《人喰い転移者の異世界復讐譚 ~無能はスキル『捕食』でり上がる~》57 羽化
アニムスの背中と接続された車付きビークルに乗って、インヘリア帝國の見知らぬ景を進んでいく。
外はすっかり暗くなったけど、アニムスに付けられたライトが周囲を照らすおで問題なく移を続けることができた。
帝都に到著するのは明後日になるらしい。
今日はこの先にある町で宿泊すると聞いている。
ビークル部の揺れは馬車ほどでは無いものの、ガタガタという音は、人の聲程度はかき消してしまえる程度にうるさかった。
おかげで、袋の中から時折聞こえるプラナスの聲はクリプトには聞こえていない。
まだ協力者の存在は伏せておきたい。
とは言え、桂を退けたことやソレイユの存在をプラナスに伝えておきたいし、早く次の町に到著して彼と會話をしたい所だ。
「それにしてもオリハルコン、か。帝國の勝利を確信していたが、まだ王國にかのような虎の子が眠っていたとはな」
腕を組みながら、クリプトが眉間に皺を寄せながら言った。
「オリハルコンを裝著したアニマは今後も増えると思いますよ」
「戦況は混するな……早いうちに生きたサンプルが手にったのは幸いだった、急いで解析せねばな。しかし、はぁ……あの戦爭狂の皇帝が大喜びする姿が目に浮かぶようだ」
部下にここまで言われるなんて、皇帝はよっぽど困った人みたいだ。
頭の中に、破天荒で豪快なおじさん、という勝手な皇帝のイメージを思い浮かべる。
上司も同僚も部下も頭がぶっ飛んだ人ばっかり、比較的常識人なクリプトには辛い環境だろうな。
「ん……」
ふと、僕の隣で寢ていた百合が目を覚ました。
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さっきの話し聲のせいかな、だとしたら申し訳ないことした。
「外、暗くなってる……」
「あとちょっとで到著するってさ」
「そか……ああ、なんか、電車に乗ってるような気分」
乗り心地の良し悪しの差はあるものの、確かに覚は似ている。
閉鎖空間に、上から降りてくる魔法を利用した冷房の風、匂いも心なしか電車の中に近い気もする。
「んー、電車かぁ」
百合が珍しく憂げな表をしている。
彼はし考えこんでから、上目遣いにこちらを見ながら言った。
「岬はさ……帰りたいとか、思ったこと無いの?」
「元の世界に?」
「うん」
「無いよ」
即答する。
考える必要もない質問だったから。
「強いて言うならお姉ちゃんの存在が未練だったけど、こっちに居るってわかったしね。百合は?」
「今は、もう無いかな。お父さんやお母さんは私を探してるだろうし、全く寂しくないって言ったら噓になるよ。でも、今はもっと大事なものがあるから」
そう言って、百合は寢ぼけ眼のままふにゃりと笑った。
僕は彼の肩を抱いて引き寄せ、彼の頭をでる。
「んふ、これだけで他のことどうでもよくなっちゃうんだもん」
満足してくれているのなら何より。
僕に関しては、本心から両親のことなんてどうでもいいとは思ってる。
でもやっぱり、普通は多のホームシックにはかかるもんなんだよね。
元の世界、か。
召喚魔法と逆のことをやればいいだけなんだから、プラナスがその気になれば送還魔法とかも作れそうな気がするけど。
あえて彼の手を煩わせるほどのことでもないかな。
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仮に帰りたがってる人間が居たとしても、どうせ百合以外は全員死ぬんだから。
さらに30分ほど経つと、窓から見える景が変わり始める。
人の手のった建がちらほらと現れ、町が近づいてきていることを実した。
「エクロジーなんて田舎町に來るのは久しぶりっすね」
クリプトの隣座っていた従卒、レニーが言った。
立ち寄る町はエクロジーというらしい。
「周りは森だらけ、さらに離れても山だらけ。よくこんな場所に住めるっすよね、俺に無理っすよ」
「お前はさえ居ればどこでも良いんだろう?」
「どこでもってわけでもないっすよ? 今日だって楽しい旅路になると思ってたら、あの有様なんすもん」
レニーが顎で指したのは、もちろん僕たちの方だった。
隠すつもりもないけど、ひと目で関係がわかってしまったんだろう。
「1人ぐらい余ってていいと思うんすけどね」
「余っていても、お前のような下心丸出しの男には誰も近づくまい。さあ、阿呆な話はここまでにしてそろそろ降りる準備だ」
「ういっす、親方」
「だから親方と呼ぶなと……」
クリプトは呆れ気味に言ってるけど、意外と2人は仲が良さそうだ。
真逆の格だからこそ、中和しあってちょうどいい塩梅になっているのかもしれない。
ビークルが停止すると、引っ張っていたアニムスから降りてきた男がドアを開く。
彼に案されるままに降車し、僕は久々の外の空気を吸い込み、をばした。
さすがに4時間弱も乗り慣れない車に座ってると、が疲れてしまう。
今すぐにでも宿に向かいたい所だったけど、そうも行かない。
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僕は宿の場所だけ聞くと、エルレアを百合に任せて1人でへ移した。
「プラナス、今なら話せるよ」
オラクルストーンにそう語りかけると、石の向こうから誰かが転げるような、ガシャンッという音が聞こえてきた。
まさか、僕の聲に驚いてすっ転んだとか?
オリハルコンの汚染で追い詰められてるとか言いながら、意外と余裕あるんじゃん。
『シロツメさんっ!? 良かった、無事だったんですね!』
プラナスの聲はいつもよりも大きい。
そのボリュームだけで、どれだけ僕を心配してくれていたかが伝わってくる。
アイヴィのためなら手段を選ばない、ってだけで基本的には善人なんだよね、プラナスって。
「ごめん、気づいてたけど人前だから返事できなかった」
『仕方ありません、私だって常に返事出來るわけではないですし。ですがその様子だと、カツラは無事撃退できたようですね』
「うん、かなり厄介だったけどどうにかね。で、その後に帝國軍のクリプトって男と合流して、帝都に向かってる所」
『クリプトって、四將のクリプト・ザフォニカですか!?』
お、プラナスには四將って言葉通じるんだ。
彼は帝國との繋がりもあるからかな。
「たぶんその四將で合ってると思う、あとフランサスとキニシア、2人の四將とも知り合いになれたよ」
『それはそれは、順調ですね。あと1人でコンプリートじゃないですか。可能なら今すぐにでも亡命したい所です』
「帝都にさえたどり著けば、どうにかなるかもしれない」
『はは、そう簡単な話では無いですよ。いくら知り合いになったとは言え』
「それがさ……四將の殘り1人なんだけど」
『ああ、そう言えば割と最近代したって話でしたっけ。それがどうかしたんですか?』
それは初耳だ。
けど召喚された時期を考えると、以前の四將は実力で蹴落とされたと考えるのが妥當だろう。
つまり……あの人は、それだけ強いってことで。
「僕の姉だった」
出來るだけ落ち著いた口調で伝える。
石の向こうのプラナスは、見事に黙り込んでしまった。
「どういう経緯でこちらに召喚されたのかはわからないけど、間違いないと思う」
『え……ええ? 待ってください、召喚魔法の技を持っているのはこちらだけですよ? いや、確かにスパイから報がれた可能はありますが、だとしても私以外に再現できる人間が――ん、まさか……』
「心當たりがあるの?」
『ノイラ・マルティフォラ。私には及ばないですが、帝國の天才魔法師と呼ばれる男が居ます。召喚の規模は、お姉さん1人だけですか?』
”私には及ばない”というフレーズから、プラナスの自信家ぷりが伺える。
喋り口調は割と丁寧なくせに、やってることは々と強引で大膽なんだよね。
「今のところ、他に召喚された人間が居るって話は聞いてないかな」
『1人だけですか。と言うことは、やはり彼の仕業でしょう。召喚魔法の準備をすすめる中で、この世界とシロツメさんたちの世界の間の通路パスを繋げる必要があります。おそらくそれに便乗して、お姉さんを帝國に召喚したんでしょうね』
「なんで姉だったんだろう」
『召喚された時に近くに居たんじゃないですか?』
教室の近くに、お姉ちゃんが?
一何のために近づいてきたんだろう、折鶴や磯干に見つかったら面倒なことになるってわかってただろうに。
……まあ、本人に聞けばわかることか。
『それで、ここからが本題なんですが』
「ああ、何回も呼びかけてたってことは急ぎの用があったんだよね」
『一応確認です、カツラを撃破したというのは、文字通り倒したと言う解釈でいいのでしょうか?』
妙な言い回しに、僕は頭の上に疑問符を浮かべた。
倒したと言えば、撃破した、という意味以外に無いと思うんだけど。
「それはどういう意味?」
『ミタライの時は彼自の暴走で全が結晶化して倒したんですよね、そしてその後に結晶を砕いた』
「気持ち悪かったからね」
『では今回は?』
「今回も同じだよ、広瀬の死を利用して桂の神に揺さぶりをかけた。結果、オリハルコンを制できなくなり結晶化しておしまい。本當は真っ向勝負で倒したいけど、あんな化勝てるわけないって」
『もちろん、その結晶は砕いたんですよね?』
「いや、まだそのままだよ。個人的には壊したかったんだけど、帝國の人は生きた狀態でサンプルを持ち帰りたかったらしいから」
『……それは、まずいですね』
プラナスの言い方はやけに深刻だった。
結晶化したヘイロス・ブラスを放置しておくことで、何か彼に不利益が生じるとでも言うのだろうか。
『シロツメさん、今すぐ結晶を破壊してください』
「どうしたの急に」
『あれはただの結晶ではありません、生まれ変わるための”繭”なんです! 結晶化後平均4時間で”羽化”してしまいます!』
「繭? 羽化?」
『放置していると以前のヘイロスよりもっと強い”何か”が生まれてくるってことです!』
「ヘイロスより強いって……」
オリハルコンを纏っただけで、地形を変えるほどの出力だったのに。
あれより、さらに?
――そんなの、勝てるわけがない。
「わかった、すぐに壊してくる!」
プラナスとの會話を中斷し、僕は駆け出した。
結晶化したヘイロス・ブラスは、布をかけられて町の外れに止められている。
「岬、どこいくの?」
走る僕を見かけた百合が聲をかけるが、返事をしている余裕はない。
心のなかで『ごめん』と呟くと、そのまま走り去る。
「ウルティオッ!」
町外れまで到著した僕は、アニマを発現させ最も出の早い武裝――頭部ハイソーサリーガンで、布もろとも結晶を破壊した。
ドドドドド――バリィィンッ!
々に砕け散る結晶。
それを見た時にじる微かな違和。
確かに、サブティリタスの時は、砕いてもしばらくはっていたような――
けど、今回は砕いてすぐにを失っていた。
いや、最初からっていなかったのか?
だとしたら……もう、すでに……!
「エクラールム!」
足元から聲が聞こえる。
視線を向けると、そこにはレニーが立っていた。
彼もアニマ使いだったのか、を纏ってアニマを発現させる。
目の前に姿を現したエクラールムは、レニー本人を想起させるやけに派手なヴィジュアルをしていた。
「何やってるんすかあんた、勝手に壊されちゃあ困るんすけど」
エクラールムに至近距離でソーサリーガンを向けられる。
せっかくのサンプルを壊したんだから當然と言えば當然か。
でも、今はそんなことしてる場合じゃないのに。
「危険だと判斷したので破壊しました」
「何がどう危険なんすか? ただの巨大な石じゃないっすか」
「石じゃない、繭だったんですよあれは。そして、ひょっとすると羽化した桂がすでに近くに居るかもしれない!」
「何のことやら、俺にもわかるように説明してくれないと――」
説明したかった、けどそんな時間は無かった。
なぜなら、エクラールムの肩に、いつの間にか何かが乗っていたからだ。
サイズは人間と同じぐらい、は緑にき通っていて、で脈する臓がけて見える。
姿形は、落ち著いて見てみると、桂に似ているような気がした。
そいつは右手を頭の高さにまであげると――エクラールムの頬に、掌底を叩き込んだ。
バゴオォンッ!!
まるで巨大な大砲でもぶつかったかのような、強烈な炸裂音。
それが聞こえたかと思うと、すでにエクラールムは宙を舞い、回転しながら猛スピードで遙か彼方まで吹き飛んでいた。
そしてエクラールムの肩に乗っていたはずのそいつ・・・は、何事も無かったのかのように同じ場所に浮いている。
僕には、何が起きたのか理解できなかった。
「アイ、ア、グニャ、ニ、チャル、チー、ウ」
続けて、そいつは僕に対して何かを語りかけてきた。
聲帯が別になったせいでうまく喋ることができないのか、はたまたオリハルコン特有の言語なのか。
ただ僕にわかることは、彼が僕を敵視していること、それだけだ。
殺意はじない、憎悪も。けれど敵意だけははっきりとじることができる。
「ン、イーヘ、リ、リ、リ、リ、クァ、ネル」
そいつは僕を指差して、何かをつぶやき続ける。
真っ先に、町ではなく僕に狙いを定めている。
つまり、彼には微かながら人間だったころの記憶が殘ってるんだろう。
広瀬を殺したのはこいつだ、という憎しみの記憶が。
しかし彼自が僕を憎んでいるわけではない。
そういう記憶があったから、僕は敵なのだと、そう判斷しているだけだと、そうじた。
「ラ、シ、ル、ラ、シ、ル、ラ、シ、ル」
何かを繰り返しながら、ゆっくりと近づいてくる桂だった何か。
……今はまだ挑発するべきじゃない。
僕は近接武裝からハイソーサリーサーベルをチョイス、構えて彼に相対した。
プラナス曰く、強さは羽化以前よりもさらに上。
僕1人に勝てる相手じゃない。
しかも、以前と同じように神をしたって結晶化はしないだろう。
なにせ、彼の自が緑に発しているんだから。
「はあぁっ!」
間合いにった桂に向けて、サーベルを振り下ろす。
自分のの何倍もの長さを誇るサーベルを、しかし彼は避けもしない。
バヂィッ!
弾ける音と共に、左手で容易くけ止める。
そのまま空いた右手の人差し指を立て、下から上に振り上げた。
嫌な予がした僕は、サーベルを離して、を倒しながら指の延長線上から退避する。
直後――
ズドドドドドッ!
僕の足元を起點として、背後に向かって一直線に森が分斷される。
指先から何かを放ったらしい。
「岬っ!」
「大丈夫ですか、ミサキ!」
「ミッサキー、助けに來たよ」
「レニー!」
ここでようやく援軍が現れた。
イリテュムにテネリタス、アーケディア、そしてクリプトのアニマ”イーラ”。
イーラは地面に倒れるエクラールムに駆け寄ると、その機を抱き上げた。
しかし、その首は無殘にもねじれてしまっている。
HPがなくなり、障壁の無い狀態で衝撃をけてしまった証拠だ。
つまり――こいつは、あの掌底一撃でHPを全て持っていったということになる。
文字通り化だ、しかもただの生でこの強さだなんて。
「貴様ァァァッ、レニーを、レニーをよくもぉッ!」
イーラは息絶えたエクラールムを地面に寢かせると、立ち上がり巨大な剣を抜いた。
クリプトの聲が怒りに震えている、に厚い男なんだろう。
そして向けられた敵意に気づいた桂は、イーラの方に視線を向けた。
「チエエエェェェェイッ!」
聲で自らを気合をれながら、桂に斬りかかるイーラ。
迫力、速度共に十分すぎるほどだったが、サイズ差がありすぎる。
桂は剣を容易く回避しようとする。
だが――斬撃は桂に當たる直前で分裂した。
さすがに彼でも、上下左右から同時に遅い來る攻撃に対処できるわけがない。
ザシュッ!
イーラの剣は桂に見事命中。
並のアニマなら一撃で致命傷であろうその攻撃をけて、桂は――
「レル、ア、ィウ、エイ」
全くじること無くその場に浮かび、拳を握る。
「何だと……!?」
驚愕するクリプト。
そして桂はきの取れないイーラの腹部に近づくと、その拳を叩き込んだ。
「ご、ふっ……」
強烈なアッパーカット。
イーラは上空高くに吹き飛ばされた。
もはや驚きの聲すら出ない。
「あれ……もしかして、偉月なの?」
「そんな、彼は結晶化して死んだはずじゃ!?」
「がてかてかしてて気持ちわるーい」
それぞれ想を言うのは良いんだけど、今はそんな場合じゃない。
勝てるかと問われれば、はっきりとこう答えよう。
無理だ、って。
ここにはキシニアも居ない、クリプトも一撃でやられた、全員が敵う相手ではない。
つまり、勝てない以上、考えるべきはいかにして逃げるか、だ。
被害を最小限に抑える、そのためには――
「クリプトさん!」
さすが四將、さっきのパンチだけで死んだりはしないらしい。
腹を抑えながらも立ち上がるイーラに向けて、僕は大きな聲で話しかける。
もちろん聲に反応して、桂が僕に攻撃を仕掛けてくるわけだけど、
「っ、く……邪魔なんだよっ!」
比較的照準の定めやすいガーンデーヴァで応戦しつつ、どうにかやり過ごす。
「ぐぅ、我ながら不甲斐ないな。待っていろ、今すぐ助太刀する!」
「それはどうでもいいです、それより早く町の人たちを避難させてください!」
「何……!? だが、それでは!」
「こいつには勝てません、今はしでも多くの命を救うことを考えましょう!」
ここは帝國だ、王國と違って無駄な命なんて1つだってない。
「百合、エルレア、あと一応フランも、クリプトやラビーと一緒に避難を手伝って!」
「待ってよ、それじゃあ岬は!?」
僕だって逃げたいさ。
けど、僕が一緒に逃げれば桂をそっちを追うだろう。
そうなれば、百合も、エルレアも、フランも、ラビーも、僕はみんなを守りきれないかもしれない。
いいや、守りきれない、絶対に。
彩花を失った傷だってまだ全く癒えてないってのに、これ以上誰かを失ったら僕はもう、耐えられない。
憎む前に僕の心が壊れてしまう。
確かに復讐だってやり遂げたい。
けど、それは百合やエルレアが無事だからこそだ。
ひょっとすると、王都を発ったばかりの僕は別のことを考えていたかもしれない。
百合ぐらいは犠牲にしたっていいだろうとか考えていたかもしれない。
でも、今は違うんだ。
最優先事項は履き違えない、救うべきを救い、さらに復讐をやり遂げる!
「とりあえず桂は僕を狙ってるみたいだからさ、誰か1人が囮になるしかないって、ば!」
放ったガーンデーヴァの矢を、桂は手で握り止めた。
僕は心引きつった笑いを浮かべつつも、投げ返された矢をソーサリーサーベルで切り落とす。
直後、距離を詰め拳で毆りかかってくる桂。
「スキル発ブート、羨せよ我が領域ナルキッソス!」
スキルによって上空へ跳躍、もちろん桂も追ってくる。
「フリームスルス!」
程よい高度で一気に落下、ウルティオの図分の重さと氷の魔力が載せられた飛び蹴りを、桂は真正面からけ止めた。
パワーは――あちらの方が上だった。
押し負けた僕は吹き飛ばされ、バランスを崩した狀態で地面に叩きつけられた。
一方で桂は、凍りついても全くじず、氷など最初から無かったかのように平然といている。
化だ、文字通りの意味で。
「僕もどれだけ持つかわからないから、早くっ!」
「岬ぃっ……!」
「……わかりました。でも覚えていてください、ミサキが死んだら私は……いや、私たちは生きていけません。むしろ自分から死んでやります。だから、私たちを守りたいなら自己犠牲なんて馬鹿げたことは考えないでください、生きて逃げ延びてください!」
僕が死んだら自分も死ぬ、か。
ああ、が重いなあ。
「よくわかんないけど、ミサキ頑張れ!」
おかげで、フランの軽さが良い清涼剤のようにじられる。
まあ、僕がやってきたことの結果なんだけどさ。
依存ってそんなもんだ、重いからこそ信じられる、裏切らないって安心できる。
つまり自業自得だ、全ては僕が背負うべき業だ。
じゃあ、なんとしても、死ぬわけにはいかないな!
「ヴァジュラッ!」
桂に向かって高エネルギー砲を照。
真正面から命中する。
だが、桂はそのエネルギー砲の中を真正面に突き進み、そして気づけば目の前にまで迫っていた。
「リオ、ル、カリヒュ、ニ、グ」
ウルティオの部に桂の拳がめり込む。
「か、はっ」
次の瞬間、先ほど見たエクラールムと同じように、ウルティオの機は空中に浮いていた。
僕のは町から離れていく。
ああ、やっぱり――勝てる気がしない。
でも、それでも、僕には退けない理由があるから。
僕は再び立ち上がり、桂と向き合う。
絶的な戦いは、まだ始まったばかりだった。
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