《人喰い転移者の異世界復讐譚 ~無能はスキル『捕食』でり上がる~》47 バイナリーマーダー

労働者ギルドの構員の1人であったリーンが、本部の中で何者かに殺害された。

そんな一大ニュースはすぐさまモンス居住區全に広まり、大騒ぎとなった。

「人気が無くなりましたね、さっきまでは賑やかだったのに」

背中のエルレアが周囲を見渡しながら言った。

ほどなくしてタヴェルナの死も伝えられ、いつ自分も殺されるかわからない狀況の中で、不用心に外を歩き回るのは僕たちぐらいのものだ。

何の意味もなく出歩いているわけじゃない。

浮かれていかがわしいお店に突撃したラビーを、迎えに行く必要があったからだ。

店にって”19歳ぐらいのやけに興した様子の男は來ませんでしたか?”と聞かなきゃいけない所だったけど、思っていた以上にあっさり見つかったことで最悪の自は避けられた。

「みなさん、まさか迎えに來てくれたんですか?」

そこの曲がり角を左に行けばすぐに歓楽街、と言う所で無事ラビーと合流。

別れる前と比べると明らかに顔が良いし表が明るい、やることはやってきたみたいだ。

Advertisement

「無事で良かったよ」

あんな幻覚を見たものだから、ひょっとしたら彼も犠牲に……なんて思ってたけど、杞憂だったみたいだ。

「無事って、何かあったんですか?」

「ラビーくんは呑気だねえ。人が死んだの、姿の見えない殺人鬼が町の中をうろうろしてるんじゃないかって話」

「ああ……だからお店が早く閉まっちゃったのか」

なるほど、それで店を追い出されたからこんな早くに合流できたのか。

「タヴェルナさんも殺された」

「ええっ? じゃあ帝國行きはどうなるんですか!?」

「それも含めて、今後の予定を決めないといけないから宿に戻って話し合おう」

正直、タヴェルナの死自はどうでもいい。

特に思いれのある相手でもないし。

問題は、帝國への案人が居なくなってしまったことだ。

自力で國境を越えるとなると、王國軍、帝國軍、両者の攻撃をかいくぐる必要がある。

仮によく帝國にれたとしても、何の後ろ盾もない僕たちが果たして行きていけるのかわからない。

Advertisement

もっとも、話し合った所で良い案が出るとは思えないのだけれど――ひとまずラビーと合流した僕たちは宿へと戻った。

◇◇◇

宿は、労働者ギルド本部を出てすぐの場所から見えるほど近くにある。

急時にすぐに対応出來るようにってことで、フォードキンがこの場所をあてがってくれた。

「タヴェルナさんが死んだならさ、もうこの町のために戦う必要も無いんじゃない?」

抱きまくらのようにエルレアを抱きしめた百合が言った。

「帝國に案される対価だったわけだし」

「そうですね。早くこの町を出て、帝國へるための別の方法を考えた方がいいのかもしれません」

「そうなんだけどさ……」

僕は返事を濁した。

都合よく他の案人が見つかるとは思えないし、それに――

「ミサキはソレイユさんが気になっている、という顔をしていますね」

百合もうんうんと頷いた。

言わずとも、2人にはお見通しみたいだ。

「同じ復讐を志すものとして、見捨ててはおけないかな」

「反対はしません。だって、私もそうやってミサキが興味を持ってくれたからこそ救われたのですから」

Advertisement

「私も岬がそうしたいって言うんなら従うよ。けど、殺人鬼が居るんじゃもう復讐どころじゃないんじゃないかな」

百合の意見ももっともだ。

本當にタヴェルナとリーンを殺したのがアニマ使いなら、相當強力なスキルを持ったアニマ使いということになる。

先ほど、リーンの部屋にった時に卑劣なる俯瞰者ライフトーチャーを発していたけど、目に見える以外の存在を探知することはできなかった。

けど、あの死の気配とも言うべき幻覚がただの気のせいとは思えない。

「……ひょっとすると僕は、殺人鬼の姿を見ているのかもしれない」

「あ、もしかして探知スキルで?」

「いや、探知スキルにも引っかからなかった。でもずっと幻覚が見えるんだ、町の人たちや、みんなが真っ二つに引き裂かれる幻覚が」

「でも……幻覚、なんだよね?」

「タヴェルナやリーンが死ぬ以前から、つまり犯人の手口を知る前から見えていた。ただの幻覚だって処理するにはどうにも的すぎるような気がするんだ」

「目には見えない気配のようなものをじていた、と言うことでしょうか」

「つまり、殺人鬼は本當に目に見えない存在ってこと? しかも気配をじられるのは岬だけだし、そんなのどうやって捕まえたら良いの?」

「殺人鬼が誰かの近くにいる時だけ幻覚を見るというのなら、人間をたくさん並べてみてはどうでしょうか」

幻覚が見えた付近に犯人が居るって寸法か。

……そのやり方、一どれぐらい犠牲者が出るんだろう。

しかもそれを話すエルレアの表はやけに楽しそうで。

猛烈に抱きしめたくなったけど、どうにか我慢することができた。

「労働者ギルドの人たちがそれで納得してくれるならそれでもいいんだけどね。まあ、今の所はただの幻覚ってじだから、これをあてにするにはまだ早いと思う。けど一応じられるってことだけは報告しておきたくて」

問題は幻覚だけじゃない。

部屋を出る時に聞こえた『お兄さん、面白いね』という聲。

仮にフォードキンさんを見て言うには、お兄さんというよりはおじさんという言葉をチョイスするべきだし、僕を見て言ったんだとしたらなぜ”お兄さん”だったのか。

謎は深まるばかりだ。

「ってことは、犯人を見つけるためにはもっと別の方法が必要なのかー……んー……ところで、ラビーくん」

「へっ? は、はい、どうしました?」

「さっきからぼーっとしてるけど、何かあったの?」

言われてみれば、宿に戻ってきてから一度も発言していないし、顔も赤い。

店での出來事を思い出しているだけにしては妙に浮かれてるし……これはまさか。

「いかがわしいお店のことでも思い出してたとか?」

「いや、決してそんなことは!」

「怪しいなあ。年下の私が言う事じゃないかもしれないけど、惚れる相手はちゃんと選んだ方がいいと思うよ?」

「いや、その、サルタさんはホントいい人なんですよ!」

「……サルタさんとは、どなたですか?」

「うっ……」

自分から墓を掘っていく男、ラビー。

サルタさん、ねえ。

どうやらお店でよっぽど良い想いをしてきたみたいだけど、僕も百合と同だ。

「ハニートラップに引っかからないようにね」

「そ、そんなのじゃありませんから! 大、僕が引っかかった所で失うものなんて何もないじゃないですか!」

自分で言ってて虛しくならないんだろうか。

結局、その日の話し合いが終わるまでにラビーの機嫌が戻ることはなかった。

この必死さ、やっぱりそのサルタっての人に惚れちゃったんだろうな。

面倒なことにならないといいけど。

◇◇◇

部屋での話し合いを終えて、僕は外の空気を吸うために宿の外に出た。

すると、ちょうどソレイユが労働者ギルドの本部から出てくるのが見えた。

「お、ミサキじゃん」

笑顔を浮かべて僕に近づいてくるも、その表にはどこか力がない。

僕は本部で死んだリーンというのことをよく知らないけど、ソレイユにとっては同僚だったはずだから、それも仕方のない話だ。

「こんな時間にどうしたの?」

「外の空気を吸いにね。ソレイユは?」

「あたしも一緒、奇遇だね」

は近くの街燈の下にあったベンチに腰掛けると、隣の空いたスペースをぺちぺちと叩いた。

座れ、と言っているんだろう。

「ごめん、いきなりこんなわけのわからないことに巻き込んじゃってさ」

座った途端、ソレイユが僕に謝罪した。

ソレイユは悪くないよ、って言ったってたぶん彼の罪悪は消えないんだろうな。

「ほんと誰なんだろ、タヴェルナさんやリーンを殺したのって」

「アニマ使いの仕業だとは思ってる」

「あたしも同。ただ、いくらアニマ使いって言っても、生で人間のを真っ二つにするなんてまともじゃないよね」

強化された能力でも、素手で人間のを引き裂けるほどの力は無い。

犯人が何らかの兇を使っているのは間違いない。

それに、死の傷跡は――背後の低い位置から何かで突き刺されたような形狀をしていた。

つまり、長はあまり高くない。

「あーあ、せっかく商人ギルドのやつらとケリを付けられると思ってたのに」

「両親を殺されたんだっけ?」

「……うん、あたしの両親は、労働者の地位向上のために商人ギルドと何度も渉してた。それが、連中にとっては邪魔だったんだろうね」

そこで渉の相手を殺してたんじゃ、むしろ逆効果だと思うんだけど。

その辺の覚も麻痺するぐらい、商人ギルドは労働者たちを見下してたってことか。

「あたしは両親を心の底から尊敬してた。將來は絶対にこの人たちみたいに、他人のために戦える立派な人間になるんだ、って。それが、ずっとあたしの夢だった」

過去へと想いを馳せるソレイユ。

確かに立派な両親だったんだろう。

けど、良い思い出というは、得てして時間経過と共に過剰に化されていくもの。

今のソレイユの表を見る限り、彼が死んだ両親に向けるが、ただの憧憬ではなく崇拝めいたに変質しているように思えた。

「だからこそ、絶対に許せない。両親が殺された時點であたしの未來は閉ざされた、目指すべきは失われた。もう終わってるんだ。だから殺す、後先考えずに殺す、全員殺す、一人殘らず殺す、絶対に許さない。あいつらは、あいつらだけは――!」

だからこそ、その両親を殺した商人ギルドへの憎しみも必要以上に強くなっていく。

確かに両親を殺されれば誰だって憤るだろう、誰だって憎むだろう。

だけど、ソレイユは完全にそれだけに取り憑かれている。

復讐を無くしたら、他に何も殘らないんじゃないか、ってぐらいに。

「……あ、ごめん。この話題になるといつも我を忘れちゃってさ。引くよね、こんなの聞かされたら」

「いいよ、気持ちはよくわかるから。僕も復讐のために旅をしてるようなものだし」

「ミサキも?」

「うん、大事な人を殺されるのって本當に辛いことだよね。心が引き裂かれて、壊れて、形が変わってしまうことだってある」

僕の言葉に、ソレイユの表が明るくなる。

はじめて共してくれる誰かに出會えた、とでも言うように。

「そうだよね、やっぱりそうなんだよね!? 心が別人みたいに変わって、もう自分の命なんてどうだっていい、ただ復讐さえ遂げられればそれでいいってなっちゃうんだ。はは、あたしだけじゃなかったんだ!」

勝手に納得されてしまったけど、僕はし違う。

百合も居る、エルレアも居る。

復讐を遂げてもそれで終わりじゃない。

人生はその先もずっと続いていて、憎悪という重りを捨てた僕は軽くなったで、今までの分の不幸を取り戻すために幸せにならなければならない。

復讐のために命をかける覚悟はあるけれど、未來を諦めたつもりは無かった。

だけど、相槌を打って、一応話を合わせておく。

変に否定して場の空気をしたくはなかったから。

その後も、ソレイユは自らの復讐について饒舌に語り続けた。

熱のこもった口調で、

「パパはすごかった、例えどんなに悪いやつ相手でも、會話だけでねじ伏せてしまう魔法みたいな口を持ってたんだ!」

いかに両親が素晴らしく、

「パパやママが死ぬことで生まれた不幸は、あたしだけのじゃない。世界にとっての不幸なんだ! 生きていればもっと大きなことをし遂げられた、町だけじゃなくて世界だって変えられたかもしれない。それを殺した商人ギルドには天罰が必要だ。死なないといけない、死なないといけない、死なないといけない、死なないと、それが正しいことで、だから現狀が間違ってるの! わかる? わかってくれるよね、ミサキなら!?」

だからこそいかに商人ギルドが死ぬべき存在であるかを。

普段の明るい彼からは想像できないほど、濃い闇を吐き出しながら。

そんな彼の闇を、僕は笑顔で相槌を打ちながらけ止め続けた。

形は違う、だけど同じ復讐者として、理解をすることは出來たから。

◇◇◇

翌朝、宿を出て本部へ向かうと、昨日と似たような顔をしたフォードキンとラクサが僕たちを迎えた。

また、両斷された死が見つかったそうだ。

それも3

1は、死後2日ほど経過していたと言う。

殘り2は死にたてほやほやの、まだが滴るほど新鮮な死だった。

被害者はどれも鉱夫。

場所はバラバラで、まるで自分はどこに居ても好きに殺せるぞ、とアピールしているようでもあった。

1日目に1人。

2日目に2人。

3日目の朝で、すでに2人。

明らかに殺人速度はペースアップしていく。

ソレイユにわれその日はモンス居住區のパトロールを行ったものの、犯人の手がかりも見つからないまま日が暮れていく。

結局、その日は4人が死んだ。

つまり、昨日の2倍である。

確証は無かったが、誰もが気づいている。

明日の死人は8人なのだと。

その次の日は16人、その次の日が32人、次は、次は、さらに次は。

死者は日に日に倍に増えていき、そして――町に存在する全ての命が途絶えるまで、殺戮は続く。

な話だ。

そんな得の知れない誰かに殺されるぐらいなら、僕が殺したかったのに。

ああ、なんてもったいない。

『お兄さんは、いつわたしにれてくれるの?』

ベッドで眠る僕の耳元で、誰かがそう呟いたような気がした。

    人が読んでいる<人喰い転移者の異世界復讐譚 ~無能はスキル『捕食』で成り上がる~>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください