《人喰い転移者の異世界復讐譚 ~無能はスキル『捕食』でり上がる~》35 魔狩り
ハンモックで橫になっていた僕は、フリーシャが部屋に戻ってくる音で目を覚ました。
ぼやける視界で隣に居る百合に目を向けると……ばっちりと目が合った。
「起きてたの?」
「岬よりちょっと前にね、寢顔をたっぷりと堪能させてもらっちゃった」
例え百合相手あったとしても、無防備な姿を観察されるのはどうにも気恥ずかしい。
「ぐっすり眠ってたみたいだな、ミサキ」
「おかげさまで。そっちもエルレアと仲良くやれてるみたいで良かったよ」
「フリーシャはミサキと違って楽しい話を沢山してくれましたから」
皮たっぷりに言われてしまった。
しかしそのらかい表を見る限り、本人は相當に上機嫌みたいだ。
言葉通り、フリーシャの話がよほど新鮮で面白かったんだろう。
「あたしはそろそろ夕飯の準備をしようと思う、エルレアはリビングに座っとくか?」
「はい、そのあたりに適當でいいですよ」
「じゃ、私はフリーシャの夕飯作りを手伝おっかな。料理ができるって所を岬に見せつけてやらないとね」
「料理できたんだ」
「世のの子の平均以上はできるつもり、味しいって言わせてみてるから覚悟しといてね」
そう言って頬にキスをすると、百合はハンモックを降りた。
フリーシャはリビングの椅子にエルレアを座らせると、百合とともにキッチンへと向かっていく。
「料理ならボクも手伝いますよ」
リビングで、家にあった本を読みながらくつろいでいたラビーが立ち上がる。
「ラビーも料理できるの?」
「料理づくりは下っ端の役割ですから、の繊細な料理とは方向が違うかもしれませんが」
「安心しろ、あたしも繊細な料理は苦手だからな!」
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フリーシャがを張って言った。
確かに、野生児っぽいフリーシャに繊細という言葉は似合わない。
そこらの獣をかっさばいて、ダイナミックな料理を披してくれそうだ。
となると、日本の一般的な家庭料理しか出來なさそうな百合が完全なアウェーということになる。
若干心配しながらも、料理の出來ない僕はキッチンに消える3人を見送ることしかできなかった。
リビングに沈黙が流れる。
フリーシャたちが姿を消した途端、エルレアの表は曇ってしまった。
彼に向けていたのは想笑いだったのかな。
いや、そんな風には見えなかったし、何より彼がそんな用な真似をするとは思えない。
フリーシャとのやり取りが楽しかったのは事実。
けれど、表が曇るような話題があったのもまた事実ってことか。
「エルレア、外でフリーシャとどんな話してきたの?」
「々聞かせてくれましたよ、山に移り住んでから起きた出來事や、それ以前の……悲しい出來事も」
「町を追い出された時の出來事とか?」
「それだけなら良かったのに……」
エルレアの表にさらに影がさす。
実際は想像なんかよりもっと酷い現実だった、とでも言わんばかりに。
「追い出されただけじゃないってことは、両親が居ないってことも絡んでくるのかな」
「フリーシャのプライバシーに関わるので詳細をミサキに話すことはできません、悲慘であるとしか」
「両親は殺され、逃げるように山に住み著いたのかもね。追い出された理由は、魔と心を通じ合わせることができるから。ひょっとすると親も似たような力を持っていたのかもしれない」
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「……え?」
わかりやすいリアクション。
隠したいんなら、エルレアはもうちょっとポーカーフェイスをに著けるべきだと思うな。
「だいたい予想できるよ、こんな僻地に住んでる時點でね。テームの周辺は魔が多い地域ってことも聞いてるし、被害が多い責任をフリーシャの家族や彼自に押し付けたんじゃないかな」
「よく……わかりましたね。そのようなことが起きていただなんて、私はまだ信じることすら出來ていないのですが」
「エルレアは優しいから」
「それは、皮でしょうか」
「言葉通りの意味だよ、褒めてはいないかもしれないけど」
でも、起きてしまった事実は、彼がいくら優しかろうと変えられない。
どうしようもない現にを直面して、自分の信じてきた信念が通用しないことを知り、エルレアは苦悩してるんだろう。
いっそ諦めて、世界は悪意で溢れてるって認めてしまえばいいのに、変に頑固だからそうやって苦しむことになるんだ。
「フリーシャもある意味では優しいんだと思う。両親と居場所を奪われても、復讐しようとはしないんだから」
僕だったら、あれだけ強力なアニマの力があるんだから、どうにかして復讐すると思うけどな。
「どう、なんでしょうか。うまく言葉にできないのですが、フリーシャの場合は、単純に優しいわけではなく……町の人たちを、自分と同じ生だと思っていないような気がするんです」
「同じ生だと思っていない?」
「はい。どうでもいい、どうせ通じ合うことはできないんだから、と。”諦めている”じがしました」
その言葉だけで理解できるとは思わない。
けれど、そのほんの小さな欠片ぐらいは共できる気がした。
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僕が一切良心を痛めず彼らを殺せるのは、その命を無価値だと思っているからだ。
死ぬことで僕の気持ちが晴れるという一點に置いては価値があるのかもしれないけど、正しい意味の、世間一般で言う命の価値は皆無に等しい。
フリーシャもそれと同じように、彼らが無価値だとじるからこそ――復讐なんてしても無駄だと悟ってしまった。
「諦める、か」
「向いているベクトルが違うだけで、ミサキとフリーシャは似ているような気がします」
「諦めて無関心を貫くか、思うがままに復讐に走るか、ってことだね」
おそらく、フリーシャの無関心は町の人たちだけでなく、他の人間へも同様だった。
だからこそ、さっきの戦闘で彼は平気な顔をしてクラスメイトを殺そうとした。
一方で僕たちに興味を持ってくれたのは……僕同様に、フリーシャも僕に対して似た何かをじ取ったからだろうか。
「どんなに心を込めて話しても通じ合えないあたりが、特にそっくりでした」
僕らとエルレアは違う世界を見て、そして違う位相に立っている。
だから心と心がれ合えない。
表面上は會話が立しているように見えても、もっと深い部分ですれ違っているのだ。
「ですが、無関心でありながらも、テームの人々にやってしいことはあるそうですよ」
「何を?」
「一言だけでもいいので、謝罪してしいそうです」
無関心だというのなら、謝らせて何を求めるのか。
諦めているくせに、上っ面の言葉だけで、一何が救われるって言うんだろう。
「ご両親は処刑されて死んでしまいました、今でもテームでは罪人扱いでしょうから」
「冤罪を明らかにすることで、あの世の両親への手向けにしたいってことか」
「裏の畑の先にはご両親のお墓もありました、ですがごはそこには無いそうです。だから余計に、そう思ってしまうのでしょうね」
処刑された罪人の死を町の墓にれてるとも考えにくい。
とっくにどこかに棄されているだろうから、取り返すことも出來ない。
「関わりたくない、でもご両親の名譽は取り戻したい。それだけ大切な存在だった」
「立派な両親だったんだろうね、羨ましい」
「……ええ、同です」
だからこそ、失った時のショックも大きかったんだろう。
キッチンの方から3人の楽しそうな聲が聞こえてくる。
フリーシャは明るく振る舞ってはいるけれど、今でもその傷は癒えていないに違いない。
「ひょっとすると、ミサキはフリーシャを自分の復讐に連れて行こうとしていたのではないですか?」
「気づいてたんだ。さっきの戦闘で容赦なく相手を殺そうとする姿を見て行けるかなと思っただけなんだけどさ。でも、エルレアから話を聞いて結論が出たよ」
「諦めるんですね」
「うん。たぶんったって付いてきてくれないだろうし」
明日の朝には、予定通りここを経つ。
一日のロスは生まれてしまったけれど、無駄な寄り道だったとは思わない。
僕と百合の的な疲労と、ラビーとエルレアの神的な疲労の回復。
そして何より――エルレアのい意志に風を開けたこと。
これが、僕にとって一番の果だった。
◇◇◇
その日の夕食には、フリーシャたちの作った気合のった料理の數々が並んだ。
畑で取れた野菜に、マーナとガルムが採ってきたイノシシに似たのがメインディッシュ。
こっちの世界の料理は、食べ慣れない香辛料が多めに使われており、味にクセのある料理がほとんどだ。
それでもなお味しいと思える料理は、町の食堂に立ち寄っても中々出會えない貴重なものだった。
また、百合の作った料理は日本人の味覚を意識したものになっており、久しくじていなかった、いわゆる”旨味”のある料理を食べることが出來た。
夜は布団でぐっすり眠る。
エルレアはフリーシャ、マーナ、ガルムと共に。
ラビーは気を使って・・・・・リビングに布団を敷いて。
僕と百合は客まで一つの布団を共にした。
人の家でそういうことをするのはどうなんだろうと思いつつも――百合の我慢が々と限界だったみたいで。
僕と百合だけは、他の面々よりもし夜更かしをしていた。
そして翌朝、軽く朝食を食べた僕たちは、早速フリーシャの家から発つことにした。
「もっと居てくれてよかったんだぞ?」
案の定、彼は寂しそうに僕らを引き止めたけれど、これ以上留まるわけにはいかない。
フリーシャに迷をかけてしまうだろうから。
「またきっと會えますよ、その時を楽しみにしています」
「絶対だからな。ゆうべより味しい料理を用意して待ってるから、絶対に來るんだぞ?」
「ええ、必ず」
エルレアの目の端に涙が浮かんでいる。
すれ違う部分も多くありながらも、彼も別れを惜しんでいた。
復讐が終わったら、また會いに來よう。
王國を滅ぼす時に、巻き込まれないようにあらかじめ連絡しておく必要もあるな。
出來るだけ巻き込まないように気をつけないと。
「じゃあなー! また來てくれよ! 絶対だ、絶対だぞー!」
「はいっ、また會いましょうフリーシャ!」
走り去っていく馬車に向けて、大きく手を振るフリーシャ。
その瞳からはぼろぼろ涙が溢れている。
エルレアも震える聲を聞いて、彼の涙に気づいたのだろう。
その口元は、自然と緩んでいた。
◇◇◇
山を下り、テームの町が見えてきたころ、おもむろにラビーが口を開く。
「そう言えば、フリーシャさんも王國の人間ですよね。ミサキさんの復讐の対象なんじゃないんでしょうか」
別れの興は徐々に冷め、エルレアの涙もすっかり乾いていた。
ほんとはずっと前から聞きたくて、今が頃合いだと思ったんだろう。
ラビーの問いを聞いてエルレアは若干むっとした表をしたが、特に文句を言おうとはしなかった。
「ラビーは知らないだろうけど、彼もある意味で王國に恨みを持つ人間だった。そんな彼を殺すほど見境なしじゃないって」
「彼、やっぱり訳ありだったんですね」
「だから・・・って言っても、事を知らないラビーには伝わらないか。まあでも、機會さえあればテームは滅ぼしたいかな」
「さらっと恐ろしいこと言いますね……」
確かに恐ろしいことかもしれない。
けど、テームに住む人々も、負けず劣らず恐ろしく、かつ醜悪だ。
フリーシャの”一言でもいいから謝罪ししい”というみさえ無ければ、すぐにでも全て壊してしまいたい気分だった。
「……はぁ」
”滅ぼす”という僕の言葉を聞いて、エルレアは大きくため息をついた。
いつもなら歯をむき出しにして猛反対するはずなのに。
彼は僕以上に、あの町の汚さを知っているから、頭ごなしに否定することはできなかったんだろう。
聖なのに。
人の善意を信じていたはずなのに。
馬車はさらに進み、時折他の馬車とすれ違ったりしながら、ついにテームの町にたどり著く。
テームは、ディンデに比べるとさらに小さく、規模からすると明らかに”田舎町”だ。
かな土、日當たり良好、富な水、と沃な大地に恵まれなければ、魔が多いこの地域に誰も住もうとはしなかっただろう。
加えて、この街の”ゾウブ”は外から持ってきたものだ。
町の中央には不釣り合いに頑丈で無骨、なおかつ大きな建があり、この中にアニマの発現を防ぐゾウブが設置してあるらしい。
そしてそれらを守るために、ディンデよりも更に多い2機のアニムス――”プルムブム”のカスタム機が配備されている。
おそらくこの様子だと、アニマ使いも1人か2人は常駐してるはず。
小さな町に見合わぬ頑強な防備。
そこまでして守る価値があるということは、この町で生産している農作はよほどの高級食材なんだろう。
あたりを見回してみると、田舎町の割には一つ一つの建造が大きい。
田舎でも、貧乏とは限らないってことか。
宿の前まで到著すると、僕と百合、エルレアの3人だけが降りて、ラビーは町の商店へと向かった。
『食料調達に行ってきますから、先に部屋を取っておいてください』とのことだ。
建の大きさと小奇麗さを見て何となく嫌な予はしていたけど、案の定、宿はプリムス……いや、下手をしたらカプトよりも高い料金だった。
まあ、商人から奪った金はまだまだあるから問題は無いんだけど、田舎町のくせにここまで料金が高いなんてちょっと理不盡だ。
ぼふっ。
部屋にるなり、百合がふかふかのベッドに飛び込んだ。
部屋の質も値段相応ってじがするなあ。
「さあ、岬もこっちにおいで!」
ベッドでテンションの上がった百合が、両手を開いてってくる。
僕はそのいを乾いた反応で躱し、ベッドの縁に腰掛けた。
「むう、何となくそんな気はしてた」
じゃあやらなきゃいいのに。
こっちはエルレア背負ってるんだから、飛び込めるわけないじゃん。
……2人きりなら乗ってたかもしれないけど。
「綺麗な町ですね」
エルレアのを一旦ベッドに橫たえると、彼は苦笑いをしながら言った。
見えないのに綺麗ってのは……匂いのことかな。
確かに見た目も、地面が舗裝されていたり、新しい家が多かったりで綺麗ではあったけど。
それはひょっとすると、彼なりの皮だったのかもしれない。
フリーシャの両親を殺しておいて、どうしてこんなに町は綺麗なのだろう、と。
ほどなくしてラビーが戻ってきた。
4人でテームの町に繰り出し、間違えて高級店にらないように看板を確認しながら、夕食の店を探す。
どうにかほどほどの値段の店は見つかったものの、フリーシャに振る舞って貰った料理に比べると足りなさは否めなかった。
◇◇◇
何事もなく夜は更け、何事もなく朝がやってくる。
その日、一番最初に目を覚ましたのは、別の部屋で寢ていたエルレアだった。
まだ空が白んだばかりの時間だ。
もちろん僕と百合はまだ寢ていて、一つの布団でくるまっていた。
コンコン、と扉をノックする音に起こされる。
ディンデでの経験があったからか、を起こした僕は、自然と卑劣なる俯瞰者ライフトーチャーを発させていた。
……人數は2人、か。
「ミサキさん、起きてますか」
向こうからはラビーの聲が聞こえる。
だとすると、もう1人の反応はエルレアだろうか。
僕は百合を起こさないように慎重にベッドを抜け出すと、軽く寢癖を整えながら扉を開けた。
「おはようございます、ミサキさん」
そこに居たのは、眠そうに目を細めるラビーと、その腕に抱えられた、やけにシリアスな顔をしたエルレアだった。
「おはよう、ございます」
「うん、おはよ……2人とも、こんな時間にどうしたの?」
「エルレアさんに起こされたんです、外から何か嫌な匂いがするって」
「嫌な匂いって、的には?」
「……の匂いです」
エルレアが顔を青ざめさせながら言う。
の匂いだけなら、誰かが怪我をしたって可能もありうる。
けどこの怯えよう、だけじゃない、彼は他の匂いもじているんじゃないだろうか。
「ラビー、この部屋で待っててもらっていいかな? 僕はエルレアと一緒に外を見てくるから」
「わかりました、ユリさんは……」
「起こさないようにしておいて、どうも急事態って雰囲気でもないから」
急ぐ必要があるなら、エルレアがとっくに急かしているはずだ。
卑劣なる俯瞰者ライフトーチャーを発している僕には見える。
宿の外、確か広場があったあたり、そこに多數の人間の反応があった。
僕は布製のバンドでエルレアを背負い、まっすぐに広場へと向かう。
人が集まっているからと言って、の匂いの元兇がそこにあるとは限らない。
でも、僕の勘が”正しい”と告げていた。
加えて、エルレア自も特に方向の指定をしないことから、おそらく正しいのだと考え歩き続ける。
宿を出て、路地を曲がり、大通りへ出て、まっすぐに進む。
広場へ近づくと、エルレアの呼吸が荒くなり、が震えだす。
鼻を鳴らすと、向こうから流れてくる風にの匂いが混じっているような気がした。
夜明けのテームの町並みはとても綺麗で、けど無機質だ。
まだ人々の生活の痕跡が馴染みきっていない、そんな場所で嗅ぐの匂いというのは、やけに不気味だった。
やがて、ようやく広場へ到著する。
人々が集い、祭りを思わせる賑やかさだ。
しかし出店もなければ、出しを見せるステージもそこには無い。
あるいのは、中央に作られた、木で作られた骨組みだけだ。
高さは3メートルほどだろうか。
人々の視線は、揃ってそこに向けられていた。
おそらく今から、何かが展示されるんだろう。
「はあぁ……はぁ……あぁっ……」
「エルレア、大丈夫?」
「あっ、ぐ……う……」
大丈夫じゃないみたいだ。
顔は見えないけど、きっと真っ青になってるに違いない。
「宿に戻る?」
「うぅ……いえ、このまま……見て、ください……」
「何を?」
「違う、気のせいだって……言って、ください……」
會話が立していない。
僕の聲は、たぶん半分ぐらいしか伝わってないんだろう。
骨組みのそばには馬車が止まっている。
周囲には屈強な男たちと、やけに偉そうな中年の男が立っていた。
あれは、たぶん町長だろう。
彼は自信に溢れた笑顔を浮かべながら、馬車の荷臺に積まれた何かを見ていた。
男たちがく。
荷臺に積まれたソレを持ち、足・に紐をくくりつけると、その紐の一方を放り投げて骨組みの上を通した。
どうやら紐を引っ張ると、反対側に縛られたソレが吊り上げられる仕組みらしい。
また別の男が放り投げられた紐を引っ張り、彼らの狩猟の果を広場の中央に掲げる。
彼・・のが宙吊りになって広場の人々との前に姿をあらわすと、彼らは一斉に「おおぉ」と歓聲をあげ、そして惜しみない拍手を捧げた。
「ミサキ、どうですか? 違い、ますよね……フリーシャじゃ、無い……ですよね?」
ああ、彼はたぶん――の匂いに混じった、フリーシャの匂いに気づいてたんだろう。
ここまで近づいたって、僕にはフリーシャの匂いはわからない。
僕にわかるのは、いたる所が腫れ上がり、折れ曲がり、全がまみれになった死が風に揺られる度に、広場に蔓延するの匂いだけだ。
「答えてください。ねえ、ミサキッ!」
答えられなかった。
わざとじゃない、僕も打ちのめされていたからだ。
「ようやく魔が死んだぞ、これでもう魔の脅威に曬されずに済むんだ!」
「前々からずっと不気味だったのよ、死んでくれてせいせいするわ」
「両親が死んだ時に一緒に殺さないからこんなに長引くんだよ」
集まった人々が各々に想を述べる中、奧の方で男と會話する町長の聲が、微かに聞こえてきた。
「あの犬2匹が狩りに行っている時間は事前に調べておきましたからねえ、あとは”謝罪したい”って話を持ちかければ簡単なもんですよ。アニマ使いだろうと所詮は小娘にすぎませんな、はっはっは!」
彼にとって人間の命が無価値だったように。
彼らにとっても、彼の命は無価値だった。
笑って、殺せる程度の、そんな価値しかなかった。
僕に聞こえた聲が、エルレアに聞こえないはずがない。
「あ、あああぁ……ああああぁぁぁっ、うああああぁぁぁぁああっ……!」
町長の言葉を聞いたエルレアは、絞り出すような嘆きの聲をあげる。
祝いの場に似つかわない悲しみに溢れた聲は、人々の視線を集めた。
あれは誰だ。
なぜ泣いているのか。
やっと魔が死んでくれたのに。
こんな素敵な日に、不愉快な聲を聞かせるんじゃない。
冷たい視線が、僕にそう告げる。
僕はエルレアの聲を背にけながら、無言で広場を去っていった。
宿へ戻る途中もエルレアの聲は止まず。
言葉にならない嘆きを、誰に向けて良いのかわからない怒りを、ただただ聲として吐き出し続ける。
部屋に戻ると、すでに百合が目を覚ましていた。
多くは語らない、それはあとでもできることだから。
ラビーと百合の顔をみるなり、僕は無に告げた。
「この町を潰そう」
百合は元より僕の意志に従うだけだし、ラビーはエルレアの涙を見てある程度の事を察したようだ。
そして、僕の背中にいるエルレアも反対はしなかった。
満場一致である。
僕らはすぐさま宿を出て、馬車に乗り、元來た道を戻っていく。
目指す先はフリーシャの家。
広場には幸いにも彼ら・・は居なかった、ならば會いに行かなければならない。
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