《人喰い転移者の異世界復讐譚 ~無能はスキル『捕食』でり上がる~》62 私たちを縁者だと証明するの無いこの世界でを抑制する必要について

目を覚ますと、青い空があった。

左右を見渡すと、僕の視線より低い位置に木造の家が並んでいる。

スケールが狂っている、夢なのだろうかと思い自分の手のひらを見ると――黒かった。

そっか、ウルティオを発現させたまま気を失ったのか。

ヘイロスとの戦いからどれほどの時間が経ったのだろう、周囲が明るいってことは一晩以上は過ぎたんだろうけど。

ひとまずアニマを解除、生で周囲を散策する。

「誰もいないな……」

そこは、無人となったエクロジーだった。

僕は森の中で倒れたはずだから、誰かがここまでウルティオを運んでくれたんだろう。

あの図を運べるのは、アニマかアニムスだけ。

しかも周囲は魔だらけだったはずだから、それなりの力を持ったアニマ使いの可能が高い。

行き倒れのアニマを助けるなんて、善人なのか、はたまた打算なのか。

戦闘が終わったことを知らない百合やエルレアたちが戻ってきたとは考えにくいし。

「宿、か。夜が明けてるってことは誰かが泊まってる可能もあるよね」

目を覚ました時、隣にあったのは宿だった。

ここなら食料もあるだろうし、寢床にも困らない。

「おじゃましまーす」

僕は念のため聲を出しながら建に踏みれる。

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明かりの消えたロビーは非常に暗い……はずだった。

けれど、宿の中はやけに明るい。

どうやら、誰かが魔力で明かりを燈すランプを起させたらしかった。

そしてり口から首だけを突っ込んで周囲を見回すと、椅子に座りくつろぐ人間の姿を見つけた。

腰あたりまでびた黒い髪。ふくよかなのライン。の人みたいだ。

「あのー、もしかして僕を助けてくれた人ですか?」

聲をかけると、彼は振り向く。

そして僕たちは見つめ合ったっまま、互いにぴたりと靜止した。

……うそ、だ。

いや、この世界に來てるって話は聞いてたけど、まさか、こんな。

帝都からの距離を考えると、僕がエクロジーに居るって話を聞いてたとは考えにくい。

だとしたら、完全に偶然で。運命で。

この広い世界で、偶然再會できるなんて――奇跡、としか思えなくて。

「お姉ちゃん……?」

「岬ちゃん……!」

僕の顔を見て、目の端に涙を浮かべるその人は、間違いなく白詰しろつめ 命みこと、その人だった。

お姉ちゃんは勢い良く椅子から立ち上がると、最初は懐疑的にゆっくりと、次第に早歩きになり、終いには駆け足で僕に近づき、そのまま抱きついてきた。

ぼふっ。

懐かしいらかさと、ぬくもりと、甘い香りが僕を包み込む。

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懐かしい香り。

からこみ上げるノスタルジーが涙となって、視界を潤ませた。

「岬ちゃん、岬ちゃんだ……本當に岬ちゃんだぁっ!」

「お姉ちゃん、本當にお姉ちゃんなんだね……!」

「うん、うんっ、お姉ちゃんだよっ、岬ちゃんのことが大好きなお姉ちゃんはここにいるよぉ……!」

しためらったけど、僕もお姉ちゃんの背中に腕を回す。

僕らは著させながら、強く固く抱き合った。

あれ? でも――なんで、お姉ちゃんは僕が岬だってわかったんだろう。

だって、今の僕ってだよね。

顔も面影ないわけじゃないけど、どちらかって言うと男だった頃の僕よりも、お姉ちゃんに似ていて。

だからわかった? いや、それだけじゃ拠が薄すぎる。

「岬ちゃん、岬ちゃあん……」

聞きたいけど、お姉ちゃんは涙をボロボロ流してそれどころじゃなさそうだ。

僕もひとまずは、無心でこの再會を満喫することにしよう。

◇◇◇

それからたっぷりと抱き合った後、ようやく落ち著いた僕たちは、テーブルを挾んで向かい合った椅子にそれぞれ腰掛けた。

目が合うたびに、お姉ちゃんはにこっと笑いかけてくれる。

その姿は、僕がまだ小さかった頃、一番お姉ちゃんに甘やかされていた時の笑顔に似ていて。

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例の――僕の自を撮影した畫みた後とは、あまりに違いすぎていた。

「岬ちゃん……お姉ちゃんすごいことに気づいちゃったんだけど」

「どうしたの?」

先程までずっと笑顔だったお姉ちゃんの表が、驚愕に満ちる。

「い、いつの間に、の子になったの?」

……今まで気づいてなかったんだ。

ってことは、外見で僕を僕だと判斷したわけじゃないってことか。

「この世界に來た時に事故でね」

「そう、大変だったのね。の調子はおかしくなあい?」

「特に違和は……いや、無いって言ったら噓になるけど、困るほどじゃないかな」

幸い、相談に乗ってくれるは傍に居たから。

「でも、どうしてこの姿を見てすぐに僕だって気づいたの? 見た目、全然違うと思うんだけど」

「わかるよぉ、だって私はお姉ちゃんだもの」

「はは、理由になってないって」

「そうかなあ? じゃあ、弟オーラみたいなのをじるって言えばいいのかなぁ。匂いや溫、仕草、表、喋り方――例え別が違っても、全部が岬ちゃんが岬ちゃんなんだって教えてくれたから」

お姉ちゃんはに手を當て、自慢げに言った。

そっちの方が、アニマなんかよりよっぽど魔法めいている。

要するに、理屈じゃないんだろうな。

の深さを痛いほどじる。

「そういえば、岬ちゃんは1人だけなの? 森や山がめちゃくちゃになってて大変なことになってたけど、怪我は……無いみたいね」

「仲間や町の人たちを避難させて戦ってたんだ。周りにいた魔、お姉ちゃんが倒してくれたんでしょ? ありがとね、怪我がないのはお姉ちゃんのおかげだよ」

笑いかけながら言うと、お姉ちゃんの頬がぽんっ、と一気に赤く染まった。

自分でもそれに気づいたのか、慌てて隠すように頬に手を當てる。

「でへへ……お、弟を守るのはお姉ちゃんの役目だから。んふふぅ……お禮なんて良いのにぃ、もぅっ」

以前から相當僕には甘かったけど、ここまでデレデレだったっけ。

僕の自慢ばかりをしていた、というクリプトの話は半信半疑で聞いていたけど、あながち噓でも無いみたいだ。

だったら……畫を送られたあとのそっけない態度は何だったんだろう。

まあ、そりゃ弟の自畫が送られてきたらどんな姉だってドン引きするだろうけど。

だからこそ、今のお姉ちゃんとのやり取りを不自然にじる。

「よし、決めたっ!」

僕が首を傾けていると、お姉ちゃんはおもむろに立ち上がる。

完全に思考に気を取られていた僕はその音に驚き、びくっと震えた。

しかしそんな僕の戸いなど知らずにお姉ちゃんはずかずかと僕に歩み寄り、そしてあろうことか向かい合った狀態で膝の上に座った。

「もがっ」

その勢で抱きしめられると、もちろん僕の顔はお姉ちゃんのに埋もれる。

いっぱいに広がる、若干の汗が混じった甘い匂いにくらくらしながらも、くぐもった聲で尋ねた。

「お姉ちゃん、急にどうしたの?」

「岬ちゃんにりたくてりたくて、我慢できなかったの。苦しかったらごめんね?」

「いや、それはいいんだけど……」

……良いのかな。

いくらになったとはいえ、中は男のまま。

相手がお姉ちゃんだったとしても、こんなにを押し付けられると、僕としては恥じらいと言うか、興と言うか、そういうのが無いとは言い切れない。

親だぞ、と自分を諌めながらも、高鳴るの鼓を抑えることができなかった。

「岬ちゃんの、熱くなってる」

お姉ちゃんの手がうなじにびたかと思うと、つぅ、とらかなタッチで表面をでる。

ゾクゾクとした覚に「ひぅっ」と聲がれ、思わず背筋がびた。

「嬉しい、岬ちゃん私ので興してくれてるの?」

熱のこもった聲に、僕は違和を覚えた。

それは果たして、姉が弟に向ける聲として正しいものなんだろうか、と。

「ま、待って、待ってよお姉ちゃん!」

「だーめ。待ったから、今日までずっと待ってたんだから。もう待たないって決めたの、待たないでいいって教えてもらったの」

「誰に!?」

今はそんなことどうでもいいはずなのに、思わず聞いてしまった。

まあいいや、時間稼ぎにはなるだろうから。

「リアちゃんって言うの子。帝國の皇帝をやってるんだって」

「皇帝って……」

確か、リアトリス。

帝國の皇帝にして、四將ですら手も足も出ない最強のアニマ使い……だったはず。

そんな人と、どうしてお姉ちゃんが?

と言うか、その人お姉ちゃんに何を吹き込んだんだよぉ!

「我慢なんて必要ない、それだけの力があるなら自分のを満たすべきだって。その通りだよね、せっかく再會できたんだもん、目障りなお父さんやお母さんも居ない、だったらやりたいことをやらなくっちゃ」

お姉ちゃんは、両親を迷いなく目障りだと切り捨てた。

確かに、日本に居た頃から何ていうか、2人には事務的に接していたような部分がある。

だからこそ、両親にとってお姉ちゃんは優等生で理想的な娘で、一方で僕の前では誰よりも優しい姉だった。

唯一の家族と言っても良い。

それでも、お姉ちゃん相手に劣を催したことなんて一度も――

「岬ちゃんは、お姉ちゃんのこと嫌い?」

聞き方が卑怯だ。

「嫌いじゃないよ、大好きだ」

「うん、お姉ちゃんも大好き。世界で一番してる」

「でも……こっちに飛ばされてくる前は、冷たかったよね」

仕返し、と言わんばかりの意地悪な問いかけ。

お姉ちゃんは口ごもり、僕を抱きしめる両腕からし力が抜ける。

今のうちに抜け出す準備を――と思ったけど、が思うようにかない。

あれ、寢起きで鈍ってるのかな。それとも足が痺れてる? そんな覚は無いのにおかしいな。

「……それは、岬ちゃんがあんな畫を送ってくるから」

沈黙を裂いたのは、お姉ちゃんのそんな言葉だった。

ああ、やっぱりそうか、あれが原因だったんだ。

「あれは僕の意志じゃないよ」

「知ってるよ。岬ちゃんがいじめられてた事だって知ってた、なのに私は守れなかった。あの時ほど、私は自分の無力さを呪ったことは無かった」

「お姉ちゃん……」

その言い方から察するに、お姉ちゃんは何もしなかったわけじゃないんだろう。

僕のためにいてくれた、けれどどうしようもなかった。どうにもならなかった。

僕を取り巻く環境は、あまりに詰み過ぎていて。

それこそ、殺さなければ何も変わらないぐらいに。

「そんな時、あの畫が送ってきたの」

「ごめんね、あんな見苦しいもの……」

「ううん、見苦しくなんて無いよ」

お姉ちゃんの聲が、再びっぽくなる。

音が、振が、まとわり付くように耳をくすぐった。

「岬ちゃんが私の名前を呼びながらめてくれている、岬ちゃんが私の事を思って果ててくれている。はあぁ……それだけで、それだけで、気づいたらね、私……んっ、んうぅぅっ……!」

僕を抱きしめながら、お姉ちゃんはを震わせる。

「お、お姉ちゃん?」

いながら聲をかけるも、しかし僕の聲はお姉ちゃんには屆かなかった。

「ごめんね、ごめんね、はしたないお姉ちゃんでごめんね。でも、駄目なの。スマホの電池が切れちゃってて、あの畫はもう見れなくなっちゃったけど、思い出すだけでが熱くなって頭が真っ白になっちゃって! それに、それにね、今は目の前に岬ちゃんがいるの。岬ちゃんのが、溫が、の巡りが、呼吸音が、ぜぇんぶじられるの!」

「むぐ、むぐぐぅーっ!」

僕を抱きしめる両腕に再び力が込められ、息苦しいほどにが押し付けられる。

それだけじゃない、お姉ちゃんは微かにを揺らして、まるでを僕にり付けているようだ。

僕だって経験が無いわけじゃないし、何を目的としてそんなことをしているのかぐらいはわかる。

けど、だけどっ、理解できたとして、それを現実としてれられるかどうかはまた別の問題であって――

「はあぁっ、私っ、私はぁ、あの畫を見た時にわかったの。私が岬ちゃんにずっとじてきたは、姉が弟に抱くようなものじゃなかったんだって、劣を伴うだったんだって気づいちゃったの! あんなを! あんな素敵な畫を私に送るからぁっ!」

じゃあ、お姉ちゃんが僕を避けるようになったのは、引いてたからじゃなくて。

「最初は自己嫌悪だった、最低のお姉ちゃんだ。私なんかが岬ちゃんのお姉ちゃんを名乗っていいわけがないって。だから離れたの。苦しくて、苦しくて、が張り裂けそうだったけど、私ね、私、岬ちゃんのためなら死んだって構わないと思ってたから、岬ちゃんのためだって思ったら耐えられた!」

だったら、今こうして、何の遠慮もしていないのは?

「でもね、気づいたの。気づいちゃったの。確かにリアちゃんと々お話して吹っ切れたっていうのもあるんだけどね、一番の理由は、どうして姉弟でし合っちゃいけないのか、その理由を思い出したから」

それは、が繋がっているから。

「賢い岬ちゃんだったらわかってるよね。だったら聞かせて?」

縁者同士で子供が出來たら、子供に障害が出る可能があるからって、そんな話を聞いたことがある気がする。

「私たちを縁者だと証明するのないこの世界で、私が岬ちゃんへの想いを、を、をを我慢する必要って――」

お姉ちゃんは突然腕を解くと、僕の膝から降りる。

そして両手を僕の頬に當てて、至近距離で見つめあいながら言った。

「なあに?」

聲が、出なかった。

走った瞳、赤らんだ頬、荒い呼吸。

全てに、が満ちていたから。

長年一緒に生きてきた姉の、見たことのない表に、僕は恐怖をじていた。

まるで、僕の一番傍に居た人が、誰よりも遠くに行ってしまったようで。

「それに、岬ちゃんがの子になったなら、もう子供の心配をする必要も無いよね。私たち、安心してし合えるよ」

「待ってよ、お姉ちゃんは大事なことを忘れてる」

「これ以上に大事なことってなあに?」

「僕の気持ちだよ。それはお姉ちゃんの意志だ、僕のことなんてこれっぽっちも考えてないじゃないか!」

お姉ちゃんとの再會を、僕は心の底から喜んだ。

復讐でもなく、下心もなく、純粋な気持ちでこんなに何かを喜ぶことが出來たのは久しぶりだ。

思わず目に涙を浮かべて、それぐらい嬉しかったのに、今は――別の意味で、ああ、泣いちゃいそうだよ。

「岬ちゃん、どうして泣いてるの? お姉ちゃんのこと嫌いになっちゃった?」

らかな指先が溢れる涙を拭う。

その仕草自は、以前の優しいお姉ちゃんと何も変わらない、なのに……どうしてこうも、狀況は変わってしまったのか。

時の流れだけじゃ説明できない、あまりに殘酷だ。

「嫌いになんてなれないよ、僕にとって家族はお姉ちゃんだけだ。他の誰かなんてありえない。だから……悲しいんだよ」

「やっぱり、気持ち悪いと思ったんだ」

「思えないよ、だから悲しいんだ」

「お姉ちゃんとはキス出來ない?」

「家族としての表現なら出來るよ」

「お姉ちゃんとはエッチしたくない?」

「そういう気分にはなれない」

「……そっか」

僕の気持ちが屆いたのか、お姉ちゃんは悲しそうな顔をして僕から離れた。

嫌いなわけじゃない、好きだし、してる。

だとしてもそれは、彩花や百合、エルレアに向けたとは違うもので、どう変化しても同じものにはならないと思う。

お姉ちゃんだって、し冷靜になればわかってくれるはず……だった、のに。

「じゃあ、ベッドのある部屋に行こっか」

お姉ちゃんは、無にも僕にそう告げた。

そしてこちらに手を差し出す。

まるで拒絶されることを考慮しておらず、當然のように僕がその手を握るだろうと確信しているように。

「違うんだよお姉ちゃん、僕の”好き”はそういうのじゃ……」

そう言いながらも、気づけば僕は差し出された手を握っていた。

……?

何を、何をしているんだ僕は。

そして手を引かれて立ち上がり、繋いだまま2階にある部屋へ向かっていく。

抗う気持ちはある。

けれど不思議なことに、僕のは僕の意志と関係なしに進んでいく。

どうして? 一何が起きてるんだ!?

「スキル、知を否定するロマンティクス」

「……え?」

「常時発型スキル、って言うんだって。相手の首にれると、その相手は私の意志に逆らえなくなるの」

「まさか、あの時――」

抱きしめながら、僕の首をでたのは、スキルを適用するため?

つまり、最初からお姉ちゃんは、僕の意志なんて聞くつもりはなかった。

最初から、れられなくても、無理矢理にでも僕とを重ねるつもりだった。

「そんなの……そんなのって、無いよ!」

「ごめんね、ごめんね」

「間違ってる、お姉ちゃん冷靜になって、僕たちの繋がった姉弟なんだよ!?」

「知ってる、わかってる。でも……理屈を並べて消える程度のなら、こんなことをする前に、とっくに諦めてるはずだから」

部屋の前にたどり著くと、若干暴に扉を開き、僕はベッドに押し倒される。

馬乗りで僕を見下ろすお姉ちゃんは、一度舌なめずりをすると、完全にに飲まれた目で僕を見つめながら言った。

「許してくれなくても良い。でも今だけは……お姉ちゃんのゆめを満たすために、私をしてしいの」

お姉ちゃんの顔が近づいてくる。

僕は耐えきれずに、目をぎゅっと瞑った。

遮られた視界の中で、溢れた涙が頬を伝うだけが、やけにはっきりとじられた。

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