷イングラトゥスまではまだ時間がある。
たどり著くまでの間に、彼が僕のことを理解・・さえしてくれれば、焦る必要なんて無い。
馬車はランプに照らされただけの暗い道を走っていく。
アニムスが町を破壊する凄慘な音をBGMに、さらに深い深い暗闇へ向かって。
その日、地図上からディンデという町は消えた。
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