《人喰い転移者の異世界復讐譚 ~無能はスキル『捕食』でり上がる~》56 聖典は語る

水木と別れたプラナスは、まっすぐアイヴィの部屋に向かった。

そこで彼が見たものは、壊れて床に捨てられたドアノブ。

プラナスは落ちたそれを拾い上げ、首を傾げながら、元々あったであろう場所を見つめた。

そこにあったのは、明らかに力づくで破壊された形跡である。

「レイナさん、ですかね」

アイヴィの部屋にまで押しかける人間となると、彼ぐらいしかいない。

そしてレイナに迫られたあとのアイヴィは、決まってプラナスに甘えてくる。

不謹慎だと言うことは理解している。

だが、この後待っているであろう甘い時間に、プラナスは期待せずにはいられなかった。

だがにやけている顔を見られては行けない。

プラナスは一旦深呼吸をして気持ちを落ち著けると、コンコン、とドアをノックした。

「ひっ」

中から小さな聲が聞こえてくる。

ドアノブを破壊するほどの腕力を見せられたんだ、さぞかし恐ろしかったことだろう。

「アイヴィ、私ですよ」

「……プラナス?」

「はい、間違いなく本の、そして正気のプラナスです」

部屋の中からドタバタと慌ただしい足音が聞こえたかと思うと、アイヴィは慌てた様子で鍵を開き、ドアを開いた。

そしてプラナスの顔を見た瞬間――目に涙を浮かべながら彼に飛び込んだ。

どうにかアイヴィのを抱きとめるプラナス。

高鳴る心臓の音を聞かれないか不安になりながらも、彼はアイヴィの背中をさすり、落ち著くまで子供にそうするようにあやすのだった。

しばし時間が経過し、ようやく復活したアイヴィとともに部屋にる。

プラナスは真っ直ぐにベッドに向かい、腰掛けると――

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「その、済まなかったな。先日といい今日といい取りしてしまって。もう大丈夫だ、今度からは……」

顔を赤らめながら言い訳するアイヴィの目をしっかりと見て、無言で膝をぽんぽんと叩いた。

「なんだ、それは」

「何年付き合ってると思ってるんですか、まだ完全に立ち直れていないのはお見通しですよ」

「いや、だからといって……」

いわゆる膝枕というやつだということは、アイヴィも理解していた。

理解しているからこそ困っているのである。

確かにプラナスの言う通り、アイヴィはまだレイナから與えられた恐怖から完全に立ち直ったわけではない。

正直に言えば、まだプラナスに甘えたい気持ちも殘っている。

だが――騎士団長としてのプライドが、これ以上の甘えを許さないのだ。

「ん!」

プラナスはちょっと怒り気味に、強めに膝を叩いた。

アイヴィは自分に言い訳をする。

これは私がんだことではなく、プラナスに無理やりさせられたことなのだ、と。

そしてアイヴィはベッドに橫たわると、プラナスのらかな太ももに頭を載せた。

見上げた先には、ご機嫌なプラナスの笑顔があった。

こんなふざけた勢ではあるが、話すことは話しておかなければならない。

「レイナのアニマ使い化が進んでいる」

「ドアノブを破壊するぐらいですからね、そんな気はしてました」

「やはり、オリハルコンの影響なのか?」

「そうでしょうねえ、それ以外に原因が見當たりませんし」

アニマ使いになれるのは、基本的に魔力の高い人間だけだ。

アイヴィという例外はあるものの、魔力を増幅させるオリハルコン、それをに摂取した人間がアニマ使いになるのはそう不思議なことではない。

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「ラボでオリハルコンの解析をしていますが、進めれば進めるほどに奇怪な事実ばかりが浮かび上がってきます」

「例えば?」

「どうやらオリハルコンには意志があるようだ、ということとか」

「意志……だと?」

ただの鉱にしか見えないオリハルコンに、一どんな意志があるというのか。

あまり勉強は得意な方では無い――あくまでプラナスに比べて、だが――と自負するアイヴィは、この先に続く話を理解できる自信が無かった。

「まず前提として、オリハルコンは魔力を高めるために存在しているということです。そのために、人の神に干渉しているのでしょう」

が昂ぶればアニマの出力も一時的だが上がると言われているな」

「ええ、ゆえに汚染した人間は常に気分が高揚し、そしてオリハルコンに対しての嫌悪を一切取り除かれる。そういう機能が仕組まれているのです」

もちろんオリハルコン自にも、魔力を増幅させる作用はある。

それをさらに効率的にかすための、補助的な効能だった。

「まるで誰かが意図的に作り出したかのような言い方だな」

「ずばりその通りですよ、おそらくあれは人工です。結晶に見えるも、目に見えないほど微小な人工の集合なんです」

「馬鹿な、そんなを現代の技で作れるわけがない!」

アニマを模倣してアニムスを作るので一杯のこの世界で、眼に見えないほど微小な人工を作れるはずがない。

しかも、魔力を増幅させ、人間の意識を侵す機能まで持っているのだ。

「それが古代文明というやつなのでしょう、ね」

言いながら、プラナスは懐から一枚のカードを取り出した。

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「それは?」

「聖典ですよ」

「なっ……どうしてそれをプラナスが!?」

驚きのあまり起き上がろうとするアイヴィを、プラナスが片手で制する。

するとアイヴィは、あっさりと元の勢に戻ってしまった。

「拾ったんです。誰かが盜んだのをうっかり落としてしまったんでしょうね」

水木と手を組んでいることはまだアイヴィには明かしていない。

後付けの理由としては最低だとは思いつつも、アイヴィが自分の言葉を疑うはずがない、という確信がプラナスにはあった。

もちろん、噓をついたという罪悪はあったが。

「城も教會も大慌てで捜索していたと言うのに、まさかプラナスが持っていたとは……」

「あ、やっぱり大騒ぎだったんですね」

「當然だ!」

アイヴィが聲を荒げる。

様子からして、彼も聖典探しを手伝わされたのかもしれない。

「その割には王都は靜かです」

「聖典が失われたことはまだ表沙汰になっていない、グラティア教徒に混を與えてしまうからな。だからに捜査すると言うことになったのだ」

「アイヴィは返せって言うつもりかもしれませんが、私にそのつもりはありませんから」

「そんなことを言うつもりは無い」

「グラティア教……と言うか、國の所有なのに?」

プラナスは首をかしげる。

アイヴィの國心は、プラナスもため息をつきたくなるほど強い。

時に親友であるプラナスよりも國の方を優先するほどだ。

「この國は終わっている」

言いながら、アイヴィはプラナスの髪に手をばす。

「もし聖典に人々を汚染から救う方法が載っていたのなら話は別だが、なくとも今の私にやるべきことは1つしかない」

「……それは?」

 アイヴィの顔を見下ろしながら問いかけるプラナスに、アイヴィはらかな笑顔を浮かべ答えた。

「お前を守ることだよ、プラナス。守るべき國が無いのなら、一番大事な個人を守るしか無い」

しっかりと目を合わせて言われたその言葉は、プラナスののど真ん中にクリティカルヒットした。

みるみるうちに首が、顔が、耳まで熱くなっていく。

ただでさえ落ちていたを、さらに奈落の底にまで引きずり落とすような口説き文句に、プラナスは思わずベッドに背中から倒れ込んだ。

「お、おいプラナス、どうしたんだ!?」

思わず起き上がるアイヴィ。

「どうしたんだじゃないですよー! もー!」

プラナスは両手で顔を隠しながら、ベッドの上でごろごろと転がった。

文字通り殺し文句だ。

真面目な話をしているはずだったのに、心臓がバクバク言っていてそれどころではない。

今のプラナスは、アイヴィの顔をまともに見れないような狀態だった。

それでも無駄に誠実なアイヴィはプラナスを心配し、彼の顔を覗き込む。

「大丈夫か?」

「知ってましたけど、無自覚なんですね本當に」

「何の話だ?」

「うぅ……こっちの話です!」

プラナスは勢いをつけて上半を起こすと、ぺちぺちと頬を2回ほど叩いた。

いつまでも悶ている場合じゃない、オリハルコン対策會議を進めなければ、これは命に関わることなのだから。

もういっそ告白してしまおうかと、勢いに任せてそんなことを考えもしたけれど、それは全てが終わってからでも遅くはない。

プラナスはやけくそ気味に、聖典の表面をタッチして目次を表示させた。

「聖典ってそんな仕組みだったんだな、本だと聞いていたのだが」

「盜まれないようにフェイクの報を流していたんでしょうね」

それでも水木を欺くことはできなかったのだが。

いや、むしろ彼の場合は、”教會が大事そうに収納している”だから盜んだだけで、盜み出し、騒ぎになるまでそれが聖典と呼ばれていることを知らなかったのかもしれないが。

プラナスは表示された目次ページの一番下にれる。

すると、また別の文字の羅列が空中に表示された。

「うっふぁあ……呪一覧、すごいですね。現代の魔法じゃ考えられないような代ばかりです、思わず変な聲が出ちゃいました」

「確か古代語、だったか。プラナスは辭書も無しに読めるのか?」

「學生の頃は専門でしたし、王國魔法師になってからも研究していましたからね」

「やはりプラナスは頭がいいな、天才だ」

比喩でも何でもなく、プラナスは間違いなく天才だった。

いくら努力しようが、本も無しに古代語を翻訳できる人間など他に居ない。

いくら解読しようが、クラス全員を呼び寄せるほどの召喚魔法を発出來る人間は他に居ない。

プラナスが天才である、という事実を否定するのは彼以外には存在しなかった。

「そういう言い方しないでくださいよぅ、今の私があるのは全部アイヴィのおかげなんですから」

「過大評価だな」

「アイヴィが守ってくれなかったら、私とっくに人生諦めてました。むしろ過小評価だって言ってもいいぐらいです」

アイヴィは「大げさだな」と言って優しく微笑んだ。

守ったと言っても、相手はいじめっ子の男子だったり、町で聲をかけてくる不躾な男だったりと、そう大した相手ではない。

それでもプラナスは、アイヴィのことを命の恩人以上だ、と言って聞かない。

これ以上話しても埒が明かない、プラナスは再び呪のページに目を通す。

「時間や人の命をったり、地形や天気を変えたり。下手なアニマよりも強力な魔法ばかりです」

じられて然るべきだな」

「とは言え、現代の一般魔法師の技では再現することも難しいでしょうし、必要な魔力量も1人2人ではどうにもなりません。それこそ、オリハルコンにでも頼らない限りは」

「だが、召喚魔法はどうにかなったのだろう?」

によりけりですね、召喚魔法は魔力量と言うより、その複雑さが問題でしたから。おかげで再現にかなり時間がかかってしまいました」

プラナスの好奇心はもっと呪のページを見たがっていたが、今はそれより重要なことがある。

オリハルコンについてだ。

は自分のをぐっと抑え込み、呪のページを閉じ、オリハルコンの記述を探した。

「検索機能……充実してますね、こんなものまで付いているなんて」

目次ページの右下にれると、聖典の中を検索することができた。

果たして”オリハルコン”という名稱が古代文明のときにも使われていたのか、という疑問はあったものの、近しい言葉を力していプラナス。

すると3回目で、ようやくそれらしき記述を見つけることができた。

「ありました、オリハルコンの記述。早速読んでみますね」

「ああ、頼む」

古代文字を読めないアイヴィは、プラナスに頼るしか無い。

若干のけなさをじつつも、一言も聞きらさないように集中して彼の聲に耳を傾けた。

「オリハルコンとは、グラティアの出力を向上させるための補助裝置である」

「……グラティア?」

聞き慣れた神の名前。

しかし出力を向上、という文言からしてアイヴィが知っているグラティアとは別であることは明らかだった。

「まずグラティアの説明を読んでみますね。グラティアとは、古代において人々の生活を向上させるために散布された、自己増機能を持った微小機械裝置ナノマシンである。脳演算により様々な現象を引き起こすことができ、人々はそれらの演算を俗に”魔法”と呼んだ」

「つまり、グラティアとは魔力のことなのか」

「そのようですね。グラティアという名前は、それを作り出した研究者のから取ったという記述もあります」

教會に飾られているグラティア像。

それはひょっとすると、そのグラティアという名のを模したなのかもしれない。

「それに、聖典の中で古代と言われているという事は――」

「古代よりもさらに昔、というわけか」

「さしずめ超古代とでも呼ぶべきでしょうか」

そんな時代に、今よりももっと高い技を持った文明が存在していたことは驚きではあるが。

しかしアニマの起源が明らかになっていない現代、今よりも遙かに優れた文明が過去に存在しなければ、辻褄が合わないのも確かだ。

しかし聖典の中には、古代の記述と超古代の記述が混ざり合っている。

昔からしずつ積み上げられてきた技を、しずつ付け足しながら膨大な量の報を聖典の中に収めてきたのだろう。

「自己増機能を持ったナノマシン……急に魔法という存在が実を持ったようにじるな」

「魔法と言うより科學ですね。記述によると、アニマの誕生はさらに後のようです。グラティアが飽和するほど増しきった時、グラティアは人の神を現化し、形作った。これをアニマと呼ぶ、と」

「グラティアを作ったのは最初からそれが狙いだったのか?」

「いいえ、予想外の出來事だったようです。アニマが生まれたことで演算の必要がなくなり、魔法の技が廃れていくのを恐れているような記述もありますから」

「便利になりすぎるのも考えものというわけだな」

事実、現代において魔法師はほとんど存在していない。

強い魔力を持つ人間はアニマ使いになり、魔法の技など必要なくなってしまうからだ。

グラティアの説明を見た所で、再びオリハルコンのページへと戻る。

「オリハルコンもまた、グラティアと同様に自己増機能を持つ。しかしその増はグラティアと異なり絶え間なく行われるわけではない。オリハルコン自が學び、自己判斷し、増を行う」

「學習に自己判斷か、まるで生きているようだな」

機械裝置と言っても、を考え繁するというのなら生となんら変わりはない。

むしろ人工生命とでも呼ぶべきだ。

「學習機能によって、より効率的に魔力を向上させる形に姿を変える。時にに作用し、時に神に作用し、そして時にアニマに作用する」

「その結果が、”オリハルコンは素晴らしい質です”か」

「長らく封印されていたと言うことは、古代人も途中であれの危険に気づいたんでしょうね」

その証拠に、オリハルコンを解説するページには、『あれは失敗作だった』と明確に記述されていた。

そしてその後には、オリハルコンがいかに危険な質か、的な例をあげて説明してある。

「オリハルコンを用いた武に著けた者は、神が高揚した狀態となる、グラティアの活を活化させるためだ。だが、使い手の神高揚が一定ラインを超え、を制できなくなると、オリハルコンはを魔力増幅を妨げる存在だと判斷し、排除しようとする」

「……また騒な記述が出てきたな」

「この時、使用しているオリハルコンの量が微量ならばそこで変異は止まる。しかし、一定以上の量を使用すると、がオリハルコンと同化し、やがて完全に全がオリハルコンに飲み込まれる」

プラナスはその記述に釘付けになった。

どこかで聞き覚えのある現象だったからだ。

「全がオリハルコンの結晶と化した狀態を”繭”と呼ぶ。繭は平均して4時間後に”羽化”し、”結晶化生”となる」

「いよいよ人ですら無くなるのか」

「灑落になってないですね」

アイヴィの顔が青ざめる。

レイナのことを思い出しているのかもしれない。

聖典の記述が正しければ、末を摂取した程度では結晶化生になることは無いのだろうが、それでも人間離れしているのは事実だ。

「結晶化生は元となった素が持っていた目的を達するために、機械的に行を開始する。また、敵と判斷した相手には容赦なく攻撃を行う。結晶化生は皮、筋臓までもがオリハルコンと化し、グラティアの増幅率は単純にオリハルコン製の武に著けた時の數倍にも達する」

実際にサブティリタスがオリハルコンに飲まれた姿をプラナスは見ていなかったが、岬から話は聞いている。

凡百な能のアニマですら、化じみた存在へと姿を変える。

それがさらに結晶化生となり、數倍の力を手にれれば――もはや個人で対処できる存在では無くなるだろう。

「結晶化生は手に追える存在ではなく、我々は最終的に文明維持が困難なほどの被害をけることとなった。もはや古代兵の封印解除などと言っている場合ではなくなった。二度と同じ過ちが繰り返されないよう、魔法によりオリハルコンを北の地に封印する。また、わずかに生き殘った人類にも、にゾウブを利用した薬を投與することによってグラティアを蓄積できないよう処置を施す。この効力は代を経ても失われることは無い。どうか人類が、二度と同じ過ちを繰り返さないよう我々は願っている」

ページの記述を全て読み終えたプラナスは、小さくため息をついた。

呆れていたのだ。

魔法は封じられ、そして魔法によって封印されたオリハルコンも二度と世に放たれることは無いはずだった。

しかし人々はこの記述を見てもなお、同じ過ちを繰り返す。

愚かだ。

そんな人間が國防大臣や大司祭をやっているのだから、ため息も出るというものだ。

「魔力は、封印されたのか? しかしその割には、現代にもアニマ使いは存在するぞ?」

「ゾウブを利用した処置とやらは、結局しずつその効力を失っていったのでしょう。……ああ、そっか。王や大司祭はこの記述を知っていたから、切り札としてシロツメさんたちを切り札として召喚しようとしたんですね」

「どういうことだ?」

「アニマを一部の人間しか使うことができないのは、古代人が施した処置がまだ完全には効果を失っていないからです。個人差があったのでしょう。しかし、異世界の人間には最初から処置など施されていない」

「なるほど、だからグラティアの恩恵をフルにけることができ、全員がアニマ使いになれたのか!」

アイヴィが手を叩きながら言った。

しかし一方で、プラナスは何やら不安そうに考え込んでいる。

さらに「うーん」と唸りだすと、おもむろに立ち上がり、ベッドを降りる。

「どうしたんだプラナス」

「ごめんなさい、急用を思い出しました」

「そうか……もう、行ってしまうんだな」

アイヴィの寂しげな聲に、部屋を出ようとしていたプラナスは思わず振り返る。

寂しがっている。

あのアイヴィが、甘える子犬のように、もっと一緒に居たいと暗に主張している。

プラナスの心は揺らいでいた。

しかし、岬に伝えなければならないこともある、命に関わることだ。

をぐっと押し殺し、再び部屋を出ようと出口を目指す。

そして扉の前までやってくると、再びくるっとアイヴィの方に向き直り言った。

「用事が終わったら、枕を持って戻ってきてもいいですか?」

その言葉を聞いて、アイヴィの表がぱあっと明るくなる。

「もちろんだ、待っているぞ!」

笑顔でそう言うアイヴィを見て、もはやプラナスの心臓は破裂寸前だった。

変なことを口走る前に部屋を出て、駆け足で宿舎を後にする。

「今日のアイヴィ、ちょっと可すぎるんですけど……」

などと言いながら、顔を真っ赤にして。

そして同時に、”まさかカツラが繭になっていることなんて無いだろう”と半ば油斷しつつ。

この時すでに、岬と桂が戦闘を終えて2時間が経過していた。

――”羽化”まで、殘り2時間。

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