《人喰い転移者の異世界復讐譚 ~無能はスキル『捕食』でり上がる~》52 トンネルの向こうには町があって、あなたが待っている

モンスの町には、もはやソレイユしか殘っていない。

故郷を、そして恩師を失った彼には、く気力すら殘っていなかった。

3機の死にたてほやほやのアニマ、そして昨日死んだ1機のアニマを捕食し終え、僕らはソレイユを放置してモンスを出る。

向かうは帝國、フランの案に従い南西へと進む。

「がばーっ! ってなって、がぶーっ! って食べて、あれどんなじなの? おいしいの?」

捕食を見てからというものの、フランは終始こんな様子だ。

よっぽどウルティオを気にってくれたらしい。

味しいと言えば味しいけど、やっぱり生きてる方が味はいいかな。あと昨日死んだ分はやっぱり味しくなかった」

「味するんだ、あれ……」

「へえぇ、死の味ってわたしも興味あるな。そういえば、お姉さんがわたしの気配をじたってやっぱりあれのおかげなのかな」

捕食した後に的な変化をじたことは無い。

けど、あれだけアニマを食べておいて何も変わらないというわけがなく。

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フランの言う通り、僕が彼の気配を察知することが出來たのは、ここまで何ものアニマを捕食してきたからなんだろう。

僕のが死を纏いつつある。

わかる人間にはそれがわかってしまう、か。

「フランサスさん、この道は左で良かったんですか?」

「うん、左に曲がってそのまままーっすぐ進んだら、じきに通路に到著しまーす!」

通路、と言うことは窟のような何かなのでしょうか」

「そのとーり。バシャンテって言う、元々前線基地だった場所につながってるの。帝國がどんどん押して行って、今は前線基地じゃ無くなっちゃったけど。でも、今でもいくつか部隊は殘ってるはずだよ」

「抜けた先がいきなり基地なんだ」

フランの紹介もあれば、案外簡単に軍にはり込めるかもな。

問題は、そっからどうやってのし上がっていくか。

だけど、フランでも四將なんて地位になれるってことは、帝國軍っていうのは、僕が想像している以上に実力主義が徹底された場所なんだろう。

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つまり、よそ者の僕でもその気になれば――

「うーん、ついに帝國かあ。長いようで短いような旅だったなぁ。岬は張……して無さそうだね」

「百合は張してるんだ?」

「當然じゃない、1人だったらもっとビビってたかも。岬が居たら大のところは平気だけどさ」

百合はそう言って、僕の腕を抱きしめた。

平気と言いつつ、やっぱり怖いものは怖いんだろう。

僕もこの高揚張を圧倒していなければ、同じような心境だったはずだから理解は出來る。

馬車が目的地に到著するまで、そこから2時間ほど要した。

進めば進むほど生い茂る木々を見て不安になっていた所に、フランが「ここだよ!」という聲が響く。

ここって……森のど真ん中なんだけど。

「へへーん、どこにあるかわかんないでしょ」

なぜかフランは得意げだった。

けど確かに、ここに帝國に繋がる通路があると言われても、全くそれらしき施設は見當たらない。

不安げに周囲を見回す僕らをよそに、フランは1人でとある木に近寄ると、幹に手をれ、小さな聲で何かをつぶやいた。

すると、途端に木が淡いを放ち、地面が揺れ始める。

「こんな施設、よくレグナトリクス王國に作れたな……」

地面に開いたり口を見て、ラビーが呟く。

その先には、馬車も通れるような広さの緩やかな下り坂が続いていた。

今までもさんざん見てきたけど、まさか王國の防備がここまでザルだとは。

さすがに軍隊を送り込むには狹いけど、アニマ使いぐらいだったらいくらでも送り込める。

そりゃキシニアも王都まで攻め込んでくるわけだよ。

「じゃ、行こっか」

フランは軽く跳ねながら馬車の荷臺に戻ると、僕の隣に座った。

「明かりは勝手に付くから心配しなくていいよっ」

馬車が進みだすと、通路に次々と明かりが燈る。

下り坂を一番下まで降り、前方を臨むと、ひたすらに長い通路が奧へと続いていた。

気が遠くなるような長さだ、一朝一夕で出來るものじゃない。

それに、この石壁……あまり新しいものではないみたいだ。

「もしかしてこの道、昔からあったものなの?」

「んー、わかんない。けど、戦爭前からあったのは間違いないみたいだよ」

「戦爭前から……つまり帝國は、いずれ王國と戦うつもりでいたのということでしょうか」

「確か、戦爭のきっかけって鉱山の利権絡みだったっけ。帝國にとっては絶好の機會だったんだろうね」

百合の言う通り、渉に応じるふりをして、最初からミスリルを分け合うつもりなんて無かったんだろう。

王國はまんまとそれに引っかかり、戦爭を始めてしまった。

そしてこのザマと。

それから10分ほど馬車は進んだが、まだ先には通路が続いている。

ふいに後ろを振り向くと、そちらにも前方とほぼ同じ景が広がっていた。

まるで終わりのない通路に閉じ込められたようで、ほんのし恐怖を覚える。

「馬車だと3時間ぐらいかかるから、そんなにそわそわしてたって仕方ないよ。ゆっくりわたしとお話しようよ、ミサキ」

「3時間もあるんですか、景も代わり映えしないので気が滅りそうですね」

馬をるラビーは、嫌でも延々と続く変わらない風景を見続けなければならない。

神的にも疲弊してしまうだろう、通路を出たらすぐにでも休憩したいところだ。

「そういえばさ、フランは四將ってやつなんだよね」

「うん、そうだよ!」

「その名前、あんまり王國じゃ聞かないんだけど、的にどういう人たちなの?」

「単純だよ、帝國で皇帝の次に強いアニマ使い4人をそう呼ぶの」

「つまり、皇帝が一番強いのですか」

「うん、リアトリスのアニマ……インペラートルって言うんだけど、とにかくすっごいよ? びっくりするぐらいでっかくて強いんだから! わたしたちでも全然歯が立たないの」

たちってことは、キシニアとかも含まれてるんだろうな。

あれだけの強さがありながら歯が立たないって、どんだけ化なんだか。

それに、それだけの強さのアニマがあるなら、とっとと出撃して王國軍にぶつければいいじゃないか。

今のところ、四將まともに戦える王國のアニマ使いはアイヴィぐらいしか見ていない。

他の騎士を見ていないので、ひょっとすると強いアニマ使いもいるのかもしれないけど、団長ってことはアイヴィが一番強いんだろうし。

あとは、長すれば桂もなんとか、ってところか。

その程度の戦力、皇帝が出撃したらあっさりと打ち破ってしまうんじゃなかろうか。

「だったら、なんで皇帝は出撃しないの?」

「つまんないから、って言ってたよ。戦爭は戦力が拮抗してこそ楽しめるものだ、圧倒的な戦いの中では人の心の長も、技の高まりも期待できない、って」

そういうタイプの人間か。

確かに、実力主義の帝國らしいっちゃらしいんだろうけど。

「でも、さすがに帝都に攻撃されたら戦うんじゃないかな。リアトリスは帝國民のこと、ちゃんと考えてる人だから」

その點では、王國のよりはマシなのかな。

もっとも、帝都に攻め込まれてる時點で帝國の負けは濃厚な狀況だし、現狀ではあり得ないシチュエーションだろう。

「皇帝のことはよくわかったけど、フラン以外の四將はどんなじなの? キシニアとは一度アニマ同士でやりあったことはあるけど、顔は合わせたこと無いんだよね」

「キシニアは優しいよ! わたしのお姉さんってじ、嫌いなところは……お酒をよく飲むところ、かな」

なるほど、豪快なってことだけはわかった。

まあ、斧ぶん回してる時點で、大人しいの子なはずがないし。

「クリプトは……説明したからまあいっか」

「あと1人は、名前も聞いたことないんだよね」

「四將になったのは割と最近だから。いきなり現れて、いきなり元の四將を蹴落としちゃったの。せっかく男2人2人でバランス良かったのに、男1人3人になっちゃったんだ。実は、わたしもあんまりお話したことは無いんだけど……」

ただでさえ四將の存在すら王國には伝わってなかったんだ、新顔を知ってるはずがない、か。

「で、その人の名前は?」

問いかけると、フランはすぐさま答えた。

「ミコト」

――どくん。

聞き覚えのある名前に、僕の心臓が跳ねた。

いや、偶然だろう。

異世界にもそういう名前があったっておかしくはない。

しかし次の言葉が、そんな逃げ道すら完全に塞いでしまう。

「フルネームは、ミコト・シロツメっていうの。あれ? そう言えばミサキもミサキ・シロツメなんだっけ。名前も似てるし偶然だね。んー……なんだか顔も似てる気が……」

ミコト・シロツメ。

になった僕と顔が似ている。

ここまで條件が合致してしまうと、否定する方が難しい。

ああ、たぶん――間違い、ないんだと思う。

どうしてあの人がこの世界に、しかも帝國に。

謎はあまりに多く、納得できないことも多いけれど、まずは現実をれる必要がある。

「お姉ちゃん……」

あの人が、この世界に居る。

僕の味方をしてくれた、僕の唯一の家族が。

誰よりも優しく、誰よりも我慢強く、だからこそ彼に見捨てられた時の痛みは今でも忘れられず――

そんなお姉ちゃんが、居るんだ。會えるんだ。

けど、再會できたとしても、あの優しい笑顔で、また僕を迎えてくれるのか……?

「あ……そういや、岬のお姉さんって命みことだっけ」

「うわ、すっごい偶然。そっか、やっぱり似てるのって気のせいじゃなかったんだ! うんうん、言われてみれば雰囲気も似てるしそうだよ、ミサキのお姉さんだったんだ!」

「なんでミサキさんのお姉さんがこの世界に召喚されてるんですか?」

「わからない。召喚されたのは同じクラスの人間だけだったはずなのに」

しかも王國ではなく帝國に。

もしかして、全く同時期に、同じ魔法を帝國も発していたとか?

いや、だとしたらどうしてお姉ちゃん1人だけだったのかわからないし……。

いは消えない。

それでも馬車は進んでいく。

僕以外の面子は姉の話題で盛り上がり、僕もほどほどに會話に參加していたのだけれど、心ここにあらずの狀態だった。

嬉しいのは間違いないんだ。

けど、それ以上に、怖くて。

この通路を抜けて帝國に行けば、お姉ちゃんに會える。

今さら引き返すわけにも行かない。

通路の終わりが近づくほどに、増していく、こわばる

それらはみんなにも伝わってしまったらしく、気づけば百合とエルレアが心配そうにこちらを見ていた。

「不安な気持ちは察します。どうしても怖かったら私たちを頼ってください」

「エルレアの言う通りだよ。1人じゃないんだから、支えになるだけじゃなくて、たまには私たちに支えられてよね」

その言葉に、僕は強い勇気をもらう。

そうだ、もしお姉ちゃんが僕をれなかったとしても、まだ百合とエルレアが居る。

ラビー、フラン、プラナスだって、僕の味方をしてくれる。

そう考えると、急にから力が抜けていった。

その後は、穏やかな気持ちを取り戻し、リラックスした狀態で時間を過ごすことが出來た。

じき、通路の終わりが見えてくる。

王國側のり口よりは標高が低いのか、出口に上り坂は無かった。

通路の終わりに設置してあった門を抜けると――

「ようこそインヘリア帝國へ、そしてバシャンテへ!」

両手を広げて、笑顔でそう言った。

バシャンテなる町を見た僕の第一印象は……何も無い、だった。

「あれ?」

フランが周囲を見渡し、首をかしげる。

瓦礫らしき何かは殘っているものの、ほぼ更地だ。

そこに町があったとは思えない。

「うそ……バシャンテが、無い?」

その時だった。

傍らに置いていた袋の中からプラナスの聲が聞こえてきたのだ。

『ミサキさんっ、聞こえますか? 聞こえてたら返事をしてください!』

必死な彼の聲に嫌な予がした僕は、すぐさま袋に手を突っ込みオラクルストーンを握りしめる。

「どうしたのプラナス」

『良かった……まだ戦していないんですね?』

戦?」

『ヘイロスです! カツラのヘイロスが、オリハルコンを全に纏って數時間前に出撃してたんですよ! テストもほどほどに帝國に直接攻撃を仕掛ける、”オリハルコンは素晴らしい質だから出來るはずだ”って王も馬鹿みたいなこと言い出して!』

「じゃあ、これは……」

數時間前に王都を発ったヘイロスが、わずかな時間で町を1つ消し飛ばしたのか。

さほど強くはないサブティリタスですら、背部ブースターのオリハルコンが暴走しただけであの強さだったんだ。

ヘイロスが、しかも全にオリハルコンを纏ったら――

『ミサキさん、今どこにいるんですか?』

「帝國についたところ。で、ちょうど町が1つ無くなってるのを確認した」

『っ……ひとまず見つからない場所にを隠してください。あれは化です、いくらミサキさんでも勝てるわけがありません!』

「わかって――」

理解と、実行可能かどうかは別問題である。

「見つけた、白詰えぇぇぇぇぇええええっ!」

「桂……!?」

見上げた先には、合いが変わり、一回り大きくなったヘイロスの姿。

腕部の大型ソーサリーガン、ガラティーンを構え、すでに発する直前だった。

――周囲がに包まれる。

もはや、逃げ場などどこにも無かった。

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